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閑職のエリアル  作者: stenn


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2/8

日常1

1と2が反対になってました・・・申し訳ありませんでした・・・

「ちよっとっ。私の話を聞いてるのかしら?」


 金切声と言える声に私はパッと意識を取り戻していた。……手元にあるメモ用紙は白い。どう見ても白い。何なら涎の後迄付いている。証拠隠滅と考えてごしごしとして見るが紙が痛んだだけだ。


 いや、寝てないし、少し意識飛ばしてただけだし。と考えながら完璧に笑顔を整えて『聞いてくますよ―』という顔を浮かべて見せる。


 ……全く通じていなさそうな高齢のご婦人が私を睨みつけているのはきっと気のせいだ。


「はい。聞いてございますよ? お嫁様が――ですよね?」


 少し誤魔化して言うと『あら、聞いてるじゃないの』と付け加えてさらに話し出す。その様子を笑顔を張り付けながら私は眺めていた。


 聞いていたわけではない。


 まいにち、まいにち。まいにち。


 同じ話題で愚痴に来るの止めてもらえませんかねぇ。しかもコーヒー一杯で。お嫁さんの悪口を。私たちにどうしろと。


 営業妨害なんですけど。と声を大にしていいたい。 本当は机を叩きたい気分だし途中意識を飛ばさないとやってらんない。


 言えないのはまぁ簡単で。此処が公的機関。国民さまの税金で食べている機関だからであったりする。そうだよねー。お客様の声には逆らえないよねー。ただし、私たちはこの喫茶店の収支だけで生きてますが何か? 


 もはやオーナーが国というだけで。


 え。おかしくない? なにかおかしい様な。


 上司に伝えたところで肩たたきという憂いに会うので言わないけれども。何のために難関試験を受けたと……。


 はははは、はぁ。心で乾ききった声を漏らしながら冷たくなった紅茶を仰いだ。そのタイミングで、私の隣に影が差し、女性が僅かに顔を上げる。それにつられて私も顔を上げていた。


「あら?」


「ご婦人その辺にしてやってはいただけませんか?」


 にっこりと柔らかく微笑みながら私の横に立ったのは青年だった。何処か寒々しい水色の双眸。青銅色の長い髪は一まとめにされて背中で三つ編みになっている。服装はラフでシャツにエプロンと言った出で立ちだった。その手袋に包まれた手にはお代わりに持ってきたのだろう。ポットが持たれている。


 すうっと切れ長の目。形のいい薄い唇。美しい面差しは女性か男性かは顔だけ見れば判別付かないが、ペタンとした胸とスラリとした長身に何処か筋肉質な腕は男性であることを確信させる。


 まぁ。雰囲気は儚く消えてしまいそうな未亡人なんだけれども。


 きゃあ。と俄かに他のお客さんが色めき立っているのが聞こえた。――男女問わず。それは先ほどまで愚痴を言っていたご婦人も頬を染めてぽかんと見つめている。


 魔性かな?


 いや。魔性だったわ。確か学生の頃は――いや。そんな場合ではなくて。私は帰れと言わんばかりに彼――ザイールを見上げた。


「あのぅ先輩。申し訳ありませんが仕事になりませんので」


 先輩――ザイール・ロウは普段調理を担当してもらっている。基本ホールに立つと誰もが浮足立つし、相談に乗るなんてもっての外。本人ぼんやりしているから危機意識なんてどこかに飛んでいる。気が付いたらお持ち帰りされそうになった事も……え。幼児?


 学生時代からこの三歳年上の保護者してるのは何故だろう。そして社会人になってまでどうして同じ職場なのか……。いや。ここでは私が先輩で――ややこしいなぁ。


 それにしても昔から私がストーカーか何かのように言われるけど、私は何もしてないから。


「そうですか?」


 心配そうに眉尻を落とした先輩は儚い。


「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。とても興味深いお話だったので」


 あえて、興味深いを強調する。ちらりとご婦人を見るが聞いちゃいない。何なら私の存在なんて忘れ去っていそうな『恋する乙女』の目になっている。『あと何年若ければ――』とか考えていそう。


 うーん。旦那様はどうするつもりなのだろうか。


 あ。我に返ったようだ。再起動して先輩を見た。その頬を紅潮させたまま。


「ふふふふ。そうそう。どうせならおばちゃんの話を美人のお兄さんも聞いていきなさいよ。私の若い頃は――」


 いや、まって。そこから? 嫁の話しはどこへ?


 そう言えばお昼ご飯食べてなかったなぁ。などと現実逃避するしかない。取り合えず聞き流しながら適当に本日の報告書を書くことにした。私の事は気にも留めないだろう。


 先輩はちゃっかり私の隣に座ってニコニコとご婦人の話を聞いている。


 ……聞いているのかな。あれ。


「そう言えば、貴方の宝石は何色なのかしら?」


 ふと聞こえた声に私は顔を上げていた。


 この国の習慣として、身体に『魔法石』を埋め込むというものがある。一般に宝石と呼ばれるそれは人間が魔法を使えるようにと今は昔――竜と呼ばれる種族が授けたとされているが魔法なんて往々にして市民が使えることはない。何故なら現在市民向けに使われているものはただの色付き石だから。宝石とは呼ばれるけれど、宝石に満たない屑石が使用される。


 ちなみに宝石の色で人の心の綺麗さが云々かんぬん……。そんな分けはない。赤ん坊の頃に埋め込まれるそれは両親によって色が決められるのだから。


 ちなみに私は暗い藍色。それだったら私の心は真っ暗では? 両親曰く、母方のおじいちゃんの目の色らしい。どんだけ空かれていたんだ。二人して『綺麗よねぇ』とニコニコしていた。


 ……。


 付け替えたいと思っても、この宝石子供の頃埋め込んだら一生とることは不可能ってどういう事よ。とったら死ぬからと良い笑顔で両親に言われた。まぁ、とっている人を実際見たことないし、とる必要を感じないけども。


 恐らく『とるなよ』という脅しなのだろう。親が幸せを願って子供に大枚をはたいてつけるものだから。


「僕はこの目と同じ色なんですよ。このエリアル――リッチさんは紺でしたよね?」


 ついでにエリアル・リッチが私の名前だ。


「あら綺麗ね。私は赤なのよ」


 言いながら手首を見せれば五ミリ程度の宝石が手首で輝いていた。


 人によって埋め込まれているところは違う。先輩のは知らないけれど、私は――。


 ん?


 は?


「なぜ知っているんですか?」


 胸元にある。暗すぎる紺なのでもはや黒子……じゃなく。私そんなことを言った覚えは無い。じろりと睨みつければきょとんとした顔を浮かべている。


 少し考えて。ああ。と声を上げた。


「昔聞きましたよ。実際に僕は見たことはないけど。見せてくれるの?」


 ……。


 おおぅ。なるほど。言ったのか。いった、のか? 私。記憶にございませんが。とんとんと胸を指すしぐさで何処にあるのかも言ったらしい。


 ああ。ううう。


 思わず自分を抱きしめるようにして身体をずらしていた。『いやです』と口をパクパクさせる。楽しそうに笑わないでほしい。


 なんか……悔しい。あれは素だし。だいたい保護者は私だったのに。悔しい。持っていたペンがぎりぎりと音を立てた。


こういう時の耐性がないことが悲しい。


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