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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

人間というものは

掲載日:2026/03/22

 各種設定はまったく練り込んでおりませんので色々ご都合主義です。説明も不足していますので、雰囲気で読んでいただけると幸いです。

 R15は内容が内容なので保険でつけています。

「申し訳ないのですが、貴殿が我が国に入国する場合は去勢していただくことになります。よろしいでしょうか?」


 突然言われたその言葉に、言われた王のみならず、その周りに侍る側近達の顔色が変わる。


「は? ……き、聞き間違えだろうか? 去勢……と聞こえたのだが」

「いいえ、去勢で合っております」


 隣国の王太子という地位に付く者から放たれたとは思えない非現実的な内容とその冷静な様に、王はしばし絶句した。


 ここは隣国との国境の堺。隣国へ入る際の入国審査が行われる場所だ。隣国を越えた先にある国で行われる国際会議に参加するため、王侯貴族である王と王妃、及びその側近達は、一般とは異なる貴賓室でその審査を受けていた。

 とはいえ、大した手続きではない。部屋の中央に設置された台座の上にある、透明な水晶のようなものに触れるだけだ。それだけで問題なしとされて通り抜けられるはずだった。

 だというのに、王が触った途端に立ち会っていた文官達の眉が顰められたかと思えば、「少々お待ち下さい」という言葉の後、別途立ち会っていた隣国の王太子を呼び寄せ、何らかの確認作業の後にあの言葉が放たれたのだ。


「な……何を一体。貴国に何故そのようなことを決める権利があるというのだ、失礼であろう! いや、失礼という度を超している!!」


 冗談――だったとしても許されるものではないが――どころか、本気でそう言っているのだと理解した王は激昂した。

 それはそうだろう。王という立場からして自国でもありえないようなその言葉を、なぜ隣国のものから言われなければならないのか。内政干渉と捉えられても仕方のない内容だ。

 だというのに、隣国の王太子は不思議そうに首を傾げる。


「では、なぜ我が国にいらしたのでしょうか? 入国しようとするからにはご承知の上かと考えておりましたが」

「ご、ご承知だと!? そんなことを承知して入国しようとする者がいてたまるか! 巫山戯ておるのか!?」


 その、まるで王の方が常識を外れていると言わんばかりの態度を取られ、常識外の対応を取られた王は更に怒りを増すが、対して隣国の者たちは揃って冷静な――悪い言い方をすれば白けた――目で見るばかりだ。一国の王を馬鹿にした態度を目の当たりにしたことで更に頭へ血が上り、言ってはならない言葉が口から出そうになったところで。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。我が国の陛下は……いえ、それ以外の者も、私以外は本当に貴国の規則を把握していないのでしょう」


 という言葉が斜め後ろから聞こえてきて、王は勢いよくそちらを振り返った。

 そこにいたのは声から想像した通り正妃であった。一様に怒りや戸惑いを浮かべる側近たちとは異なり、唯一冷静な、もっと言うなら隣国の者たちと同じ表情をしている。


「西側ではなく、貴国へ向かった時点でおかしいと思うべきでしたが、馬車が別でしたのでお止めすることも、説明することもできず……」

「なるほど、そういうことでしたか。隣とはいえ山脈に隔てられておりますから交流も頻繁ではありませんから……規則のことを把握されていないということもまぁ……あるのでしょう」


 当たり前のように会話が進むことにざわざわという「規則?」「規則とはなんだ?」「何があるというのだ」という戸惑いの声が立ち上がり始めた。その声を聞いた王妃と隣国の王太子との目線が合い、お互い僅かに頷きあった後双方の視線が王に向かう。

 温度のないその目線にさらされ、王は内心びくりと震えた。頭に上がっていた血は下がったようだと判断した隣国の王太子は、「では、改めてご説明いたします。よろしいでしょうか」という言葉に続いて事情の説明を開始した。


「我が国は、人間であっても突き詰めれば動物である、という考えで成り立っております」

「ど、動物……? 人間が……?」

「はい。動物である……つまり、本能で自分のしたいことをし、されたくないことに逆らう者、ということです」

「いや、動物であってもある程度秩序があると思うが……」


 どこかから思わず漏れた、というような声に隣国の王太子は頷く。


「えぇ。ですが、その秩序は我らから見て満足の行くものでしょうか?」

「それは……なんとも……」

「でしょう。ですが、我が国は長年考慮した結果、人間も結局はその程度……根本は動物と同じなのだと結論づけました」


 そこで、先程の漏らした声と同じ人物らしき「そ、そんな乱暴な……」という声が明確に聞こえた。が、それ以外はうめき声のみ。あまりの暴論に理解することを拒絶しているのだろう。隣国の王太子はそれを気に留ないまま続ける。


「では、何を持って人とするか。我が国では、自分の判断に理性を持ち、行動に責任を持つ者が人である、と定義しています」


 ここまではよろしいでしょうか。そう言って一旦言葉を区切った隣国の王太子に、王は目を瞬かせる。だからなんだというのか。


「…………それが、去勢となんの関係があるというのだ」


 王の口からようやく出たその言葉に、隣国の王太子は一瞬王から目線をそらした。先程までの温度がないものではなく、どこか哀れみのようなものであったがすぐにまた戻され、再び温度が消失する。

 その先に王妃がいることを王はなんとなく察したが、その意味を考える余裕はない。


「我が国では、責任を持てないものはその点において人ではなく動物であると判断し、動物と同じ対処を行います」

「動物と、同じ……? まさか、そなたは私が動物と同じだと言っておるのか……!」

「はい。もちろん根拠は存在しています。記録により、我が国にはほぼ確定で貴殿の子供であるという肉体、および魔力の特徴を持つ子が十人ほどいることを確認しております。うち四人は死産及び中絶を含む死亡となっておりますが、六名は我が国にて生活しております」

「は!?」

「ちなみに仕組みは貴国の血縁証明と同じ方法です。間違いはないと考えていただいてよろしいかと」


 また勢いよく上がろうとしていた血が一気に下る。十人の子。しかも六人生まれていて四人がすでにこの世にいないというその言葉の、どこに反応すればよいのか分からない。


「ど、どういうことだ」

「おや、思い当たる節がないということでしょうか? 記録によれば全てにおいてそうだというわけではなさそうですが」

「お……思い当たる節などあるわけがなかろう!」

「そうなのですか。ですが、お子の肉体、魔力の証拠に加えて、母体となった方に対しては思考能力を奪った状態での自白魔術による証拠も取っておりますので、我が国としては判断に不足はないと認識しております」


 隣国の王太子があっさりと口にした内容は、受け止めるにはあまりに重い。思考能力を奪った状態で自白魔法をかけられた場合、その人物は聞かれた事に対してただ記憶を吐き出すだけの人形と化す。

 そこらの悪党ならばともかく、国家として堂々と実行しているなど、通常は口に出せない非情の手段なのだ。


「そ、そんなことまでして……?」

「判断する内容が内容ですので、間違いがあっては困りますから。もちろん了解を取って行いますし、尋問内容は熟考します。当人の記憶から尋問内容は消しますし、人員にも配慮しますよ」

「記憶は消える? では、尋問される側は何もされていないのと同様ではないか!」

「…………皆、どのような経緯でそうなったのか記録されるということを理解した上で希望しているのですがね。まぁ、貴殿はそれを覚悟をしてでも申し出た人物が十人はいた、ということだけ理解いただけるとよろしいかと」

「ぐ……っ!」

「逆に、把握しておられないことこそ無責任だと我が国は判断します。貴殿の記録は我が国ではかなり酷い部類に入っておりますよ。最初の記録は貴国の平民となっておりますね。計算からすると貴殿が十……」

「や、や、や、やめよ! そんな事実は無い! 無いのだ!!」


 思い当たる節はもちろんあるものの、今は後ろに王妃がいるという現状からそれを誤魔化そうと声をはりあげる。だが、そんな王の虚しい努力を嘲笑うかのようにその王妃が口を開いた。


「否定なさらなくても把握しておりますわ。十六のころから始まった火遊びで出来たのでしょう? 飽きたら後も確認せず捨ててしまうからそうなるのです。とはいえ、それから二十年以上飽きもせず続けているのに、十人が妥当なのか否かは分かりませんが……」

「皆が我が国に来るわけではありませんので……十人は確実、というところですね」

「は……え……」


 会話の通り、王は十六の頃から王妃とは異なる女性と火遊びを繰り返していた。平民、下位貴族、庶子など権力で問題なく処理できる者ならば、目をつけては手を出し、飽いたら捨てていた。気づけばいなくなっていた者もいた気はするが、気にしたことはなかった。変わりはいくらでもいたからだ。

 当時婚約者だった王妃は気付いていなかったから気にしてすらいなかった。いや、当時ならば、気付いていたとしても最終的に正妃とすることは決まっていたのだから関係ない、と判断していたことだろうが。


「だが、そんな話は聞いたことがなかったぞ! 孕んだ時はしっかり対処もし……いや、違うこれは」

「なるほど、本当に最低十人だったということですね」

「ええ。ご迷惑をおかけして。陛下、お隠しにならなくても結構ですよ。それも把握しておりますから」

「……」


 あまりに冷静な隣国側と王妃、そして冷静ではないそれ以外。王を始め、冷静でない者たちの背中を気持ちの悪い冷や汗が伝う。


「さて、我が国における規則の説明に戻ります。我が国においては、十人の子を把握できなかった貴殿は無責任に種を撒き散らした者と判断します。そして、その点において責任を持つことができない者は人ではない……すなわち動物だ、と判断するのです」

「動物……だと……」


 あまりの言われように、王の口から思わずといったように声が漏れた。それを同意と受け取った――かのように振る舞って――王太子は一つ頷く。


「はい。それゆえ、貴殿が種を持った状態で我が国に入った場合、さらに無責任な種を巻く恐れがある、と判断いたします。我が国はそれを許容できませんので、入国されるならば去勢していただく必要があるということです」

「そんな馬鹿な! いくらなんでもそんな予想だけで去勢されてはたまらぬ!」

「では、なぜ我が国を通過しようとなさったのですか? 基本的に他国の王侯貴族は誰しもおいそれと我が国に入ろうとはしないものですよ。それもいかがかと思うのですが……」

「そ、それは……」


 去勢のことを知らなかったから。そう言おうと思ったが、別の思惑があったことも確かでつい口ごもってしまった。

 もっともらしき理由はこれだ。王都からこの隣国方面へ向かう場合、険しい山脈を越えるか避ける必要がある。だが、一部山脈が途切れているこの場所だけは容易に行き来が可能なのだ。目的地までは隣国を通れば余裕を取って五日程度、避ければ問題がなくても二週間程度。いくらなんでも時間の無駄だ。

 だが、それだけでは到底説明の出来ない矛盾がある。それをどう誤魔化そうと悩むか悩まないかのところで、王妃が口を開く。


「そうですわね。貴国を通過するというのに日程は二週間近くとられています。観光や他国の視察も兼ねてとおっしゃっておられましたが、恐らく貴国の花の時期においてもっとも奔放と言われる地域が旅程に組み込まれているのでしょう」

「であれば、余計に去勢なしで入国を認めるわけにはいきませんね」


 そう。隣国はこの時期、花の時期と呼ばれる期間の真っ最中である。花の時期とは隣国特有の期間で、特定の地域では行きずりの男女であっても子をなす行為が可能であるという。

 王とその側近はまさにそれを目的として日程を組んだのだ。王妃がいる点については、別行動などして誤魔化す予定であった。


「な……なぜだ! そんな花の時期などという破廉恥な時期を作っておきながら、なぜ私には厳しいのだ! そんな時期があるのであれば、貴国の中にも私程度の者はおろう!」


 痛いところを突かれた王の叫びに、再び王妃と隣国の王太子との目線が合う。旅程にあることは否定しないんですね、お疲れ様です。いえいえ、ご迷惑を。お互いの頭に声なき声が聞こえる。


「繰り返しますが、人間は所詮動物なのです。性行為をしたいだけ、子供を産ませたいだけ、子供を産みたいだけ、子供を生み育てたいだけ。責任は放棄しても、されても、それをしたいという者は少なからずいるのです」


 そして続いた隣国の王太子の言葉に、王は絶句した。


「それを放っておくと犯罪をしだす輩もいますので、試験的に発散できる場を設けているのです。もちろん、規則に乗っ取らなければ罰則があると承知の上で参加するように、とは周知しておりますよ」

「罰則……」

「子供が出来てしまった場合、中絶、出産関わらず責任を取らなければ罰則、ということです。男女関わりなくですよ。程度にもよりますが、最高五人の責任を取らなければ去勢、もしくは避妊ですね」

「最高で五……!?」


 思ったより低い数字に王は絶句する。では、十人の自分は何なのだ。


「えぇ。その場合、犠牲となるのはなんの関係もない子供ですから。育てる者がいないと判断した子は国が面倒を見ます。育てる能力が不足している場合でも、その分を国が補助します。しかし、そればかりになってしまっては国の財源が破綻してしまう。ならば、作る元を制限するまでです」

「……」

「ちなみに、貴殿の場合はなんの助力も得られない状態で貴国から逃げて来た方がほとんどですので、国の補助は大小の差はあれ全ての方が利用しておりますね。故に、時期的には二十歳より随分前からすでに去勢の対象となっておられます」

「…………」

「逆に、よくここまで把握されていなかったものですね……」


 王は絶句した。本当に、何も知らなかったのだ。子供がそんなに出来ていたことも、この隣国のことも。唯一、父がこの国には近づくな、と言っていたことがあったように思う。だが、それ以外は記憶をどれだけ辿ったところで何も出てこなかった。

 そんな王を置いてきぼりにして、王妃と隣国の王太子が会話を続ける。

 

「それは前陛下による配慮と思われます。思い返せば、貴国側に来るような行事はすべて対応しておられましたわ」

「確かに……少し前に代替わりされておりましたね。とはいえ、喪が明けていくらか経っていると記憶しておりますが」

「はい。その後もこちら側に関する行事があれば私や他のものが対応しておりました。が、今回思い立ったかのように参加を表明されまして」

「!? いや、まて、ちが」

「出発する日から考えて、こちらを避けて西側を抜けるのだと思っていたのです。その割には少々日程が厳しいとは思っておりました……」


 そこで、とうとう王妃が耐えきれなかった、と言わんばかりにふぅ、と小さく息を吐く。

 

「今回の旅程は王とその周囲で計画されており共有されることはなかったのですが、先程そういえば花の時期であったということに思い当たって、あぁなるほどと思いましたわ……」

「なるほど。把握いたしました……」


 もはや、王の口からはなんの言葉も出なかった。何も知らないはずの王妃から花の時期、などという言葉が出た時点で察するべきだったのに、自らそれに反応してしまった時点でどう反論すべきか思いつけず、ただ口を開けては閉めるだけ。その後ろにいる側近たちも、目線をさまよわせているか口を開けては閉めるだけ。

 会話を続ける気力を有しているのは、もはや王妃と隣国の王太子だけであった。

 

「一応、去勢せずとも国に入ることはできますよ。ただし、その場合檻に入っていただいて最短で抜けていただくことになりますが」

「まぁ、徹底しておりますわね」

「ちなみに、脱走した場合は捕獲する必要がありますので周知させるために檻は囲いをせず公開させていただきます。そして万が一隙間から出たりしないよう、枷もつけさせていだだくことになります」

「本当に徹底して人扱いをされない方針なのですね」

「そこまでして我が国に入りたいという方はいらっしゃらないので、今まで実施したことはありませんが……」


 そこで、王妃と隣国の王太子の目線がぐるりと王を突き刺した。そこで隣国の王太子が初めて満面の笑みを浮かべる。


「貴殿は、どうされますか?」


 そこからの行動は早かった。王は「失礼する! 皆、引き上げよ! 西側を通って目的地へ向かう!」と号令を出すと、皆速やかに出立の準備を進め始めた。

 その中で、王妃だけはゆったりと隣国の王太子に礼を取り、王太子もまたそれに答える。

 結局、余裕を取りに取った二週間を全て使って何とか国際会議には間に合った。そこまで隣国をどう潰してやろうかと練りに練りながら会議に参加しようとしたところで隣国の国王と顔を合わせ、再び頭から血を下げる事になったのは仕方のないことだったのだろう。

 そんな中、無理な日程となり野宿も覚悟したいうのに、何故か行く先々で宿が見つかり想定よりも消耗しなかったことだけが不幸中の幸いであった。

 

 それを始め、他のあらゆることが王妃の密やかな配慮であったことを王が把握することは、短い在位の間どころか、その生涯が終わるまでなかったという。

 XのおすすめTLでよく目に付く論争を見ていて、なんとなく思いついたものを垂れ流しました。可愛い動物をひたすらいいねしていれば、こうはならなかったと思います。


 一応補足として、隣国は色々な人材を(非正規も含めて)取り込んでいることと、各種国家許すまじという恨みを持つ人々のもと教育機関が整っている下剋上(ただし理性は必須なので襲ってきたら叩き潰す)精神を持つこともあり、やすやすと侵略できない力を持っている、という設定です。ついでに山脈に国境の大半を囲まれていることにより、天然の要塞でもあります。

 王妃は、隣国に行った時点で血縁は切れる(子供へ血縁証明を取れなくする処置を施される)ことを知っていたため、隣国に行った者は見逃していました。なんなら隣国へ逃がした者もいました。

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