表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

【第15話】中へどうぞ

スタッドレスタイヤを購入した剛でしたが、あえて雪道を走る事は考えていなかった。しかし、晶紀ちゃんの確保の為に出動する事に……。そして、最後の来客者。

 雪の朝が、また始まりました。


「お~! 今日が休みで良かった~」


 あえて乗らなくてもいいという安心感。


 タイヤ買ったけど、本当に走れるんだろうか?

 以前とは、違う不安が私を襲います。


 雪がある道路を走るのは、20年以上も経っている。

 なにせ、田舎での教習所の時以来ですから……


「少しでも、今日の天気で消えてくれたら良いのにな~」


 私は、空に祈っています。

 でも、消えてしまったらどうしよう? 

 それだと、タイヤを買った意味がない……


「誤ったか?」


 ここで悔やんでも私が決めた事です。

 来年があるし、まだ降るかも知れない。


「う~寒っ!!」


 部屋の中に入り、朝食にする事にしました。

 私の定番、コーヒーとトーストそれに目玉焼き、あとベーコン付!


「いただきます!」


 ピンポ~ン!


「誰? こんな朝に……。晶紀ちゃんか!?」


 私は、モニターも見ずに、急いで玄関のドアを開けました。


「あきっ……! 彩恵!? どうしたの?」

「叔父さんの所に、昨日から居たの。 ちょっと相談を……」


「寒いから、話しは中に入ってからにしよう」


 彩恵と暖かいリビングに戻って来ました。


「食事中だっだの? 美味しそう」

「良かったら用意するけど?」


「うん」


 どうしたんだろう?

 叔父さんの所に居たって言ってたけども?


「はい、お待ちどう!」

「ありがとう」


「何かあったの?」


 彩恵に聞いてみました。

 しかし、数秒の長い沈黙……


「まぁ、食べよう!」


 込み入った話しは、後回しにしましょう!


「ごちそうさまでした。美味しかったです」

「それは良かった。いつでも作りますよ!」


「また、雪が降っちゃいましたね」


 おもむろに、彩恵が雪の事を口にしました。

 これは、いいタイミングです!


「あぁ……んん! 実は、買ったんだよ。タイヤ……昨日」

「本当に~!? すご~い!」


 この女性ひとは、やっぱり普通なんだよな~。


「見せて下さい! 見に行きましょう!」

「いいけど、ただのスタッドレスだよ」


「行きましょう!」


 外に出る支度をして、駐車場に向かいました。


「セットで購入したのですか? 良いじゃないですか!」

「なんか照れるよ……」


「後で、乗りません?」


 彩恵のご要望となれば仕方がありませんね。


「うん。でも、もう少し太陽が昇ってからね」

「そうですよね」


 駐車場を離れ、部屋に戻る事にしました。

 留守番電話のランプが点滅しています。

 弟からでした。


「けやぐがら、弘前ひろさきの駅でヨーデルさ乗ったって! そっちさ向かったんだよ」


 この間の電話と違って、方言力が全開だな弟よ。


 ちなみに……

 けやぐとは、友達と言う意味。

 ヨーデルとは、弘前から盛岡の間を結ぶ高速バスの名前。


 新幹線が、八戸むこうに行ってしまったから……

 やはり、この弘前の駅を利用するしかないのです。


「ヨーデルって事は、盛岡から東北新幹線か……」


 こっちに向かった可能性が大きい。

 でも、なぜ私の所に来ると決めつけるのでしょう?


「晶紀さん?」

「そうなんだよ。でも、ここの事は知らないと思うんだけど」


 私は、教えていませんから分からないと思います。


「目的地の場所も知らないで、そんな行動するかしら?」

「そうだよね普通は……。弘前からなら6時間もあれば来れるし」


「じゃあ、どこに居るのかしら……」


 最初の弟からの連絡から、時間も経っているので心配です。

 どこかのホテルにでも泊まっていれば良いのですけど……


「連絡を待つしかないかな? その為に戻って来たんだからね」

「じゃあ、次は私の話しを聞いて下さい」


「どうしたの? 改まって」


 叔父さんの所に居たって話しかな?


「実は……」


 ピンポ~ン!


 今日は、朝から慌ただしいです。

 私は、モニターを確認しました。


「あれ? 妹さんだよ」

「莉彩さん?」


 私は、何の警戒もせずに玄関のドアを開けました。


「お姉様……やっぱり」

「莉彩さん!? どうして?」


「叔父様から聞いて来ました。ここだろうって」


 何だ?

 何だ?

 妹さんは、彩恵の事を追っかけているのか?


「中に入りましょうか。取りあえず」


 この状況は、どうすればいいのだろうと言う感じです。 


「剛さん、タイヤ購入したんですよ! 莉彩さん」


 えっ?

 どうしたんですか~彩恵さ~ん!?

 突拍子もなく何を言うのでしょう?


「じゃあ、拝見しに行きましょう!」

「えぇっ!?」


 妹さん?

 何に食い付いているの?


 再び、駐車場です。


「へぇ~……」

「どうしました? 莉彩さん?」


「もう乗りました?」


 この今の雪道を乗りたいのか?

 私は、正直なところ、やはり怖いかなと思います。


「もう少し後でも良いかなって、さっき話していたんだよね」

「では、後で乗車させて下さい」


「ご理解をいただきありがとうございます。莉彩さん」


 何だか変な言葉使いになったぞ。

 納得してくれたから良しとしましょう。


「私とお姉様は、3階のお姉様の所に戻りましょう!」

「莉彩さん! 私は……」


「いけません! 見ていないと思って間違いがあっては困ります」


 何の間違いを起こすというのかな?

 どうして、この年下のお嬢さんに管理されないといけないのか?


「もしかして監視役? 大丈夫ですよ。そんなに心配しなくても」

「駄目です。その油断が命取りになるのです。お姉様! 行きますわよ」 


「剛さん、では後ほど」


 せっかくの二人きりの時間が……

 手強いのは、妹の莉彩さんなのかも知れません。

 3階で降りる彩恵に手を振り別れました。


「あぁ……」


 いたたまれなく、もどかしい感情が渦を巻いています。


 部屋に戻りました。

 結局のところ、莉彩さんは莉彩を連れ戻しに来ただけですね。


 携帯電話ではなく、固定電話が鳴り響きました。

 出てみると弟です。


「あ~、兄さん。晶紀が大宮の駅にいるって連絡あったよ」

「大宮……今? それで大宮駅のどこにいるって?」


「えっ……エキ……エキュ何とか言ってだよ。分がる?」


 おそらく、エキュートの事だと思います。


 車だと普通なら、小一時間で行けるのですけど……

 この雪だと、もっと掛かってしまうのは確実です。


「晶紀ちゃんの携帯の番号は?」

「知ってるけど、つながらねんだ」


「じゃぁ、これから駅に行ってみるよ」


 晶紀ちゃんの電話番号を聞いて、電話を切りました。

 私は、出かける支度をしました。

 なんでつながらないのでしょう?


「こんなに早く運転する事になるとは……」


 彩恵たちにも連絡しました。

 私は、彩恵たちよりも先に駐車場に向かいました。

 理由は、いろいろとあるのですが……


 私の心の準備が一番なのかも知れません。

 数分後、二人と合流しました。


「お姉様は、後ろで私の隣!」

「どうして? 私は、助手席が……」


 強引に後ろに乗り込んじゃいました。


「さぁ、剛さん行きましょう!」

「何だか、テンション高いね。莉彩さん」


 私は、深呼吸をして静かにアクセルを踏み駐車場から出ました。

 どうなんだろう……


「おっ!? 走れる!」


 以前……

 15年くらい前に、無理をしてノーマルタイヤで走った事を思い出しました。

 あの時は、路上で動けなくなって、いろんな人に迷惑をかけた……

 それ以来、雪の日には乗らないと決めたのです。 


 もっと早くスタッドレス(これ)にすればと思いました。

 でも、油断は禁物です!

 緊張する!!!


「大丈夫ですか? 剛さん?」

「お姉様、声を掛けてはいけませんよ!」


 そんなに怖いのかな、私の運転……


「ちょっと、あそこのコンビニに寄るよ」


 走れるとは言え……

 これじゃあ、ただのビビりだよ……。


「莉彩さん! 今度は、私、助手席に乗りますよ!」

「分かりました。お姉様……」


 なんと心強い事でしょう!


「大丈夫ですよ。剛さん!」

「あ、ありがとう」


 それから、20~30分くらい運転したでしょうか?


「うぅぅ~……。着いたよ~!」


 やっと緊張から解放されました。

 無事に大宮の駅に到着しました!


「剛さん、お疲れ様です」

「ありがとう」


 ここからが、本題なのですけど……。


「エキュートって言ってましたね」

「電話してみるよ」


 出るかな?

 私の携帯の番号は、未登録だと思います。


「はい……。剛さん」

「えぇぇぇぇ~!!!」


 どうして?

 つながったし!


「晶紀ちゃん!?」

「はい」


 本人です!

 晶紀ちゃん本人です!

 意味が分かりません!

 弟が教えたのか?


「今、どこに居るの? まだエキュート?」

「今は、外です。お店の前で、ミニライブやっているのを見ています」


「ミニライブ? 外!?」


 私達三人は、急いで外に出ました。

 確かに音楽が聞こえて来ました。


「晶紀ちゃんはどこだ?」


 歩道橋の上も下も結構な人だかりが見えます。


「はい」

「どこにいるの?」


「目の前に居ますよ! 私からは見えていますよ」


 目の前って?


「あっ!」


 居ました!

 晶紀ちゃんと目が合いました。


 私達は、晶紀ちゃんを確保しました。

 そして、青森の弟に連絡をとりました。


「あ~、もしもし……」


 弟もほっとしていました。



「さぁ、これからどうするるか?」

「取りあえず座って休みませんか?」


 彩恵が指をさしました。

 確かに、色んな意味で疲れました。


 席に着くや否や晶紀ちゃんが……


「…………ごめんなさい!」

「こうして無事に会えたんだ。本当に良かった……」


「剛さん?」


 私の目から、涙がこぼれ落ちました。

 止まりません!


「はい。剛さん」


 彩恵がハンカチを差し出しました。


「本当にごめんなさい」


 私の口から言葉が出ませんでした。

 手で、大丈夫だと言う仕草がやっとでした。


 自分が、こんなに涙もろいなんて思いませんでした。

 これ涙もろいって言うのかな?


 3人の前で何という失態?

 情けないと思っただろうか?

 私は、彩恵のハンカチを握りしめています。


「お姉様の彼氏なんですから、胸をお張りください」

「剛さんは、優しい人なんです」


「私! ……帰ります!」


 このまま晶紀ちゃんを帰したら、また……


「私が、お送り致しますわよ」


 どういう事だ?


「莉彩さん。あなた……」

「ご心配なさらずにお姉様」


 2人は、私と彩恵を残して席を離れました。


「あっ! 剛さん。お姉様を泣かせたら承知致しませんよ! いいですね!」

「大丈夫! 安心して下さい!」


 私は、莉彩さんに向かい力強く答えました。


「行っちゃったね」

「そうですね。私達も帰りますか?」


 とんでもない!

 私は、心の中で即答しました。


「あっ! そうだ! プラネタリウムはどう?」


 わぁぁぁ~……

 確かに、近くにあるとは言えどうだろう?

 帰りたくない思いからつい出た言葉でした。


「いいですね! 行きましょう!」

「……よし行こう! 始まる時間もあるだろうから」


 やった~!!

 さっき涙をこぼしてた男とは思えませんね。

 なにか恥ずかしいです。


 私達は、13時30分の入場券を購入しました。


 プラネタリウムを見るのは何年ぶりでしょう?

 何だか、わくわくします。


 解説員が今夜の星空について解説してくれました。

 プラネタリウムを出ると、時刻は14時30分を過ぎていました。

 私的わたしてきには、帰宅モードに入ろうとしています。


「道路の雪が無くなって良かったですね」

「うん。朝の緊張がウソのようだよ」


「でも、気を付けて帰りましょうね」


 彩恵を隣に乗せて、駐車場を出ました。


 晶紀ちゃんの事が、一件落着して良かったです。

 多分、大丈夫だと思います。

 多分……


 問題なくマンションに戻って来ました。

 彩恵は、アトリエにこもるそうです。

 邪魔をする訳にはいきません。


 私達は、エレベーターで別れました。

 良いのが描けるのを祈っています。


 !?


 誰かいます……

 玄関の前に誰かいます!


「あの~何かご用でしょうか?」

「君が、山美 剛君かな?」


「はい。そうですけど……」


 誰でしょう?


「美板 彩恵の父です」

「なっ?」


 父ですって…………

 どうして!?


「どうぞ中へ。寒いですから」


 美板父は、2時間ほど滞在して帰って行きました。



第16話へ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ