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鈴の音を聞きながらBサイド  作者: セオドア.有羽
17/30

あの日の約束と合言葉1

約束の30分前に咲花は約束のRに着いた。

カフェ・ラテを注文して、辺りを見渡す。

真尋麻美は多分まだ来ていないようだった。

昨日の考えにまだ結論が出ないまま、

【着きました。一番奥の席にいます】

とメッセージを送った。直ぐに

【後、5分くらいで着くわ】

と返事が来た。


咲花にとって経験のない長い五分間だった。


しばらくしてお店のドアが開くとセミロングの綺麗なスーツ姿の女性が入ってきた。身なりを整えあまり濃くないメークだが品が良い。女性は優しく微笑むと咲花の向かいに座った。

「ごめんなさい、お昼から仕事に入らないといけないからこんな格好で」

「いえ、素敵です」咲花は正直にそう答えた。

「あら、今の娘はお世辞がうまいのね。」

もっとキツイ感じで来ると思っていたから予想が外れて何か調子が来るってしまう。

「まあまあ、そんなに緊張しないで。はじめまして、真尋麻美です」

「あっはじめまして、倉科咲花です。」

「倉科? 茉奈さんの旧姓よね?」

「はい、父が亡くなってからしばらくしてママが旧姓に戻したんです。」

「そう…見つけて欲しかったのね。貴方のお母さん。」

「え?」

「智樹さんによ。じゃなきゃわざわざ戻さないでしょ?」

そうなんだと咲花は納得してしまった。

「あの藤代さんとは?」

「ああそうだったわね。私が離婚した年だからもう二年会って無いかな。」

「そうなんですか…てっきり藤代さんと…」

「彼と?結婚してると思ったの?」

「はい、昨日そんな感じだったから」

思わず咲花はカフェ・ラテを飲み干しそうになってしまった。

「そういう話もあったんだけどね、私が断ったの」

「え?どうしてですか?」

「あの人、凄く良い人よ。年の差なんて気にならないくらい。優しいの。自分のことのよりも相手の事を思いやるくらい。だからそんな話が出たんだけど、断ったの。ちゃんと私の事愛してくれたし、大事にしてくれた…でもね。わかっちゃうのよ。あの人の心の奥にはたった一人の人がいるんだって…」

「ママ…」

「そうね、あの人はあったことも無い女性にずっと恋をしてるの。他の人には見せないけど。私にはわかるの」

「愛してるんですね、今でも藤代さんの事」

「そんな事…もう昔の話だもの。だけど愛してたの。だってあの人は私の初めての人だもの。初めてちゃんと好きになって、初めて大切だって言ってくれて、初めて愛のあるキスをしてくれて、初めて抱いてくれて…忘れるわけないじゃない。」

「やっぱり付き合ってたんですか、お二人?」

「そうね、あの日…貴方のママが来なかった日ね。私は智樹さんに会いに行ったつもりだった。智樹と茉奈さんを一度ちゃんと会わせて決着つけさせようって憐さんに説得されて。わかってたんだ、智樹さんが茉奈さんと会えば二人がどうなるか…でも会いたかったの智樹さんに。」

「麻美さん、藤代の事その頃から?」

「どうなのかな、多分そうなのね。その頃の私は気づいて無かったけど、それで茉奈さんが来なくて智樹さん駅のベンチにずっと座ったままでね。他の二人が離れた後…私抱きしめたの。そしたら彼もうワンワン泣き出しちゃってね。その後なんとかホテルに連れて帰って、抱きしめたまま二人でただ眠ったの。翌朝、彼が服を脱がして来て私は受け入れたの」

話を聞いていて咲花は顔を真っ赤に染めてしまった。

「ごめんなさい、大丈夫?」

「良いんです。続けてください」

「その後はそのまま別れたんだけど。彼からこの前は申し訳ないからちゃんとやり直そうって連絡が来て一度会ってちゃんとデートをして。その後すぐかな彼が倒れちゃって。私大学生だったから彼のとこに飛んでいってずっと付き添ってすぐ良くはなったんだけど、智樹さん親御さんが心配するからって私の両親のとこに挨拶まで来てね。しばらく付き合ってた。」

「そうだったんですね。」

「あの頃さ、不思議でしょうがなかったの。なんでこんな簡単な事をあの二人は出来なかったんだろうって。でも…」

「でも?」

「この年になるとわかるのよ。

愛だけじゃ生きていけない事を大人はきっとわかってるし、それにどうしても責任ってついてまわっちゃうのよね。愛の素晴らしいとこも失くして凄く傷つく事も子供より知ってるからつい考えちゃうのよ。この恋がずっと続く恋なのかって、ひょっとしたら直ぐに消えて相手を傷つける事になるんじゃ無いかって。だから踏み出す事に凄く勇気がいるの。だってそうなってもう一度恋をしようと思ったら凄くエネルギーがいるもの。だからつい割り切ったとかいって逃げちゃうのよ。」

「はぁ」そう言われて納得出来たような出来なかった様な感じだった

「あなたもたくさん恋をしてたくさん泣いたらわかるわよ」

と真尋は優しく笑った。

「話が逸れたわね。ところで、智樹さんの事だけど」

「はい」

「来週、神奈川に来るわよ」

ついに話が確信に迫ってきた。

「あの人、今会社の商品部のマネージャーやってて今度神奈川に行くから会えないかって連絡が来たから」

「そうなんですか?」

「うん。それと貴方のしてる事も知ってるわよ。軽くだけど、この前説明したの。茉奈さんの病気の事は伏せてあるけどね」

「そうなんですか?何か言ってました、藤代さん?」

「今は仕事に追われてるって言ってたけどしつこく聞いて来たから気にはしてるんじゃ無いかな。」

「会いに行ってみる?今度。私と一緒になるけど」

「良いんですか?真尋さんはお辛くいですか?」

「私は大丈夫よ。貴方のママに何もなくてって言うなら話は別だけど、そういう事情なら智樹さんの願いも叶えてあげたいし」

「やっぱり、まだ藤代さんの事愛してるんですね。」

「そうね。そうかもね。でも内緒よ。それを言うとあの人私に遠慮して会いに行けなくなるかも知れないから。」

「藤代さんて、良い人なんですね本当に…」

「そうよ。けしてかっこいいわけじゃないけど、大事な人には心から愛してたくれる…そんな人。」


その後、いろんな雑談をして12時40分に真尋と別れた。


8月10日、神奈川。

ついに目的の人に会える事になった。


ついにここまで来た。


咲花は茉奈にその事を告げるか迷っていた。

期待させてもし藤代が会わないと言い出したらどうしよう….

でも神奈川に行くなら一日空けるかも知れないし…


迷いながらも咲花は茉奈の元へと向かった。



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