16.生き埋め(2)
16.生き埋め(2)
「腕スコップ」
「……」
私は黙ってそれを受け取った。
そして、二人でまた穴を掘り始める。
今度は素手ではなく、ちぎられた女の子の腕をスコップ代わりにして。
以前、霖のボディは誰か――おそらくオーナーによってカスタムされていると聞いたことがある。
実際に手に取ってみると、グリップ感というか、質感というか、確かに大量生産型のヒューマノイドとは違う。
とにかく頑丈だった。
外側の皮膚はすぐに摩耗して剥がれたが、中の金属部分は、私や靂のものよりもずっと丈夫そうだった。
スコップとして使うには、これ以上ないほど上出来なパーツだった。
私たちは再び黙々と穴を掘り続けた。
あまりに反復的で、飽きるとまでは言わないが、周期的に退屈が波のように押し寄せてくる。
そのたびに私は視線を他へそらし、ふと霖の方を見た。
腕を奪われたときに首がこちらへ向けられたのか、霖の顔は私の方を向いていた。
開ききった空っぽの眼窩が、まるで雨の日に道端で息絶えた野良猫のそれのように、ぎょろりと私の方に向けられている。
――そして、その口角が、ゆっくりとニヤリと上がった。
「……」
死んでいなかった。
つまりこれは、埋葬ではなく“生き埋め”なのだ。
「靂、これは生き埋めだ!」
と、叫びたかった。
けれど、驚きのあまり私のスピーカーは壊れてしまったらしい。
まるで大音量で膜が破れたように、私は口をぱくぱくと動かすだけで、音を出すことができなかった。
霖のCPUはまだ動いている。
だが、それを靂に伝える術はない。
靂は相変わらず、ひとつの作業に没頭するように、ものすごい集中力で穴を掘り続けていた。
仕方がない。
まずはこの穴を掘りきって、あの意識のある霖を中に放り込むしかない。
私は確信していた。
霖はただ者ではない。
というか、存在そのものが異常だ。
この村で“神様”として崇められるのも当然だ。
後頭部を少し爆発させられようが、両腕をもぎ取られようが、あんな余裕の笑みを浮かべていられる存在なのだから。
埋めたあと、どうなるかなんて見当もつかない。
けれど、彼女なら生き埋めにされても平気だろう。
それに、私たちを止めようとする様子もなく、むしろ――生き埋めを楽しみにしているように見える。
その微笑みは、まるでラブレターのように私の方へ向けられていた。
いろんな雑念に駆られているうちに、穴は掘り終わった。
少女型ヒューマノイド一体がすっぽりと入るほどの空間が、土の下にぽっかりと口を開けている。
靂が立ち上がり、立ちくらみを覚えたような顔でこちらを見た。
私も続いて立ち上がり、同じように心地よいめまいを感じながら彼女に視線を返す。
私たちはしばらく、掘り上げた穴――つまり自分たちの作品を見下ろし、そして同時に霖の方へ目を向けた。
彼女は、いつの間にかそのぎらついた眼窩を静かに閉じていて、狂気じみた笑顔も消え、まるで眠り姫のような穏やかな寝顔に変わっていた。
私と靂は無言のまま霖に歩み寄る。
靂が上半身――つまり両腕をもがれた肩口のあたりを両手で持ち上げ、私は彼女の下半身、靴の脱げた素足の足首をそれぞれつかむ。
運び出す途中、セミたちの悲鳴があまりにも重くのしかかり、途中で何度か手を放しそうになったが、なんとか持ちこたえ、穴の縁まで運ぶことに成功した。
穴をはさんで、私と靂は霖を抱えたまま向かい合う。
まるでその身体が、穴の上に架かる橋のようだった。
互いに無言で見つめ合い、言葉よりも膨大なデータ――1億テラバイト分の意味を光速で交わす。
そして同時に、霖の生きた死骸を、穴の中へ放り込んだ。
すっぽりと収まった霖の身体。
私たちはそれを見下ろし、使い終えたスコップ――つまり彼女の腕を、棺の上に花を添えるように穴へと投げ入れた。
礼儀正しく靂に倣い、私も素足になった。
そして、隣に積まれた土を足で崩しながら、ゆっくりと穴を埋めていく。
金属の土が静かに沈み、霖の身体を覆っていく。
掘り返された地面からは、セミの声がなおも続いていた。
あまりの音圧に、私は耳の奥が熱を持ち、やがて潤滑油が血のように滲み出し、耳から涙のように流れ出る。
生き埋めを終えた私は、小さく、誰にも聞こえないほどの声でつぶやいた。
「セミのせいで、耳で泣く」




