【第15話】中へどうぞ
スタッドレスタイヤを購入した剛でしたが、あえて雪道を走る事は考えていなかった。しかし、晶紀ちゃんの確保の為に出動する事に……。そして、最後の来客者。
雪の朝が、また始まりました。
「お~! 今日が休みで良かった~」
あえて乗らなくてもいいという安心感。
タイヤ買ったけど、本当に走れるんだろうか?
以前とは、違う不安が私を襲います。
雪がある道路を走るのは、20年以上も経っている。
なにせ、田舎での教習所の時以来ですから……
「少しでも、今日の天気で消えてくれたら良いのにな~」
私は、空に祈っています。
でも、消えてしまったらどうしよう?
それだと、タイヤを買った意味がない……
「誤ったか?」
ここで悔やんでも私が決めた事です。
来年があるし、まだ降るかも知れない。
「う~寒っ!!」
部屋の中に入り、朝食にする事にしました。
私の定番、コーヒーとトーストそれに目玉焼き、あとベーコン付!
「いただきます!」
ピンポ~ン!
「誰? こんな朝に……。晶紀ちゃんか!?」
私は、モニターも見ずに、急いで玄関のドアを開けました。
「あきっ……! 彩恵!? どうしたの?」
「叔父さんの所に、昨日から居たの。 ちょっと相談を……」
「寒いから、話しは中に入ってからにしよう」
彩恵と暖かいリビングに戻って来ました。
「食事中だっだの? 美味しそう」
「良かったら用意するけど?」
「うん」
どうしたんだろう?
叔父さんの所に居たって言ってたけども?
「はい、お待ちどう!」
「ありがとう」
「何かあったの?」
彩恵に聞いてみました。
しかし、数秒の長い沈黙……
「まぁ、食べよう!」
込み入った話しは、後回しにしましょう!
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「それは良かった。いつでも作りますよ!」
「また、雪が降っちゃいましたね」
おもむろに、彩恵が雪の事を口にしました。
これは、いいタイミングです!
「あぁ……んん! 実は、買ったんだよ。タイヤ……昨日」
「本当に~!? すご~い!」
この女性は、やっぱり普通なんだよな~。
「見せて下さい! 見に行きましょう!」
「いいけど、ただのスタッドレスだよ」
「行きましょう!」
外に出る支度をして、駐車場に向かいました。
「セットで購入したのですか? 良いじゃないですか!」
「なんか照れるよ……」
「後で、乗りません?」
彩恵のご要望となれば仕方がありませんね。
「うん。でも、もう少し太陽が昇ってからね」
「そうですよね」
駐車場を離れ、部屋に戻る事にしました。
留守番電話のランプが点滅しています。
弟からでした。
「けやぐがら、弘前の駅でヨーデルさ乗ったって! そっちさ向かったんだよ」
この間の電話と違って、方言力が全開だな弟よ。
ちなみに……
けやぐとは、友達と言う意味。
ヨーデルとは、弘前から盛岡の間を結ぶ高速バスの名前。
新幹線が、八戸に行ってしまったから……
やはり、この弘前の駅を利用するしかないのです。
「ヨーデルって事は、盛岡から東北新幹線か……」
こっちに向かった可能性が大きい。
でも、なぜ私の所に来ると決めつけるのでしょう?
「晶紀さん?」
「そうなんだよ。でも、ここの事は知らないと思うんだけど」
私は、教えていませんから分からないと思います。
「目的地の場所も知らないで、そんな行動するかしら?」
「そうだよね普通は……。弘前からなら6時間もあれば来れるし」
「じゃあ、どこに居るのかしら……」
最初の弟からの連絡から、時間も経っているので心配です。
どこかのホテルにでも泊まっていれば良いのですけど……
「連絡を待つしかないかな? その為に戻って来たんだからね」
「じゃあ、次は私の話しを聞いて下さい」
「どうしたの? 改まって」
叔父さんの所に居たって話しかな?
「実は……」
ピンポ~ン!
今日は、朝から慌ただしいです。
私は、モニターを確認しました。
「あれ? 妹さんだよ」
「莉彩さん?」
私は、何の警戒もせずに玄関のドアを開けました。
「お姉様……やっぱり」
「莉彩さん!? どうして?」
「叔父様から聞いて来ました。ここだろうって」
何だ?
何だ?
妹さんは、彩恵の事を追っかけているのか?
「中に入りましょうか。取りあえず」
この状況は、どうすればいいのだろうと言う感じです。
「剛さん、タイヤ購入したんですよ! 莉彩さん」
えっ?
どうしたんですか~彩恵さ~ん!?
突拍子もなく何を言うのでしょう?
「じゃあ、拝見しに行きましょう!」
「えぇっ!?」
妹さん?
何に食い付いているの?
再び、駐車場です。
「へぇ~……」
「どうしました? 莉彩さん?」
「もう乗りました?」
この今の雪道を乗りたいのか?
私は、正直なところ、やはり怖いかなと思います。
「もう少し後でも良いかなって、さっき話していたんだよね」
「では、後で乗車させて下さい」
「ご理解をいただきありがとうございます。莉彩さん」
何だか変な言葉使いになったぞ。
納得してくれたから良しとしましょう。
「私とお姉様は、3階のお姉様の所に戻りましょう!」
「莉彩さん! 私は……」
「いけません! 見ていないと思って間違いがあっては困ります」
何の間違いを起こすというのかな?
どうして、この年下のお嬢さんに管理されないといけないのか?
「もしかして監視役? 大丈夫ですよ。そんなに心配しなくても」
「駄目です。その油断が命取りになるのです。お姉様! 行きますわよ」
「剛さん、では後ほど」
せっかくの二人きりの時間が……
手強いのは、妹の莉彩さんなのかも知れません。
3階で降りる彩恵に手を振り別れました。
「あぁ……」
いたたまれなく、もどかしい感情が渦を巻いています。
部屋に戻りました。
結局のところ、莉彩さんは莉彩を連れ戻しに来ただけですね。
携帯電話ではなく、固定電話が鳴り響きました。
出てみると弟です。
「あ~、兄さん。晶紀が大宮の駅にいるって連絡あったよ」
「大宮……今? それで大宮駅のどこにいるって?」
「えっ……エキ……エキュ何とか言ってだよ。分がる?」
おそらく、エキュートの事だと思います。
車だと普通なら、小一時間で行けるのですけど……
この雪だと、もっと掛かってしまうのは確実です。
「晶紀ちゃんの携帯の番号は?」
「知ってるけど、つながらねんだ」
「じゃぁ、これから駅に行ってみるよ」
晶紀ちゃんの電話番号を聞いて、電話を切りました。
私は、出かける支度をしました。
なんでつながらないのでしょう?
「こんなに早く運転する事になるとは……」
彩恵たちにも連絡しました。
私は、彩恵たちよりも先に駐車場に向かいました。
理由は、いろいろとあるのですが……
私の心の準備が一番なのかも知れません。
数分後、二人と合流しました。
「お姉様は、後ろで私の隣!」
「どうして? 私は、助手席が……」
強引に後ろに乗り込んじゃいました。
「さぁ、剛さん行きましょう!」
「何だか、テンション高いね。莉彩さん」
私は、深呼吸をして静かにアクセルを踏み駐車場から出ました。
どうなんだろう……
「おっ!? 走れる!」
以前……
15年くらい前に、無理をしてノーマルタイヤで走った事を思い出しました。
あの時は、路上で動けなくなって、いろんな人に迷惑をかけた……
それ以来、雪の日には乗らないと決めたのです。
もっと早くスタッドレス(これ)にすればと思いました。
でも、油断は禁物です!
緊張する!!!
「大丈夫ですか? 剛さん?」
「お姉様、声を掛けてはいけませんよ!」
そんなに怖いのかな、私の運転……
「ちょっと、あそこのコンビニに寄るよ」
走れるとは言え……
これじゃあ、ただのビビりだよ……。
「莉彩さん! 今度は、私、助手席に乗りますよ!」
「分かりました。お姉様……」
なんと心強い事でしょう!
「大丈夫ですよ。剛さん!」
「あ、ありがとう」
それから、20~30分くらい運転したでしょうか?
「うぅぅ~……。着いたよ~!」
やっと緊張から解放されました。
無事に大宮の駅に到着しました!
「剛さん、お疲れ様です」
「ありがとう」
ここからが、本題なのですけど……。
「エキュートって言ってましたね」
「電話してみるよ」
出るかな?
私の携帯の番号は、未登録だと思います。
「はい……。剛さん」
「えぇぇぇぇ~!!!」
どうして?
つながったし!
「晶紀ちゃん!?」
「はい」
本人です!
晶紀ちゃん本人です!
意味が分かりません!
弟が教えたのか?
「今、どこに居るの? まだエキュート?」
「今は、外です。お店の前で、ミニライブやっているのを見ています」
「ミニライブ? 外!?」
私達三人は、急いで外に出ました。
確かに音楽が聞こえて来ました。
「晶紀ちゃんはどこだ?」
歩道橋の上も下も結構な人だかりが見えます。
「はい」
「どこにいるの?」
「目の前に居ますよ! 私からは見えていますよ」
目の前って?
「あっ!」
居ました!
晶紀ちゃんと目が合いました。
私達は、晶紀ちゃんを確保しました。
そして、青森の弟に連絡をとりました。
「あ~、もしもし……」
弟もほっとしていました。
「さぁ、これからどうするるか?」
「取りあえず座って休みませんか?」
彩恵が指をさしました。
確かに、色んな意味で疲れました。
席に着くや否や晶紀ちゃんが……
「…………ごめんなさい!」
「こうして無事に会えたんだ。本当に良かった……」
「剛さん?」
私の目から、涙がこぼれ落ちました。
止まりません!
「はい。剛さん」
彩恵がハンカチを差し出しました。
「本当にごめんなさい」
私の口から言葉が出ませんでした。
手で、大丈夫だと言う仕草がやっとでした。
自分が、こんなに涙もろいなんて思いませんでした。
これ涙もろいって言うのかな?
3人の前で何という失態?
情けないと思っただろうか?
私は、彩恵のハンカチを握りしめています。
「お姉様の彼氏なんですから、胸をお張りください」
「剛さんは、優しい人なんです」
「私! ……帰ります!」
このまま晶紀ちゃんを帰したら、また……
「私が、お送り致しますわよ」
どういう事だ?
「莉彩さん。あなた……」
「ご心配なさらずにお姉様」
2人は、私と彩恵を残して席を離れました。
「あっ! 剛さん。お姉様を泣かせたら承知致しませんよ! いいですね!」
「大丈夫! 安心して下さい!」
私は、莉彩さんに向かい力強く答えました。
「行っちゃったね」
「そうですね。私達も帰りますか?」
とんでもない!
私は、心の中で即答しました。
「あっ! そうだ! プラネタリウムはどう?」
わぁぁぁ~……
確かに、近くにあるとは言えどうだろう?
帰りたくない思いからつい出た言葉でした。
「いいですね! 行きましょう!」
「……よし行こう! 始まる時間もあるだろうから」
やった~!!
さっき涙をこぼしてた男とは思えませんね。
なにか恥ずかしいです。
私達は、13時30分の入場券を購入しました。
プラネタリウムを見るのは何年ぶりでしょう?
何だか、わくわくします。
解説員が今夜の星空について解説してくれました。
プラネタリウムを出ると、時刻は14時30分を過ぎていました。
私的には、帰宅モードに入ろうとしています。
「道路の雪が無くなって良かったですね」
「うん。朝の緊張がウソのようだよ」
「でも、気を付けて帰りましょうね」
彩恵を隣に乗せて、駐車場を出ました。
晶紀ちゃんの事が、一件落着して良かったです。
多分、大丈夫だと思います。
多分……
問題なくマンションに戻って来ました。
彩恵は、アトリエにこもるそうです。
邪魔をする訳にはいきません。
私達は、エレベーターで別れました。
良いのが描けるのを祈っています。
!?
誰かいます……
玄関の前に誰かいます!
「あの~何かご用でしょうか?」
「君が、山美 剛君かな?」
「はい。そうですけど……」
誰でしょう?
「美板 彩恵の父です」
「なっ?」
父ですって…………
どうして!?
「どうぞ中へ。寒いですから」
美板父は、2時間ほど滞在して帰って行きました。
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