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1スマホに別れを告げた

私が壊れるか、君たちに壊れてもらうか、ふたつにひとつだった。

私はそこまで追い込まれていた。


ぬめ革のバッグには、さっきまで使っていたスマホとタブレット、それにホームセンターで買ったばかりの小さなハンマー。


今の私の生活になくてはならないスマホとタブレットだった。

しかし、私のメンタルが正常に戻るまで近づかないと決心した。


中途半端じゃだめなんだ。

破壊以外にない。

そう決めた。


誰もいない秋の海岸を目指し、バッグを持ってひとり電車に乗り込んでいた。


急がなければ!

心が騒いでいる!


自分に考える時間を与えてしまったら、決行中止に舵を切ってしまいそうだった。


まともに考えればスマホとタブレットは破壊しなくてもいいはずだ。

何処かすぐには取り出せないような部屋の片隅に保管すれば良さそうなものかもしれない、


しかし、そんなやり方では私は私に勝てるはずはない。

私はそんなに強くない。

破壊だ。破壊しかない。



海は停車駅からすぐのところにある。

予定通り電車はゆっくり目的地まで連れてきてくれた。

ホームに足を下ろした瞬間に小学生の夏休みの感覚が蘇ってくる。


心がほどけて、思わずふーっという声が漏れてしまう。


子供の頃、毎年のように家族で海水浴に来た海岸だ。

少女だった頃が懐かしい。


海を見た瞬間に急ぐ気持ちは消えていた。

もう行動に移す気持ちが固まったのだろう。

引き返さない自信のようなものがあった。


海風に髪が浮き立って、うなじのあたりを小さな竜巻が寄り道しながら過ぎてゆく。


本当の私に戻れるかも知れない...

そんな気がする。


呼吸するたびに心の垢が流れ出すようだ。

こんなの何年ぶりだろう。


やっぱり仕事を辞めて良かった。

今ここへ来てそれがはっきり分かる。


「しばらく休んでまた戻っておいでよ」

上司はそう言ってくれたが、その選択肢はもう考えたくなかった。


仕事は嫌ではなかったが、あまりの激務と終わりのない勤務時間でこんなことになってしまったのだ。


働く人間の側に立つことのできない組織はいづれ自然淘汰されるだろう。

競争に勝ち残れる組織にはその理由があるはずだ。

そんなことを考えさせられてしまう職場だった。


私は釣り上げられた魚のように呼吸困難で耐えられなくなり、精神に支障をきたすまで追い込まれていた。

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