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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

純 i

純 i-終わりから始まり-

作者: 奥野鷹弘
掲載日:2015/07/06

思い立って登録した、イベント会社への派遣登録。

色んな人と出会い、笑い、泣き、怒り、そして恋をした。


新たなる一歩へと違う職場へと足を踏み入れたが、ちょっと疲れ…。

そんなある日にまだ募集していた、あるライブに勤務希望を出した。


それが終わりで、始まりでもあった。

僕は…あの職場に一時復帰した。




《このメールを確認次第、返信してください。なお、急遽の変更またキャンセルは受け付けません。》

寝転がる僕の目の先に、液晶が少し壊れた携帯画面から文字が浮かんだ。

イベント会社からの採用決定メールだった。このメールが来るのは、半年ぶりだろうか…なんだか少しトラウマを覚える。



年明け前に怪我した身体の回復を見計りながら、新しいバイト先を見つけ順風満帆に過ごしていた。それなりの苦労を味わいながらも、今度はお客さんを直接に感動させる厨房というバイトに誇りを思って働いていた。だけど今、僕は10キロも痩せた体で布団の中にいて、携帯を眺めてる。自責の念に囚われて、憂鬱な気分の中で。



時刻に似合わない陽の光がカーテンの隙間を盗んで差し込んできた。

また寝過ごしたとボケボケした状態で、食卓に鎮座されたお菓子に手を付けた。

何故だろう「美味しい……」と感じた。二週間以上忘れてた感情が蘇った気がした。それと同時に、趣味の一部だったような厨房のバイトを辞めざる負えなかった事に涙が溢れ出した。続けたくてもついて行けない体、いくら説得攻めてもきしむ心……それが頭を軋ませて涙となって溢れ出した。


それから寝入って迎えた夕方、携帯が鳴り響いた。着信は番号登録されてなかったのか、怪しく番号が表示された。とにかく鳴り響くので、重たい腕を延ばし携帯を僕は手にした。



「………もしもし…」

「…あっ、福影くん?」


前の職場の上司からだろうか…。いや、違う…なんだろう、この雰囲気。


「………えぇ、はい、そうですけど…」

「お疲れさまです。イベンリーの担当の指原です。まず、採用決定メールみたかな?」


「…えっ?(何、あの会社から電話??)あっ…はい、遅れてなかったみたいで…する予定だったんで

す……すみません。」



「あっ、そうだったんだね?あのね、突然で申し訳ないんだけど…再来週のシフトを、本番からステハンに変わって欲しいんだよね。ちょっと手違いで人手が足りなくてね…」


「はっ………?はい、僕で良いなら構いませんけど…(なんだよ!半年ぶりで、まずそれどころではないやい!)」

「ちなみに経験は?」

「……2、3度ですかね……(ヤバい…)」

「じゃあ、宜しくね!変更情報は、またメールで送るから確認して返信するように!では失礼します。」

「あぁ、あ…あ…はい。ご苦労様です。」


〈プチッ〉


「切れた……」


僕は思わず、笑いこけた。

ストレスで携帯やモノを投げて、泣いて、叫んで…勃発にうるさい募集メールに返事をしてあげたとはいえ、奨学金や年金が払えなくなる前にとはいえ……まさかこんな風に大事な仕事を与えられて、しかも音楽という…僕の人生を病にされるものへの責任がここで復活するなんて予想にしてなかった。


その晩は、生きることに対して宣戦布告するかのように食べ物を口とお腹に頬張った。




それからの一日は早かった。何がなんだかわからないまま一日を無駄にした日もあった。それだけステハンという仕事は馬鹿に出来ない仕事で、そして一度味わったら戻れない仕事なのだ。


今年で10周年を迎えるバンドグループ。投げやりに勤務予定を出したとはいえ…それは僕が好きだったアーティストのひとつ。少年時代に聴いていたグループが、いつの間にかメジャーデビューの第一歩を踏みしめていた。昔はただただビジュアルに憧れて、ロックバンドはないポップバンドにある華やかさ平和に魅かれて服装や髪形を見つめ憧れた。マネなどはしなかったが、大人になったらこんな風になりたいという憧れ像だった。それが今では歌詞の意味を知り、曲の深さを新たに知り始めた僕に心に何かしがみ付いた気がする。


人は知らずに成長するとは、このことなんだろうか…。




本番シフトからステハンに移動したために、朝一のバスから出発だ。僕が知る中では会場が小さすぎるとは思うのだが、調べた限り立ち見が基本なグループなだけに要員数が恐ろしいとバスの中で笑った。さすがに夏だけあって、ほかの施設もライブがあるらしい。所々に、昨年のアーティストグッズを手にしてる人たちがいた。僕はその中の一つのライブをお手伝いするのだ。


地下鉄に乗り込むと、想いがもっと加速していった。今まで学んできたこと、経験してきたこと、馳せたこと、愛したこと…各駅ごとを通過して目的地に近づくほど込みあげてきた。さて、目的の駅だ。



地上に足を下ろすと、晴天の下でにぎやかに遊びまわる子供たちがいた。ギラギラと照らす太陽の下で無邪気に笑う子供たち。僕はそれに微笑ましい気持ちを抱きながら、目の前に映える会場へと向かう。


賑やかだ、賑やかすぎる。

懐かしい、苦しい、トラックたちがズラリと会場に寄り添ってる。夢を運んできたトラックが華やいでいる。『10th anniversary』そんな文字が、僕とリンクする。



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目を閉じて、一呼吸。そして、ゆっくりと見渡す。



広がるのは、客席に見守られている広大なステージ。

ひとつひとつ、部品の意味を汲み取りながら作り上げられた夢の舞台。

天井からは、やさしく舞うかのようなきれいな布が吊るされている。

ライトも今まで見たことないような淡い色で、会場をより神秘がかって不思議な気持ち。


花道がないのに、見れるだけで幸せになれるよな作り込み。僕は、息をのんだ。




「君たちが、ステハンだね?」


横から男性の声が響く。


「はい!」仲間が息をそろえる。


「君たちには、命がかかっている。このステージを天国とするか地獄にするか…、我々スタッフだけの責任だけなく、君たちの仕事に対する情熱、アーティストへの愛情が大切なんだ。ファンでなくていい、ただ、『ただ一緒にステージを完成させたい。』『感動させたい。』と心に刻んで取り組んでほしんだ。いいかな?」


男性の声は、舞台監督だった。穏やかな顔をしてるので、戸惑いを隠せなかったが気持ちを引き締めた。

仲間たちは、うなずきながら本番の作業をたたき込んでいった。



昼食の時間帯に、グループはリハーサルをした。

再確認で、僕らは会場内に入りステージ下に潜り込んだ。確認は一度だけ。

いくら大事なステージとはいえ、監督は優しくなかった。僕たちがやることは細かいことをはぶけば最大3つ。

ひとつ、ステージ展開。ステージ上の大道具をずらしたり設置する。

ふたつ、盛り上がりバルーン。最大の盛り上がりのところで、大きなバルーンを客席に投げて演出効果。

みっつ…、アーティストの見せ場にステージ下から高上させて、回転させる作業。


どれも重要な作業。しかも好きだったアーティストのステージ下…もう何も言えない。一通りやったあっと、僕らは本番まで休憩となった。興奮が収まらないまま、貯め場に戻る途中に僕は後ろをためらいをせずに振り返えてしまった。



そこには大きく映されたスクリーンの中に、一番憧れてた『優』の姿があった。芸能人とはいえ、笑顔がたまらなかった。苦しくなった。そのまま目を下に移すと、全身で必死に立ち尽くす『優』が見えた。なんて、遠いんだろう。近くで下から見たときは、華やかに見えたのに…遠くから見ると人間に見えた。


僕と違いすぎて、遠いのではない。何だか、そう感じるのだ。

どんなに著名人でも、やっぱり人なのだ。人間なのだ。

『the Begin ボーカル 優』でも、『安部 優』なのだ。普通の人なのだ。


そんな彼がこちらを向いた気がして、僕は急ぎ足で仲間のもとへと戻った。





トイレから戻った時、僕は違和感を覚えた。携帯を手にしてストラップを見てみた。

「……ない。」


そう、僕の地元で有名なまりもを下ネタと組み合わせて可笑しなキャラの物がないのだ。思い当たる限り捜してみた。トイレにも、のど乾いて財布と間違えて携帯を出した自販機の周辺も…走り回ってたら怒られるのだろうけど、すきを盗んで捜し回った。そんなに大事なものではなかったが、恥ずかしかった。地元が好きで、その一つとして手にしていたけど…その下ネタがらみが嫌だった。



息を切らしてたどり着いたのは、アリーナだった。


スタッフさんたちは休憩なのか、何故か見当たらなかった。そんな奥まで入るつもりもなかったのだが、思わず踏み入れてしまった。周りが自然と暗がりになったかのように見えなくて、ステージに近づいていった。




「…ねぇ、君。ダメだろ。」


僕は雷に打たれたのだろうか、思わず癇癪を起した。

「…………っ、っ、すみません!!!」

僕はスタッフか、チーフに見つかったと思い冷や汗がとんでもなく溢れ出した。



「……、あ、あのさ…今度から気を付けてくれよな。会場に落し物されると、ほっとけないからよ。それに、こうやって入ってこられると困るんだよ。」

どこか聴いた声があるような、ないような、いやそれより処分されるのが怖くて舌をかまない程度で事情を話した。愛する人の形見だとかなんだとか嘘も方便以上の嘘をついて、その場を逃げようとした。

その時、

「待て待て、誰にも云わないから…待てよ。これ、君のだろ?」


「えっ?」

僕は、差し出された手のひらに乗っかる捜し物を目にした。


「っ、あの…」

ゆっくりと恐る恐る、顔をあげた。


『優だっ!!』



血の気を引いたのと同時に、脈拍数が一気に上がり意味わかんないことになった。なぜ、優がこれを手にしてるのだろうか。なぜ?なぜ?なぜなんだろうか?白いまばゆい光の中で何かを察しながら、僕は盗賊のような仕草で受け取らずに彼を跳ね返して走った。


彼は思わず、これだけは伝えようとしたのか必死に訴えてきた。


「君が見ていたのは、知ってる!去った後に、緊張がなぜか増してスタッフやメンバーに事情を話して一人にさせて貰った。そして、観客のことを想いながら、自分の立場の有難味を噛みしながら歩いていたら…それは落ちてたんだ!俺は、そいつに救われたんだ。そいつのおおかげで笑えたんだ!そう、この地にはじめてライブした時も同じだった。この地、北海道はなぜか音楽にうるさい。ファンが付くまでに時間がかかると先輩や、憧れるアーティストが口にしてきた。この地の最初の公演はサクラしかいなかった。知らないで喜んでいたら、余計悲しくなった。マネージャーの知り合いが北海道にいるからと、気晴らしにであるかさせて貰ったとき、俺はそいつに会った。その『まりも』だ。俺は、そのキャラを人前では言わないことにしてる。それは、俺が独りで悲しい時だけだ。あとはファンが望む音楽、みんなへの想い、自分のやりがいに向けている!君には感謝したい!ありがとう!!」


思わず、僕は足を止めた。そして震えながら、声にする。

「一時期、ファンでした!応援してます!!!」

そして、

「受け取ってください!!!」

僕は涙した。身分が上の人に、僕は最低なことをしてる。



それでも彼はゆっくりと僕に近づいて、そっと囁いてきた。

「応援なんかいらない。これは、俺自身の問題だから…。これ、気持ちだけ受け取っておくよ。」

そしてゆっくりと大きな手で、それを差し出してきた。


僕は堪えきれない涙を拭きながら、彼の顔を見つめ謝罪とお礼をした。

「…申し訳ありませんでした。ご無礼をおかけしました。ありがとうございました…」

必死にごわごわな口を動かして彼に伝えた。



彼は穏やか目で、僕の右ポケットにそれを入れた。

「…気にしないで。きっと、君とおんなじだ。」

そして、

「本番、よろしく頼むな!俺たちは、お前たち次第でもある。一つ欠けたら、このライブは完成しない。特に、君が一番危ない。俺を見習え。俺のステージを見ろ。そして感じろ、生きるということを。死ぬということを。楽しみにしている。」



彼はそう告げた後、足早に帰って行った。

僕も足早に、戻った。彼の白い服の背中がやけに焼き付いている。舞台裏の僕らは…黒子だ。






会場は、お客を呑み込んで満足そうだ。会場の中が蒸し暑い。

下から見る彼は、テレビで見るよりも、雑誌で眺めるよりも、CDから聴こえるよりも、さっきの出来事よりも、何倍、何十倍、いやもっと、もっと、もっともっと輝いて僕を虜にしてやまない。


会場が暗くなる。


歓声が轟きあう。


ライトが彼らを照らす。



『the Begin LIVE Ture 20XX ~anniversary~』

ナレーションの声が、命を芽吹かせた。



優が奈落の底から、這いあがり床に置いてあるマイクを手にして一声あげた。


その声は、まるで僕へのラブコールに聴こえた。


「いっっくぜぇ~~~~!お前たちぃ~~~~~~!!生きれぇ!」





そうして、彼らのライブが始まった。



終わりがあれば、始まりはすでに迎えて踏み入れている。

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