表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色彩ハ唄‐いろはうた‐  作者: 黒崎メグ
思い照らすは黄
16/23

【三】

 まさか、家出ってことはないよな。

 この辺りは駅を挟んで西に伸びる通りに、ビジネスビルや雑居ビルが集約されてはいるが、東に十数分歩けば昔ながらの住宅街だ。少女が親戚の家に訪ねて来たなら、彼女はもちろん僕らと反対側に向かうはずなのだ。だからここにいるわけがない。

 なにより駅の西は、通りが一本違うだけでも、ビジネス街になったり飲食街になったりと、雰囲気が一変してしまう。もちろんその中にはゲームセンターや漫画喫茶といった二十四時間営業の店も多いから、うまく事を運べば恰好の隠れ家となる。

 あの子の手にしているメモは、そうした店の地図なのかもしれない。そこまで考えて僕は、大きく息を吐いた。

 このまま放っておく訳にもいかないよな。

 何より僕の連れは、そういったことを放っておけない性質なのだ。

 僕は、ちらりっと桃の様子を窺った。案の定桃は、少女の様子が気になったのか「ちょっと声かけてくるね」と言って、早足に陰を出る。

「ちょっと待てって、桃」

 止める間もなく、僕も慌てて陰を出た。アスファルトの吸収した熱が、再び足元から僕らの肌を焼く。じわりと嫌な感じに僕は眉を寄せたが、桃はそれを気にした素振りは見せず、よく通る声で少女の名を呼んだ。

「芽衣ちゃん!」

 その声に少女は、突然のことに身を強張らせた。だがそれも一瞬で、こちらに向けた瞳が僕らを捉えると、表情が緩む。辛うじて紡ぎだされた声も、安堵の色がにじみ出ている。

「桃先輩……」

「久しぶりだね、芽衣ちゃん」

 再度名を呼ばれ、今度は少女の表情が歪んだのがわかった。安心を通り越して、今まで抑え込んでいた不安が押し寄せてきたのだろう。まるで泣くのを堪えているような表情だ。

 それを察した桃は、彼女の背をあやすように撫でてやる。

「大丈夫?」

「うう、桃先輩どうしよう」

「どうしようって何があったの? 見たところ大きな荷持つも持っているし、まさか家出じゃないよね」

「……」

 少女は答えにくそうに、手元の紙に視線を落とした。釣られて僕が目をやると、やはりそれはどこかを示した地図だった。それも随分大雑把で、お世辞にもきれいとは言いがたい。駅を中心に伸びた線が通りを表しているのはわかる。そしてところどころに四角い枠組がなされ、ゲームセンターやらコンビニやら書き込みがなされている。

「あれ? この字……」

 どこかで見たことあるような――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ