【第11話】再開と出発
剛が思っていた普通の恋。母親の存在により思わぬ方向に向かおうとしている。彼女の叔父さんからの後押しもあり、引けぬ状況になっています。
今、私は飛行機の中にいます。
彼女の後を追って鳥取県に向っているところです。
数時間前……
病院を出て、会社に電話を掛けました。
もちろん本当の事は言えません。
鳥取の親戚から急な連絡があったという事にしました。
更に、近い場所ではないと言う理由で、あと3日の有給休暇をもらいました。
こんな事をしたのは初めてです。
何かドキドキします。
すると、専務から社命とも言える言葉が返って来ました。
「申し訳ないのだが、鳥取工場の応援に1日行ってほしい。いや、半日でもいい」
鳥取工場は、どうなっているのだろうと思いました。
そんなに大変なのだろうか?
後輩の桂は、どうしているのかと……
何か不安になって来ました。
いやいや!
第一は、彼女!
第一は、彩恵なんだ!!
そんな事を考えながら、一旦マンションに戻りました。
支度をして出発しました。
「羽田まで、一時間以上かかるかな?」
時刻は、11時37分
池袋駅……
周りの人たちは、慌ただしく動いています。
私も、その一人として忙しそうに写っている事でしょう。
何となく時間が過ぎるのが早く感じます。
電車を乗り継いで羽田空港に着きました。
「鳥取に向かう次の便は、15時55分」
取りあえず、この便で鳥取に行く事にしました。
「到着が、5時過ぎるか……」
空港まで寄り道せずに来たので、さすがに空腹が襲って来ました。
ちょっと遅めのランチをとる事にしました。
落ち着いた所で、そろそろ搭乗手続きの時間です。
「さぁ! 行くか!」
一時間ちょっとのフライトです。
久しぶりの飛行機に少しこころが弾んでいます。
今ごろ、彼女はどうしているのでしょうか?
気になります。
日が暮れちゃうだろうな……
雪あるのかな?
寒いかな?
関東でも寒いのに……
何となく憂うつな気分になっています。
あ~、着く前からこんな事では……
飛行機は、無事に鳥取空港に到着しました。
私は、そこからリムジンバス?
電車でも良かったのですが、何となくバスを選びました。
出発が18時を過ぎていたので、腹に少し入れておく事にしました。
出発の時間です。
バスに乗り込み、倉吉という町に向かいます。
鳥取空港を離れて、国道9号線をバスは進んで行く。
今度は、明るい時に来たいな。
約45分のバスの旅、倉吉駅に到着しました。
ネットで、今日泊まる所は確保している。
駅からすぐというのは都合がいい。
私は、明日からの戦いに備えて入念に計画を立てる事にしました。
「ぷっ!」
思わず吹き出してしまいました。
「……少し、オーバーか?」
いやいや、油断してはいけない。
あの母親は、試しているのかもしれない。
「何だろう? 彼女の周りにいる人達は……」
私は、本当にとてつもない強敵を相手にしている気がします。
「でも、ここまで来てしまったんだ! ……後には引けない!」
こんなに積極的に行動する自分にすごく驚いています。
不思議な感じです。
一応、彼女に電話してみました。
連絡でもつけばと思ったのですが、そんなに甘くないです。
明日の事は、もう運を天に任せるしかない様です。
「メールは、どうだろう?」
わずかな希望を胸に送信しました。
やはり、スマホは彼女の手元には無いのでしょうか?
私に送ったあの後、取り上げられたのか?
でも、いい大人だし……
悪い事をした子供でもあるまいし……
「……子供か」
あれこれ妄想しても解決しない!
「寝よう」
と、言ってもなかなか寝付けません。
午前2時23分
「やばっ……。もう寝よう!」
午前6時59分
「あっという間だな!」
外は?
「おぉ~良い天気! よし!」
気合十分!
「さぁ~朝飯! 朝飯~」
バイキング形式のタイプたけど、しっかり食べて部屋に戻りました。
「手土産よし! 服装よし! 住所よし! あとは、彩恵さん、彩恵さん」
呼び捨ては、今はまずいかな?
「待ってて下さい! 彩恵さん!」
チェックアウトして!
バスに乗って!
途中、お団子を買って!
更に、バスに乗って……
「住所的には、この辺なんだけどな?」
私は、ドラマの世界に入り込んでしまったかの様な錯覚に陥っています。
どこまでも続くような塀……
「ここ!? マジか!?」
明らかに住所からすると、絶対にこの場所が彼女の実家なのです。
「彩恵さん! どこへ行くのです!? その体で!」
塀の向こうから聞こえてくる、あの母親の声……
「ここか~!? 全くなんて家だよ」
ようやく玄関にたどり着きました。
「ごめんくっ!? うわっ!!」
「剛さ……ん!?」
「あなたは! あなたは!! 彩恵さんの事をたぶらかそうしている……」
「決してそんな事はありません!」
なんて、威圧感!
先日、会った時にも感じた存在感!
「剛さん……どうして?」
「彩恵さん、あなたに会いに来たんだよ!」
「あらあら、あなたお仕事はどうなされたのです? こんな平日に」
「ご心配はいりません。ちゃんと有給を頂いてきました!」
玄関先で、何でこんな状況にならないといけないのか?
何とかしないと、何とかしないと……
「少しお互いに落ち着きましょう」
「あら、わたくしは、何時だって落ち着いていますよ」
「お母様……」
こういう展開は、予想していなかった訳ではないけれど……
「挨拶が遅れました! 山美 剛と申します!」
もう、自分の中でも引っ込みがつきません!
「ちょっと、あなた? 今、山美とおっしゃって?」
「はい。何か?」
なんだ?
どうしたのでしょう?
私の名字に食い付いて来ました。
「あなた、お生まれはどちら?」
「はい、青森ですけど……」
「では、お母様のお名前は……。美知恵ではなくて?」
「母と知り合いですか? 確かに母の名前は、美知恵ですけど」
この世界というのは……
どんな運命を運んでくるか分かりませんね。
「知り合いもなにも、私とみっちゃんは幼馴染で、恋のライバルだったのです! まぁ恥ずかしい……」
「本当ですか!?」
「お母様、初耳です」
「このような事、人前で話す様な事ではありません」
確かにそうです。
流れ的には、良い方向と思いたいです。
「さぁ、剛さんここでは何ですので、家の中でお話しいたしましょう!」
「はい」
「ささっ、どうぞ~。彩恵さんあなたも早く中にお入りなさい」
「あっ! これどうぞ!」
「まぁ~、わたくしあそこのお団子、大好きなのよ~ありがとう」
良いのでしょうか?
良いのでしょうか?
良いのです!
繰り返し思いました。
しかし、でかいお屋敷だな……
どれだけの広さがあるのでしょう?
本当に母の友人なのでしょうか?
「あ~っ! あなたはっ!? どうしてここに?」
妹さん!
まだ、説明していない人物がいました。
「いいのですよ莉彩さん。この剛さんとお話しがありますの」
「お母様……ですが。この人は……」
「あなたも、いらっしゃい」
何という支配力でしょう。
すごい……
「さぁ、そちらにお掛けなさい」
リビング?
居間だな、どちらかと言えば……にしても広いです。
……私は、今すごい空間にいます。
正面には、彼女の母親。
右手には、彩恵さん。
左手には、妹さん。
「お紅茶入りました奥様。今日のも美味しく出来ましたよ」
お手伝いさんも、興味しんしんといった表情で退室しません。
「みっちゃんは……。美知恵さんは、お元気ですか? あと…………」
どうしたんだろう?
急に照れた様子です。
「正義さんは……」
「父ですか……。父は入院しています」
「行きましょう! 今から! どこの病院ですの?」
「えぇぇぇ~! だって青森ですよ」
金持ちと言うのは、無茶振りを……
「みんなで行きますわよ! 車を用意しなさい!」
本当に行くのか?
数分後、立派なお車が到着いたしました。
「空港へ連絡! 手配をしてちょうだい」
「まじめに青森に行くつもりですかっ!!!」
もう好きにしてと言う感じです。
第12話へ