青島琳華のセカイ2
美術室の扉が開いた。
「ごきげんよう。みなさん。」
琳華先輩だ!
「ごきげんよう、琳華先輩!今日も一段とお美しいですね!」
「もう、ももちゃんたら…。」
「琳華先輩、今日は生徒会の方は大丈夫なんですか…?」
「大丈夫よ、リンゴちゃん。今日は集まる約束は、してないから!」
「琳華さん、そそっかしいところがありますからね。今日も、職員室の前でつまづきそうな物もないのに転びそうになってましたよね。」
「まあ!賀東先生、それは言わない約束ですよ…!あら、そこにある描きかけの絵は…?」
琳華先輩が指さす方には…唯君が描いていた絵だ。
「ああ、あれは、さっきまで唯が描いてたやつですよ。」
その絵は、どこかの川を描いた絵で、すごく流れが速そうで、波が立っていて…すごく荒ぶった川だね…。水泳部のせいで美術部に来られずに、作品が間に合わなかった唯君の恨みつらみが、表現されてるみたいだね…。
「唯、そうとう怒ってたんだね…。どんだけ、作品間に合わなかったこと根に持ってんのよ!」
ももが鈍感なのも、怒りのひとつだと思うけどね…。
「琳華先輩、その絵がどうかしましたか?…琳華先輩?」
唯君の絵を見る琳華先輩は…なぜか顔面蒼白で何かに怯えているようで、すごく動揺していて。…あれ、前にもこんなことがあったような…?
その時、琳華先輩がその場に倒れこみそうになった!倒れる瞬間、すばやく賀東先生が琳華先輩の体を抱き止めた…!さすが、賀東先生!
「琳華さん、しっかりしてください!琳華さん!」
琳華先輩は、起きない。貧血でも起こしちゃったのかな?
「二人とも、僕は、琳華さんを保健室に連れて行きます。」
賀東先生は、意識のない琳華先輩を…これは、まさかのお姫様抱っこ!?をしている…!うわああ…!二人とも美男美女だから…すっごい絵になるねぇ…。まるで、王子様とお姫様みたい…!!
「はい。わかりました。琳華先輩のことお願いします!」
賀東先生は、琳華先輩をお姫様抱っこしたまま保健室に連れて行った。琳華先輩…羨ましい…じゃなかった!大丈夫かな…どこか具合わるかったのかな…?
それとも、唯君の積年の恨みがつまった絵を見て、賀東先生がももの絵を見た時みたいに動揺しちゃったのかな…。
―保健室―
私、琳華は夢を見ていた…。夢の中の私は…水の中にいて、寒くて、苦しくて…意識がとぎれとぎれにいなって…!誰かが…私のことを呼んでいる…?あなたは…?
「琳華さん、気がつきましたか?」
「…兄さん。」
「え…?何か言いましたか?」
「…賀東先生!?すみません…!何でもないです…。それより、ここは…?」
「保健室です。君は、さっき、美術室で倒れたんです。多分、軽い貧血だと思います。」
「ご迷惑をおかけして、すみません。保健室まで、運んでいただきありがとうございます。…私、重たくなかったですか…?」
「気にしないでください。琳華さん一人くらい、軽いですよ!どこか他に気分の悪いところはないですか?」
「いえ、大丈夫です。もう少し、ここで休んだら今日は、もう帰ります…。」
「そうですか。あまり無理しちゃだめですよ。それでは、僕は部活に戻ります。」
「賀東先生、本当にありがとうございます。」
賀東先生を「兄さん」なんて言ってしまった…恥ずかしい…!
私には、双子の兄がいた…。そう、いたってことは過去形で…。兄さんは、もういないの。私の兄さんは死んでしまったから…。




