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3戦友との別れ

ごめんね。

赦してね。

別れを告げた。


震える右手でハンマーを握りしめ、黒光りしている画面を見つめていた。


迷う気持ちを振り切って、もう一度自分の覚悟を確認した。


ゆっくりハンマーを握った右手を耳の後ろまで振り上げて、画面の真ん中を狙って一気に振り下ろした。


タブレットはまな板の生きている魚のように大きく飛び跳ねて、痛みを感じたような尖った悲鳴を放った。


でも画面は割れない。

「考え直して!」と言っているように横たわっている。


やるんだ。

やるんだ!


しっかりハンマーを握り直してもう一度強く振り下ろした。


ガシャッという音がして画面に大きくひびが入った。

一瞬そのひびから血が出てくるような気がして恐ろしくなってしまう。


やってしまった。

急いで次の一撃を加えた。

早く息の根を止めてやらないと苦しんでしまう。

可哀想すぎる。


このタブレットには異常なほどの強い思い入れがあったのだ。

背面にはクッションを兼ねた柔らかい素材のシールを貼ってあげて大切にしていた。

私に尽くしてくれていた愛着のあるタブレットだった。

夜中にこのタブレットの前で何度も泣いたこともある。

そんな私を見守ってくれていた友達だった。


震えながら続けて4発目、5発目...


今まで愛用していたタブレットが悲しいくらい無惨な姿に変わっていく...

ごめんね...

心が痛い。


でもやり遂げるんだ。

もう引き返せない。


10回以上振り下ろしたと思う。

小さなかけらが飛びちって、取り返しのつかない行為が何枚もの静止画像となって目に焼き付いてゆく。

私の脳裏から簡単には消えてくれないだろう。


顔がこわばっているのが自分でよくわかる。

ここで一息入れてはいけない。

まだやり切ってはいない。

気が変わってしまうチャンスを締め出すんだ!


この勢いでスマホを取り出した。

バックアップも何もしていない。


連絡先もパスワードも何もかもわからなくなる。

それでいい。

それが目的なんだ。


ハンマーを握りしめる。

大きく息を吸い、スマホの真ん中を狙って目を瞑って打ち下ろした。

1発、2発、3発、

ハンマーを握る右手が石のように固まってきた。


目を開けると耐えられないほどの無惨な光景。

自分は何をやっているんだという気持ちが頭を擡げるがそのまましっかり目を見開いて打ち続けた。


涙が溢れて、声が漏れてくる...

ハンマーを握った右手の力が抜けない。


彼らを売ってお金に換えたくはなかった。

私にとっては大切な戦友だったのだ。


それにそのお金でまた買ってしまう誘惑に勝てそうにない。

私の心が完治するまで新しい戦友はいらない。


私は破壊を選択したのだ。

後悔はないはずだ。


目の前の彼らの残骸を見ると、声にならない言葉が漏れた。


「私は自分の心を自分で守らなければならない時なんだ...ごめんね...」


ぐちゃぐちゃになった彼らの死骸をひとかけらも残らず丁寧に新品の白い綿の袋に入れて鞄にいれた。


戦友をこのまま燃えるゴミなんかに出すわけにはいかないんだ。

白い袋のまま実家の庭に埋葬することに決めていた。


計画通りの儀式は終わった。


これでいいんだ。

元の自分に戻るんだ。

元気だったあの頃に絶対戻るんだ。


夕陽が沈んで薄暗くなった海を見ながら計画通りやり遂げたことに安堵していた。


涙は止まらなかったが、確かに肩にのしかかっていた重りのようなものが少し軽くなっていた。


これでもう誰とも連絡は取れなくなったがこれでいい。


古い命綱に別れを告げた。

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― 新着の感想 ―
一度壊れてしまうと、時間共々取り戻すのに時間かかりそうですね・・・
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