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勇者とは

 ゼフルーは組んでいた腕をほどき胸の前で交差すると、両手に霧状の闇が纏わりついていく。

 その腕を軽く横に振るだけで、突如現れた無数の黒い球が風を切り裂き、こちらに向かって飛んできた!


「えっ?」


 唸りを上げ迫りくる黒球が、あまりに現実味がなく避けようという発想すら浮かばず、俺は身動き一つできず黒球をただ見つめることしかできない。

 これが当たったら痛いなんてものじゃすまないのだろうな。

 頭では理解しているのだが恐怖を感じる余裕もなく、ぶつかるのを待つだけだった黒球が突如、眼前で弾けて消滅した。

 何か見えない壁にぶつかって掻き消えたように見えたけど……どういうことだ?


「だ、大丈夫ですか。勇者様」


 黒髪の少女が慌てて走り寄ってきた。状況から判断するとがどうやら魔法の障壁らしきもので防いでくれたらしい。

 こちらの身を心配してくれているシャムレイだったが、その顔には精気が感じられず、懸命に何かをこらえているように見える。


 よく見ると、彼女の体が小刻みに震えている。


 彼女も怖いのか――この若さだ、この少女たちは戦いには慣れていないのでは。実は初めての戦いなのかもしれない。それなのに、俺の身を案じて恐怖を押し殺し、一生懸命守ろうとしてくれている。

 ……情けない。自分が嫌になるよ。いい大人が十歳は年下であろう女の子に助けられているなんて。呆気にとられ、圧倒的な力に怯えて動けない場合じゃないだろ!

 動け動いてくれ俺の脚。震えて怯えている場合じゃない。お前はまた、死を目前にして怯えて何もできず、後悔する気か! 

 親父の時みたいに!

 あの日、外から脚立にのり二階の窓清掃をしていた親父が、建てつけの甘くなっていた窓枠ごと地面に叩きつけられた時、何を思った。室内にいたお前は、窓枠を掴んだままゆっくりと後ろに倒れていく親父を見て、咄嗟に動けなかっただろ!

 それを、後悔して、苦しんで、また同じ過ちを繰り返すつもりか!


「やめろ……や、め、ろ……」


 何て情けない男だ……喉からは弱々しい声しか出ない。

 どれだけ自分を鼓舞しようが、死ぬことへの恐怖を誤魔化すことができない。

 地面に叩きつけられ、頭から大量の血を流し、痙攣し、口から血の泡を吹いていた親父の姿が頭にちらついてしまう。

 あの日、親父が瀕死の重傷になり、救急車で運ばれた時、俺は同乗した。

 途中で意識を取り戻した親父は、痛みに泣き叫び、救急隊員に怒鳴りつけ、俺の姿を目の端に捉え罵倒したのだ。


「何で手を伸ばさなかった! お前が助けてくれたら、こんなに痛い思いをしなくて済んだんだ!」


 死を間近にした人は、弱くなり本性が出る。苦しい経営状態ながらも、俺たちに苦労を見せず独りで抱え込んでいた強い親父が最後に見せた、弱く情けない姿。

 死はそれ程に恐ろしく、人はとても弱い生き物だ。

 俺はあの姿を見て後悔と罪悪感と絶望と失望により、それ以前の記憶に霧がかかった。無意識の内に事実を遠ざけようとした。

 だが、今は違う。全ての記憶がクリアーになった今、あの時に抱いた負の感情だけではなく、もう一つの強い想いを俺は思い出した。

 父の死に際を見て、軽蔑した当時の自分。一年父の跡を継ぎ必死に頑張って初めて理解できた父の偉大さ。死ぬ間際に見せた弱さ――なんて、父が歩んできた人生のほんの一瞬じゃないか。そこだけを見て情けなく思うなんて何様のつもりだ。

 父に何も勝てなかった自分だからこそ、心に誓う……最後ぐらいは親父に勝ってみせる。無謀であろうが足掻き、最後の時を迎える瞬間、笑って死んでみせると!

 過去は取り戻せない。だけど、同じ過ちを繰り返さないように努力することはできる筈だ。


「洗浄勇者様、早くその扉から逃げてください! 何とか持ち堪えて見せますので!」


「勇者様、逃げて!」


 前に立ち必死に庇い、魔法で相手を牽制しながら俺を気遣う彼女たちの肩に俺は手を置いた。

 見栄を張れ! 自分に嘘を吐け! 強がって見せろ!


「いや、ここはキミたちが引いてくれ。あとは俺に任せて」


 その言葉が迷いもなく口から出た。

 自分に力が無い事なんて重々承知だ。あのバインダーに書かれた内容は全て妄想で、俺はただの清掃員だということは、痛いほどわかっている。

 でも、ミュル、シャムレイにとって俺は情けない大人ではなく、憧れの存在、洗浄勇者なのだ。だったら、やってやろうじゃないか洗浄勇者を!

 洗浄勇者を演じ、時間を少しでも稼ぐことができれば、彼女たちだけでも助けることができるかもしれない。


「ここからは俺がお相手しよう、ゼフルー君だったかな」


「これはこれは、洗浄勇者様が直々にお相手してくださるなんて、光栄ですわ」


 幼さの残る顔が、人を小馬鹿にした表情へと変化した。元が幼い整った顔だけに、妙に似合っていてイラッとくる。

 焦りも怒りも動揺も全て押し殺し、勇者らしく余裕を見せつけ、できるだけ威厳のある口調で話を進めないと。何とか会話に持ち込み、意識をこちらへ向けさせて時間を稼ぐことが最優先だ。


「へえ、俺の事を知っていて戦おうというのかい? だとしたら、あまり利口な選択とは言えないな」


 洗浄勇者を知っているなら好都合だ。俺の実力を勘違いして警戒してくれれば、色々とやりようもある。


「ええ、知っているわよ。人間の書物から色々情報を仕入れているからね。でも、貴方本当に本物の洗浄勇者なのかしら? そもそも、洗浄勇者って本当に想像するのかしらね」


 鼻で笑い見下したあの表情。洗浄勇者の存在を完全に疑っているな。

 もし、俺が書いた妄想日記がそのまま本になっているとしたら、中学生が書いた内容だ。矛盾だらけで、疑われるのも当然なのだが……翻訳執筆した人の手腕に期待するしかないな。上手く改変されていることを祈るよ。


「まあ、どっちにしろ、戦ってみればわかることよねっ」


 おいおい、駆け引きも無しか!

 何か言い返そうとしたのだが、口を開くより早く相手の姿が消えた。

 一瞬たりとも目を離していない、だというのに忽然と消えたのだ。圧倒的な速度で動いたのか、魔法で消えたのかも判断できない。

 ――筈なのだが。俺にはその動きが見えていた。

 一瞬で側面に回り込んだ相手が、黒い濃密な霧を腕にまとわせ、俺の脇腹に叩き込もうとしている。それが、スローモーションのような動きで鮮明に見えている。

 不思議だと思う余裕もなく、咄嗟に右脇に置かれていたポリッシャーを掴み、薙ぎ払った。


 がむしゃらに放った横薙ぎの一撃を敵は辛うじて両腕で防いだが、まるでそこに誰もいないかのように感触も抵抗もなく、そのまま勢いを殺すことなく振り抜くことができた。

 ゼフルーと名乗った少女の息が届く距離まで迫っていたのだが、突然、一気に後方にまで遠ざかっていく。部屋の中心部にいた俺の傍から、一瞬にして壁際まで移動していた。それは相手が自分の意思で動いたのではない。

 自分がいた部屋の中心部から壁まで十メートルはあると思うのだが、その距離を吹っ飛ばされた――それを俺が……やった?


 思いもしなかった展開に、頭の中が疑問符で埋め尽くされている。

 なんでポリッシャーを片手で軽々と振れた? 敵がアクション映画みたいに空を舞っていたよな今? 召喚された際に、思ったより力が増強されていたのか? いや、しかし、さっきまではポリッシャーの重さも感じていた。片手で持つのが精一杯で、振り回すなんてとても。

 でも、今は小枝でも持っているかのような感覚だ。軽い……重さを殆ど感じない。ピンチになって本当の力が覚醒したとかか。都合が良すぎるが、こちらとしては命が懸かっているんだ、ご都合主義でも何でも構いはしない!


 強引に自分を納得させると、大きく息を吐き、顔を引き締め、正面から敵を見据えた。

 理由はわからないが今の自分には力があるようだ。体も軽いし、ポリッシャーも軽々扱える。とはいえ、この力がどの程度のものかわからない。そもそも敵に通じるレベルなのかもハッキリはしていない。

 敵の少女は目を大きく見開き、憤怒の表情で睨み付けている。かなり、お怒りのようだ。 ダメージがあるようには見えないが、そこから一歩も動こうとしない。


「さすが勇者様! まるで、洗浄勇者の冒険、第一巻三五〇ページのワンシーンのような華麗な一撃でした!」


 シャムレイが胸の前で両手を合わせ、星が瞬いていても不思議じゃないほど輝いた瞳をこちらに向けている。通常時が無表情で落ち着いた口調だけに、この変化には慣れそうにない。

 熱狂的なファンが芸能人を見たときの感じに似ている。というか、そのものだ。


「ええと、シャムレイは、もしかして本の内容完全に覚えているのかな?」


「はい、全話暗記しています! 大ファンなので!」


 いい笑顔だ。あれを満面の笑みと呼ぶのだろう。その答えに俺は苦笑いしか返せないけれど。


「くくくくくっ、あはははははは! いいよいいよ、さすが勇者様だ! こうじゃないと意味がない! 私の力を認めさせるにはっ! あいつを見返すにはっ!」


 ゼフルーが両腕を広げ、体を後方に逸らし、高笑いを続けている。こういうのを戦闘狂って言うのだったかな。こっちもシャムレイとは別の方向性で楽しそうだ。俺とのテンション差に、ため息が漏れる。

 しかし、口調が定まらないキャラだ。丁寧になったり荒れたり、汚生魔人関係は情緒不安定なのかね。

 力があることがわかって少し落ち着いてきた。余裕もわずかだが出てきている。冷静に相手を観察しろ。相手が若い少女に見えるが油断はするな。

 これがもっと大人な女性なら露出度の高さに目を奪われそうだが、俺はロリコンではないので、その点は大丈夫だ。


「楽しくなってきたわ。ねえ、本気出しても大丈夫だよね? 勇者様だったら余裕で受け止めてくれるよね? 簡単に壊れたり――しないよね」


 かなり距離が開いているというのに、体を前方から強く押されるような感覚に襲われる。力の余波なのかプレッシャーを感じているのか、何せ初めての経験なので例えようがない。

 ただ一つわかるのは、あれが尋常ではないぐらいに、やばいということだろう。戦うなんて考えず、逃げたほうがいいんじゃないか。消極的な考えが脳裏をよぎる。

 いや、駄目だ。シャムレイとミュルが俺の背後から動いていない。彼女たちを見捨てるわけにはいかない。女子供を見捨てて逃げるなんて男の風上にも――勇者としてやってはいけない行為だ。

 仮にも嘘でも、ここでは洗浄勇者なのだ。ここで格好をつけなくてどうする!

 いいじゃないか、ガキの頃に小説の主人公に憧れ、何度も夢見たシチュエーションだろ!

 ここで燃えなくてどうする、俺!

 葛藤している間に、ゼフルーの両手の闇が更に大きくなる。黒い霧が腕を覆い肩までが完全に黒に染まった。


「じゃあ……受け止めてよ私の全力を! 勇者様! 『 闇流々(アンルリュウ)!』」


 突き出された両手から巨大な闇の塊が放たれた。床に着くほどの大きさの塊が床石を削りながら、こちらへ迫る。

 あれに当たれば、どうなるかなんて考えるまでも無いだろう。何か手はないか。ポリッシャーで殴りかかる……いや、無理だ。あの闇の塊はそんなものでは太刀打ちできないと、心が叫んでいる。

 なら、どうすれば。何かが頭に引っかかっている。この状況とポリッシャー……俺は妄想日記で何を書いていた? こんな時、洗浄勇者はどうしていた?

 俺は自然と、パッドがついているヘッド部分にある取っ手を左手で握り、ポリッシャーが床と水平になるように腰の高さに持ち上げた。パッド部分の面が闇の塊に向けられる形になる。


「これは……ポリッシャー聖掃形態の一つ、銃の型!」


 後方で説明してくれているのは、シャムレイだろう。顔を見なくてもわかる。彼女の説明を聴くまでも無く自分は思い出していた。このポリッシャーを使った戦い方の一つを。

 本当にできるかどうか確証はない。妄想日記に書いていたことが実際にできるという保証もない。むしろ、どうにもならない可能性の方が高い。

 だが、悩んでいる状況でも、恥ずかしがっている場合でもない。無駄とわかっていても、足掻いてみせる。自分は今、しがない清掃員ではなく洗浄勇者なのだから!


「回転開始!」


 左右にあるハンドルの左ハンドルレバーを握った。パッドが高速で回転を始める。よっし、動くようだ。


「聖剤波――放出!」


 手を左ハンドルから右ハンドルに移動し、レバーを強く握りしめる。回転するパッド部分の端から相手の闇とは対照的な輝く白い何かが溢れ出している。それは白く輝く渦となりポリッシャーの先端に留まっている。

 本当に出た……なら、ここから先もっ!


「確か、こうだったよな! 木床聖掃フローリングウォッシャー!」


 唸りを上げ迫りくる闇の塊にポリッシャーを突き出すようにして叩き込んだ!

 白い渦と闇の塊が正面からぶつかり、爆発音と共に正面から強烈な風が吹き付けてきた。周囲に火花のようなものが飛び散り、その火花に触れた石壁や床が、いとも簡単に削られていく。

 あまりの風力に体が仰け反りそうになるが、腰を落とし両足を踏みしめ、なんとか吹き飛ばされずに済んでいる。こちらの放った一撃と威力はどうやら、ほぼ互角らしく、押し返すこともできず、その場で停滞し続けているのだが――状況はこちらが圧倒的に不利だ。

 理由は単純、敵の闇球はもう放たれた後なのだ。しかし、ポリッシャーから放出している渦は今も継続して放たれている。攻撃を止めてしまえば闇球が直撃することになる。

 つまり、相手は自由に動けこちらは動くことが不可能。脇に回り込んで身動きの取れない自分を倒すことなど容易だろう。

 だが、何故か相手は動こうとしない。余裕を見せつけているのか、こちらの様子をうかがっているのか。どちらにしろ、そのおかげで助かっているので文句はないのだが。


 後方では二人の少女が、敵の攻撃を防いでいることに感嘆の声を上げているが、実は絶体絶命のピンチだよな、これ。なのに、自分でも不思議なのだが妙に冷静だ。心が異様なくらいに落ち着いている。

 それに、さっきから何かが頭の片隅で引っかかっている……この技の威力ってこんなものだったか? そもそも技が出たことに驚きはしたが、この際それは置いといて、確かこの技ってこの程度ではなかった気がする。

 何か威力を上げる方法があったはずだ、思い出せ、思い出すんだ。今は右ハンドルのレバーを握りしめている。ここまでは間違いない。威力を上げるには――先端の取っ手を握っている左手を左ハンドルへと素早くスライドさせた。

 そして、そのまま左レバーを右レバーと同じように握りしめ、更に相手へとポリッシャーを突き出す。その瞬間、白い渦が更に大きく激しく輝きを増した。

 均衡を保っていた状況が一気に崩れた。目もくらむような輝きを放つ渦が闇をたやすく飲み込み、そのまま勢いを落とすことなくゼフルーに襲い掛かる。


「な、なにいいいぃぃぃ」


 敵の姿と叫び声が、壁を削り吹き飛ぶ瓦礫と轟音にかき消される。

 室内を舞っていた砂煙が治まり、静寂が訪れた。

 ポリッシャーを床に降ろし、油断をせず正面を睨み付ける。やったと思わせて、実は倒せてないというのは定番中の定番だろう。

 だが、俺の心配は杞憂だったようだ。ぽっかりと綺麗に円系にくり貫かれた大穴があるのみで、敵の姿など何処にもない。今の一撃で消滅したのか、はたまた逃げ去ったのか判断がつかないが、何はともあれ勝負はついたようだ。


 もし、今の一撃で相手を倒したのであれば、それはつまり俺があの少女の命を奪ったということになる。汚生魔人という人間に敵対する種族で、俺を殺しにきていた相手とはいえ、殺人は殺人なのだが……罪悪感を覚えることもなく、人を殺したという恐怖にさいなまれるような感覚も全くない。

 勇者として身体能力だけではなく心にも何らかの力が働いているのか……それとも、刃物や鈍器で直接殺したわけではないので、実感が湧かないのか。

 いや、違うな。何と言えばいいのだろうか……手応えを感じなかった。訳のわからない力で吹き飛ばしておいて手応えも何もあったものではないなのだが、倒した気が全くしない自分がいる。


 肺に溜まった二酸化炭素を全て吐き出すかのように息を吐いた。倒したかどうかを考えるのはやめにしよう。どちらにしても撃退したことには間違いがない。

息を整え、気持ちを落ち着かせてから背後を振り返る。

 きっと、感激で目を潤ませた美少女二人が迎えてくれるのだろうな。自分で言うのもなんだが理想の英雄像に近かったはずだ。そんな淡い期待を込め振り返るが……二人とも微妙な顔してないかい?

 嬉しそうなのだけど、どこかちょっと物足りないような表情に見えるのは気のせいなのだろうか。

 この雰囲気は経験があるぞ。昔、友人の誕生日プレゼントに、そんなに欲しくない物を渡してしまったときの雰囲気と似ている。

 何故だ、完璧ではないかもしれないけれど、ちゃんと撃退したはずだ。なんらおかしな失言の覚えもない。なのに、この空気感は何だ?

 その時、ほんの微かにだが、二人の小声で交わす言葉が耳に届いた。


「ミュルちゃん、やっぱり洗浄勇者様だったよ! でも、あれないのかな」


「うん、締めのあれがないと終わった感じしないよね」


 締め? ナンデスカソレ。終わった感じがしない? どういうことだろー。

 あれー何を期待しているのかさっぱりわからないぞー。何故か冷汗が止まらないなー。何もなかったかのように、この場を去りたいのだが。

 ちらっと、二人に視線をやると、上目づかいで褒美を待っている子犬のように見える。

 はぁ、やればいいんだろ。何をすればいいか完全に思い出した自分が憎い。もう、ここまできたら、とことんやってやるさ!

 床に置いたポリッシャーを改めて肩に担ぎ直し、


「不浄よ泡と共に無へと返れ。清掃――完了!」


 半ば投げやりに大声で決め台詞を言い切った。勝利の歓声に沸く二人を横目に落ち込む自分がいる。

 軽く死にたい気分なのだが。この壁に空いた大穴からダイビングしたら楽になれるのだろうか……勇者補正とかで死なずに生き残りそうだよな。

 本日、何度目かも覚えていない大きなため息を吐いた。これでため息が打ち止めでありますようにとの願いを込めて。



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