【第5話】長い夜の訪問者
兄の訪問に帰宅を余儀なくされた剛。彼女もまた、実家からの電話にあわてた様子で飛び出して行ってしまった。帰宅後は、時間の経つのも忘れパソコンに向かっていたが……。不意に新たな訪問者が訪れる。
時刻は、すでに午前0時をまわっていました。
さっき彼女のところに居た時より、外は風が強くなってきたみたいです。
ベランダにある、枯れた鉢植えがとても耳障りです。
正確には、それに被せた、ポリエチレン製の袋が風にあおられて暴れているのです。
私は、我慢できずに鉢植えを中に入れる事にしました。
「玄関しかないかな……」
考えた結果、玄関の隅に枯れた鉢植えを置く事にしました。
リビングに戻り、再びパソコンと向き合いました。
今の時代、インターネットでいろいろ検索するのは簡単でした。
「……やっぱり無難なところは、上野かな?」
何度もこの動物園にはいっています。
初めて行った時は車で行きました。
普段走っている道路とは少し勝手が違い、かなり緊張した事を覚えています。
その日以来、ハシビロコウの為なら電車で行っています。
当然、彼女も何度も行っていると思います。
じゃあ、あえて遠いところの動物園は? と考えてみました。
「やっぱり、高知じゃ……遠過ぎか」
計画を立てるのは好きなので、何だかとても楽しくなってきます。
笑っている彼女を思いながらだと……尚更です。
「どうしたかな? 彩恵さん」
テレビの横にある、5体のハシビロコウが私を鋭い眼光で見ています。
これは、第3弾のレアカラーを当てる為にダブった戦利品である。
「そう見るなよ~」
会話など出来ないフィギュアに話しかけてしまいました。
「……もうこんな時間!?」
時刻は、午前2時36分
「ハシビロコウ……か」
私は、このフィギュアがきっかけになるとは思わなかった。
と、しみじみ思いました。
こんな時間なのに、2通のメールが来ていました。
1件目は、彩恵さんからで、実家に着いたとの事。
3時間半くらい掛かった? 実家ってどこなんだろう? ふと考えてしまった。
「この道路事情じゃ仕方ないか。近くても……」
もう1件は、前の彼女の美由香からでした。
内容は「下に居るから、窓から見て……」
そんな馬鹿なと思いながら外を見ました。
「うっそ!? マジ!?」
街灯の下に美由香が立っていました。
「マッチ売りの少女か? まったく何をしてるんだ!?」
どうして、こんな時間に居るのか意味が分かりませんでした。
受信したのは、今から10分くらい前でした。
とりあえず、美由香を中に入れました。
彼女が言うには、部屋の明かりがついていたから必ず気付いてくれる。
と、何とも安易な考えだったみたいです。
実際に、今、私の部屋に居るのだから、彼女の思惑通りになったわけです。
「どうした? こんな時間に……久しぶりだけど」
彼女は、おもむろにバックからある物を取り出しました。
「これは! てっ……何で?」
それは、バードシリーズ第3弾のレア品でした。
ブルーメッキ仕様が美しいハシビロコウのフィギュアでした。
何でも、たまたま寄った? 24時間営業のリサイクルショップで見つけたと言うのです。
「リサイクルショップ?? にしても、わざわざ今来なくても……」
と、言いながら、そのハシビロコウのフィギュアを見せてもらった。
状態は申し分ない。
袋からも出していない。
それにしても、触れた彼女の指先がすごく冷たかった。
「手冷たいな。風呂入るか?」
私は、なにぶん放っては置けない性分なのです。
しかし、彼女は首を横に振りました。
すぐに、彼女のスマホに着信がありました。
外には、一台の車がハザードランプをつけて止まっていました。
ただこれを渡しに来ただけ? のようでした。
でも、私が第3弾をコンプリートしているのは、彼女は知っているはず。
一緒に集めたのですから……
「今更なんで? ……まぁ、いいか」
これはこれで、コレクションに加える事にした。
すでに時刻は、午前3時を過ぎていた。
さすがに昔とは違い、まぶたが重くなってきた。
私は、寝る事にしました。
時刻は6時23分
「なんだ~、まだこんな時間か……」
おもむろに携帯見ると、彩恵さんからメールが来ていました。
内容は、弟さんが結婚して、本格的に仕事の拠点を海外に移すという事でした。
「弟だったのか~、勝大さんて……」
私は、大きくうなずき! 納得しました。
「帰る時は、気を付けて」的な内容で彼女にメールを送りました。
時刻は6時38分
「おっ! 早いな」
兄が頭をかきながら起きて来ました。
「何かないか? 簡単なものでいいから」
「トーストと目玉焼きくらいしか出来ないけど……」
これ以上のものは、面倒くさい。
というか、それ以上のものは出来ない。
「ああ、それでいいよ」
「分かった。テレビでも見ててよ」
私は、二人分の朝食を作り始めた。
「なぁ~、お前……まだ、こんなオモチャ買ってるのか?」
それは、ハシビロコウのフィギュアの事を言っているようでした。
「まぁ、兄貴には分からない世界だよ。それが縁ていうのもあるし……」
「へぇ~、お前が縁てな……ははっ」
私は、この後少し無視をした……
「出来たよ」
「おっ! サンキュー! 食べよう」
さすがに、作ってもらったという事もあって文句は言わないようです。
「そう言えば、さっき縁て言ってたけどさ、いい女でもいるような言い方だったな」
「何を突然!? いいから静かに食べてくれ! まったく……」
何だ? 探っているのか? と思いました。
「そんなに機嫌悪くなる事か?」
また、私は無視をしました。
これは、兄の手口なのです。
分かっていたはずでした……
「……いるよ」
私は、つい口に……
後悔しました。
「そうか! いるんだな! 分かった!」
兄は、急いで食事を終らせスマートフォンを手にした。
「あ~、もしもし……うん……いるみたいだぞ!」
私は、身体がふるえました。
「兄貴ちょっと、それ貸して!」
私は、年甲斐もなく兄から無理矢理スマホを奪い取りました。
「…………ダマしたな!」
電話は、どこにも繋がっていませんでした。
「よし! これで母さんに報告できるぞ! 良くやった」
完全に兄のペースだ!
悪気は、全然ないという兄の態度が私のイライラを爆発さた!
「タクシー呼ぶからな! 駅前のコンビニでもいればいいじゃん」
「おいおい、コンビニって……何時間居ればいいんだよ」
「駅の近くには、もう少ししたらモーニングやってる店も開くよ!」
私は、兄を追い出すかように支度を急がせた。
どうしてもイライラが治まらない。
「悪かったな……」
兄は、ひと言残して出て行った。
その後、彩恵さんからメールではなく電話があった。
彼女の声を聞いただけで、ココロが癒された~~。
それから数分後、携帯にまた着信がありました。
「あのね…………」
電話を掛けてきたのは……
美由香でした。
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