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BlueRain  作者: 名倉透弥
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第一話

 雨の日は良い事なんて何もなかった。憂鬱な心の色を映し出す雨は私の嫌いな物。BlueRain本当に私の嫌な事がある時にだけ降る雨だった。それは今までもそして……これからもずっと……


 朝、起きて窓を開けてみる。そんな他愛無い普通な行動が私に取ってはとても憂鬱な一日の幕開けとなる。


「雨かぁ……」


 雨。海上の水分が蒸発して空に溜まりまた落ちてくる自然の循環行為が私の一日を最低な物にする。だって、雨は私の心を映し出すかの様に冷たくて、残酷で……何も良い思い出を与えてくれない。

 両親が交通事故で死んだのも、仲良しのお友達が転校したのも、あの人が……私の元から姿を消したのも全部雨が降っていた。私は憂鬱にする雨BlueRainを憎んで恨んで……私自身が憎かった。


「一人はもうヤダよ……誰か……誰か私をこの残酷な世界から救い出してよぉ……こんな寂しい思いヤダよぉ」


 目の淵を冷たい水滴が湿らせる。もう泣かないって思ってたのに……天国のお父さんやお母さん……今は私の側にはいないあの人が……心配したりしちゃいけないから泣かないって決めたのに……


「あの人に会えないなら、もうそっちに行きたいよお父さんお母さん。会いたいよ……お兄ちゃん……」


 今日は学校なのに私は二度寝という愚考を犯してしまった。もう今日は良いや。雨だから学校に行っても良い事無いし……私なんて誰の役にも立てないしなぁ……



『コンコン コンコン コンコンコン』


 家のドアがノックされても私は寝ているので気付かない。ドアノブが周りドアが開く音がしても気がつかない。


『うっわ。カギ開けっぱなしかよ……無用心だなぁ……ま、俺はさっさと先生からもらった渡さなきゃ行けないプリントってヤツを置いて帰るか……』


「う、うぅ〜ん…………へ? あ、あれ? ど、どど、どして桜崎くんが夕紀のお部屋にいるのっ!?」


「あ、えっと……」


 私の部屋にお兄ちゃんや両親以外の人が入って来た事は始めての出来事で私は戸惑ってしまった。


「お、俺……名倉が無断欠席なんて珍しいから様子見て来てくれって先生に頼まれてさ……カギ開いてたからつい……」


「ふぅ〜ん……カギ開いてたら入っちゃうんだ? ま、良いや。夕紀のお家に来る人なんてそうそういないし……初めてのお客さんだからゆっくりして行くと良いよ」


 私はそう言うとベッドから出てキッチンまでお茶を取りに行った。


「なぁ、名倉って両親共働きなんか?」


「お母さんとお父さんは……」


 私は一度だけ上を指さして小さく『逝っちゃった……』とつぶやいた。


「ゴメン……兄妹とかいないの?」


 ガシャーン。コップが割れる音がして床がお茶で水びたしになった。そこに私が手をついてしまったから私の手からは少し血が出た。


「な、名倉っ!?」


「もう……誰も失いたく無い……私の大好きな人は皆いなくなってくっ! 何で私ばっかりこんな思いをしなきゃいけないのっ!」


 私は自分の右手が割れたコップの破片を握り閉めながら自分の左手の手首に近づけているのに気付いて驚いた。それより私の左手の出血にはもっと驚き桜崎くんの前で気絶してしまった。


「な、名倉っ!? おい、どうしたんだよっ」


 私は彼の声が聞こえない。

 窓の外は憂鬱な雨BlueRainが降り続いていた。



 私が目を覚ましたのは病院のベッドの上でだった。桜崎くんと聞き覚えのある女性の声だった。


『とりあえずアナタは帰った方が良いわね』


『先生……でも』


『アナタがここにいても何も出来ないでしょう?』


「それなら先生も帰って良いですよ? 先生も仕事で忙しいでしょうしわざわざ私なんかの病室にいなくたって……先生だってここにいたって何も出来ないでしょう? 私の悲しみを癒せる人なんて……お兄ちゃん以外にいないんですから……」


 私はベッドに座り込んで呟いた。唯一私が一緒にいて欲しいのは……私の悲しみや嫌だった事も忘れさせてくれるのはお兄ちゃんだけ。なのにあの人は今は私の側にいてくれない。


「名倉さんお兄さんがいるの? 全く、それなら妹が怪我で入院なのにどこに行っているのかしら? 酷い人だわ」


 私が少しだけ震えているのを見て桜崎くんが私に落ち着く様に説得してくれているが先生はまだ私のお兄ちゃんの悪口を続ける。耐え切れなくなった私はダメだと思っていても先生のほっぺたを思いっきりひっぱたいていた。


「お兄ちゃんの悪口言わないでっ! 今は遠くにいて会えないけど……いつか帰ってくるって約束したもんっ! 悲しいのとか、辛いのはお兄ちゃんも一緒で……良い子にしてたらいつか会えるって約束してくれた。だから私は私が苦労しない様にお金を稼いで来てくれるお兄ちゃんが誰より大好きだし大切なのっ! 何も知らない人が勝手な事言わないでっ!」


 言いたい事をこんなにも素直にはっきりと感情を込めて言えたのは生まれて初めての事。私は呆然と立つ先生を睨んでから『叩いてごめんなさい……』と呟いてからベッドに戻った。


「桜崎くん。入院長くなりそうだから……私の家から着替え持って来て。あと、先生は私のお見舞いもう来なくて良いですから。先生も忙しいでしょうから」


「ちょっと待てっ! 俺が女の子の着替えって……」


「やってくれるよね?」


「お、おぅ……やる」


 私は今まで一人暮らしだったから羞恥心って言うのが特には無かったし下着とかを男の子に見られても恥ずかしくは無いから桜崎くんがどうしてそんなに慌てていたのかは全く理解出来なかったけど、お願い聞いてくれたから安心はした。


「先生、そろそろ出た方が良いよ」


「え、そ、そうね」


 桜崎くんが私に気を使って先生を連れて病室から出て行ってくれた。私が手を振ると少しだけ顔を赤らめたまま無反応に桜崎くんは出て行った。桜崎くんは時々夕紀の顔を見たりすると顔を赤くしたりするから面白い人だと思う。



 数十分後の話。名倉家のドアの前で何者かがドアノブをグルリと回す。


「あっれ、カギあきっぱなしかよ……まぁこの家じゃ泥棒来ても盗まれて困る程大事な物なんてねぇけど……っと、命は大切かなっと。おぉ〜い夕紀ぃ〜久しぶりにお兄様が会いに来てやったぞ〜……って無反応かよっ! 思春期だからってムシはねぇ〜んじゃねぇのぉ?」


 誰もいない部屋の中で自称『お兄様』は叫び続けて部屋の中に誰もいない事を悟った様だった。


「ふぅ……そうかそうか。思春期だもんなぁ……昼間っから彼氏とデートなんて当たり前だよなぁ……しかも、あの可愛さだしなぁ……しっかしお兄さまが帰って来る日くらい家の中にいて『おかえりなさいお兄ちゃんChu』くらいのサービスがあってもさぁ……はぁ……お兄さま<彼氏の方程式が成り立つって訳ですか……」


「……誰? 一人で叫んでる……」


 名倉家の中に桜崎くんが入って来たのは自称お兄さまが叫びだした直後くらいだった。自称お兄さまは桜崎くんを睨みながら胸グラをつかみあげて叫んだ。


「おぅコラ餓鬼ぃぃっ! テメェが夕紀の彼氏か、お? 誰に断って俺の最愛の妹と付き合ってんだよぉ〜っ! うらやましいだろうがコラァァっ!」


「は、え……? あ、アンタ名倉のお兄さん……は、始めまして。俺、クラスメイトの……っ」


「テメぇまだ早ぇんだよっ! んだぁその挨拶はっ娘を下さい系の挨拶なのかゴルァっ!?」


「ちょ、落ち着いて下さいっ! 俺はただのクラスメイトですからっ」


 一瞬だけ室内の空気が固まったのが判る。が、その瞬間自称お兄さまは桜崎くんの肩を叩きながら


「あっはっはっはっ! 判ってるってっ俺の妹がお前みたいなヤツ選ぶ訳ねぇもんなぁ〜で、お前何しに来た訳?」


「そうだっ! 今すぐ病院に来てくださいっ」


「お、ボウズのクセに濃い趣味してるねぇ〜お宅ナースさん派なの?」


「違います。名倉が自殺未遂で病院に入院してるんですっ」


 桜崎くんは訳も言わずに自称お兄さまを引っ張って行った

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