表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MURA  作者: 月兎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/41

16.生き埋め(2)

16.生き埋め(2)


「腕スコップ」

「……」

 私は黙ってそれを受け取った。

 そして、二人でまた穴を掘り始める。

 今度は素手ではなく、ちぎられた女の子の腕をスコップ代わりにして。

 以前、霖のボディは誰か――おそらくオーナーによってカスタムされていると聞いたことがある。

 実際に手に取ってみると、グリップ感というか、質感というか、確かに大量生産型のヒューマノイドとは違う。

 とにかく頑丈だった。

 外側の皮膚はすぐに摩耗して剥がれたが、中の金属部分は、私や靂のものよりもずっと丈夫そうだった。

 スコップとして使うには、これ以上ないほど上出来なパーツだった。

 私たちは再び黙々と穴を掘り続けた。

 あまりに反復的で、飽きるとまでは言わないが、周期的に退屈が波のように押し寄せてくる。

 そのたびに私は視線を他へそらし、ふと霖の方を見た。

 腕を奪われたときに首がこちらへ向けられたのか、霖の顔は私の方を向いていた。

 開ききった空っぽの眼窩が、まるで雨の日に道端で息絶えた野良猫のそれのように、ぎょろりと私の方に向けられている。

 ――そして、その口角が、ゆっくりとニヤリと上がった。

「……」

 死んでいなかった。

 つまりこれは、埋葬ではなく“生き埋め”なのだ。

「靂、これは生き埋めだ!」

 と、叫びたかった。

 けれど、驚きのあまり私のスピーカーは壊れてしまったらしい。

 まるで大音量で膜が破れたように、私は口をぱくぱくと動かすだけで、音を出すことができなかった。

 霖のCPUはまだ動いている。

 だが、それを靂に伝える術はない。

 靂は相変わらず、ひとつの作業に没頭するように、ものすごい集中力で穴を掘り続けていた。

 仕方がない。

 まずはこの穴を掘りきって、あの意識のある霖を中に放り込むしかない。

 私は確信していた。

 霖はただ者ではない。

 というか、存在そのものが異常だ。

 この村で“神様”として崇められるのも当然だ。

 後頭部を少し爆発させられようが、両腕をもぎ取られようが、あんな余裕の笑みを浮かべていられる存在なのだから。

 埋めたあと、どうなるかなんて見当もつかない。

 けれど、彼女なら生き埋めにされても平気だろう。

 それに、私たちを止めようとする様子もなく、むしろ――生き埋めを楽しみにしているように見える。

 その微笑みは、まるでラブレターのように私の方へ向けられていた。

 いろんな雑念に駆られているうちに、穴は掘り終わった。

 少女型ヒューマノイド一体がすっぽりと入るほどの空間が、土の下にぽっかりと口を開けている。

 靂が立ち上がり、立ちくらみを覚えたような顔でこちらを見た。

 私も続いて立ち上がり、同じように心地よいめまいを感じながら彼女に視線を返す。

 私たちはしばらく、掘り上げた穴――つまり自分たちの作品を見下ろし、そして同時に霖の方へ目を向けた。

 彼女は、いつの間にかそのぎらついた眼窩を静かに閉じていて、狂気じみた笑顔も消え、まるで眠り姫のような穏やかな寝顔に変わっていた。

 私と靂は無言のまま霖に歩み寄る。

 靂が上半身――つまり両腕をもがれた肩口のあたりを両手で持ち上げ、私は彼女の下半身、靴の脱げた素足の足首をそれぞれつかむ。

 運び出す途中、セミたちの悲鳴があまりにも重くのしかかり、途中で何度か手を放しそうになったが、なんとか持ちこたえ、穴の縁まで運ぶことに成功した。

 穴をはさんで、私と靂は霖を抱えたまま向かい合う。

 まるでその身体が、穴の上に架かる橋のようだった。

 互いに無言で見つめ合い、言葉よりも膨大なデータ――1億テラバイト分の意味を光速で交わす。

 そして同時に、霖の生きた死骸を、穴の中へ放り込んだ。

 すっぽりと収まった霖の身体。

 私たちはそれを見下ろし、使い終えたスコップ――つまり彼女の腕を、棺の上に花を添えるように穴へと投げ入れた。

 礼儀正しく靂に倣い、私も素足になった。

 そして、隣に積まれた土を足で崩しながら、ゆっくりと穴を埋めていく。

 金属の土が静かに沈み、霖の身体を覆っていく。

 掘り返された地面からは、セミの声がなおも続いていた。

 あまりの音圧に、私は耳の奥が熱を持ち、やがて潤滑油が血のように滲み出し、耳から涙のように流れ出る。

 生き埋めを終えた私は、小さく、誰にも聞こえないほどの声でつぶやいた。

「セミのせいで、耳で泣く」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ