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日常小咄  作者: 着津
2/5

2.魔女と農家の三男坊 

嫌われ者系世間知らずの少女と実はスレてる純朴少年

side.skua

 農家の三男坊の朝は早い。スクアは断りなしにログハウスに入り、粗末なベッドの上で丸まって毛布を引っ被っている塊に目を遣った。生来ずぼらな他称魔女、ストレは農家の早起きには付いて行けないと言って早々にスクアに合わせるのを止めてしまった。スクアもそれはそれで良いと思っているので口には出さないが、詰まらないものは詰まらないのだった。

 しかし、いかなずぼらといえど、直ぐに目を覚まさせる方法はあるのだ。


「今日は何を作ろうか」


 楽しげに笑みを浮かべて、スクアは自宅から持って来た籠を覗いた。


side.stle

 目覚める。いつもより少し怠い。ぼんやりと痛む頭にうんざりしながら目を開ける。目覚めも寝付きも良いが、他称魔女、自称薬師のストレは気圧の変化と寝不足に弱かった。昨日夜更かししたから本来なら耐えきれずに眠ってしまう所だけれど、今朝は香ばしい臭いに叩き起こされた。

 これ以上寝過ごさないようにのそりと起き上がる。寝間着に朝の空気が突き刺さって少し寒い。それでも覚醒しない体には困ったものだ。


「おはよう、魔女。今日は雨が降りそうだよ」

「…はよ。あそ」


 寝不足と、序でに気圧のせいもあってこんなにも怠いのか。勝手に入り込んでいる青年は最早何も言う気になれない。ストレは諦めて目を瞑った。



 村の皆に魔女と呼ばれる少女は、漆黒の長い黒髪と白く濁った赤い瞳を持ち、親に捨てられ、偏屈な薬師に拾われここに辿り付いた。本人が自覚しない悲惨な過去は、本人に大きな傷を残した。それは大きな傷を。どうしてか他人に受け入れられず、そのことに疑問も抱かない少女。


 村で煌びやかで調子の良い兄二人ばかりが注目され、それを冷めた目で見やり、色々なところで手伝い小遣いを稼いでいる地味な農家の三男坊は、一人の少女に出会う。白く濁った瞳は視力が良くないらしい。そのことに気付いてから、彼は少女に関わっていきたいと強く願う自分に驚いていた。


 そんな彼らの日常は、ゆっくりと穏やかに紡がれる。



「まじょー、おきろー」

「んんぅ」


 ベッドの上に起き上がったは良いが、壁にもたれて再び眠りに就いていたストレの肩をそっと揺する。一日のうちでこの瞬間が一番、緊張する。人の気も知らずにストレはぼんやりと目を開けた。


「……っ」


 息が詰まった。黒い睫の下から覗く赤い目は、突き放すような深紅では無く、白く濁った赤。眠気で潤んでいるせいで尚たちが悪い。毎朝それを見るたびに胸が苦しくなる。なのに世話を焼くのを止めないのは…、その理由はまだ自分でも自覚したくないと思う。


「おはよ、スクア」

「おはよう。ご飯出来てるよ」


 やっとこちらを見つけ、ぼんやりとしながらもしっかりと言葉を返すストレに、スクアは思わず笑みを浮かべた。あどけない様が可愛いなんて誰にも言えない。


 

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