【第8話】明日のあした
剛が、体調を崩していた時、後輩が代わりに鳥取工場に出向したと聞かされる。マンションに戻って来ると兄の姿が……。気を利かせた兄。二人は、冷え込んできた夜に週末の計画を立てることにした。
兄は、彩恵さんの存在に気付いた様子です。
「その女性がこの間言っていた……。ふ~ん確認した!」
「あっ、兄貴?」
「剛をヨロシク! こいつ不器用だから逆にリードを頼みます」
兄は、彩恵さんの手をガッチリつかんでいる。
しかし、その表情は今まで見た事がない。
「はい!! 初めまして美板と申します」
「いい女性じゃないか。?」
彩恵さんまで、乗せられちゃって……
そう言った後、兄は、おもむろにスマホを取り出した。
そして、どこかに電話をしている。
連絡をしている?
「今日は、駅前のホテルに行くよ」
「兄貴……」
私達は、兄と別れ5階に向かった。
ある意味ほっとしました。
「悪い事しましたか? お兄さんに……」
「全然問題ない。彩恵さんが気にする事ないよ」
エレベーターの中ではっきりと言いきった!
数分後、ベランダから下を見たが兄の姿はありませんでした。
タクシーがすぐ来たのでしょう。
「あっ、そうだ! 写真見ますか?」
私は、以前撮ったハシビロコウの写真を見せる事にしました。
「写真撮るの上手なんですね」
「ただ好きなだけですよ」
「いつ行きますか? ハシビロコウ」
彩恵さんがストレートに聞いてきました。
「あさっての土曜日に、上野はどうかな?」
「はい。大丈夫です」
よし!!
もう一つ聞いてみました。
「電車でも平気ですか?」
「かまいませんよ」
あっさりオッケーしてくれたのですが……
いつも混雑している都内の電車の事を想像してみました。
会話がしづらい?
車で行くか……?
「何を調べてるんですか?」
「いや、車だったらどうかなって」
「雪、大丈夫かしら……」
彩恵さんがテレビを指さした。
「明日……雪!?」
私は、急いでベランダに出てみた。
確かに冷えて来てはいるが、きれいな星空が広がっていた。
「本当に降るのかな?」
少し憂鬱な気分で部屋に戻りました。
「剛さん、予報はテレビ局によって微妙に違いますけど」
「本当だ!? 大丈夫! 降らないよ!」
不安はあるが、一番確率の低い予報を信じた。
「スタッドレスタイヤどうします?」
「でもほら、明日乗り切れば……ハハハ」
タイヤの事すっかり忘れていました。
「ん~? 剛さん!?」
彩恵さんが顔を近づけて来ました。
「ハハハ……。大丈夫! 大丈夫! 動物園には、クルマで行きましょう! 車で……」
何とか強引に押し切った?
「分かりました。動物園には私の車で行きます」
……!?
「へ? 彩恵さんの車で?」
「明日どうなるか分かりませんからね。今日は、早く休みましょう」
逆に押し切られてしまった感だけが残った。
午前4時30分
「おっ! 彩恵さん」
泊まったんだよね。
そう言えば……。
何事もなく…………
私は、ベランダに出てみた。
微妙に降っている?
でも、この様子なら平気か?
車で出勤できる!?
一応テレビをつけて天気予報を確認した。
雪のマークは消えていました。
「よし!」
彩恵さんは何時に出るんだろうか?
「6時前には起こさないといけないかな?」
食パンにタマゴ……ハム、ベーコン、インスタントコーヒー。
朝食の食材的には問題ない。
ざっくりだけど。
午前5時20分
「あれ? 剛さん早いんですね」
「彩恵さんこそ……」
彼女が思っていたより早く起きて来たので、何の支度もしていない。
「起きたら剛さんいないんだもの……」
「あ……いや。雪の事がね気になって」
私は、朝食の支度に取り掛かった。
手の込んだものじゃないので、朝食はすぐに出来た。
この間もこんな事をしていたのを思い出した。
「いただきま~す」
彼女が朝食を食べ始めた。
「あ~サラダ的なものが無いんだけど大丈夫?」
「次は、あった方がいいですね。……ごめんなさい。私ったら」
サラダか~。
野菜あんまり食べないからな朝から……
「剛さんて、お料理とかするんですね。慣れてる感じがしましたよ」
「料理? 簡単なものしか出来ないよ……ははは」
なんだろう、この間とは全然違う。
朝がこんなに楽しいなんて……
「今度、一緒に何かお料理作りましょうよ」
思ってもみなかった展開です。
「あの~剛さん。私のこと彩恵でいいですよ」
まだ、思ってもいなかった展開です。
「じゃあ俺のことは?」
「剛さんでいいと思うけど……」
考えると特に違和感はない
「そっか……そうだね」
ちょっと早めの朝食だったけど充実感で満たされました。
「彩恵の会社は何時から?」
彩恵って言ってしまった~!
なんだろうこのドキドキ感!!
「8時からです。まだ、もうちょっと居れますよ」
こう言う時間は早く過ぎるものです。
「剛さんは、何時頃に帰って来ますか? 私は多分6時頃だと思いますけど」
「ん~多分、7時半には終わると思うんだよね。着くのは8時頃かな?」
今までの傾向からすると、だいたい最終日はそんな感じだ。
本当は、もっと早く帰りたいけど……
「会社出る時に連絡する」
「じゃあ戻ったら、私も見せたい物がありますので来て下さい」
「うん。分かった。明日の事もちゃんと決めないとね」
見せたい物とは何だろう?
楽しみです。
彼女は、支度の為に戻って行きました。
7時45分
いつもの様に会社に出勤した私でしたが……
うかつでした!!!
昨日、見られていたのをすっかり忘れていたのです。
その日は、何かと彼女の話題に集中していました。
「それじゃあ、山さんお疲れ。何か、そわそわして今日はデート?」
「いやいや今日は……。お疲れ様」
本当に照れくさいような、勘弁して下さい的な一日でした。
このまま帰れば、8時には着ける。
その前に、彼女にメールをしました。
私は、車の中で初デートとなる明日の事を考えていた。
マンションに着き、私は彼女の部屋に向かった。
呼び鈴を鳴らすと、彼女がいそいそと出て来ました。
「もう少しですから待って下さい」
とても美味しそうなにおい!
部屋に入るのは、2回目です。
「今日は、ビーフシチューを作ってみました。サラダもありますよ」
次に、私が何かを作る時は、サラダは絶対忘れません。
「あ~急にお腹が空いてきた!」
「まぁ~剛さんったら」
美味しそうな物を目の前にすると誰でもなるでしょう。
「さぁ、食べましょう」
「料理上手だね。彩恵は」
「作るの大好きなんです」
食事を終え、明日の予定をつめる事にしました。
「え~と、明日の天気は? ……問題ないか」
「ちょっと寒いみたいですけど晴れの様ですね」
「あと時間か……。8時半くらいかな?」
「え~もっと早く出ないと入れないですよ」
「あ~、車だもんね」
電車での感覚で言ってしまった。
「剛さん、7時くらいに出ましょう!」
「そんなにも早く?」
2時半も余裕を……
「デジカメの充電しておかないといけないかな?」
「朝食と昼食は私が用意します」
「途中、コンビニに寄れば? 疲れるでしょう」
「大丈夫です。任せて下さい! 軽く用意はもうしていますから」
何だか、このまま自分の所に戻ったら、私が遅れそうで怖いな……
「シャワー浴びたら荷物もってこっちに来るよ」
「そのまま眠ったら怒りますよ! 必ず来て下さいね」
気を付けなければ!
気を付けなければ!
「了解! デジカメの充電させてね。2台分」
「カメラ2台持って行くの?」
「ちっちゃいのと一眼レフのをね」
私は、部屋に戻った。
即行でシャワーを浴び……
2台のカメラをバックに入れ……
洋服を選び……
パジャマをもって……
彩恵の部屋に戻ると、すでに彼女は着替えていました。
とりあえず、明日は早い。
体温が冷めないうちに休む事にしました。
軽い口づけをして……
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