終業式
―2年2組教室―
「…以上で、夏休みの過ごし方に関する話はお終いです。みんな、明日からの夏休みを有意義に過ごしてください。今度は、8月の登校日お会いしましょう!」
「賀東先生に一ヶ月以上も会えなくなるなんて…さびしくて、私、死んじゃいます!!」
「私もー!!賀東先生の美しいお声が聞けないなんて…!!」
「賀東先生、家に遊びに来てください!!」
「先生、デートしてください!!」
賀東先生…大人気だね…。
「あはは。僕は、夏休み中もほとんど学園にいますよ。一度、実家に帰省しようと思ってますが…。」
お母さんのお墓参りに行くのかな…?でも、お父さんとは、折り合いが悪いって言ってたよね…。
「みんな、長い休みですが羽目を外しすぎないように、登校日にまた元気な姿を見せてくださいね。」
「それじゃあ、もも。また登校日に会おうね。」
ももは、群馬の実家に戻っちゃうんだ。
「リンゴ…本当に1人でさみしくない?」
「大丈夫だよ!運動部の子は結構、寮に残ってるし。帰ってきたら、いろんなお土産話聞かせてね!」
私は、学園に残っている生徒のみんなを『セカイを滅ぼす者』から守らなきゃ!
―『SAWDO』地下秘密基地―
「剣崎先生、ヴァニラっていったい誰なんですかね…?」
「やはり、まだコンピュータがまだ完全に修復できていないので…生徒の特定は難しいですね。」
「今までに、ヴァニラちゃんについてわかっていることは、生徒の中に眠る『チカラ』を無理やり覚醒させて暴走することができることと『リンゴ』という言葉にたいして憎悪を抱いてるってことだけだもんね!琳華ちゃんの一件以来また姿を現さなくなったし…。」
「私の制服の犯人って、ヴァニラですよね!私の名前を憎んでいたし…。」
「そのことなんですが…。毒島さん、あなたの制服の犯人はヴァニラでは、ありません。あなたの制服の犯人は、別の生徒で…もう特定もできています。」
「本当ですか!?」
「というか…ごめんね、リンゴちゃん!!本当は、ずっと前から特定できていたの…!」
「ええ!?どういうことですか…?」
「毒島さん…。被服室のカメラが壊されていたというのは嘘です。カメラは、無事で…あなたの制服の犯人と犯行現場をきちんと押さえています。…ずっとあなたに嘘をついていて…本当にすみませんでした。」
「どうして…私に嘘なんかついてたんですか!?じゃあ…制服の犯人は…私に恨みがあるってことですか…?『セカイを滅ぼす者』に操られているんじゃなくて…私に悪意はある子なんですか?」
「…はい。ですから、毒島さんを傷つけないために…今まで嘘をついていました。」
「本当にごめんね…。ショックを受けたリンゴちゃんの心の隙間に『セカイを滅ぼす者』が入り込んで来たら大変だから…。」
「そうだったんですか…。先生方も…私のことを気遣って黙っていてくれたんですね…。」
「それで、犯人の生徒なんですが…。」
「ああ!教えないで下さい!!…もう、学園はこの件は終わったことになってるし…。その子もちょっとした出来心でやっちゃったんだと思うんです。その後、これといって嫌がらせはないですし。私、名前のせいで小さい頃からよくいじめられたので、ものを壊されるのは慣れてるんです。もう、私は、大丈夫なので、犯人は、誰なのか聞きません!」
「本当にいいの?」
「はい!」
その時、部屋に誰かがやって来た!
「みんなー!!かき氷食べよー!!あれ、こうたんは?」
相川先生!相変わらず…自由ですね…。
「橘なら、どっかでヤニ休憩してるんじゃない?」
「そっか…。まあ、そのうち来るよね!じゃあ、作り始めるね!!このかき氷機すごいんだよ。氷を入れてスイッチ押すだけで、かき氷が作れるんだよ!!あと、シロップはイチゴ味しかないから!」
「なんで、イチゴ味しかないんですか?」
「ごめん。シロップ買ってくるの忘れちゃって…。うめこちゃんにイチゴジャムもらって、砂糖と水を足してシロップ作ったんだ!」
「うめこちゃんって誰ですか?」
「女子寮の寮母の梅木さんのことですよ。」
ああ、公子さんか!梅木公子でうめこ。
「さあ。みんな、できたよ!1学期が無事に終わったことを祝して乾杯!!」
『乾杯!お疲れ様でしたー。』
「いただきます!わあ…ふわふわですね!」
「すごいでしょう!お店のやつみたいでしょう!」
「今日も暑かったから…体にしみるねー。ありがとう相川ちゃん!」
「シロップにちょっと砂糖入れ過ぎじゃないですか…。」
「もう、つばっきーは、細かいんだから!」
「お前ら、何騒いでるんだ?」
「こうたん!!遅いよー!!はい、こうたんの分!」
「…なんで、かき氷?しかも、シロップがイチゴしかないのか?俺は、メロン派だ!!」
「ごめん!イチゴしかないんだ…!!そのかわり、このシロップは俺の手作りだから、俺の愛が詰まってるよ!!」
「…気持ち悪いこと言うなよ。ああ、毒島。小、深沢先生から伝言がある。」
今、小夜って言いかけたよね…。
「何ですか?」
「烏丸セカイ君の転院した病院がわかったそうだ。」
「本当ですか!どこなんですか!?」
「大阪にある『胡桃総合病院』だ。関西でかなり有名な病院らしい。」
胡桃総合病院…!そこへ行けば…セカイ君に会えるんだ…。あれ…胡桃ってもしかして…。
―『胡桃総合病院』セカイの部屋―
「よお。セカイ、具合はどうや?」
「今日は、いつもより調子がいいんだ。それより、まだお昼前だけど…城太郎君、学校は?」
「今日は、終業式やから、午前で終わったんや!」
「ああ、そうなんだ…。じゃあ、明日から夏休みだね。良かったね!」
「夏休みっていうても、ワイは補修受けに行かなきゃなんや…。でも、お前には、毎日会いに来てやるから安心しいや!」
「別に毎日来なくてもいいよ…。城太郎君…初めて会った日から毎日来てくれてるじゃん。」
「セカイがまた『死んでもいい』なんて、言わんようにするためや!それに、ワイが来ないとさみしくて泣かれたら困るし!」
「別に…僕は一人でも平気だよ!…でも、ありがとう城太郎君。毎日会いに来てくれて…。僕、本当にすごく嬉しいよ…!僕、病気のせいでほとんど学校に行ったことなから…友達いないんだ…。城太郎君?僕の顔に何かついてる?…そんなに見つめないでよ!」
「いや、セカイって何かに似てると思うたら…ウサギや!ワイ、小学生の時に飼育委員やったことがあってな…そん時飼ってたウサギにそっくりや!!綺麗な白い毛で赤っぽいピンク色の目をしたウサギに。そいつセカイみたいにさびしがりやでな、ワイが飼育小屋の掃除終えて小屋から出ようとすると、足元に寄ってくるんや…。可愛かったな…。そうや、あん時のウサギや!」
「へえ…。僕の初恋の女の子も、僕がウサギに似てるって言われたことあるよ。絵本の不思議の国のアリスに出てくるウサギだけど…。」
「その、セカイのこと忘れてる薄情女っていったいどんな奴なんや?」
「ちょっと!リンゴちゃんの悪口は言わないでよ!仕方ないよ…幼稚園を卒業してから一度も会ったことなかったんだから…。」
「…リンゴ?セカイ、今…リンゴって言ったか?」
「うん。僕の初恋の女の子の名前だよ。…城太郎君に教えてあげる。僕の初恋の女の子のことを…。」




