表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

【第14話】スタッドレスタイヤの購入

鳥取工場に顔を出した剛であったが、意外にも後輩の桂が苦戦している事を知る。そこで先輩として精一杯の協力を試みる。仕事が終わり、桂と居酒屋に出かけるのですが……。次の朝には、まさかの自宅マンションに帰宅する事態が発生する。そして、またしても関東地方に雪の予報が発表される。

 私は、倉吉駅まで戻って来ました。

 そこで、鳥取駅周辺にあるホテルを探しました。

 結構、部屋はすんなり取る事が出来ました。


 後輩の桂に連絡をすればいいのですが、なにせ平日です。

 まだ、明るいです。

 彼には、あとで世話になる予定です。


 倉吉駅から山陰本線を使い鳥取駅まで向かいます。

 ホテルにチェックインして、そこである事を気付きました。


 私達、二人に課せられた究極とも言える条件です。


「約2週間か……。普通じゃないよな~」


 そして、もう一つ…… 

 実家の青森に戻ったとは言え、日程に余裕が出来てしまいました。

 一日どうするか?


 美板家に戻るか?

 いい感じに出て来たからには、すぐ戻る事は私には出来ません。


 どうするか?

 どうするか?

 どうするか?


 明日、こっちの工場に行って、一日早いけど金曜日に美板家に行くか?

 良いかもしれない!


 今まで考えた事もない思考が働き出しました。


 「決めた! そうしよう!!」


 事務所の人が帰る前に、私は鳥取の工場に連絡をしました。

 あと、彩恵にも連絡しなければなりません。


「あれ? 何で?」


 どうしてつながらない?

 拒否などされる理由は、無いと思うのだが?

 なんだろう?


 もう、制作に取り掛かっているのでしょうか?

 つながらない事の理由を決めつけて納得させる自分がいます。


 数時間後、もう一度掛けてみました。

 結果は、同じでした。

 さすがに、一応メールだけでもと思いました。



 翌朝です。

 何も応答ありません。


「何かあったのかな?」


 私は、会社に行かなければなりません。


 桂が来ている鳥取工場を訪れました。


「山さん!? どうしたんすか? びっくりしたっすよ!」

「あれ? 連絡いってなかった? で……どう?」


 私のせいなのに「どう?」って言われても微妙か?


「手ごわいっすよ。山さん」

「桂く~ん! ちょっとこっち……。あっ!? お客さん……ね」


 ずい分と親しげだな。

 桂は、人付き合いがいいと言うか、溶け込みやすいからうらやましい。

 逆に、私が来なくて正解だったのかと思うくらいです。


「やっぱり、忙しいようだな」

「まぁ……、そうっすね」


「別の用事でこっちに来たんだけど、専務が一日でも顔を出してくれって……」


 ホントの事は言えません。


「一日だって全然オッケーすよ! じゃ~山さんには超頑張ってもらいますよ」

「……彼女、何かトラブルじゃないのか?」


 私は、先ほどから待っている彼女を指差しました。


「そうだ! 山さんも一緒に来て下さい」


 桂の後をついて行き、一台のマシンの所にやって来ました。


「あぁ、またか……。このマシンだけ手こずるんすよ」

「懐かしいな。もう関東の工場には無いもんな~」


「知ってるんすか? 山さん」


 三年くらい使ったかな?

 ちょっと、クセがあるんだよな~。


「まぁ~。おそらく、ここをこうして射出温度と速さと……」

「大丈夫っすか? 山さん……」


 失敗したら、すぐ帰るか?

 大丈夫なはずだ!!


「おぉ~! 山さん! すごいっす!!」

「ありがとうございます。桂くん、この人は……?」


「この人は、オレの先輩で山さん。あぁ、山美さん……で、山さんね」



 その後もマシンのクセをアドバイスした。

 一番大切なノウハウの引き継ぎがされていないのか?


「何も引き継ぎとかは?」

「基本のマニュアルは、あるんすけど……」


 基本マニュアルといっても、本当の基本操作の解決策しか分かりません。


「辞めた人からは?」

「何も……。突然だったので、訳が分かりません。何かあったんですよ。……きっと」 


 何と、無責任な…… 


「厳しいね」

「はい……」


 相当、手こずっている感じです。


「でもありがとうございます」

「山さん、すごいっす」


「役に立てて嬉しいよ」


 私は、ある事を聞いてみました。


「この工場に一村かずむらって人も関東工場から来ていると思うんだけど」


かずさんなんです。辞めたのは……」

「なっ!?」


 一村は、年齢は私と同じで、会社では結構仲が良かった人物でした。

 鳥取工場に移ってからは、一回も連絡がありませんでした。

 ぜひ会いたいと思っていました。


 ……すごく残念です。


 しかし、ここで一村の事を追っても仕方がありません。

 今、私が出来る事をするだけです。


 一時間だけ残業をして、桂の使っている社宅に今日は泊めてもらう事にしました。

 そして、桂の提案で近くの居酒屋に行く事になりました。


 滅多にと言うか、居酒屋に行く事のない私は、部屋で飲んだ方が良いと思ったのですが……。


「舞ちゃ~ん!」


 桂が誰かに気付いて声をあげました。

 見ると、さっきまで一緒に仕事をしていたあのでした。

 昼は、別に食べていたから作業服と帽子を取ると、別人の様な気がしました。


「桂~。あの娘と結構来るのか? 飲みに」

「そんなでもないっすよ!」


 まだ、こっちに来てそんなに経ってないのに……

 すぐ仲良くなれるお前が、本当に本当にうらやましいよ。


「紹介します。倉澤 舞さん、あのマシンと戦うパートナーっす」

「倉澤です……って、さっきしましたよね。くすっ」


「パートナーねぇ~」


 私のパートナーの彩恵からは、連絡はありません。

 気がかりです……。


「とりあえずビールでいいっすよね。あとは……、適当に頼んじゃいますよ」


 ここは、桂に任せました。


「山美さんは、どうしてこっちに?」

「えっ! あっ! まぁ、ちょっとした用事でね」


 倉澤さんから唐突な質問です。

 何だろう突然……

 女の勘てやつなのか?


倉澤さんは、私を見ています。


「まぁ、用事と言っても親戚の所に来たんでね。あと、こっちの工場は専務に様子を見て来いって言われて」

「真面目なんですね。山美さんは」


「真面目を絵に描いたとは、山さんの事っすよ!」


 真面目だと言われるのは、悪くはないのだが何かが引っかかります。


「さぁ! 飲みましょう! 食べましょう!」

「食べるのはいいけど、飲むのは程ほどにしろよ! 桂……」


「大丈夫っす! 今日は、あのマシンに勝ったんすよ! 飲むしかないでしょう。山さん」


 よっぽど苦戦していた様に見受けられる。

 自分も苦戦したから良く分かる。


「桂って、いつもこうなの?」


 私は、彼女に聞いてみました。


「今日は、ちょっといつもよりはテンションが高めです……かな? ねぇ桂君?」

「でもね舞ちゃん! うまくいったんだよあのマシンが……感動もんだよ!」


「おいおい泣くなよ~」


 まぁ、ただの冷やかしに来た先輩と言う事だけは、免れたみたいですね。


「あの~、聞いて良いですか? 山美さんて彼女いるんですか?」

「えっ!? 彼女! いっ、いるけど……」


「山さん! 彼女いるんすか? 初耳っす! 結婚するんすか?」


 どうして、こう誰もが結婚に直ぐつなげたがるのかな~?

 青森でも言われたな~。

 まぁ、年齢的なものからなのでしょうね。


「そうだな~」


 うまい言葉が見つかりません


「山さんは、仕事一筋かと思ってたっすよ」


 桂の言う事に悔しいけど否定は出来ません。


「て言うか、お二人さんこそ仲が良い様子だけども?」

「照れるっすよ山さん!」


 この後、私は席を移動したいくらいでした。

 何とも仲の良いのを見せつけられた?

 ホントに、何日目だ?

 こっちに来て……。


 深く突っ込んだ話しは、あえてしませんでした。

 でも、これからどうするるんだろう?


 時間もいい感じに過ぎました。


「さぁ! そろそろ……お開きにしようか?」

「わっかりました! 山さん!」


 何も敬礼しなくても……


 私は、会計を済ませ桂と戻る事にしました。


「舞ちゃんは、サイコ~っす!」

「そうだな~。いいだと思うよ」


 もったいないくらいにな!


「さあ、着いたぞ!」

「舞ちゃんは……。舞ちゃんは…………」


 寝ちゃった?


「おい桂! 布団に入って寝てくれ! 風邪ひくぞ!」

「んん~~……。了解しました!!」


 だから、敬礼はしなくていいんだよ!

 そんなに飲んだっけ?


「んっ!? 何だろう?」


 彩恵からの着信です。


「剛さん、ごめんなさい。連絡出来なくて」

「心配したよ。でも安心した声を聞いて」


「作品の事を……」


 やっぱり、そうだったんだ。

 私は、明日からの予定を話しました。

 晴々とした気分で電話を切る事が出来ました。


 再び、私の携帯電話のバイブレーション機能が作動しました。

 出てみると弟からでした。


「晶紀が……、晶紀が行方不明だ!」

「何だ? ぶっきらぼうだな。晶紀ちゃんだっていい大人なんだし」


「もしかしたら、そっちに行くかも知れない」


 そっちって言ったって……

 ここは、鳥取だしな~。


「じゃあ! よろしく!」

「おっ! おい! ……切りやがった」


 全く、何がよろしくだよ!?


 何だよ……

 一難去ってまた一難?

 困った事になりました。


「戻るか? マンションに……」


 彩恵に連絡をしなければなりません。


 ……つながりません。


 また、作品に集中しているのかな?

 明日、朝一番で戻る事をメールで知らせました。


 今週、高知には行けないという事を…… 


「晶紀ちゃんは、何をしてるんだ?」


 翌朝、携帯を確認しました。

 彩恵からの連絡はありませんでした。


 今週は、何だか慌ただしいです。

 ゆっくり、カニなんか食べたかったのですが自宅に戻ります。


 マンションに戻って来ましたが、晶紀ちゃんの姿は確認出来ませんでした。

 私は、弟に電話をしました。

 実家の方にも晶紀ちゃんの姿は、やはり見あたらない様子です。


 荷物を降ろして、しばし休息です。

 彩恵からの連絡は……


 無さ過ぎじゃないのか?

 と思いましたが、彼女は真剣なんです。

 すぐに思い直しました。


「晶紀ちゃんは、どこえ?」


 彩恵に連絡が着かないのであれば、美板家に直接電話を掛ける事にしました。

 事情を細かく説明して、美板母には一応納得してもらいました。


 テレビをつけると、週末は強い寒気の影響で再び関東でも雪になるとの事。


「まっまた雪!? 2月も終わり近いというのに」


 私は、外を見ました。


「まだ平気だな。買い物行くか!」


 私は、車を走らせスーパーへ向かってます。


「タイヤか……。今更?」


 一応、タイヤ専門の店をのぞいてからスーパーに行く事にしました。


「何か、混んでる?」


 接客を終えて、外に出てきた店員と目が合いました。


「スタッドレスタイヤですか? ご案内しますよ」

「あ……。はぁ」


「この数時間で、かなりのお客様が購入しましたので、サイズがあれば良いのですが」


 見た感じ、本当にタイヤの数が少ない様な気がします。

 短時間の間ですが、タイヤの事を説明をいろいろしてくれました。


「え~お客様のお車は……。そのサイズは確か……」

「あの……」


「そうですね~。当店では、これが最後の在庫ですね」


 最後!?


「どうなされます?」

「ん~値段的な事が……」


 これでは、自ら購入の方向に……。

 すすめられているのは、ホイールセット……

 電卓をたたく店員!


「どうですか? 込み込みで……」


 私は、タイヤの脇に貼っている値段を確認しました。

 かなり値引きしてくれているのだと思いました。


 私が渋っている様に見えたのでしょうか?

 実際そうですけど……


「では、端数も取っちゃいます! まだ、外したタイヤの保管も承りますよ」


 端数と言っても何百円?

 保管?


 よく考えると、エレベーターでタイヤを運ぶのか?

 預かってくれるのは、ありがたい話しなのだが……

 最後の在庫……。


 すると、他の店員が接客しながら近づいて来ました。


「サイズですが……。あっ! こちら購入ですか?」


 何~っ!!!!

 どうする!?

 私がキャンセルすれば、この客はすぐ購入するでしょう。


 これから雪が降る……

 もう、1秒が5分も10分にも感じます。


 ……決めました!


「購入するので、その条件でお願いします」

「ありがとうございます! では、こちらへ」

 

 購入!!

 購入してしまった?


「お支払いは、どうなされますか?」

「え~、カードで……」


 混んでいるせいなのか、結構待つ事になりました。

 店内を見て時間をつぶしました。

 放送で、作業が終了したとの事。


「まぁ~!」


 まぁ~って、ここは「おぉ~!」じゃないのか?

 何だか、すてきに見えました。

 アルミなんて、付けた事無かったし……

 締め付け確認をして、車に乗り込みました。


「ありがとうございました!」


 私は、再びスーパーに向かいます。

 空から小さく冷たい雪が降り始めました。


 スーパーの食品関係は、思った通り少なくなっています。

 外に出ると、どんどん降りは強くなって来ました。


 あの時と同じ……

 私は、彼女さえの事を思い出しました。

 そして、もう一人の女性の事も思い出しました。


「晶紀ちゃんは、どうしたかな?」


 私は、急いでマンションに戻る事にしました。


 途中、もしやと思い車を止める場面も……

 しかし、晶紀ちゃんではありませんでした。

 逆に、「何!?」と言う顔をされました。


 携帯、留守電ともに連絡はありません。


「あぁ……。タイヤ買っちゃったな~」


 彩恵は、どう思うかな?

 びっくりするだろうか……。

 夕食を一人食べながら考えました。


「車乗ってみようかな? ……いやいや止めておこう」


 その後も、誰からの連絡もありませんでした。


「あぁ……。なんか眠れない」


 時刻は、午前1時38分

 外を見ました。


「積もっている……。やばいな~タイヤ買っても乗れないよ!」


 私は、止みそうもない雪を少しの間眺めていました。

 つくづく明日が、休みでホッとしているところです。



第15話へ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ