君が紡ぐ鈴の音を聞きながら2
秋の訪れと共に、智樹と茉奈は色んなところに出かけた。
残暑の残る京都、二人が初めて会うはずだった大阪、茉奈が連れて行きたがった東京。長野。
欠けていた時間を埋める様に二人は色んな場所を共に歩き、一緒に食事をしてたまに二人でカラオケに一日こもりながらお互いの事を心に刻んでいく。
日が落ちるのが早くなり、二人が歩く帰り道夜空には月が二人を照らしている、
茉奈は急に走り出し歩道橋の上に駆け上がると
「ねえ、今日は月がとっても綺麗だよ」
と智樹に笑いかける。
ゆっくりと階段を登りながら智樹は夢中になって月を指さし話しかけてくる茉奈の顔を見つめていた。
「もう…ちゃんと話聞いてる?」
茉奈は少し拗ねた振りをして智樹に問いかける。
智樹は無理な笑顔を浮かべながら茉奈を見つめ静かに告げた。
「ごめん、聞いて無かった。君の笑った横顔を見つめるのに夢中になってた…この瞬間を忘れないように…」
茉奈は少し俯くと智樹に駆け寄り抱きついた。
「とも…きっといつかね。たくさんの幸せな事も思い出になるの。
でも不意にね…ああアイツはこんな顔で笑ったねとか馬鹿みたいに泣いたねとかあんな事で怒ったとか時々で良いから思い出して…それだけでいいの。
覚えていて…私がアナタの隣にいたって…」
智樹は泣きそうになっている茉奈の顔に手を当てそっと唇を合わせる。
「ずっと覚えているさ、君との思い出は良い事も辛かった事も全部大事な宝物だよ。この俺の心を掴んだ綺麗な顔も、俺の心を包み込む鈴の音の様な笑い声も、まなの匂いも、寝相が悪いのも…全部忘れない」
茉奈はギュっと智樹にしがみつくと顔をあげて「最後のは忘れてもいいよ」と笑顔を向けた。
月の光が二人を優しく包み込む。
茉奈は智樹にしがみつき嬉しそうに寄り添っている。
「今度…ともが生まれたとこ行ってみたいな」
「え?特に何も無い田舎だよ時間もかかるし」
「い~の。ともが育った場所見てみたい」
「じゃあ寒くなる前に行こうか?」
「うん。なんか美味しい物ある?」
「うーん、魚ぐらいしか」
「いいじゃない、お刺身大好きだよ」
「わかった、わかった。帰ったらネットで見てみような」
「咲花も一緒が良いかな?あの子お刺身好物だし」
「そうだね、たまには三人でも良いだろうね」
冬の訪れはまだ遠いものの二人はきっとその時が来る事を知っていたから今この時の何気ない事もお互いに心に刻んでいく。




