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9 休ませてあげます

私は混乱した頭で、夕陽の海を見つめていた。


驚いたせいか、体内時計もしっかり狂ってしまった。


適応障害と診断されてから時間の感覚が鈍くなっている。


もうそんな時間?

まだそんな時間?

これが頻繁にある。


どのくらいここにいるのかわからなくなってきていた。


混乱していることは確かだが、不安や恐れは全くない。

何故かとても心地いい。


私はお酒は飲めないが、酔っ払うというのはこんな感じなのだろうか?


ぼーっとしている間に夕陽は沈み、辺りは暗くなってきていた。


ハーモニカの音色がメロディーではなく、風の音に紛れて消えゆくような直線の細い音色になっていることに気がついた。


暗くてまわりがよく見えなくなっている。

気がつくとハーモニカの音と同時に老人も消えてしまった。


えっ!

あの老人はどこにいったんだ。

どういう事?


これは幻聴だけではなく、幻覚も出てきているんだ。それ以外に考えられない。


明日、また心療内科に行って担当医に状況を聞いてもらわなければ...


自分だけでは状況を処理できない。

何かの声を聞いたことも正直に話してみよう。


適切な薬を出してもらわなければならない。

今日はこれ以上考えない方がいい。


不思議な時間だったが、味わったことのない快感でもあった。

足取りは決して重たくはなかった。


部屋に戻ってベッドに横になり、目を瞑って海岸での出来事を思い返す。

頭を整理したい。


幻聴や幻覚まで出てきているとすれば、かなり重症なのかも知れない。


適応障害だけではないような気がしてきた。

私は現実と妄想の区別ができなくなってしまうのだろうか?


砂浜での安らぎは少しずつ消えてしまい、また不安が一気に押し寄せてきた。


あの老人もあのハーモニカの音色も、そしてあの

「休ませてあげます」

というあの声もすべて現実ではなかったのだろうか?


...冷静になるんだ...


ひょっとすると電車に乗って海まで行ったことも現実ではなかったのだろうか...?

自信がなくなってきた。

こんなことまで疑って考えるようになっている...


玄関に行って靴を見つめた。

恐る恐る底のあたりを見る。


手で触ってみた。


確かに砂浜の砂がついている。海に行ったことは現実だ。

それは間違いない。


こんなことまで本気で確認しなければならないなんて...


自分が壊れていく恐怖が忍び寄ってきていた。

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