鹿角フェフがバレンタインに自作品のキャラからチョコを貰う話
鹿角フェフさんは小説投稿サイト『小説家になろう』に投稿するライトノベル作家です。
彼を待ってくれている読者さんの為に、今日も一生懸命小説を書いています。
けれど、今日は少しだけ落ち込んでいるフェフさん。
それも当然、今日はバレンタイン。
女性達が秘めた思いを込めてチョコレートを男の人に渡し、愛を伝える大切な日。
けれども、その甲斐性の無さから女の子からチョコレートを貰える可能性が万が一にも存在しないフェフさんは絶望の中で己の境遇を嘆いていたのです。
「チョコレート欲しいなぁ……」
薄暗い部屋、冷たい画面の光だけが明るく照らす中、フェフさんはボヤきます。
もっとも、フェフさんは文句は一人前だけど行動力は半人前どころか欠片程もないどうしようもない人間です。なので頑張って女の子と仲良くなってチョコを貰うという考えに及びません。
御存知の通り、フェフさんは駄目な男だった訳です。
けど、そんなフェフさんにも優しい神様は微笑みます。
毎年バレンタインになるとカップルを呪ったり、ツイッターで幼女の面をするフェフさんを哀れんだ神様は特別に彼にプレゼントをする事にしたのです。
そのプレゼント。
普通ならありえない奇跡は、フェフさんのパソコン画面が眩しく光り輝いた後に起こりました。
「こんにちわ! フェフさん!」
「エ、エリサちゃん……!?」
フェフさんの目の前には一人の女の子が立っていました。
美しい銀髪、陶磁器の様な肌。宝石を思わせる朱の瞳。そして特徴的な長耳。
それは、彼が執筆している小説『これが異世界のお約束です!』に出てくるヒロインの一人、貧乳エルフのエリサちゃんだったのです。
「え、エリサちゃん……どうして!?」
「えっとね、その……。分かるでしょ? 今日は何の日だと思ってるの?」
「えっ? えっと、あの……」
「もう! フェフさんのニブチン! はいっ! これ、チョコレート!」
「ふひゅ!」――フェフさんは思わず気持ち悪い声を漏らしてしまいました。
それほどまでに目の前に広がる出来事は不思議で、何より信じがたい物だったのです。
まさかエリサちゃんが自分の為にチョコレートをプレゼントしてくれるなんて!
フェフさんの心はぽかぽかと暖かくなり、同時に言いようの無い感動が襲いました。
エリサちゃんから強引に渡されたその包み、ハート型のラッピングがされた物は彼がずっと憧れ続けたチョコレートでした。
しかもその形やラッピングから既成品では無いことは明らかです。
フェフさんが驚き中エリサちゃんを見つめると、彼女は照れくさそうに顔を背けながら「手作りだから……」とだけ言いました。
フェフさんはまるで天国に居るような気持ちになります。
もう、二次元の存在であるエリサちゃんが目の前に存在する不思議や、なんで自分に対して好意を持ってくれるのか、などという疑問は頭の片隅にもありませんでした。
フェフさんは早速エリサちゃんにお礼を言います。
ニコリと微笑み小さく「どういたしまして」と言うエリサちゃんは、彼が想像の中で描いたエリサちゃんの何十倍も可愛らしい女の子でした。
でも、ふとフェフさんの心を不安が襲います。
せっかくエリサちゃんと出会えたのに、もしかしたらこのままお別れになってしまうのではないか?
そう考えてしまうと、いてもたってもいられなくなりました。
「えっと、エリサちゃん。これからどうするの?」
「えっ? フェフさんは私の事どうしたいの?」
フワリと微笑むエリサちゃんは、ちょっぴり挑発的で、それがフェフさんを期待させてしまいます。
けど、フェフさんとエリサちゃんの関係が悲しみに終わる事はありません。
何故なら……エリサちゃんは二次元の存在だったからです!!
「私は、その……フェフさんのお嫁さんになりたい……な」
フェフさんが何も答えないことにしびれを切らしたのか、それとも別の理由か……。
意を決心した様子のエリサちゃんは、どこか不安げな様子でした。
でも、彼女が不安になる理由など実はどこにも無かったのです。
フェフさんの答えは初めから決まっていました。
次第と二人の距離は近くなっていきます。
やがて、月だけが二人を見守る中。
部屋の電気は静かに消えました。
………
……
…
翌朝、いつまで経っても電話に出ないフェフさんを心配した友人が彼の部屋を訪れると、フェフさんはベッドの上で冷たくなっていました。
友人は驚いてフェフさんを揺さぶります。
ですが悲しい事に反応はありません。
フェフさんは死んでいたのです。
二度と目を覚まさぬ眠りについたフェフさん。
でもその表情は――。
心なしか、幸せそうでした。
童話仕立てにすると思った以上に気持ち悪くて正直引いてる(真顔