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【第13話】渦

誰もいない雪の上の散歩を楽しむ剛と彩恵でしたが、空の雰囲気が少しずつ変わり始めてきた。そこに、最近仕事を辞めて家事手伝いをしている隣の家のが・・・。

 私達の頭上を白鳥が飛んで行きます。

 津軽富士ともよばれる岩木山いわきさんを目指して?

 多分、ここからそんなに遠くない藤崎に向かっているのかも知れない。

 結構、有名な飛来地があったりする。


「夏にでも、あの山……。岩木山って言うんだけど登ってみない?」

「山って登ったこと無いの私……。大丈夫?」


「結構上まで車で行けるし、その先にもリフトがあるから平気だと思うよ」

「剛さんと一緒なら大丈夫かもね」


 さりげなく、夏の予定が一つ埋まりました。


「よし! 計画は、任せて下さい! でも寒いね……」

「寒いのは、苦手ですか?」


「うん……まぁ」


 実は、すごく嫌いです。


「今住んでいる所が、一番良いい。何回か雪は降るけどね」

「私もです。フフッ」


「鳥取砂丘も行ってみたいな。テレビで見た事はあるけどね」


 今日は、何だか言葉が出て来ます。


「私の実家からですと遠いですね。鳥取空港寄りだと良かったのですけど」

「そうなんだ? そっか~。でも行きたいね! 寒くない時に……なんてね」


「そうですね。是非行きましょう!」


 何かいい感じです。

 今の寒さを忘れてしまうくらいに会話が弾みます。

 でも、いかにも寒そうな雪雲が空に広がって来ました。


「今日は、天気が良いっていう事なんだけどな?」


 せっかく昇って来た太陽が隠れて行きます。


「そろそろ戻ろうか。散らついて来たし」

「そうですね。……あっ!?」


「剛お兄ちゃん?」


 私の背後から、ギュっ、ギュっという音

 振り向くと、知っている顔がそこにありました。


晶紀あきちゃん? いつの間に? どうして?」

「散歩だよ。あと何時間かすると歩けなくなるからね」


 隣の家の晶紀ちゃんでした。 

 びっくりしました。

 ちなみに彩恵よりは年が上です。

 私達、兄弟の事を上から~おにい、~お兄ちゃん、~兄と付けて呼ぶ。

 何故か、私はちゃんなんだよな~。


「剛さん? この方は?」

「あぁ、千弘晶紀ちひろあきさん。晶紀ちゃんって呼んでるけどね」


「お兄ちゃんがお世話になってます? 彼女さんですか?」


 ストレートに聞くな~晶紀ちゃん!


「こちら、美板彩恵さん。付き合い始めたばかりだけどね」

「へぇ、そうなんだ~……。でも結婚すんの?」


「なっ!! 晶紀ちゃん! 何をいきなり」


 何を、突然言い出すかと思えば……


「晶紀ちゃんも戻るんでしょ? 降って来たし」


 首を横に振り、何故か晶紀ちゃんは元来た方向に歩き出しました。


「もうちょっと、歩いてから帰る」

「分かった。気を付けてね」


 遠ざかる足音

 近づく足音……

 近づく?

 私は、後ろを振り向きました!


「お兄ちゃん! ん~~!」


 それは、柔らかな唇の感触?


「じゃあね~! 大好き~!」

「えっ?」


 晶紀ちゃんは、速足で私達を追い越して行きました。


「何でしょう? あの人は?」

「えっ? あ……」


 見られてなかった?

 言葉が出ませんでした。


 結局、追い付く事なく家に戻って来ました。

 私は、心を静めた。


「晶紀、ねな? さっき来いって言ったのに」


 時刻は、9時55分


 晶紀ちゃんは、姿を見せませんでした。


「後の事は、わたくしに任せて頂きます。ご機嫌よう皆さん」

「まだ来いよ!」


「はい!」


 妹さんは、元気よく返事をしました。

 なまり過ぎだよ弟よ。

 もっと普通に会話してたろ電話では?

 誰か居たのか? 

 まあ良いか……。


 車は、実家を離れ青森空港へ向かっています。

 何だか気まずい空気?

 家で、何かあったのか?



 数時間後、私達は鳥取に戻って来ました。

 私もそのまま美板家に入りました。


 やっぱり、大きなお屋敷です。


「莉彩さんは、席を外して下さるかしら」


 怪しいピリッとした雰囲気が部屋に漂っています。


「さて剛さん! 彩恵さん! お二人は、これからの事をどの様にお考えなのかしら?」

「これからですか?」


「どういう事ですか? お母様!?」


 考えたくないのだが、身分的な事を言いたのでしょう。

 圧倒的な財力の違いは認めましょう。


「出来る事なら、このままずっと一緒にいたいと思います」

「剛さん……」


 言ってしまいました!!

 ここで、うろたえている場合ではありません!

 もう引っ込みがつかないぞ~!


「このままずっと? と言いますと? 一緒になるとでもというの事ですか?」

「はい! 出来る事なら」


「おかしな事を言うお方ですね! ご自分の立場をどうわきまえて?」


 そこなのか……

 結局、そこなのか…………


「お母様!」

「……フフッ!」 


「お母様??」


 どうしたんだろう?


「お好きになさい。 ただし条件があります」

「お母様???」


 何だ!?

 私達、二人の頭の中が一瞬白くなりました。


「見せて下さい彩恵さん! あの人、美板みいた東海道八月とうかいどうやつきを超えるあなたの想いを絵で!」


 すごい名前だ!

 何という名前だ!

 想い?


「お父様をですか?」

「あなたには、才能がある。あの人は、いつもそうおっしゃっていました」


 状況が一変して、取り残されている私がいます。


「それと、剛さん! あなたにも決断をしてもらわないといけませんね」

「決断ですか?」


「彩恵さんと、このまま一緒にいたいのなら婿養子むこようしと言うのはどうかしら?」


 なんとっ!?

 なんですとっ!? 

 婿養子……?


 今更だけど、美板家にとってのメリットは?


 ハッ!?

 これは罠?

 それとも、私を試しているのか?

 でも何を試すというのか? 


「今、この決断をしないといけませんか?」

「何をためらっているのかしら?」


「いや……あの……。話しが急すぎませんか? 私は次男ですけども」


 何を言っているんだ私は?


「じっくり考えなさい! 時間をあげますわ。来月の彩恵さんの授賞式前日までにしましょうか」

「来月の……ですか」


 約2週間ちょっと


「あの人には、わたくしから報告しておきます」


 報告?

 東海道八月さんに?

 何という事でしょう。

 この展開は……


「あ~そうそう。剛さん、彩恵さんに触れる事は、今後許しませんよ! 青森の時みたいにです」

「えっ…………!?」


「お母様? 何を?」


 その時、妹の莉彩さんが部屋に入って来ました。


「これですは! お姉様!」

「莉彩さん!? あなたっ!」


 私達の目の前に、数枚の写真がピシッと置かれました。


「このような事は、したくなかったのですけどお姉様……」


 妹さんは、芸能カメラマンか?


「手ぐらいは、つないでも良いですよね」

「手ぐらいとは何ですか!? 何だと思っているのですか?」


「好きな人に触れていたいと思うのは、自然な事ではないのですか?」


 何だか、何が何だか……

 今日の私は、何か違います。


「あなたの彩恵さんに対する思いが本物なら許しましょう」


 今まで、晴れていた外の天気が……

「ゴオォォォッ!」という音をたてて吹雪始めた!


 莉彩さんは、写真を回収して部屋を出て行きました。

 ……と思ったら?


「剛さん。ちょっと」


 何だろう?

 ドアの陰から私を呼んでいます。


「あの~。これを……」

「こっ! これは!!」


「シーっ!! お姉様に聞こえますわ」


 彼女が見せた写真は、晶紀ちゃんとの一瞬のシーンでした。


「莉彩さん! このデータを消去して下さい! すぐにです!」

「誰ですかこの女性は?」


「隣の家の娘さんですよ」


 取るの上手いのも困りもんだな……


「写真は、この一枚ですか?」


 私は、目の前でデジカメのデータを消す所を確認して部屋に戻りました。


「何かあったの?」

「カメラを見せてもらったんだ。すごいね。妹さんのカメラ」


 何だか、話しをすり替えたっぽい雰囲気になってしまいました。

 私は、この後の鳥取での滞在の予定を話しました。


「私は、鳥取こっちの会社に出なければなりません」

「送らせましょうか?」


「いえ、甘える訳にはいきません」

「そうですか。構いませんが」


 私は、損な性格なのかな?

 そう思いました。


「土曜日に、もう一度来ます」

「剛さん、ハシビロコウを見に高知に行きましょう」


 バタバタしていたので忘れていました。

 見れる所があったのです。


「是非行きましょう!」

「そうそう、みんなで行きましょうよ! ねぇお母様?」


「考えて置きますわ」


 思いがけない週末の展開です。

 私は、美板家を後にしました。


 土曜日が待ち遠しいです。


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