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鈴の音を聞きながらBサイド  作者: セオドア.有羽
12/30

遠い日の残骸を愛と呼べますか2

咲花は病室に向かう途中でだんだんとムカムカとしてきた。

そして…父が死んでからママは私の事にかかりきりでママは恋なんてしていなかったと思う。今自分が恋をする様になってママがその部分を捨てて生きていたのだと最近思っていたから、そうでは無かった事に少しだけ嬉しいとも思っていた。

(だってママは人一倍寂しがり屋だから…)


病室のドアを開けると倉科茉奈はいつもの様に明るい笑顔で咲花を迎えてくれた。

「エミナ〜待ってたのよ、咲花が遅いからママ寂しかった…」

「うん、ごめんね。ママが言ってた端末取って来るのに一回戻ったから」

すると茉奈は少し寂しげな表情になり、うつむいた。

「じゃあ見たんだね?」

「え?う…うん。ごめんなさい、勝手に読むつもりは無かったんだけど…」

「良いのよ。本当はね早く咲花に見つけて欲しかったの。でも咲花、真面目だから全然見つけてくれないし。」

「え?何?じゃあ端末取って来てって嘘だったの?」

「ううん、違うよ。それはね。あの人との思い出が唯一残ったものだから…咲花にそれを見て貰ってお願いがあってね」

「お願い?」

茉奈は智樹との経緯を咲花にゆっくりと聞かせた。

「その後ね、一度だけ会うチャンスがあったの…12月にね、共通の友人から食事会の話があってね、彼を呼ぶから一度話をしたらって。その頃私、パパと付き合ってね、いろいろ悩んだの。でも…その日の1週間前かな…妊娠してるのがわかって、ママなんだろう…行けなかったのね。彼は待ってたみたいなの。私が来ることを知って…嬉しかったの。でもあの頃はいろいろあって。でも…彼を傷つけるのが怖くて何も言えないで、行けなかった。」

茉奈薄っすら浮かんだ瞼の雫を拭った。

「それが…私?」

「そう。咲花…ママね、咲花が産まれてくれて嬉しかった。貴方が私を見て笑ってくれるのがどんなに幸せだったか。ほんとよ」

「うん、わかってる。だってママはいつも優しいもん。じゃあお願いって…」

「そう、出来るなら会いたいの彼に。智樹さんに。」

「でも…どうやって?私が産まれるくらいから連絡取って無いんでしょ?」

「うん…咲花、京介くん覚えてる?」

「ああ、神戸の香取のおじさん?」

「うん、実は少し前に京介君にもお願いしてるんだ。だから…」

「だけど、今更会ってどうするの?藤代さん?その人だっていろいろあるかも知れないじゃない…」

「良いのよ…それはそれで仕方ないの。だけど…咲花…貴方に言えなかった事があるの…」

「いや…言わないで。そんなの嫌だよ。先生も良くなるって言ったのに…」

「ごめんね…どうしても言えなかったの…」

「後…どれくらい…?」

「一年…って言われてるもって二年。今はねなるだけそれが延びる様に治療してるの。」

咲花は先程から流れ落ちる涙を必死にこらえて必死に笑った。

「わかったよ。私…ママの為に頑張るよ」

「ありがとう…咲花。咲花のスマホにお金チャージしておいたから。ママのカードも使っていい…」

「うん。来週から夏休みだし、出来るだけやってみるね。」

「うん。咲花…おいで」

そう言われて咲花は茉奈の胸に飛び込んだ。

ママの願いは絶対に叶えてあげる。だから頑張ってね。

しばらくして病室を出た後、咲花はそう心に決めた。

全く宛のない捜索になるかもしれない。

とりあえず手がかりを少しづつ見つけて行くしか無かった。

病院を出て咲花は直ぐに香取京介に連絡した。



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