同僚
本日この話を読まれた方、申し訳ございませんが前話が抜けていました。
投稿しましたので、そちらをお読みになってからもう一度こちらをご覧ください。
お手数をおかけします。
そんなことがあって、恨まれるなら理解もできる。だが、何をどう間違ったのか、ルイスは俺の実力を認めてくれたらしく、あれから一目置いてくれている。
「今日からは俺たちは友だ! だから、今までの事は気にすんなよ! 俺は気にしてねえからな! 俺たちにもため口でいいからな。丁寧な口調とかゾッとするぜ」
と悪びれもせず言い切った性格が、ほんの少しだけ羨ましい。
戦ってわかりあうなんて昭和のノリだ。もしくはドMかのどちらかだな。
ため口でと言ったところで、キーガとメッツが頷いている同意見のようだ。ならこれからは、この四人に対してはため口でいかせてもらおうか。
「負けは負けだ! 戦いの最中に隙を見せた俺が、そもそも悪い!」
自分の負けを素直に認める。こういうルイスの男らしさは尊敬に値するのだが。
ほんと、それだけに口の悪さが惜しい。
「不意を突いたとはいえ、あれは凄かったねー。ソウさんのポリッシャーの威力って、メイラのより、凄いんじゃないの?」
メッツがモップを動かす手を休めずに、メイラへ笑顔を向ける。
途端にメイラの顔がしかめ面へと変化した。
「別にー。私のポリッシャーなら、今頃ルイスの背中に大きな風穴空いているわ!」
口ではそう言っているが、かなり悔しそうに見える。
風穴か……あの棘だらけのパッドなら、あり得るな。風穴どころか、原形を留めないひき肉になっていそうだが。
「捕まえた汚生魔人、どうなる」
話の流れとは関係ないキーガの呟きに、全員の動きが止まった。
「ゼフルーか。幼い外見からは想像もつかない力で、さすが汚生魔人といった実力だったな。戦闘に参加しなかったからこそ、客観的に観察させてもらえたんだけど、やはり汚生魔人は人類にとって脅威の存在だね」
初めて会った時、自分の実力もわからない状態で良く勝てたものだ。
実力を把握した今なら、一対一でも何とか対応できる自信はあるが。
「だねー。ポリッシャーも正面からぶつかっていたら、相手の防御を打ち砕けなかったと思う」
メイラが軽く肩をすくめた。
あの時のポリッシャー。模造品の想具と言っていたが、威力だけならかなりあったように見えたのだが。俺のポリッシャーと同じく光属性ならぬ、聖浄の力が溢れ出ていた。
この聖浄という属性、名前は変だが、いわゆる聖属性らしい。光属性もあるので、それと被るのではないかと思っていたが、どうやら全くの別物らしい。
光属性とは、暗い場所での明かりや、光を屈折させて幻覚を見せる創魔を指す。
聖浄、つまり聖属性は闇や不死に強く、浄化の力を持つ属性のようだ。
「汚生魔人は美形が多いって聞くけど、実際あの子も可愛かったよね。人間に化けていた時なんて、僕好みだったなー。フルーゼだっけ」
「うええええええ!? あの汚生魔人ってフルーゼだったの!」
知らなかったのかメイラ。心底驚いたようで、絶叫を上げ大きな目を更に大きく見開いている。
「そういや、正体を現した時にメイラいなかったよな。結局アイツは偵察活動でもしていたのか? 生徒に化けて学園に潜り込んでいたのかね」
ルイス、それは半分だけ当たりではないだろうか。あの戦いの後、かなりの傷を負っていたはずだ。逃げる力もなく学校に潜み傷を癒していたというのが、もう半分だろう。
「あの戦いのあ――」
「あいつ、俺たちと戦う前に誰かと戦っていたらしいぞ。包帯巻いていたのも、その時の傷が治ってなかったらしい。あれで完全じゃなかったって、どんだけだよ」
っと、危ない。言葉を被せてきたルイスに邪魔させる形で、話を遮られて助かったようだ。
そうか、ルイスたちは洗浄勇者の正体が俺だということも、洗浄勇者が本当に現れたということも知らないのか。関係者なのかと思ってうっかり口を滑らしそうになったぞ。
「汚生魔人初めて見た。強すぎ」
「次やったら勝てないだろうなー。僕、次に汚生魔人と会ったら逃げていい?」
三者三様、言葉は違うが汚生魔人の強さと恐ろしさが骨身に沁みたようだ。
「フルーゼが汚生魔……フルーゼが汚生魔人……」
メイラがバグの見つかったゲームのように、同じことを呟き続けている。敵が強いどころの騒ぎではないようだ。仲の良かった女子が実は敵で、知らずに倒したらさすがにショックだよな。
「話し戻すけど、汚生魔人を捕らえておいてどうする気なのか。情報を聞き出したいのだろうけど、そう簡単に口を割ってくれるかどうか」
年齢が若い相手なので方法は色々ありそうだが……厳しい尋問や拷問はしてほしくない。甘い考えなのは重々承知だが、見た目が子供だけに想像もしたくない。
「酷い事は、やめてほしいかな。あのゼフルーって、今のところ人を殺したりしてないらしいよ。わかっている範囲内だけでの話だけど」
メッツがポケットから出したメモ帳のページを捲っている。あれに情報でも書いてあるのか。イメージ的に諜報活動とかもやってそうだ。
「この一年、学園内で行方不明者も死者もでていない。ゼフルーが、フルーゼと名乗って学園内に入り込んでからは」
キーガも意外と情報通だ。勤務姿を見て気が付いたのだが、大きな体に似合わない繊細さと手先の器用さもある。細かい汚れにも気が付くし、相手の動きに合わせて先回りをする要領の良さもある。三人組チームワークの要は実はキーガなのではないだろうか。
「じゃあ、逆に懐柔する方向でいけばいいんじゃない。学園前の有名店からお菓子大量に取り寄せて、毎日食べさせるとか!」
復活したメイラが話に割り込んできた。
それは流石に甘すぎる対応だとは思うが、仲が良かった相手だけに厳しい意見は言えないか。そんな平和な方法で話を聞き出せたら、楽なんだけどね。
「それで、大量の虫歯作らせて、その虫歯を針でほじくる! なんなら、そこにレモン汁も注ぎ込む!」
前言撤回……ずっと騙されていたことが、かなり頭にきているようだ。歯の神経に直接攻撃とは普通に拷問だろ、それ。
「じょ、冗談はさておき」
メイラの目が怖い。口元は笑っているが、あの目つき。冗談には見えない。これ以上そこには触れないで話を進めよう。
「汚生魔人を捕まえたとなると、敵が助けに来る可能性が……」
「それは、無いと思うわ」
心配事は、あっさりと否定された。
「話によると、汚生魔人って自己中で自分大好きなくせに、妙に厳しいところがあるんだって。同族であろうと情けはかけないそうよ。実力主義だから成功者には富や地位を、失敗した者は切り捨てる方針って聞いたことあるわ」
メイラの話が真実だとすると別の心配が出てくる。そうなると、敵に捕まるという大失態を犯したゼフルーは処分されるのではないか? 彼女が汚生魔人側のどれぐらいの地位にいるのか、それによって話は変わってきそうだが。絶対数が少ない存在だというのに、結構シビアな世界で生きているのだな。
一度、ゼフルーと話をさせてもらうか。それと学園長にも汚生魔人について詳しく訊いておこう。
敵を知ることが勝利への近道――妄想日記に書いた名言の一つだ。昔、何かの歴史書で書いてあったのを、そのまま引用させてもらっただけだが。
何はともあれ、考えるのはここまでにして先に仕事を終わらせるか。ただでさえ、昨日一日潰れてしまい、作業時間が足りない現状なのだから手を休めている場合じゃない。
「話は、ここまでにして、一気にやろうか!」
話に夢中になりすぎて、手が止まっていたな。勇者としての活躍も重要だが、今は清掃員だ。まずは綺麗に床を磨いてからだ。
「おーーっ!」
全員が拳を振り上げ、気合を入れ直し清掃へ戻る。
ノリがいい同僚たちだな。




