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鈴の音を聞きながらBサイド  作者: セオドア.有羽
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君が紡ぐ鈴の音を聞きながら7

智樹は初めて茉奈と話した時の夢を見た。

何とか彼女を笑わせようと必死だった。

茉奈の鈴の音を鳴らすような笑い声を聞きたくて智樹は普段言わないような馬鹿な事を言った。

「会いたいね。」その言葉を聞いた時に胸が踊った。


不意に目を覚まし隣を確認する。時計は朝の6時を示していた。隣にいるはずの茉奈の姿が無かった。

智樹はベッドから飛び起きると慌ててリビングへと向かった。

勢いよく扉を開けると、キッチンに人影が見えた。

「まな…」

「おはよう、とも思ったより早く起きたのね。」

そこにはそれまでほとんど起きる事が出来なかった茉奈の姿は無く、まるで病気が嘘のように元気に見える。

「茉奈…具合は大丈夫なのか?」

「うん…絶好調だよ。」

そう言って笑う茉奈の笑顔少し影を感じる。

「ふぁぁこんなに早くから何の騒ぎ?」

咲花が眠たそうな顔をして入ってきた、しかし茉奈の姿を見つけると途端目が覚めた様に大きな声を出す。

「お母さん、大丈夫なの?どうしたの?」

茉奈は優しく微笑むと

「二人共、驚きすぎ。私だってたまには朝ごはんぐらい作るのよ。」

そう言って食卓を指差す。

たくさんの料理がテーブルに並べられている。

「さあ、ご飯食べたら出かけたいから早く食べて。」

そう言って急かす様に二人を座るように促した。

智樹も咲花もまだ夢の中にいるような錯覚に陥りながら茉奈が用意した食事を口へ運ぶ。

それを茉奈は嬉しそうに眺めていた。

「出かけるって何処に?」

一息着いた咲花が尋ねる

「んーーそうね。海がいいな」

「だって、まだ海は寒いよ…」

「いいじゃん行こうよ、ねえとも…行こう」

茉奈は甘えた声で智樹に懇願する。

「わかった。ちゃんと羽織るもの持っていくんだぞ」

「やったー。だからとも、大好き。じゃあご飯済んだら早く着替えて用意して」

こうして二人はまたも茉奈に急かされ、最低限の荷物を持って車に飛び乗った。

海まで車で40分ほど。

いつもは智樹の隣である助手席に座る茉奈が今日は咲花と共に後部座席に座った。

終始茉奈は落ち着いて咲花と毎日の会話をしている。

5月17日。土曜日の道路は車がやや少なく車はスムーズに目的地へと進む。

普段は盛り上げようと会話を切り出す智樹が黙っているためほぼ咲花と茉奈だけがしゃべっていた。

海岸沿いを走り智樹は浜辺の近くの駐車場に車を停めた。

「とも…少し咲花と話がしたいの」

茉奈が不意に呟く。

「ああ、少し一服してくるよ。」

智樹は振り向くこともなくドアを開けて車を後にした。

車内に咲花と茉奈の二人が残される。

咲花は空気を察してか先程から黙ったままだった。

「咲花…」

「ヤダ…やだよ。」

茉奈は咲花の手を握り目を見つめる。

「ちゃんとね。話しておきたいの。きっとこれが最後になるから」

「嘘…だってさっきまであんなに元気に…」

茉奈は黙って首を振った。

「聞いて、聞くだけで良いから。咲花…ごめんね…無理やり大人にしてしまって。辛かったよね。お母さんだって同じ年の頃はまだまだ子供だったもの…」

「ううん…平気だよ…」

「ママはね。咲花が産まれるまでもう女としての喜びなんて諦めてた…いくつも辛い事があって心が壊れてた。そんな時当時とてもとても好きな人がいてね。例え身体だけ求められても、必要とされてるって、寂しい心が埋められるって会いに行ってた。どうかしてたのね。寂しさは埋まらなくて私の世界は退屈で退屈で…そんな時に彼に出会った…素敵な時間だった。止まった時間を彼が動かしてくれると思った。」

「うん。」

「そんな時に、妊娠してるのがわかってね。凄く悩んだよ。ずっと自分が望んでいたものが手に入ったのに同時に望んだものを手放さなきゃいけないって…でもね。あなたの顔を初めて見た時、その声を聞いた時…凄く幸せだった。もちろんあなたのパパだって凄く良い人で幸せを手に入れたと思った。ハッピーエンドだって。」

「うん…うん…」

「でもパパは死んじゃって…あなたを守りたくてずっと必死だった。ある時ね。ともと会う前に好きだった人と再会したの…その人、色んな人に私と同じ様な事してて久しぶりに会ったらなんかこう、惨めに見えてね…ああこうならない様に神様が咲花を私にくれたんだって思った…」

「私?」

「そうよ。あなたは神様が私が道を間違えないようにくれた大切な宝物」

「ママ…」

「咲花…女の幸せってなんだろうってずっと考えてた。自分の子供の成長を見守ることか?いつまでも女として扱って貰えるか?どうだろうね。両方手に入るのが一番…大好きな人と大切な子供の成長を見れるってとても幸せ…だからこの一年。ともとあなたが側にいてくれて女として本当に幸せだったよ…」

「うん。」

「咲花…これから色んな選択をすると思うの。

きっとあとからこうしとけば良かったって思う事は沢山あると思う。

だけどそれはまだ人生の途中でしかないから

私の人生もハッピーエンドばかりじゃ無かったけどこうして好きな人に囲まれて消えていけるのはハッピーエンドじゃ無いかって思うよ」

「ママ…嫌だよ。もう少しそばにいて…」

「ごめんね…咲花。幸せになって…辛い時は智樹を頼るんだよ…ごめんね…あの人をお願いね。あの人…ああ見えて弱いから…笑ってあげて、咲く花のように笑っていてほしい…そう思って咲花ってつけたの。」

「うん。……わかった。」

「それともう一つ…本当はあなたの側にいたほうがいいんだけど…最後は彼の…智樹の側にいさせて…ママの最後のわがままだから…」

そう言って茉奈は咲花を出来る限りの力で抱きしめた。その力は儚く弱々しかったが。


しばらくして車のドアが開いた。茉奈が一人出てくる。

智樹はそうわかっていたかの様に近くで吸っていたタバコを消した。


「もう良いのか?」

「うん。待たせちゃったね。」

「良いんだ…きっとこれは俺達の必然だから…」

茉奈は身体の力が抜け智樹にもたれかかる。


二人はゆっくりと浜辺へ向かった。

朝を迎えた海風が二人の頬をくすぐる。

春の終わりと夏の始まりを伝えるその風はふわりと包む…




長く私の稚拙な話にお付き合い頂きありがとうございます。

残りがたぶんあと一話です。(エピローグを書くか未定なので)

誤字や脱字が多い中読みにくかったと思いますが、残り一話頑張りますので良かったらお付き合い下さいね

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