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第七話 絵

今回はルーゼ目線です。これからはルーゼとアチーブの2ヶ月間の旅の中で起きた主な出来事を、どちらかの目線で語って行きます。1日1日書いてらんないんじゃ!


と、いうわけでよろしくお願いします。

 

 私がアチーブと共に帝都に向かって出発してからもう2週間たった。幸いにも道中の気候の悪化やトラブルも無く、予定よりも速くこの街に到着出来たのだ。


 そうして、私たちは ”フレイア領・クロトーネ街” に入ったのであった。


 今回も衛兵達が物資の調達や宿の確保を行っている。毎度彼らに任せるのは申し訳ないような気もするが、いつも通り彼らのお言葉に甘えて、私はこの街を散策していた。


 私が大通りを通り、街の中央の広場に出ると、私にとって見覚えのある3つの等身大の銅像が置かれていた。


(・・・そうか、この街は()()()の街だったな)


 3つの銅像はそれぞれ ”皇帝ローズ” ”大賢者ゼーレ” そして、滅竜戦争にて特に活躍した十傑の一人である ”イゾルデーチェ” のものである。


 どれも非常に保存度がよく、後世の人々たちがどれだけ手入れしていたかが良く分かる。


(・・・普通の英雄譚であれば純粋に楽しめるが、これについては自分たちのことだからな・・。)


 500年たったというのに自分達の功績の証が残り、それが讃えられ象徴となっていることに未だに気恥ずかしさを覚える。


(しかし、思い返してみれば、ローズと私でこいつを助けたのが転換点の一つだったな。それに魔術を本格的に教えだしたのもーーー)


 そのように感傷に浸っていると、後ろから声がかかる。


「ここにいましたか、ルーゼさん。探しましたよ。」


「ああ、アチーブか。もう宿探しは終わったのか?」


「はい、物資の調達も殆ど済んだので後は殆ど自由行動だそうです。」


「そうか。」


(思ったよりも早かったな。)そう思っていると、彼女がさっき私が見ていた3人の銅像を見て


「ルーゼさんも『滅竜戦争』の英雄達に興味があるんですか?」


 と聞いてくる。そう言えば彼女は以前、建国神話として語り継がれているあの戦争の話が好きだと言っていた。


「そうだな。まあ、この国に生きている人間で気にもならない者はおらんだろう。私も幼いころはよく読み込んだよ。」


 実際、幼いころから大人達から童話のごとく伝えられたり、平民達の一般学校ですら歴史学として科目の一つに組み込まれていたりする。この帝国が500年も続いたのも、こうした教育が国民の統一意識を作り出しているからだろう。


「ふふっ、そうですか。流石のルーゼさんでも好きでしたか、てっきりそういうのに興味ないかと思ってましたよ。」


「どういう意味だ、全く。・・・そうだ、アチーブ。もう宿探しや物資の調達は大方終わったんだね?」


「はい、そうですよ。どうかしましたか?」


 私は中央の広場を進み、抜けて再度大通りに入る。彼女も私についてきてそう言った。


「私はこれから、個人的な買い物に行こうと思っていてね。と言っても、よくあるお土産のようなものではなく、かなり珍しい骨董のようなものを探しにいくのだが。君も良ければ私と一緒にどうだい?」


「え、何ですか急に。しかも骨董って・・うーん。まぁ、いいですよ。暇ですし。」


 思ったよりもすんなりと同行を決めたのは意外だった、何か思惑でもあるのだろうか。


「なんだ、意外だな。断られると思ったが。」


「そうですか?個人的にはルーゼさんが言う骨董品ってのが気になるし、」


 尚更意外だ、その年で骨董品が気になるだなんて奴はそういない。そう思っていると彼女はさらに付け加えて


「それに、ほら、こういうのってもしかしたら今しか出来ないかもしれないじゃないですか。でしたら、ルーゼさんに付き合うのもいい思い出になると思いまして。」


 成る程、アチーブが中央学院に入学し、2年後卒業した後の彼女の進路次第では、そんな暇も無くなってしまうのかもしれない。


 ならば、できることは今のうちに楽しんでおこう。という精神なのだろう。


「そうか、じゃあ早速いこう。そうだな、大通りから少し外れた路地裏なんかにある店とかがいいかな。」


「え、言いたい事は分かりますけど危なくないですか?」


「確かに危険性はあるが、こんな白昼堂々犯罪を犯すやつもそうはいないだろう。それに私もついているから心配無用さ。ただ、君一人では入るなよ?」


 一応、そう釘を刺しておく。まあ、彼女がそんな馬鹿なことはしないのは分かりきったことだが。


「そうですか、なら安心です。」


「そうか、じゃあ、掘り出し物探しといこうか。」


 そうして私達は大通りを外れた路地裏等にある、質店や、骨董店等をいくつか探し、物品を漁っていく。


 しかし、当然ながら私達の望むような物は簡単には見つからない。古い時代の名工の剣や、画家の自画像のような貴重で好きな者にはたまらない代物もある。だが、それらは私にも、アチーブにも刺さる物ではなかった。


 貴重な物だからと言って、無闇には買えない。どれも高い上に、贋物を掴まされることだってある。


「いやぁ。分かってはいましたが、中々いいのが見つかりませんね。」


 いくつか店を回るが、望みの物が見つからず、アチーブがそうぼやく。


 どうやら彼女は、古くて質のいい魔導書や杖なんかがあればいいと思っているようだ。彼女と私の好みは同じだが、こういう場合は獲物の取り合いになってしまう。


「まぁ、そういうものさ。ただ、意外な物とかも見つけられて良かったろう?」


「それはそうですね、お陰で楽しかったです。ただ、思ったより古い魔導書って見つからないものなんですね。」


「あれらは基本的に消耗品だからな。残っているほうが珍しいくらいだ。ちなみに魔導書の変遷については習ったかね?」


 魔導書の変遷はそれを直接追ってきた私からすると、かなり面白い。彼女に共有できたらと、つい授業みたいなことを始めてしまった。


「・・・確か、時代を追うごとに精密化していって質が上がった代わりに量が減った。みたいなのは聞いたことがありますけど、具体的には知りませんね。ルーゼさんはご存じなんですか?」


 アチーブが興味を示す。私としては、彼女が魔術の学びを好んで、楽しんでくれている気がして正直嬉しい。


「そうか、確かに概ねその通りだ。長くなるから今は手短に話すが、実は最初期の物はな、雑に切った木の板だったんだ。」


「え?どういう事ですか?」


「諸説はあるが、500年前に人類が魔術を使うために、『大賢者ゼーレ』が作りだしたのが始まりとされている。人間が魔術をまともに使うには、余程の才覚か熟練度がない限り魔導書みたいな媒介が欠かせなかったのは当時も今も変わらない。」


 実際、私に並んで、現代に及ぶまでの魔術の礎を築いたとされている ”イゾルデーチェ” でさえも魔導書が必要だった。・・・・()()()()()()()()が、何もなくとも炎の魔術を剣術に組み込んでいたローズだったせいで、イゾルデーチェに会った時に、彼女が魔術を使える方法を苦労して探すことになったのだが。


「それが、魔導書の始まりが木の板だったことと、どう関係するんですか?」


「単純に今と比べて紙が貴重だったのもあるが、それよりも君も知っての通り、当時この大陸は『滅竜戦争』の渦中だった。その為、魔術を使える人間の”数”が兎にも角にも求められたそうだ。そこで、加工しやすく量産でき、初心者が使っても比較的頑丈で継戦できる木の板が使われたらしい。ちなみにこれが魔杖の元にもなっているそうだ。」


 あの時は兎に角、竜どもと戦える数が欲しかった。


「そうなんですね。じゃあ、魔導書が紙になっていったのは『平和になったし、研究してより質を上げよう』となっていったからなんですか?」


「概ねそうなるだろうね。魔術の質を上げようとすると魔導書はより複雑な物になっていく。そうなると、木の板では到底再現出来なくなってくる。その為、大賢者ゼーレを中心に、紙を用いて複雑な魔術の魔法陣やら何やらを一つに纏めたそうだ。そう、これが今の魔導書の基本となるものだ。」


 当時、本当に皆こぞって魔術の研究を始めたのだから嬉しい反面、正直面白いまであった。しかし、それがあの中央学院が出来るきっかけとなって、アチーブと出会うきっかけになっているのだから当時の人々と、私自身の情熱には感謝せねばならない。


「分厚くなったのは、その結果なんですかね。あと、沢山の術式を刻むためとか?」


「そうだね、主には後者だが。ものにもよるが一冊の魔導書に大体4,5種類くらいの術式が刻まれている。最近のものが無駄に高いのはそれが原因だ。個人的には少なくて荒削りでもいいから、もっと安くして手に取りやすくするべきだね。だから人口に対する魔術師の人口はーーー」


「ル、ルーゼさん?あの・・」


 私の話がずれてきたのを察してアチーブが声をかけて止めた。


「・・・ああ、済まない。話がそれたね。まあただ大雑把に話すとこんな感じだ、ただ最初に言ったように諸説はあるがね。」


「大丈夫ですよ、ありがとうございます。面白かったです。今度もっと詳しく教えてもらえますか?」


 どうやら楽しんでくれたようで幸いだ。しかしふと、時計を見てみると割と時間が過ぎていた。そろそろ衛兵達と合流するために戻った方がいい時間だ。


「もういい時間だな、アチーブ、今回はここらで打ち切って戻ろうか。」


「そうですか・・・いいものが何も無かったのは残念ですが、仕方ないですね。戻りましょう。」


 そうして私たちは大通りに出る為に来た道を戻る。しかし、来た時に見逃したある一つの店が目に留まる。


(画廊・・・か。)


 何故か妙に気になってしまったのだ。私はアチーブに声をかけて呼び止める。


「アチーブ、最後にこの画廊に寄っていかないか?まだ少し時間もある。」


「・・・いいですけど、画廊に魔導書や杖があるんですか?」


 アチーブが聞き返す。どうやら彼女は絵画にはあまり興味がないようだ。悪いとはいわないがもう少し色んなことに興味を持ってほしいと思うのは年からだろうか。


「いや、多分無いだろうね。まあいいじゃないか、折角なんだし君が気に入るような絵もあるかもしれなぞ?」


 そうして、彼女と共にその画廊に入る。店内には大小、制作年代問わず様々な絵画が飾られていたが、どれも決まって”人物画”だった。おそらくこの画廊では人物画をコンセプトに取り扱っているのだろう。


「・・・いらっしゃいませ。何かお探しのものでもおありですか?」


 不意に店の奥から声がかかる、初老の男性、おそらく店主さんだろう。


「ああ・・、なにか面白い絵でもあればと思いましてね。おすすめとかありますか?」


「いや、それでもいいですが、私が勧めたものよりも貴方が自ら見つけた物の方が貴方にとって素敵な物になりますよ。」


「そうですか・・・。ではそうさせて頂きます。」


 そうして私達は店内の絵画を見て回る。画家の自画像や戦争の絵、集団肖像画など種類は様々だが、どれも絵画に登場する”人物”に焦点が当てられている。私からすれば、私が見てきた約500年間のこの帝国の歴史を振り返るような気分で見れて懐かしさを覚える。


 アチーブの方に目をやると、彼女も彼女で興味があまり無いなりに飾られている絵画たちを見つめている。


(時間もアレだし、目ぼしいものが無ければここいらで打ち切ろう・・・おや?これは・・・。)


 時間を少し気にしながら絵画を見ていると、部屋の壁に違和感を覚えてそこに近づく。


(・・・隠し通路か?)


 中が非常に気になったが、勝手に入るわけにはいかない。見なかったことにして離れようとすると、


「そこにお気づきになりましたか。どうやら貴方はかなりお目が高いようですな。」


 背後から店主の声がかかる。


「ああ、店主さん!申し訳ない。勝手に暴くつもりではなかったんだ。」


「ええ、大丈夫ですよ。それより、中に入ってみますか?」


「え、いいんですか?」


「ええ、折角来て下さったんです。誰にも口外しないと約束していただけるのなら見せてあげましょう。口約束ですが。」


 店主の提案に乗らないことは無かった。アチーブも呼び、店主の案内で隠し通路に入り、地下室に進んでいく。


「こちらでございます。では、ご覧ください。」


 そうして地下室の扉を開け、私達を中に入れる。部屋に入った私たちの目に入ったのは一つの絵であった。私はその絵を見た瞬間、目を見開く。


(・・ローズ?)


 その絵には、私のただ一人の友の姿が描かれてあった。それ自体は別段珍しいことではない。古くから彼女を中心として、滅竜戦争を題材にした絵画は多くの画家に扱われる人気のテーマであった。


 しかし、そこに映る彼女は、よく描かれるような猛々しく威厳に溢れた”皇帝”としての姿ではなく、柔らかな表情で、椅子に座りこちらを向いている若い少女としての姿であったのだ。


 そして、この絵には確信にも等しい心当たりがあった。すると、


「店主さん、これってもしかして、皇帝ローズのものですか?」


 滅竜戦争の神話が好きな彼女はすぐに察しがついたようだ。それに対して店主さんはすぐに反応して、


「お気づきになられましたか。ええ、その通りでございます。これは、私の先祖が当時まだ滅竜戦争に入っていなかった頃、若きローズと若きゼーレ本人から買ったものだと伝えられております。」


 そうだ、この絵はまだ私達が出会ってすぐのこと、とある経緯で画家志望の青年を助けた礼として描いてもらったものなのだ。元々そのつもりで描いてもらったのもあり、結局資金難のために売ってしまったのだが、こんな所で再開するとは、夢にも思わなかった。


「・・・皇帝ローズの絵は、今までにも物語とかで色々見てきましたが、こんな感じの物は初めて見ました。なんか・・意外ですね。私たちの知る彼女はずっと勇ましいイメージがありましたが・・・。」


 と、アチーブが私に話す。確かにこの500年間でもこの類のはあまり見ない。


「・・・もしよろしければ、これを譲っていただくことは・・できなさそうですね。」


「申し訳ありませんが。こちらは我が家の家宝でございます。どれだけお金を積まれたとしてもお譲りすることは出来ません。」


 私の言葉に彼は苦笑交じりにそう答える。そうだろうな、勿論分かっていたことだが。少し残念だ。


「そうですよね。少し残念ですが、ありがとうございます。本当にいいものを見せてもらえました。」


「私からも、本当にありがとうございました。」


 私たちの言葉に店主さんは微笑んで


「いえいえ、こちらこそ。立ち寄っていただいてありがとうございます。またいつか、来てくださると嬉しいです。」


 と言ってくれた。そうして私達は店を後にし、衛兵達と合流すべく大通りと向かった。


 結局、私たちが何も買うことは無かったが、店主さんも満足してくれたようで、私としても思い出深い物が見つかって本当に良い日になった。



読んでいただきありがとうございます。


冒頭に言った事の続きですが、じゃないとストーリーがまともに進まないんです。


と、いうわけで忌避なき意見と感想を是非お願いします。

(誹謗中傷などはおやめください。)


これからもお願いします。

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