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プロローグ
「何ていう本ですか?」
立花雪音は、図書準備室で本を読んでいるところだった。
図書準備室は、貸し出しカウンターの奥にある。
あまり人が来ないから、誰かが来たことに気づかなかった。
顔を上げると、そばに生徒が立っていた。
「二年五組の中谷大地です。二学期から図書局に入りました。よろしくお願いします」
雪音は驚いた。
この学校は私立の進学校だ。放課後には講習があり、講習が終わればもう夜の7時を過ぎる。
そこから部活に行くのは、体力的にも精神的にもきつい。入るのは自由だったが、あまり精力的な活動はしていなかった。
ましてや新聞局や図書局などはなおさらだ。
「え?」
思わず雪音は聞き返した。
「あれ? 立花先生ですよね? 司書教諭の」
「そうだけど……」
「あぁ間違えたかと思った。もう一度言いますね。二年五組の中谷大地です。二学期から図書局入りました。よろしくお願いします」
そう言って、その生徒は軽く頭を下げた後、雪音を見て柔らかくほほえんだ。