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【第6話】愛しさの時

兄を早朝に追い出した剛は、美由香からの電話に出た。彼女は、何か話しがしたくて連絡をして来たらしい。そして、この後に降りかかる災難?

 美由香かのじょは、さっきから何をしているのかと疑問に思った。

 私の記憶にある彼女は、こんな不可解な行動はしない人だと思っていました。


「もしもし? 剛?」

「あぁ……ごめん」


 通話中という事を忘れていました。


「あのね。……私、結婚するの」

「えっ!? そうなんだ……。さっき来たときに言ってくれれば……」


 突然の彼女の言葉に、ある意味少し動揺しました。


「剛の顔見たら……何かね」

「…………」


 やばい……言葉が出て来ない。

 こんなところで沈黙は良くない。


 ほんの数秒だが思考をフル回転させた。


 彼女は、わざわざ自分に報告してくれたんだ。

 素直に言えばいいんだ。

 と、今頃? 気付きました。


「結婚か~美由おめでとう。この呼び方も良くないかな?」

「ありがとう。呼び方は、そのままでも良いよ」


 逃がした何とかは、大きかったのかも知れない?

 今となってはだけど……。


 今の私には、彩恵さんがいる!

 そして、美由香よりも大切にしようと思った。


「こっ、こっちもさ……、最近だけど、彼女ができたんだ」


 兄とは違って、何だか「彼女の存在」をうまく?

 美由香には話せました。


「そうなの!? 逆におめでとう……かな」

「何か照れるよ……」


 元カノ相手に、息をのんだ。


「でも、あなたは、誰にでもやさしいから気を付けてね! 今度は、キメるときはしっかりね」


 何か、すべて見透かされている様な感じがしました。


「うん、分かった。ありがとう」

「あぁ、後ね……。玄関の枯れちゃったのね」


 そう言えば、あの鉢植えは美由香と買った物でした。


「早く捨ててね。じゃあね。お互い幸せになろうね」


 美由香と、何か本当に終わった……。

 という感じがしました。


 部屋を見渡すと、彼女が出て行った時のままで、ほとんど変わっていないような気がしました。


 朝なのに、疲れがどっと出た感じです。


午前8時13分


 今度は、母さんから電話がありました。

 兄から連絡がいったのでしょう。


「早く連れて来なさいね~」


 その言葉は、母さんの心情が手に取るように分かりました。

 まぁ、確かに兄も弟も結婚していますから、彼女が出来たというのは嬉しいのでしょう。


 何だか、ものすごい罪悪感が襲って来ました。


午前8時49分


「あっ! 兄貴……。朝は、ごめん」

「母さんから電話いったのか。朝のことは気にするな! 頑張れ!」


 周りが私を応援してくれている事に気付きました。


「ありがとう……兄貴」

「すまない。もう、あまり時間が無いんだ。とにかく頑張れ! 剛!」


 やばいです……。


 兄との電話の後、体の奥底から込みあげて来るものを抑えることが出来ませんでした。


「美由香、兄貴ありがとう」と、心の中でつぶやきました。


 私は、とりあえずハシビロコウ以外の美由香との関わりのある物を処分する事にしました。


 外は、まだ雪が全然消えず残っている状態です。

 でも空を見上げると、今日は何だか、とてもまぶしです。


 彩恵さんは、明日の夕方には帰って来ると言っていた。

 メールを送ろうと思ったが、朝の感じからだと大変忙しい様子……。

 私は、あえて夜に送る事にした。


午後9時50分


 私は「そちらの様子はどうなっていますか?」と、メールを送りました。

 5分くらいしてから、彼女から電話が掛かって来ました。

 でも、ほんの数分間しか話せませんでした。

 彩恵さんの後ろには、かなりの人がいるようでした。


「まずかったのかな……。まだ弟さんのパーティーなのかな?」


 この時間だと、2次会?


 私は、昨日と全然違う静かな土曜日の夜を過ごす事にした。


 思い出したら、彼女のことは名前と年齢くらいしか知らない。

 何が好きか…………ハシビロコウか。

 食べ物、お笑いとか……。


「明日、聞けばいいか」


 ……なかなか眠れない


 夜中に缶チューハイ350mlと500mlを飲んで、なんとか眠りにつく事が出来た。

 次の日も天気は良かった。

 起きたのは、午前10時20分


「もうこんな時間なんだ……」


 夜中にアルコールを飲んだのがせいなのか? まだ眠い……。


「うわっ!? もう午後1時!」


 携帯には、彩恵さんからの着信……

 その後に、メールが届いていました。


 2度寝したからだ……。

 私は、悔やんだ。


 メールは、今日帰れないという内容でした。


「帰ってこないのか……」


 何だか彼女が遠くに行ってしまった。

 そんな気がしました。


午後8時23分


 3階の彼女の家の呼び鈴を鳴らしました。

 結果は、分かっているはずなのに……。


 大げさに聞こえるかも知れないけど、力が抜けました。

 この日は、早めに休む事にしました。


 次の日は、普通に目が覚めました。

 そして、普通に食事をして出勤しました。


 彩恵さんからの連絡はありませんでした。


 幸い道路だけは何の問題もなく、ノーマルタイヤの私の車でも平気でした。

 しかし、駐車場は厳しかった。


 スリップしました………。


「山さん! 大丈夫っすか?」


 私の事を見ていたのか、工場からスコップを持った3人が飛び出して来ました。

 何とか、この救助隊のおかげで脱出に成功しました。


 昼、携帯を見ても彩恵さんからは何もなかった。


「どうしたんすか? 山さん、携帯ばっか見て? 彼女っすか?」

「えっ? あぁ……まぁ」


 後輩にまでバレてしまった?

 いや、自白したんですよ……


「きれい系っすか? 可愛い系っすか? それともモデル系」

「きれいと可愛いかな」


 何を言ってるんだ私は……。


「うらやましいっすね」



 今日の終業間際に、事件は起きました。


 最大の災難が降りかかって来たのです。


「あさってから、鳥取の工場に応援に行ってもらいたいんだよ」

「鳥取工場……ですか」


 あまりにも突然な専務からの話しに、どうする事も出来なかった。


「何でも優秀な作業者が辞めてしまって、納期とのからみもあって、こっちから応援を出す事にしたんだよ」

「それで、私が選ばれたという訳ですか……」


「まあ最悪、来週からでも良かったんだけど、一応あさってと回答しておいた」


 関東工場から、鳥取工場へ……。

 彩恵さんの事は……



「山美くんの下には、桂くんがいるね。彼をフォローすれば、こっちは何とかなるだろう」

「……分かりました」


 仕方がありませんね。

 私達は、兵隊なんですから……


「期限とかはあるのですか?」

「それは、ちょっと何とも言えない。今は、落ち着いたらとでも答えるしかないかな」

 ある意味、無期限? という事です。


「明日は、準備もあるだろうし工場の方は大丈夫だ」

「……はい」


 交通等の手配は、会社が用意してくれるそうで、明日の午後3時以降に来てくれとの事。



午後6時2分


 マンションに帰って来ました。

 自分でも、よく事故を起こさないで帰って来たと思いました。


 玄関のドアを開け中に入り、カギはしっかり掛けてリビングに向かいました。

 部屋の中をぼんやり眺めていました。


 何もする気にならない。

 食事さえも……


 ソファーに横になったまま寝てしまったようです。

 気が付くと、午前2時16分……


「なんか怠い……。かぜ引いたか?」


 よくない方向に向かっています。

 私は、着替えて布団で寝る事にしました。


 その日の朝一番に、会社に連絡をとりました。


 1日延ばして欲しいと……。


 察してくれたのでしょうか? 鳥取工場には、2日遅れで行く事になりました。


 どうしたのでしょうか? 彩恵さんからは何もありません。

 そっちの方も心配になっています。


 遠くで、呼び鈴が鳴っている気がしました。

 携帯に、彩恵さんから着信がありました。 


「ドアの前に居ますと……」


 急いではいるけど、身体からだがいうことを利かない。

 やっとの思いで玄関にたどり着きました。

 カギを開けるのがやっとでした。


 逆に、彩恵さんがドアを開けてくれました。


「大丈夫ですか!!」


 情けない……私はそう思いました。

 それに、こんなお決まりの展開があるんだと……。


 今は、彩恵さんが来てくれて本当に助かりました。


「連絡できなくてごめんなさい……剛さん」

「ありがとう。来てくれて…………」


 あぁ……

 限界……です



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