5.ただ側にいて欲しい
「ナデシコ様。昨日の件についてなのですけれど」
朝食後、ポチが朝のお勤めに出て行ったのを見計らい、リリーが話を切り出してきた。おそらく、コリンへ行った探り調査の結果についてだろう。
「うん。どうだった?」
昨日エメリアと話してからは誰が相手なのかそこまで固執していなかったのだが、いざ報告されるとなると何か手がかりが掴めたかどうか少し気になってきた。
……私、左右されやすいのかしら。二十六年生きてきたからそれなりに土台はできてると思うんだけど。
「すみません。それらしき情報は何も得られませんでした」
伏せ目がちに出された沈んだ声。エメリアに相談する前の私だったらさぞ落胆していたと思う。今はただ、「ああそうか」と。憂うでも悲しむでもなく、ありのままに受け止められた。
「いいよいいよ。リリー、気にしないの。ありがとう」
明るく笑いかけるも、リリーの表情は曇っていて。
「いいえ。コリンは何か知っていそうです。今日こそは聞き出してみせます!」
コリンが何か知っている?
そう聞いて脳裏を過ぎったのは、一昨日の出来事。私に好意を持ってそうな人がいないかお茶会で探りを入れたあの日、コリンは意味有りげな発言をしていた。
『ナデシコ様に想いを寄せる方、僕はいると思いますよ』
『案外近くにいるものかもしれないですよ。あの、本当にいるかは知らないですけど』
あの時のコリンは挙動不審で。何かあるのかもしれないと微かな予兆を感じてはいたが、あれからコリンに会えておらずそのままになってしまっていた。
(……一昨日のお茶会の時点で、コリンは何か心当たりがあったんだろうな)
「コリンってば、『大切なことは本人が言うべきものだから』の一点張りで……安心してくださいナデシコ様。私、今日は負けませんから!」
巌しい顔で拳を作るリリー。せっかく可愛らしいのにもったいない。
いや、それよりも。
私は肩の力を抜き、ゆっくりと口を開いた。
「リリー。もういいの。あのね、私待ってみることにしたんだ」
固く握られた拳を手で包み、私の行き着いた考えを諭すように伝える。
「たぶん、相手も悩んでるだと思う。向こうが答えを出してないのに私がわあわあやったって、ダメでしょ? コリンの言うことにも一理あるしね」
「あ……ですが」
「明後日には日本に帰るんだし、きっと今日明日にでも分かっちゃう気がするんだ。だから、それまで待つことにするよ。振り回しちゃってごめんね」
謝れば、ほぐれていた握り拳に再び力が入る。
「いいえ、いいえ……! ナデシコ様が謝ることなど」
「私もさ、まだまだ未熟者だよねー。大人なんだからもっとどっしり構えてないと」
小さなリリーは、うるうるとした上目遣いで私を見上げた。そんな彼女の頭をわしわし撫で、「さっ、この話はおしまい! 何か進展あったらまた相談するね」と笑いかけると、リリーは顔をくしゃりと歪めた。泣きそうな、だけど笑っている、どこか不思議な表情だった。
*
その日の護衛は何の因果かコリンだった。なんとも言えない巡り合わせだ。
少し落ち着かない様子のコリンに、私は何も聞かなかった。いつものように世間話をして、神殿内を散歩して、書庫で絵本を読んで、お気に入りのガゼボで寛いで──そうして一日の半分が終わり、美味しい昼食をたいらげた。
エメリアの淹れてくれた食後の紅茶を飲んでいると、「明日の午後は空けておいてください」と言われ、ドキッとした。おそらく、お別れ会でも開いてくれるのだろう。
私を日本へ返す儀式の施行まで残り二日。だがしかし、このままだと私は帰れない。事の次第によれば一生こちらに居座る可能性もある。それなのに、お別れ会を開いてもらうのはなんだか申し訳なかった。
全部解決したら、ネタばらしをしよう。
私を帰したくないと祈った人がいて、私は日本に戻れなくなって、その人は誰で、私はどんな答えを出したのか。私はどこで生きるのか。
今はまだ、どうなるか分からない。けれど、明けない夜がないように、物事には終点がある。
全て終わったら、きちんと伝えよう。せめて、私を大切にしてくれているリリーとエメリアには。
*
午後から私は部屋に閉じこもり、ポチと談笑しながら贈り物をこさえていた。こちらで世話になった(これからもお世話になるかもしれないけど)人々へのささやかなお礼の品だ。
現時点で帰郷は不可能なので別れの品とはならないが、二週間前から手がけていたものなので、せっかくだからと作り上げる事にした。明日、お別れ会らしきものを開いてくれるようだから、参加者にはその場で渡そう。
「……うむ。なかなか良い出来ではないか」
「でしょ? 縫い目も結構綺麗だし、匂いも良いし……みんな喜んでくれるかな」
数個完成したところで、ポチが銀の尻尾をひと振りする。私は満足そうに出来上がったものを眺め、仕上がり具合を確かめた。
私が作っているのは匂い袋。神殿の外れで摘んだ花がいい感じに乾燥したので、今日やっと詰め込み作業に入れることができたのだ。
カラカラの花びらを詰める袋も私のお手製で、材料は日本からここに来る時につけていたストールを裁断したもの。花を乾燥させる間、チクチク夜なべをしていたわけである。袋を作り終えたのは、皮肉にもポチに「帰れない」宣告をされた前日だったが。
「さ、これをあと五十個は作らないとね」
「むむ、五十もか。多いのう。手伝うか?」
「詰めるだけだからそんなにかからないよ。袋を縫う方が大変だったかも。ポチはそこで見ててね。これは私が作らないと意味がないから」
王様、大神官、リリー、エメリア、五人の護衛──彼らを初めとする、神殿や城の人々。私は本当によくしてもらった。迫害もされず、危険もなく、衣食住に困らず、安全なシーバマメで安心して暮らせたのは、他でもない彼らのおかげだ。
感謝の気持ちを込め、私はせっせと乾いた花びらを袋に詰めていく。薔薇に似たこの野花は、「リグレ」という名前らしい。いつだったか、ヒューズくんが教えてくれた。
薄桃色の花弁、ふわっとした優しい香り。儚げそうな見た目と裏腹に、踏まれても尚伸びる根性があって。リグレは私がこの国で一番好きな花になっていた。
コリンに見張りをしてもらっているため、突然の来訪者(主にアンリ)の心配はない。「別れの品」に関しては、私とポチだけの秘密なのだ。こういうのって、サプライズの方がいいでしょ?
ちなみに、コリンには理由を告げず、「ちょっと休みたいから誰も通さないでね」と言ってある。素直なコリンは何も疑わず頷き、シーバマメ式の敬礼をした後すんなり任務についてくれた。この従順さを少しは見習え、モモ、アンリ。
懸命に手を動かした甲斐あって、夕食前に半分、就寝前にもう半分を完成させることができた。途中、モモが「明日の午後開けとくように念押ししとけってエメリアさんが。んじゃ、そういうことだから」と言伝を持って顔を出したが、ちょうど出来上がった匂い袋を仕舞った所だったのでセーフ。あぶね。
みんな喜んでくれるといいな。
たくさんの笑顔を思い浮かべながら目を閉じ、私はポチに抱きついて夢の中に落ちていった。
*
「ナデシコ様。第五書庫に新しい絵本が入ったそうですよ。行ってみてはどうですか?」
朝食後リリーにそう促され、私は護衛のバーナードさんと第五書庫に向かっていた。道中、いつもより神殿内がざわついている事に気付き、何かあるのかと聞けば「さあ、なんですかいね?」と間延びした返事をされて。近くにいた警備の神殿騎士にも同じ質問をしたが、「存じ上げません!」とドでかい声で言われた。
廊下を行き来する小間使いの数も多かったし、結構な人声で賑わっていたし、何もないという事はないのだろうけど。
ああ、もしかして私のお別れ会の準備かな? その推測に行き着く頃には、第五書庫に到着していた。
たくさんの人声は、神殿の中庭の方角から聞こえている。多分、そこで色々やっているのだろう。ははあ、今朝リリーが読書勧めてきたのは、そういうワケがあったのか。ふらふら中庭に行かないよう、私は上手く誘導されてしまっていたようだ。
(きっと、バーナードさんも一枚噛んでるんだろうなあ)
刈り上げ頭の大男を見上げれば、ニカッ! と爽やかかつゴツイ笑顔が向けられた。シーバマメの婦女子が黄色い声をあげるという魅惑の笑顔も、私からすればただの筋肉ダルマなおっさんの笑顔だ。価値観の違いってすごい。
「騒がしいのは中庭のようですね。ちょっと行ってみましょうか」
試しにそう言うと、バーナードさんは面白いほどに狼狽えた。
「ナ、ナデシコ様! ほれほれ、こっちに新しい絵本があるみたいですよ!」
くっ、私は子供か! まあ、文字が読めないから絵本に食いつくしかないんだけど、こうもあからさまにされるとちょっとしゃくにさわる。私はもう二十六ですぞ。
「……どうもありがとうございます。どこですか?」
内心むっとしつつ、穏やかにお礼を言う。私も鬼ではない。お別れ会の企画者たちの魂胆に乗っかってやろう。意地悪は性に合わないし、午前中は大人しく書庫で過ごすことにしようではないか。
緩やかに笑いかければ、バーナードさんは表情を和らげて案内してくれた。わっかりやすいなー。なんで私を遠ざける役目をバーナードさんにしたんだろう。ヒューズくんとかアンリの方が適役なんじゃ?
座り心地の良いソファーに腰掛け、まだ読んだことのない絵本を捲る。中庭の様子が少し気になったが、企画者たちの計画を無駄にはしたくなかったのでぐっと心を押さえ込んだ。
どんなお別れ会になるのか楽しみではあったが、その裏で申し訳なさが蠢いた。
(このままだと明日は帰れないって分かってるのに、なんか悪いなあ。規模が大きそうだから尚更罪悪感が沸くよ)
しかも、お別れ会を開いてもらっておいて「帰れませんでしたー」ってなると気まずくない? 事情を知らない人たちは送別ムード全開だろうし、送還の儀が失敗したって聞いたらさぞ戸惑うだろう。
果物を収穫している女の子の絵をぼんやり眺めながら、考える。
(──儀式のフリが始まるまでに、答えを出してくれるかな)
不真面目だけど憎めない。短い黒髪を真ん中で分けた、二重の黒いくっきりとした瞳のモモ。
真面目で実直優良株。枯葉色のピシリ決めたオールバックに、涼しげな淡いグリーンの瞳のヒューズくん。
毒舌辛辣人嫌い。茜色のおかっぱに、気だるげな青い三白眼を持つアンリ。
その三人の顔がフッと脳内に描かれ、相手が誰であっても悩むんだろうなと思った。
モモもヒューズくんもアンリも、それなりの親しみはあれど恋愛対象として見たことがない。そのため、いまいち実感が沸かないというか、急にそういう風に考えられないというか。
(なんかなー……今までそんな素振り全っ然なかったのに、こんなことになるなんて。あの三人の中に私の事を好きな人、本当にいるの?)
これで違っていたら私はとてつもない一人相撲をしていたことになる。しかも自意識過剰。もうね、すっごく恥ずかしい。
でもまあ、何回考え直してもやっぱりあの三人のうちの誰かなんだろうなという結論になるわけで。だって、私が左手の薬指に指輪をはめる意味を話したのは、リリーとエメリアとモモとヒューズくんとアンリの五人だけだもん。や、あの時のお茶会メンバーが他の人に言ってたら? うーん……。
思考回路がこんがらがってきた。もはや絵本の内容など頭に入ってこない。
考えても仕方のないことだと分かってはいるのだけれど、それでも脳が働くのは私が人間であるがゆえ。堂々巡りだわ。
頭をひねったり、絵本に集中したり、バーナードさんと他愛のないおしゃべりをしたり。
そんなことをしていると、十二時の鐘が鳴った。城の大時計塔は今日も元気そうだ。真に元気なのは、大時計塔の鐘を鳴らす人だが。
最後の音が鳴ると同時に、第五書庫にリリーとエメリアが訪ねてきた。二人ともすごくニコニコしていて、花が二輪咲いているかのようだった。琥珀色の瞳がキラキラ輝いている。
「ナデシコ様、こちらへいらっしゃってください!」
「私たちが両手を引きますから、目を閉じていてくださいね」
いよいよお迎えか、と思う間もなく、私は愛らしい姉妹に拉致された。バーナードさんが「私もあとから追いかけますんで、いってらっせえ!」と後ろから叫ぶ。
言われた通りに目を閉じ、目の前が真っ暗になって足元が怖かったが、それは最初だけだった。
どんどん大きくなる喧騒、両隣から聞こえるリリーとエメリアのはしゃぎ声、指先から伝わる温度──私の心は弾んでゆき、年甲斐もなくとてもワクワクしていて。
「着きましたよ。さあ、目を開けてください」
やがて歩みを制止され、エメリアが耳元で囁いた。肌で感じるくらいに賑わっていた声が水を打ったように静まり返り、少し緊張する。
そうっと瞼を持ち上げると、私の視界いっぱいに大勢の笑顔が飛び込んできた。そして、ワアーっ! と、歓声が一斉に沸き立つ。
「ナデシコ様ー!」
「ナデシコ様!」
「ナデシコ様ああ!」
私の名を呼ぶ温かな声。私を包む明るい笑顔。
(──ああ、私。どうしよう)
どうしようもなく、胸にこみ上げるものがあった。
……お別れではないはずなのに、明日の儀式はフリなのに、何故だか涙が零れた。私のために企画し、私のために準備をし、私のためにここに集ったこの人たちの気持ちがダイレクトに伝わってきて──言いようのないほど嬉しかった。
そう、これは嬉し涙なのだ。
何の力も権威もない、おまけでこちらに来たポチの友人。そんな役立たずの私によくしてくれている人たちの、その温かい気持ちが嬉しくて。嬉しくて嬉しくて。本当に嬉しくて。
──私はとても、幸せ者だ。
泣き顔を見られたくなくて両手で顔を覆った私に、今もって送り続けられる歓声と慰めの声。そういうことされると、余計に泣ける。
私がボロボロ涙を流すもんだから、リリーは抱きついてきて、エメリアはハンカチを差し出してきた。……二人とも、琥珀色のタレ目に涙を滲ませている。
(匂い袋、足りないや。持ってくるの忘れて良かったかも)
涙が引っ込んで思ったのは、そんな悠長なことだった。
*
「あー、此度は皆、明日異界の故郷へ帰るナデシコ殿のために、よくぞ集まってくれた。神獣エヴェニーの友人にして、我が国の賓客、ナデシコ殿。決して己の立場を驕らず、身分関係なく礼儀正しく人々へ接する姿は素晴らしかった。ナデシコ殿との別れは非常に残念だが、彼女にも帰る場所がある。我々は親愛と敬意を込め、ナデシコ殿を見送り、帰郷を祝おうではないか!」
シーバマメ神国の王様が開会の挨拶を行い、私のお別れ会が始まった。王様、一生懸命私のいいとこ捻り出してくれたんだろうな。ていうか、なかなか芝居上手じゃないの。
いつもお茶会で使っているものではない上等のテーブルに座らされ、私は赤くなった目を濡れタオルで冷やしていた。近くでリリーとエメリアが料理を取り分けたり、飲み物を用意してくれたりしている。
ポチは中庭を囲む神殿の屋根の上にぺたりと伏せ、じっとこちらを見守ってくれていた。私と一対一ではないとき、ポチは一線を引いたような態度を取る。「神獣」という立場のせいだろう。
「ほっほっ。ナデシコ様が涙されたのは、これが初めてですのう」
銀色の長衣を身に纏い、嗄れ声で話しかけてきたのは大神官だ。御年七十を超える、神殿のまとめ役。見た目は可愛いおじいちゃんで、孫のアンリとは似ても似つかない。
「大神官様……そうですね。そういえば、初めてですね」
こちらに来た日から今までを思い返すも、私が泣いた記憶は一つもない。
ポチに、リリーに、エメリアに、大神官に、王様に──たくさんの人に支えられ、涙が出るまで寂しいと、辛いと思うことはなくって。
(ああ、私、本当にいい人たちに会えたんだな)
未だに熱を帯びている目を細め、大神官に微笑んでみせる。
「……エヴェニー様と一緒にいらしたのがナデシコ様で良かった」
アンリとよく似た色の青い瞳がじっと私を見つめ、目元に皺を寄せた。大神官、ただでさえおじいちゃんなのに笑ったらもっとおじいちゃんだ。
「私もポチとこの国に来られてよかったです。大神官様が大神官様で良かったと思ってます」
穏やかな眼差しを真正面から受け止め、言葉を返す。大神官は更に顔を皺くちゃにして、ほっほっと笑った。
「嬉しいことを言ってくれますな。……ところで」
にゅっと、シワシワの顔を寄せてくる大神官。
「例の件は解決しましたかな?」
他の人には聞こえないような声で、耳打ちされる。ゆっくりと離れていった大神官は、いたずらっぽく瞳を光らせていた。大神官の言う「例の件」とは、十中八九私の帰還を妨げた人物の事だ。
「……いいえ。まだ」
声を潜めて言うと、大神官は「ふむ」と顎に手をやった。
「でも、動きはありました。多分、今日明日中には誰なのか分かるのではないかと思います。そこから先は、どうなるか分かりません」
「そうですか。……どんな結末になっても、わしらはナデシコ様を支えましょうぞ」
どこまでも澄んだ、優しい青の瞳。礼を述べると、大神官は小さく笑って人波に消えていった。きっと、職務に戻るのだろう。あの人は多忙だから。あ、あと王様も。
キョロキョロ王様の姿を探してみるが、どこにも見当たらない。エメリアに尋ねてみると、「王はご公務のため城へ戻られました」、とのこと。ですよねー。王様だもの。いやあ、申し訳ないわ。明日本当に帰れるか分からないのに来てもらうなんて。
「ナデシコ様。私、ラグのパイを焼いたんです。ナデシコ様お好きでしょう?」
香ばしい匂いが鼻をかすめる。リリーが私の前にパイの乗った小皿を置いた。酸味のある赤い果実を使ったパイは、リリーの言うように私の好物の一つである。
「わ、ありがとう」
そういえば、お腹がペコペコだ。さっきグズグズ泣いたもんだからエネルギー消費したし、今日はいっぱい食べられそう。
さっそくパイにかぶりつくと、エメリアがグラスを差し出してきた。
「ヘイルの果実茶です。これもお好きでしたよね」
あっさりとしていて、だけど仄かな甘みのあるフルーツティー。そう。私はこれも好きだ。
「うん。大好き。リリー、エメリア、ほんっとにありがとう」
咀嚼しながらテーブルを見渡せば、私の好物ばかりが並んでいて。
(……全部は食べきれなさそうだなー)
品数と量の多さに苦笑いが漏れたが、すぐにイイコトを思いついた。
「ねえ、リリーもエメリアも一緒に食べようよ」
私一人で食べきれないのなら、みんなで食べればいい。その方が楽しい。
「えっ! でも私たちは……」
「お付きなのでナデシコ様と共に食事をすることは」
お茶会の席にはついてくれるのに、ご飯は一緒に食べてくれない。二人を何度誘っても、「お付きだから」「身分が違うから」と断られ続けていた。
「お願い」
じっと、姉妹を交互に見つめる。撫子が明日帰ると信じている彼女たちからすれば、私に「お願い」されるのはこれが最後になる。優しい二人がそれを断れるだろうか。……私は卑怯だ。
リリーとエメリアはお互いに目配せをし、やがてエメリアが小さく息を吐いた。
「……今回だけですよ。少しだけですからね」
柔和に微笑むエメリア。
「! お姉さま」
向日葵のような笑顔になるリリー。
「へへっ。やったー」
丁度、私の両隣の席は空いている。さささっと椅子を下げ着席を促すと、リリーもエメリアも優雅な動作で座った。教育されてますなあ。
会場は飲めや歌えや、とにかくガヤガヤしていた。普段は堅苦しい神官や神殿騎士も、人が変わったようにはしゃいでいる。あんな姿見たことない。
お祭り騒ぎがしたいだけなんじゃないかと思ったが、けど、それでもいいかなって思う。私、みんなの笑った顔が好きだから。




