リンゴの夏休み
私、リンゴは、夏休みも学園内を絶賛パトロール中です。覚醒しそうな生徒とヴァニラを捜索中。今日も暑いね…。あ!中庭の花壇に水やりをしてるのは…。
「賀東先生!」
賀東先生は、半そでの白のポロシャツに、下はジャージで頭に麦わら帽子をかぶっていて…なんだか用務員さんみたい…。
「おはようございます、リンゴさん。」
「どうして、先生が水やりをしてるんですか?」
「用務員さんが、夏休み前に怪我をして入院したんです。それで、入院中は僕が庭の手入れを引き受けたんです。」
「それで、夏休み中は、ほとんど学園にいるって言ってたんですね…。」
「リンゴさんは?」
「私は、やることがないので学園に来てぶらぶらしてるだけです。私も何か手伝いましょうか?」
「いいんですか?折角の夏休みですよ。」
「いえいえ、本当に暇なんで!」
賀東先生と一緒にいられるだけで、嬉しいです!!
「本当ですか?…それじゃあ、草むしりをお願いしてもいいですか?」
「はい!とりあえず、着替えてきます。」
ジャージに着替えて草むしりをする私。
「賀東先生は、夏休みはどこか出かけないんですか?」
「そうですね…。用務員さんは、お盆までには退院できるそうですから…実家に母のお墓参りに帰ろうと思っているんですが…。リンゴさんは、何かご予定は?」
やっぱり、お父さんには会いたくないのかな?
「私は、セカイ君に会いに行きます。」
「リンゴさんの初恋の男の子ですね。転院した病院は、分かったんですか?」
「はい。大阪の胡桃総合病院です。」
「また、随分と遠いところですね…。」
「でも、相川先生のご実家がこの病院のすぐ近くなので、お盆休みに相川先生と一緒に大阪に行くんです。それで、お盆休み中は相川先生のご実家にお世話になることになりました。」
「良かったですね。相川先生は、大阪府出身だったんですね。」
「そうなんですよ!たしかに、相川先生のたこ焼きは、神がかってますもんね!」
「リンゴさんも食べたんですか、あのたこ焼き…!」
「もう、今まで食べてたたこ焼きがカスに思えるくらいのクオリティですよね!」
「…それは、ちょっと言い過ぎじゃないですか。」
「ああ!!そういえば、賀東先生の初恋の話、まだ聞いてないです!」
「まだ、覚えていたんですか…もう、いいじゃないですか。リンゴさんとセカイ君の話に比べたら…僕の初恋なんて…。」
「ええー!!聞きたいです!!」
「勘弁してください…。」
「お前ら、何やってんだ?」
『橘先生!』
なんというタイミングで…!一番、来て欲しくない人が来てしまった!!
「庭の手入れをしてるんですよ。聞いてくださいよ、橘先生!賀東先生が初恋のこと教えてくれないんですよ!私は、教えたのに…!」
リンゴさん…!
「へぇ…。それは、賀東先生も教えなきゃ、不公平だよな。ねえ、賀東先生?」
橘先生…絶対、面白がってるだけだよ…!!
「…やっぱり、恥ずかしいです!!ごめんね、リンゴさん…。」
「えええー!私だって、恥ずかしかったけど…教えてあげたじゃないですか!」
「そうだぞ、賀東先生!…男なら、はっき言えよ。」
橘先生の普段、死んでる目が生き生きしてる…。この人…他人事だと思って…!!
「…わかりました、話します…そのかわり、橘先生の初恋も教えてくださいね!」
橘先生が口にくわえていたタバコが落ちる…!
「な…!?なんで、俺がお前らに…そんなこと話さなきゃいけないんだよ!!」
「僕だけが話すんじゃ、不公平ですよ、ねえリンゴさん!」
「そうですね、橘先生の初恋も話してください!!…そうえば、橘先生の初恋って私の母さんですよね?」
「うわあああああー!!毒島…てめぇ…!!」
「そうなんですか!?橘先生の初恋ってリンゴさんのお母さんだったんですか…!」
やった!橘先生の弱みを握れた…!
「橘先生、私の母さんのどこが好きだったんですか?」
「うるせえ!…ああ、俺、用事思い出したから!」
橘先生は、ダッシュで逃げて行ってしまった…。
「さあ、賀東先生。話してください!!」
「…リンゴさん。アイスクリームは好きですか?」
「はい、好きですけど?」
「草むしりを手伝ってくれたお礼も兼ねて、アイスクリーム奢りますよ。この学園の近くに牧場があって、そこで夏場だけアイスクリームを売ってるんです。…それで、勘弁してください!」
「えええー!」
「牧場の牛のしぼりたての牛乳で作ったもので、すごく美味しいんですよ!!」
「…わかりました。今日の所は、それで…。でも、いつか絶対、教えてくださいね!!」
もう、諦めてくださいよ…。
「…じゃあ、着替えたら。駐車場に来てください。」
「はーい!」




