青島琳華のセカイ3
寮の自室のベットに寝そべる私、琳華。今、何時だろう?目覚まし時計を見ようとしたとき、時計の隣にある白いフォトフレームに入った写真が目に入る…。藍色の髪と瞳をした幼い少女と少年が写った写真。私と兄さんが写った写真…。満面の笑顔で微笑む私と、無表情で口をへの字に結んだ兄さん…。
私の兄さんの琳吾は、あまり感情を表に出さなかった。でも、兄さんが私を見つめる藍色の瞳は、いつも優しくて…。私は、小さいころから体が弱くて…何の取り柄もなくて…こんな自分が情けなくて…。父さんは大企業『青島グループ』の社長で、母さんも父さんを支える立派な妻であり私たちにの母親であり、兄さんは、スポーツも勉強もなんでもできて…私、一人だけ…ダメな人間で…親戚の集まりで誰かに…私のことを青島家の恥だと言われたもこともあった…。辛かった…。どうして…私は生まれてきたんだろう…兄さんだけ生まれてくれば良かったに…。私なんて…母さんのお腹の中で死んでしまえば良かったのにって…兄さんに話したら…。
『そんなこと言うなよ…!俺は、琳華と一緒に生まれてこれて良かったと思ってるよ…。琳華は、そのままの琳華でいいんだよ…。俺は、ありのままの琳華が好きだよ。』
この言葉に何度、救われたんだろう…。兄さんと私は、双子で生まれてきたからかもしれないけど、お互いが思っていることがすぐにわかってしまう。私と兄さんは、きっと元は一つだったけど、母さんのお腹の中で二つの体と心に分かれてしまったんだと思う…。私と兄さんは、二人で一人…。だから…兄さんが死んだら…私も死ぬと思っていたのに…。
なんで、私は生きているんだろう…。兄さんは、死んでしまったのに…!それに…兄さんが死んでしまったのは…私の…私のせいなのに…!!
唯君のあの絵…。荒ぶるう濁流…。私は、水が怖い…。
あれは…私と兄さんが、10歳の時…。冬休みに、田舎の別荘に行ったとき。兄さんと森の中を走りまわていて…私は、足を滑らせて…川に落ちてしまった。冬の水は、体に突き刺さるように冷たくて…川の流れは、激しくて…水が体に流れ込んできて…苦しくて…もがいても、もがいても…体がどんどん流されてしまって…。ああ…私は…ここで死ぬんだと思った…。神様…私が死んでも…兄さんは…琳吾の命は奪わないで下さい…!!
『琳華…!!』
兄さんの声が聞こえる…。兄さんは私を助けるために、川に飛び込んだんだ…!私の体を兄さんが抱きしめて、川の流れに逆らって、私を岸に運ぼうとする…。でも、川の流れは、絶えず私達を押し流そうとする…。冷たい水が私たちの体に覆いかぶさる…!私の意識が…消えていく…。
私が目を覚ますと…そこは、病院のベットの上で…。父さんと母さんが泣きながら、私を抱きしめてくれて…。でも、そこには…兄さんがいなくて…。兄さんのことを聞いても…誰も答えてくれなくて…。そして、私は、父さんと母さんに手をひかれながら、病院の一室に連れて行かれて…。
暗い部屋にひとつだけベットがあって…そのベットに横たわる私と同い年くらいの男の子は…顔に白い布がかけられていて…。父さんが白い布をとると…。私と同じ藍色の髪をした…私と同じ顔をした…私の兄さん…琳吾だった…。琳吾は、私を岸に押し上げたあと、流されてしまった…。琳吾が死んでしまったのは、私のせいだ…。琳吾を死なせたのは…私だ…!
琳吾は、死んでしまったのに、どうして…どうして私は生きているんだろう…。私と琳吾は、二人で一人だったのに…!!