藤林ももと美術室5
美術部に入って一週間がたったある日のこと。私が美術部に入って初めて描いた作品がようやく完成した日のこと。1つの絵をここまでしっかり描き上げたのは、全国規模のコンクールの絵を描いた時以来だった。
私の絵を見たら、賀東先生、なんて言うかな…?早く見せたいような、見せたくないような…。美大の大学院まで出ている先生が、私の…地元でちょっと絵が上手かったくらいの私の絵を見たら…。全国規模のコンクールじゃかすりもしなかった私の絵…。どうしよう…見せたくない…。賀東先生を失望させたくない…!
「藤林さん、ようやく完成したみたいですね?」
ふぁっ!?が、賀東先生!?いつの間に!?きゃああああ!私の絵が…こんな平凡な私の絵が、賀東先生に見られてるぅー!…どうしよう。恥ずかしい…。
「…ど、どうですか?あははは…。美大出の先生に見せるには大変お恥ずかしい絵で…。」
私が描いた絵は、1年2組の教室で飼っている3匹の金魚。賀東先生が入学式の次の日に教室に連れてきたの。
「…いいえ!良く描けてますよ。この絵のモデルはうちのクラスの金魚ですね?ほら、この右上にいるのがボブで、真ん中がゲイリーで、一番下にいるのがアダムスキーですよね。わぁ、どの子もそっくりですよ…。」
先生、あの3匹を見分けられるんですか!?すごい…!
「この子達、一匹一匹に表情があって、いまにも泳ぎだしそうですね。色使いも良いですね…。藤林さんが描く動物や植物は、どの作品でも生き生きとしていて、温かみがありまね。」
私の絵がそんな風に褒められたのおじいちゃん以外では賀東先生が初めてかもしれない…。みんな、賞とか順位のことしか言わなかったから…。てか、そのことよりも!
「…え!?先生、もしかして…私の小学生の時の絵も見たことあるんですか…?」
「はい。入部条件を確かめるために、入部希望者みんなの過去の作品はチェックしました。」
わああああああ!恥ずかしい…。日本で一番、絵が上手いと思っていた私の黒歴史の絵を…賀東先生にみられちゃったぁ…。し、死にたい…。
「僕は、藤林さんの描く絵、好きですよ。」
賀東先生は、笑顔で言った…!…え?ええええええええー!?わ、わわわ私の絵が好き…!?ななな…。
「わ、私は…先生のことが大好きです!」
って!?何で私、先生に告ってんの!?
「あははは。ありがとう。」
先生は冗談だと思ってるみたい…。私は本気です!!
「先生、私と結婚してください!」
「え…?」
こうして私は賀東先生に恋したのです!




