【第4話】流れる時間
始まった二人の物語。自然と言えば自然な流れ……? 周りには、見える味方、見えない味方が居るようです。
数十秒間の沈黙……
私達は、ゆっくり目を開きお互いを確認した。
「……彩恵さん。一旦、部屋に……というか」
ある意味、この雰囲気に水を差してしまう私の心情……
今日は、結構歩いたので帰ってからすぐ着替えたのではあるけれど……
彼女は、小さめな声で私につぶやいた。
「シャワーを……先に浴びますか?」
バスタオルを持って、私は浴室に向かった。
10分くらい経ったでしょうか? 浴室から出てリビングに向かった。
彼女は、食器の片付けを終えて、テレビを見ていた。
私に気付くと、立ち上がった。
「何か飲みますか? ビールは、無いですけど」
彼女は、冷蔵庫から缶のチューハイを取り出した。
「普段の日は、飲まないんですけど。たまに、珍しい味とか見つけたら買って来るんです。今日は無かったですけど」
「ビールよりも、こっちの方が好きですよ。私も」
実際、私は、チューハイ派である。
「良かった~。やっぱり何か合いますね!」
彼女は微笑んで、350mlの缶チューハイを私に手渡した。
「シャワー……行きますね」
と、言うと、彼女はリビングをあとにした。
でも、彼女はすぐ戻って来ました。
「あっ、テレビ……好きなところ見ていて下さい。お酒も、まだありますから」
私を気付かってか、テレビのリモコンを指さした。
「うん。ありがとう」
テレビの下のレコーダーが、何かを録画している様子でした。
それは、イケメンの俳優さんが出演していると話題になっている恋愛ドラマでした。
私は、自分が今置かれている状況を考えてみた。
これもよくある?
状況ではないかと……。
じゃあ次は?
電話が掛かってくるのか?
それとも田舎から誰かが?
それともこまま……。
私は、何か耽っていた。
ドラマが、CMになった!
リビングの電話が……!
私の携帯が……!
ほぼ同時に反応した。
「電話か~……。このタイミングって、ドラマ見てたのか?」
リビングの電話に、私は出る訳にはいかない。
すぐ留守番電話になってしまった。
「彩恵さん、お母さんです。今すぐ! 戻って来て下さい。勝大さんが出発しますよ」
どうやら実家からのようです。
スマホには掛けないのかな? まあいいか。
「勝大……さん? 誰だろう? でも、自分の子供に「さん」を付けるなんて……」
私の方は、滅多に連絡なんかよこさない兄からのメールでした。
明日の午前中に、得意先の会社で会議があるらしく一泊させてくれとの内容でした。
しかも、タクシーで向かっている……とのこと。
「全く、ホテル予約してないのかよ! 駅からだと普通なら10分弱くらいかな…………あっ!!」
彼女が、部屋に戻って来ました。
バスタオルを巻いた姿で……
「いっ、いつもこうじゃないですよ。今日は、特別に……」
私は、迷った。
いや!? 戸惑ったに近いでしょう。
彼女の実家で何かが起きている?
知らせなくてはいけない?
あと、彼女の姿はとても魅力的だ……。
一番厄介ことを忘れるところでした。
私の兄のことです。
私は涙をのんだ。
「お母さん? から電話があったよ。留守電入ってる。それと、私の兄がこれから来るみたいなんだ……」
彼女は、胸のところを手で押さえながら留守電を再生した。
「まぁ~大変! もう~……勝大は!」
何か、尋常ではない様子です。
「えっ!? そんなに大変なことが起きてるの?」
私は、数時間前にも同じような状況にあったのを思い出した。
似ている……親子なのかな? と思った。
「剛さん、私これから行かなくてはなりません」
「緊急事態なんだね」
お互い、この場の状況を納得理解した。
彼女は、隣の部屋に入り出かける支度を始めた。
「彩恵さん、こっちも戻るね」
「あっ! ちょっとまって下さい!」
彼女が、部屋から飛び出して来た。
今度は、ちゃんと服を着ています。
当たり前ですけどね。
「なんか、バタバタですね。今度は、私が遊びに行きます」
彼女は、私の前で再び目を閉じました。
彼女の部屋を出た私は、冷えた部屋に戻って暖房のスイッチを入れた。
5分もしない内に、兄から連絡がありました。
今、マンションに着いたと……。
ベランダから、下を見るとタクシーから降りた兄の姿がありました。
その前を、彩恵さんの白い軽自動車が通り過ぎて行きました。
「いや~、悪い悪い」
「いや~、じゃないよ全く……次は、もっと早く連絡くれよな」
兄を中に入れ、今の心情を少しぶつけた。
「おっ!? なんだ? 予定あったのか? ん~……女か?」
「別に関係ないだろう」
このままだと、何か喧嘩になりそうです。
私は、自称平和主義者なので……
喧嘩はしない! させない! もらわない! 勝手な3原則を自分なりにかかげている。
「こっちも結構、降ったんだな。あっ、風呂用意できるか?」
「……いいよ」
私は、少し面倒くさそうに返事をした。
「あ~温まった温まった! 何か飲み物もらうぞ」
年に何回か家族が集まるときの兄を見ていると、自分ももっと、はっきり言える人間になりたいとつくづく思わされる。
「なぁ? 彼女とか居ないのか? お前も、もう40だろう」
「いいじゃん別に……」
喧嘩がしたいのか? この人は……
まぁ、心配をしてくれているのかも知れないけど、兄も弟も結婚しいるから仕方がない。
「美由香さんだっけ、別れてからどのくらい経つ? もう連絡は無いのか?」
「3年……。余計なお世話だ」
このままでは、兄のペースだよ。
「母さんは、口には出さないがきっと心配してるぞ。あれは……」
「ああ……。分かってる」
その美由香さんとは、6年半付き合って別れたからというのもあるけれど、母とも仲良かったから……。
「いない事もない……けど」
「いるのか? どんな女だ? 今度は、がんばれ! 全面的に応援するからな!」
もう、兄に飲み込まれている感じです。
「いや、全面的は余計だよ。むしろ静かにしていてほしいよ」
「甘い! 甘すぎるぞ! お前! 時間は待ってはくれないぞ……って、もうこんな時間か!?」
確かに、兄の言う通り、時間は待ってはくれない。
でも、自分のペースで行きたい。
「この話は、また今度な。悪い、もう休むよ。でも頑張れ!」
「あぁ、がんばるよ。お休み……」
私は、兄が寝た後、彩恵さんのことを思いながら……
ハシビロコウの計画を立てることにした。
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