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鈴の音を聞きながらBサイド  作者: セオドア.有羽
19/30

あの日の約束と合言葉3

神奈川で行われる仕事が5時に終わるからと、咲花は麻美と二人で駅前のスターバックスで時間を潰していた。こっちには4時について時間を持て余していた。その間麻美から智樹の事をいろいろと聞かされていた。

いろいろ聞くたびに、藤代さんはところどころパパにのている気がする。

咲花の父親遠山悟が亡くなったのは10歳の事だった。背が高く優しい人だった。

星が好きで咲花にいろいろ教えてくれた。

共に背の高い両親はとても素敵に咲花には見えていた。話を聞けば智樹はそれほど背は高くない。男前では無く生え際も薄くなってきているようだ。だが麻美が話す智樹の言葉はとてもロマンチックで、言葉選びが上手だなと感じる。

「私、智樹さんの言葉が好きなの。あの人の言葉は私にとって特別なの…」

そう言っている途中で麻美の顔がぱっと明るくなり右手を上げると、すっと席をたってとある方向に歩きだした。

麻美が歩きだした方向にはスーツに身を包んだ初老の男性が歩いてきている。男性は麻美に気が付き手をあげたい。そのまま二人は近づくとそっと抱き合った。久しぶりに会う恋人同士の様に。

咲花は内心ムッとしてしまった。

(ママの事は?)

しらくして二人が席に着いた。

「はじめまして、藤代です。君が咲花さん?」そう言って手を差し出してきた。

咲花は不意に藤代と握手をし

「は…はじめまして倉科咲花です。」

「エミナ?どんな漢字?」

「咲く花と書きます。」

「そうか…彼女は花が好きだったから、お母さんは元気かい?」

「それが…」

咲花は茉奈の病気の事を話した。余命が一年ほどな事。たまたま手紙を見つけて母に智樹を探すようにお願いされた事。20日に手術が待っていること…


「そうか…」

智樹は真面目な顔のまま顔を伏せた。

「だけれど、君のお母さんはそうやってまた誰かの心を操れると思っているのかな?そうなって寂しくなって思い出したのが昔、簡単に心を操れた男を思い出しただけじゃ無いのかな?私なら自分の為に今の大切な事を捨てて駆け寄ると思ったんじゃないかい。そうなる前にだって出来たんじゃ無いかい?」

「そんな…ママは…そんな人じゃ…」

咲花は悔しくて涙が出そうになる。

バシーンと不意に麻美が智樹の頭を勢い良く叩いた。

あまりの衝撃に智樹は頭を抑えている。

「もう、こんな時まで私の事気にして、わざわざ来たいたいけな女子高生をイジメないの。」

「アイタタタ、いくらなんでも力入りたいすぎだろう。」

急に智樹の顔に優しさが戻った。

「すまなかったね。茉奈が…君をどんなに大切にしていたかわかるよ。自分の気持ちより君を大切にしていたんだろう。」

「ありがとうございます。」

「今のこの時は私の事は良いのよ。智樹さんの最後の時は私が看取ってあげる。だから一年か二年ぐらい良いのよ。その間は私は好きな事して過ごすから。たくさん甘い事するんだ」

「麻美。お前は全く。あの時の事を思い出したよ」

「そうよ、例えとこしえの恋人じゃ無くても貴方の最後は私が思いっきり抱きしめて逝かせてあげる。そう決めてるから」

「とこしえの恋人…?」

「ごめん、ごめん話が横道に逸れたね。」

「いえ、ママが、よく言ってたんですか。いつかとこしえの恋人に出逢えたら永遠の絆を知れるのよって」

「そうか…茉奈が…そんな事を。」

「お願いします。ママに…会いに来てください。お願いします。出来たら手術の前に。きっとママ…一人で落ち込んじゃうから…」

「ああ、その事なんだが、会いには行けるんだ。だけど20日まで新店舗のオープンがあって、私も動けないんだよ。出来たら行ってあげたいんだけど。」

「そうですか…それじゃあそれからでも良いんです。一度ママにあいに来てください。」

「分かった。」

そう言って智樹は名刺を取り出した。

「ここに連絡先が書いてあるから」

咲花は名刺を受け取ると、鞄からこの日の為に持ってきた茉奈の手紙の束を智樹に渡した。

「あの、これ読んでください。ママ、ずっと書いていたみたいで」

智樹は受け取るとぎゅっと手紙を抱えいきなり立ち上がった。

「すまない、急ぎの用が出来たからもう戻らないと」

「え?今日は泊まりだったでしょ?」

「麻美、この娘の事を頼んでも良いか?」

しばらく智樹と麻美が見つめ合った。

「はいはい、そんな感じの時は仕方ないのね。任せて。」

「ありがとう、咲花さんあまり相手出来なくてすまなかった。お母さんにはくれぐれも宜しく言ってください。それと合言葉を思い出してと…」

「合言葉?」

「そういえばわかると思う。それじゃあね」

そう言って智樹は重たい体を軽快に揺らしながらその場を後にした。


「どうしっちゃったんだろ、急に何か悪い事言ったかな…」

心配そうに麻美の顔をのぞき込んだ。

「ううん、あの人があんな顔をする時は何かしようとしてるの。何かは分からないけど。」

「そうなんだ…わかるですね、麻美さんには」

「何度か見たからね。それに私はとこしえの恋人達を押しのけていく立場だから…お腹空いたね。何か食べに行こうか?」

そう言って麻美は咲花の手を引いた。

(とりあえず、最高の結果じゃないけどなんとかママのお願いは叶えてあげれそう。)そう思うと急にお腹が空いて来た。

思えばここ最近あまり食べていない。

「麻美さんのおごり?」

「良いわよ。何がいい?」

二人は気の合う友達のように少し早い夕食に向かった。



しばらく後、福岡着の機内で手紙を抱きしめて静かに泣きじゃくる智樹の姿があった。

(茉奈…茉奈…一文字一文字に君の気持ちが溢れて来るよ。茉奈…待っていてくれるかい…)





8月19日の夜遅く、茉奈病室のドアが静かに開き側に歩きよる人影があった…


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