2 自分を取り戻すんだ!
自分の心が限界を超えるほど擦り切れていたことに気がついていなかったことが悔やまれる。
今更こんなことを考えていてもしょうがないが...
自分を取り戻すんだ!
内側から自分の叫びが聞こえてくる...
改札を抜けて階段を降りると目の前に綺麗な砂浜と夕暮れの輝く海が広がっていた。
秋の海はこんなにも気持ちいいんだ。
知らなかった。
時々この海岸に来て、ひとりで静かに海を見つめる時を持っていたら、こうはならなかったはずだ。
海を見るのは本当に久しぶり。
心が洗われてゆく...
水が液体の状態でいられるのは宇宙の常識から言えば奇跡だと聞いたことがある。
今、私はこんな大きな奇跡の前にいるんだ。
人影のない海岸...
遠くから子供の声が聞こえている。
かなり離れているのに楽しそうにはしゃぐ澄んだ音色が耳の奥まで沁み込んでくる。
屈託のない少女達の笑い声が心に沁みる。
彼女たちの澄んだ声を聞いていると、本当の自分だった頃にタイムスリップしていくようだ。
こういう落ち着いた時間が私には必要だったのだ。
気がつくのがあまりにも遅すぎた。
靴を脱いで裸足になると、足裏の感触が生きている実感を与えてくれる。
生まれたてのウミガメのように私は海に向かって早足で歩いてゆく。
砂浜から30センチほどの段差の防波堤の上に足を踏み入れた。
上から海面を見ると、誰もいない秋の海水はびっくりするほど透明だ。
底まで綺麗に見えている。
小さな魚の群れが、気持ちよさそうにきびきび泳いでいるのがはっきり見える。
私の心もこんなに透明だったら、今とは違った私になっていただろう。
波が優しく防波堤の側面を撫でるようにチャプチャプと音を立てている。
なんて心地いい音。
砂浜に辿り着く波は思ったより早いリズムで地球の心音のように聞こえている。
人の心は自然のリズムから外れてしまうと壊れてしまうのは当然だと思えてくる。
人の命も自然も地球の呼吸に合わせて生かされているようだ。
連動しているんだ。
コンクリートの長い防波堤の上に立って目を細める。
視線をその先端に向けながら、風に吹かれそのまま真っ直ぐ歩いて行った。
一番先っぽまで来て、あたりを見渡し腰を下ろす。
もう子供達の声も聞こえない。風と波の音だけ。
ここには誰もいない。
自分の覚悟を確認した。
やるんだ!
迷わずやるんだ!
茶色い鞄を見つめて、もう引き返さないともう一度自分に言い聞かせる。
中にはタブレットとスマホ、小さなハンマー。
実行する時だ。
迷う気持ちは捨てたはずだ。
自分で決めたことだから後悔はしない。
鞄からゆっくりタブレットとハンマーを取り出す。
手が震えてきた。
計画通りやるんだ!
迷っていたら自分は立ち直れなくなってしまうんだ!
タブレットをコンクリートの上に置いて優しく撫でた。




