妹が心配な兄の話
オレは鬼塚志貴
高校時代には"死の門番"と呼ばれていた。
だがそれも過去の話今ではただの妹のことが心配な兄貴だ!!
ポンポン
「そこのお兄さん、ちょっと話いいかな?」
「いや、オレは何もしてないです。ほんと」
「じゃあいいよね、話ぐらい」
「……はい」
二十一分後
「それでお兄さんは妹さんがデートをするって聞いて彼氏がどんなやつかを見るため、妹さんが襲われたりしないかが心配で陰から見守っていた……と。普通に彼氏さんがどんな人か妹さんに聞けばいいんじゃないですか? 不審者かと思ったじゃないですか。お話ありがとうございました。今度から怪しいことしないでね」
「すみませんでした」
やばいな、サツからの職質のせいで美嘉を見失ってしまった!!
「離してください!!」
「いいじゃねぇか、こっちは"太客"なんだからよ」
オレはその声を聞きすぐさま身体を動かした。
「おい、テメェそのクソ溜めに突っ込んで洗わなかった汚ねえ手を離せ」
「そんな汚くねぇ!! そもそもクソ溜めに突っ込んでねぇよ!!」
「例えだよ、例えっ!!」
ボゴッ!!
「うっ、……テメェ何しやがる!! オラッ」
スカッ
「そんな鈍いの当たるかよ」
ドン……バタン
「嬢ちゃん今のうちに早く逃げな!!」
「あっ、ありがとうございます!! このご恩いつか必ず返します!!」
タッタッタ
「さてと……オレはこの殴った人に謝らねえと」
ポンポン
「おーい、起きてください」
なかなか起きないな、そこまで力は込めてないんだけど
ユサユサ
「んだよテメェ、そんな揺らさなくても起きてるって。なあ聞きたいんだけど、俺はなんでこんな時にいるんだ?」
男は顔を真っ青にしながら聞いてきた。
「どうしてここにって聞かれてもオレは知らない、しかしさっきアンタは女性の腕を掴んで何かしようとしてたぞ」
「……その人ってまさか、黒髪で紅色の服を着た人だったか?」
「そうだが」
「謝って済むことじゃねえが、すぐ謝らねえと!! 酔ってたとはいえ怖い思いさせちまったんだ」
「……まずはお店の人に謝った方がいいんじゃないか? 彼女にはオレが伝えておくから」
「…………そう、だよなさっきの件があるからな。兄ちゃんに頼むわ」
「頼まれた。それとあんなに酔うまで飲まない方がいいぞ。取り返しのつかないことになってからだと遅いぞ」
「ありがとな兄ちゃん。俺はもう帰るとするよ」
「そうしてくれ、気をつけろよ」
オレはそういって男を見送った。
その様子を見ていた一人の女性がオレに話しかけてきた。
「ねえ、坊やウチの用心棒に興味はないかい? 興味があるならお望みの報酬を渡すけど。それとさっき坊やが助けた娘もウチに居るわ」
用心棒……か、それも良いかもな。
まあ一番は女心ってものをもっと学ばないと……美嘉に嫌われてしまう!!
「用心棒、引き受けます。報酬でしたら女心ってものをご教授願いたい!! 妹に嫌われたくない!!」
「……それはありがたいんだけどねぇ、女心って言ったって個人個人で考え方も違うから、こうって言うのは教えられないわよ。私の経験だけなら教えられるけど……役に立つかは分からないけどそれでもいいなら教えるけど」
「お願いします。師匠!!」
「なんだか小っ恥ずかしいわね、その呼び方。呼ぶなら私のことはカヤ姐と呼びなさい、いいわね坊や」
「はい、カヤ姐……それとオレのことは出来れば坊やではなく、志貴とそう呼んでいただけると嬉しいです」
「はいはい、これからよろしくね志貴」
「こちらこそよろしくお願いしますカヤ姐!!」
ポンポン
「お兄様、その女の人は誰ですか? まさか彼女ですか? お兄様は私の物なんですからそんはどこの馬の骨とも知らないアナタには渡しません!!」
「……何言ってるんだ美嘉? この人はオレを雇ってくれる人だぞ」
「……はっ、恥ずかしい、そうなら早く言ってくださいよお兄様」
「というか美嘉は彼氏とデート中じゃ?」
「あぁアイツ別れたわよ、お兄様の足元にも及ばなかったわ。どうしてあんなやつを好いていたのか、昔の自分にはこれっぽっちも共感も理解も出来ませんわよ。やはり私にはお兄様しかいないということなんです!!」
「……美嘉そろそろ時間も遅いし帰りなさい」
「分かりました、お兄様がそうおっしゃるなら」
美嘉はカヤ姐を睨みながらトボトボと帰っていった。
「カヤ姐……一杯飲んでいいですか?」
「ウチにおいで、割引はしないけどね」
「それでいいので……ちょっと飲みたい気分です」
そしてオレはカヤ姐のお店で朝まで飲んだ。
おしまい
見つけて読んでいただきありがとうございます!!
兄妹の形って色々だよなぁって考えてたらこういうのもありなのかもって思いついたので書きました