【ニ】
「ちょっ、芽衣! 苦しいって」
拓は気恥ずかしさからか、頬を赤らめてうなった。そこで芽衣ちゃんが拓から離れるのかと思いきや、にゅっと顔をさらに拓に近づける。それに拓は更に顔を赤くした。
「拓君、びっくりした?」
芽衣ちゃんは、悪戯が成功したことを心底喜んでいるようである。拓の立場を自分と桃に置き換えて、僕は心底拓に同情した。
「そろそろ離れてあげたら?」
僕の助け舟に、拓は安心したように息をはく。きっといまだに心臓がバクバクしていることだろう。拓が落ち着くのを待つ間に、芽衣ちゃんは持ってきたバックをがさがさと開けている。
「はい、お土産!」
と拓に差し出されたのは小さなノートだった。なぜノートを差し出したのだろうか。桃と二人で顔を見合わせて、拓達の手元を覗き込む。よくよくみれば、それは分厚い表紙をしていてアルバムと書かれている。
「拓君に、あの時渡せなかった写真いっぱい集めて作ったの」
「ありがとう」
お礼を言って拓はとても大切そうにそのアルバムを受け取った。
「ねぇ、開けて見て」
にこにこと笑顔を絶やさない芽衣ちゃんの申し出に、拓が断れるはずがない。僕と桃のことを気にしつつも、拓はそのアルバムを開いた。
どうやら拓と芽衣ちゃんとの縁は、入学式以前から続いているらしい。一緒に並んだ入学式の写真から始まって、運動会や遠足、誕生会の写真まである。そしてページの最後には芽衣ちゃんと拓達のクラスメイトとの集合写真と、芽衣ちゃんの新しい学校だろうかそこで取られた集合写真が並んで張られていた。
自分の写った写真はともかくとして、拓はもう一枚を複雑そうに見つめている。確かに自分のいないところで、芽衣ちゃんが楽しそうにしているのは複雑だよなぁ。
だが動揺していたのは拓だけではなかったらしい。僕の隣で、「嘘……」と桃が驚いたようにつぶやいたのが聞こえた。桃の方を見やれば、顔を真っ青にしてガタガタと震えている。
「桃、大丈夫か?」
桃の肩に優しく触れれば、桃の身体はそのまま力なくその場に崩れ落ちた。カウンターから心配した司さんが飛び出してくる。桃は司さんに身体を預けるとそのまま意識を手放した。