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日常小咄  作者: 着津
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1.アルブルモンド物語  月の丘 

 夜空にはいくつもの星が輝いて、まるでそれぞれがそれぞれの生活を送っているように見える。いいな、とても楽しそう。・・・わたしと違って。

「モント!こんな所に居た!」

 小高い丘になっているここまで走ってきたのは、近所の男の子。幼なじみというヤツだ。少し心配していた様に、声がいらだっている。

「ダル、どうしたの?」

 わたしは一人でいたいと思っていたから、ダルの来訪に少しむっとした。男の子には良くあるように、ダルも女の子の気持ちは良く分からないんだ。わたしの素直な気持ちも、踏みにじられることが何回かあった。それに、今は特に会いたくない事情があった。

 だから、少し言い方がきつくなっても仕方ないと思う。

「どうしたのも何も。おばさん、お前のこと心配してるよ」

「・・・そんなこと無いよ。お母さんはわたしの事なんてどうでも良いんだ」

 お皿を割ったくらいであんなに怒るなんてどうかしてる。わたしの言い訳さえ聞かないんだから。家出したって良いでしょ。遠くに行くわけじゃなし。・・・本当は、少しだけ。お母さんにごめんって言いたい気持ちもあったのだけど、お母さんはわたしの言葉には全然耳を傾けてくれないんだ。

「・・・そんなこと無いと思うけど」

「ダルには分からないよ!」

 ただのお隣の男の子が分かることじゃない。こんな気持ち。

「そうかよ!心配して損した!!」

 ダルの怒鳴り声に、わたしの止まったはずの涙がまた零れた。誰にも見せたくなくて、ケンカする直前に淹れていたココアを持ち出して。ここまで走ってきたのは半分計画通りで、半分は勢いだ。思わずお皿を割っちゃったのもここに早く来たかったから。

「なっ、泣くなよ!!・・・どうしたんだよ」

 ダルの心配そうな声に、また涙が零れる。今度次から次へと止まらない。

 最近、弟が生まれたお母さんは、わたしを見てくれない。それに、わたしの失敗に敏感になった。何かを壊したらもう、大変だ。怒鳴るように叱られて、謝る隙も無い。お父さんは余り家に居ないからきっと、こんな風になっていると知らないと思う。

 あんな家から逃げ出したくて、とても綺麗な星空が見えるここに来たくなったんだ。

 だから、こんな風に気遣われるのは久しぶりで、だから涙が止まらないのだと思う。

 ごめんね、ダル。こんな訳わかんないのに泣かれて。迷惑だよね。

 泣きながらダルに事情を伝えた。話しながら気持ちが整理されていく。そうか、わたし、悲しくて悔しくて、怒ってるんだ。わたしを見てくれないお母さん、うまく伝えられないわたし、思い通りにならない今。

「そっか。ごめん、おれ、何も知らなかった」

「わたしの方がごめん」

 お互いに謝って、ふは、と吹き出す。何だろ、少し気分が軽くなった。誰かと話が出来るって、良いな。

「ここってさ」

 ダルが空を見上げて言った。

「前に二人で見つけたんだよな」

 わたしは頷く。きっと見えていないだろうけど、それだけで伝わっているような気がする。

「ああ、そういえばあのときはダルが泣いてたね」

「う。あんま言うなよ」

「ふふふ。思い出したら笑える」

「思い出すなっ」

 ムキになるダルに、そうだ、と水筒から注いだココアを渡した。

「飲む?」

「飲む!」

 それまでの空気を振り切るように、ダルはココアを飲み干した。

「あっちぃ・・・」

「一気に飲むから」

 また二人で小さく笑い合った後、ダルが真面目な表情(かお)でわたしを見た。

「また嫌になったら、今度は二人で来よう。その方が寂しくないだろ」

「うん」

 二人して気恥ずかしくなって、ちびちびとココアを飲んだ。会話はココア関連だけだったけれど、それでも居心地は悪くなかった。また、二人で来るのも悪くないかも。

 わたしは空に浮かぶ二つの月を見上げて思った。

 ・・・ダルもそう思ってると良いな。


side.Dal

 山の日暮れは早い。おれは幼なじみのモントを探して歩き回っていた。まだ空は明るいが、すぐに暗くなる。少し前におれの家を訪ねてきた、半狂乱のおばさんを思い出して、モントを責めたくなる。どうして行き先も告げずに飛び出したんだよ。

 初めは家での時間を削られるからイライラしていた。でもそれは途中から本気の心配に変わる。本当に何処にいったんだ!

 一通り回っても見つからない。おれら子供より詳しくて広い範囲を動き回れる大人たちも見つけられない。心配と焦りでぴりぴりする大人たちを見て思い出す。そうだ、あそこにならいるかもしれない。

 おれが思い出して向かったのは、何の収穫も出来ない森。その中の開けたところにある小さな丘だった。大人たちは普段行かない場所だから見落として居るみたいだ。

 案の定、モントはいた。おまけに手にはカップを持っている。微かに香るにおいはココアだ。何を暢気な、と思ってしまったのも仕方が無いと思う。

 駆け寄って声を掛けると、モントの声もいらだっていた。反射的に返事をして、おばさんがかなり心配していた事を言うと、モントは頑なに否定する。

 その言葉にイライラが頂点に達して思わず、怒鳴っていた。最近は余り話すこともないし、心配してこんなに駆け回らなきゃ良かったとも思った。

 けれど、そんな気持ちは次の瞬間には吹き飛んだ。モントの鉄みたいな表情がぎゅっ、と崩れて、ただ無言で泣き出したからだ。

「なっ、泣くなよ!!」

 突然の事で慌てる。モントは普段は笑ってばっかりで、怒ることはあっても、こんな風に泣くところを見たのは初めてだ。

「どうしたんだよ」

 モントは堰が崩れたみたいにもっと涙を流した。おれは何も言えなくて黙ってしまう。ああ、こんなとき自分が悔しい。

 モントは相槌を打つのがやっとのおれに、家での事情を教えてくれた。母さんがちらっとおばさんが大変だと言っていたのを聞いたことはあったけど、こんなにだなんて。おれがモントだったらきっと、もっと早くに家出してる。

「ごめん、おれ、何も知らなかった」

 なのに、面倒なんて思って。・・・何となく避けたりしてて。

「わたしの方がごめん」

 モントが落ち着いた様子で謝ってきた。お互いに謝って、何となくおかしい。何かが変わった、そんな気がした。

 それから、懐かしくなっておれはここを見つけた時の事を話した。ここを見つけたのはおれが父さんに叱られたときで、モントは心配して付いてきてくれた。それを思い出すだけで良かったのに、おれが泣いていたことまで思い出してしまった。うう、思い出したくなかった。

 でも、笑うモントを見たら、別に良いかとも思った。・・・でも嫌だけど。

 モントがくれるココアを飲みながら月を見上げる。無数の星に囲まれて、月が二つ浮いている。まるで今の俺たちみたいだ、なんて思ったけど、口には出せなかった。うう、自分がちょっと気持ち悪い・・・。

 もし、またモントがこんな風に逃げ出したくなったときは、おれが近くに居よう。おれはモントにそう言って、モントは嬉しそうに笑ってくれた。少し見とれたのは絶対誰にも言えない!


自分で書いていてほのぼのした作品です。可愛いんですよねー、こういう子達。是非とも傍観していたい!


珍しく作者の妄想が形になったお話です。


読んでくださった皆様が、もし作者と同じ気持ちになってくれたら嬉しいな、と願いつつ。読んでくれて有り難うございました!


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