リンゴと唯3
昨日のあれは夢だったんだろうか…。剣崎先生の話だと、プールサイドで滑って転んでプールに落ちて、溺れた賀東先生を助けようとして、なぜか俺も溺れたらしい…。そんな馬鹿な…。そんで、俺と賀東先生を他の先生方が助け出してくれたらしく…起きたら保健室のベットの上だった…。なんか、変な女の子に会って、それから賀東先生に会って…それからの記憶が全くないんだよな…。いや、全くないってわけじゃなくて…あの藤林の友達の子の声がなんか聞こえて…それで…。ああーだめだ、思い出せない…。
てか、俺の担任、帰りのホームルームの話長すぎっ…!早くしないと、先輩方が来ちまうだろ…!今日こそ俺は絶対に美術部へ行くんだ…!ホームルームが終わり、急いで教室を飛び出す俺。よし、今日はまだ先輩方が来てない…!と思ったら、先輩方が階段を下りてくるのが見える、やばい、こっちに気づいた!全速力で廊下を走る俺!だいたい、美術室、遠すぎるんだよー!!
―美術室―
ももが日直だから、先に美術室に来た私。今日は、賀東先生は体調不良でお休みだった。そりゃ、あやうく殺されかけたんだもんね…。でも、休みで良かったよ…。顔合わせたら…昨日のこと思い出して…私…ボンっ!(私の頭が爆発する音)はあ…。明日からどんな顔して、先生に会えばいいんだろう…?私だって気づいてないよね…。声でばれそうになったけど、否定したし…大丈夫だよね…?
それにあれは、あくまで…人工呼吸だから!!き、キスじゃないから…!賀東先生の顔、あんな間近で見ちゃった…。綺麗だったな…。
荒々しく美術室の扉が開いた!
「甘夏君!?どうしたのそんなに大慌てで?」
甘夏君は、教卓の後ろに身体を縮めて隠れた…!
「…静かに!誰が来ても、俺はいないって言ってくれ!」
「う、うん。」
すると、高等部の先輩達がやってきた。
「ここに、中等部2年の甘夏、来なかった?」
先輩たちは部室をジロジロ見て、あきらかに甘夏君を探している!
「はい。さっき来ましたが、もう出て行きましたよ。水泳部の方に行ったんじゃないんですかねぇ…?」
嘘をつく私。
「そうか。ありがとう。」
先輩たちは、帰っていった。
甘夏君が教卓の裏から出てきた。
「ありがとう…助かったよ。えーと…あんたは…?」
「ももと同じクラスの毒島リンゴだよ。」
「ああ。前聞いた気がする…。あのさ、昨日はありがとう…。」
「え?」
甘夏君、昨日の記憶が残ってるの!?
「いや、あの。変なこと言うけど…。俺、昨日、夢の中で…何か取り返しのつかないことしそうになったんだ…。そしたら、あんたの声が聞こえた気がして…。それで…誰も傷つけなくてすんだ…。」
やっぱり、記憶は残らないんだ…。でも、完全に消え去っちゃうわけじゃないんだ。
「よくわかんないけど…。どういたしまして、甘夏君。」
「…唯でいいよ。」
「じゃあ、私もリンゴでいいよ!あのさ…ひとつ、聞いてもいい?」
「何?」
「唯君てさ…もものこと好きだよね?」
「…な!?…うん。俺は、藤林のことが好きだ…。」
知ってるよ!昨日、全部聞いちゃったもん。
「やっぱり!じゃあ、なんでもものこと苗字で呼ぶの?好きなら、ももって呼んであげれば?」
「それは…恥ずかしい…!」
唯君、顔真っ赤…!可愛い。
美術室の扉が開く!やばい、先輩達が戻ってきたのかな?
「おまたせ、リンゴ!あれ、唯じゃん。どうして昨日、部活来なかったの?賀東先生もあんたのこと探してたよ!今日は体調不良でお休みだけど…。ああーさみしい…!!てか、唯、あんた顔赤いけど?何かあったの?」
「…俺は別に…。」
「唯君ちょっと耳かして。(唯君に耳打ち)思い切って、ももって呼んでみれば?」
「ちょっ!おま…リンゴ、何言ってんだよ…!」
「あれれ…いつの間に、二人は名前で呼び合うほど仲良くなったの…?ひょっとして…あんた達って付き合ってるの!?」
『はぁああああ!?何でそーなるんだよ!!』思わず、叫ぶ私と唯君!!もも、超鈍感すぎ…。
「でも、リンゴには花梨君がいるし…ってことは、唯の片思い?ねえ、どういうこと?」
「…お前がここまで鈍感だと思わなかったぞ…もも。」
「あれ?唯、今私のことももって呼んだ?」
「私も聞いたよ!唯君、今たしかにももって言ったよ!」
「な…!?」
「いいよ、唯。私のことももって呼んでも!ううん、ももって呼んでほしい。私たち小3からの付き合いじゃん!私、唯にももって呼ばれるのなんか嬉しい!」
「良かったね、唯君?」
「…別に!」
いやぁ、顔がまた赤いよ唯君…。わかりやすいな…。
「でさでさ、二人は結局、どういう御関係なの?」
『ただの友達だよっ!!』再び叫ぶ私と唯君。その声に気づいた水泳部の先輩達がまたやって来て、唯君は水泳部に強制的に連行されてしまった!…唯君が美術部に出られる日は来るのか、そして、ももに思いが届く日が来るのか…それは、誰にもわかりません。




