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第六話 野営

こんにちは。タタラです。本当にしばらく投稿頻度が下がるかもしれません。

 私達が出発したその日の夕方。


 山道を進み日が傾き始めた頃、そこそこ開けてはいるが周りに何本か木が生えているような所で、衛兵のリーダーが私達の一団を止め衛兵達と周囲を確認して、


「丁度野営するには丁度いい場所に着いたので、今日の移動はここまでとしましょう。日が沈まぬ内に天幕を張るなどの準もしていきたいので。」


 そう私たちにも声を掛けて、私達と衛兵達が各自、分担して野営の準備に取り掛かる。


「野営って、思ったより開けた所でやれるんですね。ちょっと意外です。」


 作業中、ルーゼさんに声を掛けると、


「今回は割と大所帯だからね。ある程度開けた場所の方が好ましいだろう。それに、風の今日は弱いし、ここなら災害に遭うこともないだろう。」


「ただ、水場があるのか不安ですよね。さっきからずっと、川とか見かけてない気がするんですけど。」


 水の予備などはまだまだあるだろうけど、水魔法で出した水はすぐに消えてしまうから当てにならないし、いつ何があるか分からない。多くあるに越したことはないだろう。


 それに・・・贅沢を言うならば身体を洗いたい。そう思っていると私の心を読んだかのようにルーゼさんが、


「水の心配は必要ない、まだ相当な量がある。それに、川も10分程歩いた辺りにあるとさっき彼らから聞いた。」


 と言う。


「わざわざ何でそんな遠いところに天幕を設置するんですか?近い方がいい気がするんですが?」


「野営の経験は無いんだったな。川辺にあまりにも近い所だと、洪水の危険性がある。その上、野犬のような猛獣や、魔狼のような魔獣が水飲み場としていた場合も非常に危険だ。この時期だと冬眠し損ねた奴らだな。」


「あーー、そうでしたか。言われてみれば普通にそうですよね。すみません、私の想像力が足りなかったです。」


「いや、誰にも知らないことはある。覚えていけばいいだけさ。今回の場合、私の認識阻害の結界がある分そんなに心配する必要もないが、極稀に本当に勘の良い奴もいるからな。そういったことも想定して快適さよりも安全を優先するべきだ。」


 今後、もしかしたらルーゼさんや衛兵達抜きで野営をすることもあるかもしれない。覚えておこう。





 そうして、天幕を張り火の用意を終え、ルーゼさんも認識阻害の結界の結界を張り野営の準備を終えると、日も沈みかけあたりも大分暗くなっていた。


 その後全員で火を囲み食事を取り、川での水浴びも終えて、後は外敵からの襲撃に気を付けながら寝るだけとなり、私がやるべき事がなくなってしまった。衛兵達に見張りの手伝いをしたいと提案したら断られてしまったので暇になってしまった。


 そういう訳なので、私はルーゼさんに魔術の訓練を頼みに行くことにした


「そういう訳なので、私の訓練に付き合っていただけませんか?」


「いいよ、丁度私も暇だったしね。ただ、ここではなく少し離れた場所でやろう。」


 衛兵達に確認をとり許可を得た上で私達は野営場の拠点から出てちょうどいい場所を探し始めた。そして、ルーゼさんが張った結界から少し歩いた所で彼は足を止め、火の魔法で灯りをつける。


「ここでするとしよう。さて、ちょっと待っていたまえ。」


 そういうと彼は、近くにあった木から大きな枝を風の魔術で切り落とし、その枝から更に小さな枝を1本折り、私に差し出す。


「いつも通りだ。これに魔力を込めて適当な初級魔法を撃ってみなさい。」


 彼の言葉通りに私は木の枝に魔力を込める。魔力を抑えて込めることには慣れてきたのもあり、ここまでの行程は安定してできるようになった。


 問題は、次の魔術を実際に撃つ所だ。私はこのまま魔力を抑えたまま扱いやすい闇の初級魔法を撃つ。しかし、その瞬間に枝は粉々に砕けてしまった。


 まただ・・。


 いつもこうだ。確かに、自分の身体に掛かる負担は相当軽減されたり、分かる形での結果は出ている。だが、未だに枝を壊さぬような魔力の制御はできていないし、どうしても想定を超えた出力の魔術になってしまうのだ。


 暴発した魔術はルーゼさんが難なく受け止めてくれるから、幸い周囲への被害は出ていない。今までは時々訓練していた場所の物や地面をよく損傷させてしまっていた。


「ルーゼさん、どうでしたか?その・・・あなたから見た私は。」


「ふむ、相変わらず魔術を行使する際に魔力の制御が外れてしまうな。ただ毎日精度は向上しているな。よし、もう少し続けてみよう。」


 そうして私はしばらくそれを続けていく。だが何度やっても魔術を行使する辺りで必ず枝が壊れてしまう。


 一体、私には何が足りないんだろう。魔力を込める段階までは枝は壊れないんだ、このまま魔術を放つことができないわけはないのに、何故私は未だにできないんだ。


 昔の師匠にもルーゼさんにも「魔力の制御が出来なければ、どんなに強くてもそいつは未熟者と扱われる。」そう言われている。


 私はそんな未熟な私自身に苛立ちながらルーゼさんに対して言う。


「ルーゼさん、・・私は何が足りないんでしょうか。・・教えてください。何故私は、未だにできないんですか?」


 彼は私を真剣な眼差しで見つめ、少し考えるような態度を見せながら明後日の方向を見て黙り込む。少し経ってから再び私を見て口を開く。


「ふむ、そうだな・・・。今日の訓練はこれで終わろう。」


「!?・・・何故ですか?まだ充分にやってません。それに・・私の身体もそれ程疲労していません。」


 私がそう言って反発すると、彼は諭すように


「そういう問題ではないんだ。・・・兎に角今日の訓練は終わりにしよう。その代わりと言うのもなんだが少し気分転換でもしないか?」


「 ? なんですか?」


 正直、そんなことをする気にはなれない。しかし、彼が私のことを思っての発言なのは頭の中で理解している。無視はできない。


「野営場の近くに川があったろう。そこで小一時間程釣りでもしようではないか。」


「・・は?釣り?」


 完全に想定外の答えに思わず間抜けな返事をしてしまう。


「そうだ。拠点からはそう離れた位置ではないし、私がいる以上は君の安全は保証する。衛兵達には拠点をしばらく開けると言ってあるし、その点でも問題はない。どうだい?」


「それは分かりましたけど・・それと魔術に何の繋がりがあるんですか?」


「ないよ。」


「え?」


 驚いた。この人なら何かと魔術び結びつけるものだと思っていた。


「言った通り、気分転換だ。それ以上でもそれ以下でもない。まあ、君なりに結びつけてもらっても構わないがね。」


 そんな余計なことをしている余裕は・・・そう言おうとしたが、止めた。私自身が疲労感を感じていたのもあったし、少しだけ興味もあった。


「・・・・分かりました。というか、ルーゼさん釣り竿持っているんですか?」


「糸と針は持っている。竿は丁度いい木から即興で作ればいいしエサはその辺のミミズでも使おう、心配することはないさ。」


 ーーなぜ持っている。そう突っ込みたかったが、冷静に考えればずっと旅をして生きてきた人だ、それくらい常備していても不思議ではない。


「分かりました。行きましょう。」


 こうして私達は、川へ向かうこととなった。


「よし、ここなら良さそうだ。少し待っていてくれ。」


 ルーゼさんと5分程歩いた先にある川につくと、彼はそう言い炎魔法で弱めの灯りを点け、辺りの木を用いて即興の竿作りに取り掛かる。


 ルーゼさんがそうしている間に私は彼が選んだ場所を見渡す。確かに流れが穏やかで足場も安定している。それに拠点からも近い。・・ただ、ルーゼさんが灯りをつけていて尚もくらい山の中であることと川の近くであることもあり、かなり不気味な雰囲気だ。


(・・・・そう言えば、釣りなんていつぶりだろう・・。)


 そう、昔の思い出を掘り起こしていると、一通り準備を終えたルーゼさんが


「ほら、釣り竿ができたぞ、始めよう。」


 そう言って私に釣り竿を渡す、即興のものにしては竿に結ばれた糸と針は結構ちゃんとしたものだ。


「エサはつけれるかね?虫が苦手なら私が代わりにつけるが・・大丈夫かね?」


 そう言って持っていた巾着の中身をみせる。さっき魔術で地面を掘って採っていたのだろう、様々な虫の幼虫やミミズがうじゃうじゃ入っていた。・・・・うげぇ。


「あ、だいじょぅ・・・・すみません。やっぱりお願いできますか?」


「はははっ、無理だったか。仕方ない、私がやろう。気にしなきていいさ、誰にでも苦手な物はある。」


 そう言って躊躇なく幼虫を持ち、釣り針に対して頭からそれを刺す。そして餌のついた竿を彼からうけとり、竿を振り糸を川面に垂らす。






「・・・・・・・釣れませんね。もっと簡単に掛かるものだと思っていたんですが・・。」


 釣り始めてかれこれ20分、何も掛からないのだ。流石にここまで何もないと暇になってくる。


「まぁ夜の川釣りなんてこんなもんだろう。気長に待とうじゃないか、どうも君は結果を急ぎすぎるところがある。ほら、もう少し肩の力を抜いて、この過程を楽しもうじゃないか?」


 ・・・思えば・・・私は魔術にしろこれにしろ、結果を急いで焦ってしまうような気がする。さっきルーゼさんが突然稽古を打ち切ったのはそういうことなのかも知れない。


「そうですか・・そうですよね。もう少しこの過程を楽しむように努力してみます。」


「楽しむことを努力するとは・・・それはどうなのだろうか・・・・?」


 一言多い、そう思ったがいつものことなのでスルーした。そして、無言でいるのも嫌だったので、彼について少し気になっていたことを、川面に垂れている糸を眺めながら私はからかうような口調で彼に聞く。


「そう言えば・・、ルーゼさんって好きな人とかいたんですか?あ、”友人として” は無しですよ?”恋愛的”って意味です。」


 そう、恋愛話だ。個人的にはこの変人が恋愛感情なんてもの持っているのかが気になるのだ。あったら面白いし、無かったとしても一応の納得はいく。


 ・・・・・彼は一瞬、私の事を見てからもう一度川面の方を向き、口を開く


「・・そんなことが気になるか?まぁ・・・、いたが。」


「え!?いたんですか!?」


 いる。だなんて思いもしなかったのでつい驚いた反応をしてしまった。


「失礼だな。私にだってそれくらいの感情はあるさ。ただ、今までの人生で一人だけで、後悔に溢れるものだったが。」


「・・そうなんですか。失礼じゃなければもっと教えてもらえますか?」


 ルーゼさんにそんな経験があるとは思わなかった。しかも失恋話、聞かないなんてことはない。


「以前、私が若い頃に浮浪者だったということは話したね。その時にある人に救われたということも。」


「はい、覚えてますよ。あ、もしかしてその人に恋をしたってことですか?」


 言われてみればあの時私に話したときはその人の性別を言ってなかったような気がする。もしその人が相手なら充分に納得できる。それに、確かその人は故人だとも言っていた気がする。


「まあ、そんなところさ。ただ、以前話した通り彼女は病に倒れ、死んだ。それに、私は彼女が死ぬ前にようやく己の心に気づけたんだ。それに・・・それすらも彼女からの告白でやっと自覚できたんだ。」


 そう言って彼は深いため息を吐いて、


「あいつはその時、私の前で、始めて泣いたんだ、本当に・・ずっと強かった彼女が、・・・本当に、彼女と、私自身の心に気づけなかったことを、私は・・未だに後悔している。」


 と、付け加える。


 まさかの切ない過去に、私もなんだか悲しくなって返事を返すことも忘れ聞き入っていた。彼は自嘲気味に続けて話す。


「・・本当に・・、なんでだろうな。最後の最後まで私の彼女に対する気持ちを恋心と気づけなかった。」


「・・・そうでしたか。その・・なんて声を掛ければいいのか、すみません。思い出させてしまって。」


 軽い気持ちで聞いたことだったのに、こんな悲しい話が出てくるとは思いもしなかった。彼は私の方を向いて優しく微笑みながら、


「・・気にしなくていい、多少の後悔こそあるが。彼女と生きた日々は私にとって本当に幸せなものだったし、私はあの素晴らしい人と共にあれた事を、誇りに思う。だから、同情なんてしないでくれ。」


 彼がそこまで言う彼女は、一体何者なのか気になりはしたが私は彼の次の言葉を待った。すると彼は首にかけていた鎖の先をみせる、その先には質素だが綺麗な指輪があった。よく手入れされているのが分かる。


「・・綺麗。」


 私が思わずそういうと


「綺麗だろう? 彼女がね、くれたんだ。彼女の形見であり、私の宝物だよ。」


 と彼が笑顔で言う。


「・・そうですか。話してくれてありがとうございます。ルーゼさんがそんなに素晴らしい言う方に、私も会って見たかったですね。」


「そうか、満足してくれたようで良かったよ。・・・で、君の方はどうなんだい?」


「え」


 まさか私に振ってくるとは思わず、つい素っ頓狂な返事をしてしまう。彼はからかうように笑いながら


「なに、私がわざわざ自分の過去を話したのだから君に聞いたっていいだろう。で、どうなんだい?面白い話だったら嬉しいが。」


 私も人のことを言えないが、こいつも完全にからかうためだけに聞こうとしている。私は目をそらしながら、


「ひ・・・秘密です。」と言う。


「はぁ!?私にだけ話させておいてそれはないだろう。」


「兎に角! 秘密です! 乙女の秘密です!」


 過去に何度かあるがかなり恥ずかしい思い出なので、彼には申し訳ないが話したくない。そんなやり取りをしているとーー


 突如私の竿を強い力が グン! と引く。


「あ!かかりましたルーゼさん!・・・・おっも!」


「そうか!・・私も手伝おう。」


 そう言ってルーゼさんも私の釣り竿を持ち、引き上げる。糸が千切れないように2人で慎重に獲物と格闘する。


 そうして格闘すること3分、ようやく私達は獲物を釣り上げたのだった。


 釣れた獲物は巨大なナマズであった。


「ハァ・・・ハァ・・・。でかい・・ですね。これナマズですよね。食べれるんですか?」


「この種は安全に食べれるが・・・。ここまで大きいとなると相当臭みが強くてな、余程飢えてもない限りお勧めしないね。」


「え?じゃあこれどうするんですか?」


「衛兵達もこんなのはいらんだろうし・・・川に返してあげよう。無駄に殺すのも可哀想だ。」


「え~!折角釣ったのに・・・。」


 ルーゼさんのナマズを返すという発言に少し抗議するも


「じゃあ、お前一人で食うか?」


 と、言われて渋々諦め、このナマズを返してあげることにした。もう結構な時間がたったのでナマズを返した後、私達は拠点の方へ戻ることにした。


「結局、成果無しでしたね。」


 と、私が言うと。


「確かに、少し残念だったな。でも、楽しかったろう?」


「はい。今日はありがとうございます。」


 私がそう言うと彼は「良かった。」といって笑う。私にとっても良い気分転換になったと思う。


(過程を楽しむ・・・か。ふふっ、いつの間に忘れかけていたんだろう。)


 魔術において結果ばかり求めていた私にとっては、純粋に楽しんでいた初心を思い出すいい機会になった。


 少し歩いて、私達は拠点に着く。魔術の訓練とか釣りとかで疲れたので私はその後すぐに天幕に入り、寝ることにした。




 帝都に向かう度はまだまだ始まったばかり、折角なんだ全力で楽しんでも行こう。私の心に少しばかり余裕ができた気がした。




ちょっとした補足。

:釣りの場面

水とか風の魔術で楽に上げれば?とか思った方もいるでしょう。しかし!そんなことするなら始めから釣り自体が茶番になるのでやりませんでした。案外ルーゼさんは、「魔術だけで全部やればいい」とまでは思っていないようです。


:認識阻害の結界について。

「なんで結界の外にいるのに結界内を認識できてるんじゃ。」については、「結界を張った本人とその仲間が認識できない」はいくらなんでも阿保すぎるでしょう。その為、流石に結界を張った者とその人が魔力で指定した相手は認識出来ます。


と、いうわけで。読んでいただきありがとうございます。


忌避なき意見や感想をいただけると有り難いです。(誹謗中傷はおやめ下さい。)

これからもよろしくお願いします。

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