第五話 食事会
今回はアチーブ目線です。
「ふぅ・・・。これでよし、ですね。皆さんお疲れ様でした。ありがとうございます。」
衛兵のリーダーがそう皆に労いの言葉を掛ける。
あの後私達は1時間程かけ、17人全員分の宿を何とか見つけ、そして物資の調達も終わらせたのだった。
最初の2,3件は見事に埋まっているか、明らかに部屋が足りないなどでまるで見つけられなかったが、全員で15件近く回ることで、人数の分散はあれどようやく抑えることが出来た。
物資の方は私は関わらなかったが、宿探しの傍ら行っていたようだ。
今日は一日の殆どを馬車に乗って座っていただけなのに、たったこれだけの時間街を駆け回っただけで疲れてしまった。一方衛兵たちは今日は1日中歩くか、馬に乗るかで体力を使っているはずなのに平然としている。
(もう少し体力付けなきゃならないな・・・・)
そう反省していると、どこからともなく声がかかる、
「おや、宿は見つかったようですね。ありがとうございます。」
ルーゼさんだ、少し髪が濡れているような気がするがどうしたのだろうか、彼は私達全体を一瞥すると、衛兵のリーダーに向かって、
「こちらもいい店を見つけましたよ。この地域の特産品であるチーズをふんだんに使ったグラタンが名物で、振舞われる酒も旨そうでした。一応、もう全員分の席はとってます、早速いきましょう。」
話を聞くだけでお腹が空いて来た。衛兵達も同じなのか、
「はい!早速行きましょう!」
と、その内の誰かが声高に返事する。皆からの視線を受けて照れくさそうに顔を赤くする。それを見たルーゼさんが、
「ふふ、いい返事だ。見つけてきた甲斐があったようだ。一応、牛乳や鶏肉などを口にできない人はいませんね?」
そう言い、誰もいないことを確認してから早速私達はその店に向かう。
店内に着き、食欲を駆り立てる匂いを楽しみながら皆で料理の注文を行う。皆はそれに加えて葡萄酒の注文も行う。
「アチーブは飲まないのかい?勿論、無理にとは言わんが」
ルーゼさんが私に声を掛ける。勿論、年齢的には問題はないわけだが、私自身があまりお酒に強くないのだ。ただ折角の食事の席なのだ、少しだけ挑戦してみよう。
「じゃあ・・、このオレンジの果実酒をお願いします。」
少し悩んだが無理はせず、お酒が弱い物を一杯選び注文することにした。
料理が運ばれてくるしばしの間、私は店内に響く楽しそうな騒ぎ声や、店中に充満するチーズやホワイトソースのクリーミーでマイルドな香り等を受けて、これから食べる料理を楽しみに待っていた。
ふと、私はあることが気になってルーゼさんに尋ねる。
「というか、意外でしたね。ルーゼさんからこういう場に私達を誘うの。」
彼は私の方を向き、
「そうか?何故だい?」
「いや。だって私の中で、ルーゼさんってなんとなく大勢と食事とかするイメージがなかったんですよね。ほら、あっちにいた時も私以外に殆ど関わりなかったじゃないですか。」
彼は右手を顎にやってから
「まぁ、そんな時期もあったにはあったが・・・昔、そういった誘いを断って後悔した事があったんだ、今でもたまに思い出す。本当に、人との縁はね、いつ繋がって壊れるか分からない。だからこそ、縁が繋がっている間に出来る限りの事をするんだ。これもその一環だよ、”君や衛兵達との出会いに感謝を”ってね。」
と、答える。
「・・・そうですか。ふふっ、私からもルーゼさんとの出会いに感謝を。」
「ああ、ありがとう。」
どうやら彼は、私が思っていたよりも人好きのする性格なのかもしれない。照れくさそうに笑う彼を見て私が彼に感じていた得体の知れなさが少し薄れた気がした。
そうしている内に料理と飲み物が私達の下に運ばれてくる。
運ばれてきたグラタンは、鶏肉、玉葱、そして輪切りのジャガイモがふんだんに使われ、それらを煮込んだバターとミルクたっぷりのホワイトソースの甘い香りが、何とも言えない幸福感で私を満たす。
そしてその具材とソースの上には、この地域の特産品である水牛のチーズがたっぷりかけられ、オーブンで焼かれてとろとろに溶けている、少しだけ焦げているのもいい。焼きたてなのだろう。まだホワイトソースがぐつぐつとしている。
全員の下に料理が揃うと衛兵のリーダーがルーゼさんに
「ルーゼさん。音頭をとっていただけますか?貴方が主催のようなものなので。」
「私でよろしいのですか?では皆さん。お飲み物をお取り下さい。」
私も、衛兵達もそれぞれの飲み物のグラスを掲げる。
「それでは、皆さんと共に行く旅立ちに祝福を込めて、乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
乾杯の合図で私達は食事を開始する。熱々のグラタンを火傷しないように息を吹き冷ましてから口に頬張る。ホワイトソースのクリーミーな甘みと、とろっとろのチーズの甘みとほんの少しの塩気が、絶妙な組み合わせで非常に美味だ。
それだけじゃない、ゴロゴロと入っているジャガイモもホワイトソースがよく絡まってほっくほくで美味い。今まで食べてことのあるグラタンの中で一番美味い。
「んん~~~~~~っ!美味しいですね~~!これ!よくこんないい店見つけてきましたね!ほんっとに美味しいです!」
その美味しさについ興奮して、ルーゼさんに向かって話す。
「美味いだろう?実は以前この店には来たことがあってね、本当に美味しい店だったからもしまだ続いているのなら、是非皆にも味わって欲しくてさっき見に行ったんだ。気に入ってもらえて良かったよ。」
笑いながらそう言い、手に持っていたグラスの中の葡萄酒を一気に喉に流し込む。
「おまけに酒も美味いときたもんだ。それに前よりもさっぱりした後味になってる、多分濃厚なグラタンとの食べ合わせを意識しているのだろう。そっちの果実酒はどうだい?」
「美味しいですよ。甘くてすっきりした風味がとっても。ルーゼさんも飲んでみては?」
「そうだな・・よし、すみません、そこのウェイトレスさん!この子と同じものを私に一杯下さい!」
「お、ルーゼさんあんたいけるねぇ!!じゃあ俺たちも続こうかね!」
私たちのやり取りを聞いていた衛兵達もそれに乗っかて思い思い飲み物や食べ物を追加で頼む。
・・ルーゼさんもいつの間にかすっかりと馴染んでいる。私ももう少し飲み比べとかもしてみたかったが・・止めておこう。酔っぱらって迷惑をかけるようなことはしたくない。
そうこう楽しんでいる内に運ばれてきた食事も食べ終わり、そこそこいい時間になったので食事会はお開きとなった。
お会計となり、大人達はそれぞれ頼んだものや共有したものを上手く割り勘しようと計算している。
私も最低限自分で注文した分くらいは払おうと財布を取り出し計算していると、ルーゼさんがそれを牽制するように、
「今回君の分は私が奢らせてもらうよ、元はと言えば私が誘ったのだしね。さて、いくらだっけ?」
「いやいや!、悪いですよ私だけなんて。私だって皆さんと一緒に楽しんだのだから支払う義務はあります。」
いくら何でも彼に借りを作りすぎだ。彼が善意だけでやってるのだとしても申し訳なくなってくる。
「ふふっ、いいんだよアチーブ。形式的には成人とは言え、私達からすれば君はまだ子供だ。大人にかっこつけさせてくれよ。それに、こういうのも若者の特権さ、若いうちにきちんと利用しておかないと後悔するぜ?」
彼に同調するように衛兵達はこのやり取りを微笑ましそうに見ている。・・・私が間違っているのか?これ、ここにいる全員酔っておかしくなってるんじゃなかろうか。
だが確かに断る理由もない、ここは有難く受け取っておこう。
「・・・うぅん、わかりました。ではお言葉に甘えてルーゼさんを利用させていただきます。」
有難く彼に奢ってもらうことになった、卒業して余裕が出来たらいつか奢り返そう。そんなことを考えて、店を出た衛兵達と街を歩いていると、衛兵のリーダーが私達に向かって、
「本日はここで解散します。各自泊まる宿はここに書き記した通りです。明日は午前の9時から出発いたしますのでその時間までに集合してください。ではこれで解散とさせていただきます。ルーゼさん、こちらの鍵をどうぞ。」
「ああ、ありがとうございます。では、私もこれで失礼します。同じ宿の人は一緒に行きましょう。」
そう言ってルーゼさんは衛兵のリーダーから鍵を受け取り、指定された宿へ向かっていった。私と数人の衛兵達も彼と同じ宿に泊まるので、彼についていくことにした。果実酒が効いてきたのか、少し頭が心地良い高揚感を持ち身体が熱くなってきた。
宿に着き、ルーゼさんが私達一人一人に部屋の鍵を渡し、
「じゃあ、後は皆さんの自由行動で大丈夫ですよ。また明日もよろしくお願いします。では。」
そう言って自身の部屋に入っていった。私達も各々の部屋に入り、身支度を行う。私も自分の支度をある程度進めていく内に、身体を洗いたくなってしまった。
「この街って大浴場あったかな・・・。あったら行きたいけど・・」
確か、あるみたいな話を誰か聞いていたような気がする。通る道の都合上しばらく身体を洗えないかもしれない、それにお湯でも浴びれば酔いも少し冷めるかもしれない。よし、宿の受付の人に聞いてこよう。
そうして着替えやタオルを一式もって受付の方に向かうと、受付の所にルーゼさんがいた。
「え。ルーゼさん?何でここにいるんですか?」
彼も私がきたのが想定外だったのか、少し驚いた表情をするがすぐにいつもの表情に戻り、
「私はまあ、暇だったのでな。夜の街を少し徘徊していたんだ。君こそどうしたんだい?」
「私は少し体を洗いたくって、あ、受付のおじさん、この街って大浴場ありましたよね?案内をしてほしいんですが。」
すると、受付のおじさんは
「ああ、それなら近くにあるから案内するぜ。ただ時間がないから急いだほうがいいな。えっとな、まずーー」
「待ってくれ。」
おじさんの言葉に遮りゼーレさんが口を挟む。
「なんですか?ゼーレさん。」
私は口を挟んだ彼を睨む。
「お前さん酒を飲んだじゃないか、大丈夫なように振舞っているが酔い自体はしっかり回っているだろ。そんな状態で風呂に入るのは危険極まりないぞ?」
「そうなのかい?お嬢ちゃん。」
受付のおじさんもそれに反応する。
確かに酔いは回ってはいるが、問題なく歩けるし意識はハッキリしている。だから大丈夫だ。その旨を彼に伝えるも彼は
「駄目だ。そう言って舐めた奴が事故にあうんだ。そもそも君はそこまで酒に慣れていない。今日はもう大人しく寝なさい。」
こうなっては彼も私を絶対に行かせるつもりはないだろう。仕方ない、諦めよう。
「わかりました・・・。身体洗いたかったんですがね・・・。仕方ないです。」
「しょうがないさ、今度からはそういうのも考慮するんだな。だから私は食事前の余った時間で軽く身体を洗っておいたんだ。」
「・・・はぁ!?あんた、それって私達が宿を探していた間ってことですよね!?信じられないんですけど!」
折角この男のことを見直したと言うのにこれだ。・・よく考えればあの時に髪が少しだけ濡れていたような気がする、こういう事だったか。私はため息交じりに、
「はぁ・・・・、これしばらく身体を洗えなさそうですよね。どうしましょうか・・。」
この街を出ると次の街までかなりの距離がある、早くても3日程だというのだ。その間は勿論野営であり、浴場で身体を洗うことなんて出来ないであろう。
「まぁ、山道を通るようだし、道中にきれいな川の一つくらいあるだろ。女性の衛兵もいるし私の結界もあるから、ある程度は安全だしそれで妥協したまえ。」
「・・・・そうですね。そうします。」
正直、この旅で一番大変なのは、ずっと馬車の周りで気を張りながら歩き続ける衛兵達だ。いくらルーゼさんの認識阻害の結界があるとはいえ、彼らも何せず歩くだけとはせず気を張り続けながらとなるだろう。そういうことを思うとあまり我儘を言ってられない。
ルーゼさんの話を信じるなら、何も出来ないわけでもないようだしそう悲観することでもないだろう。
「・・おやすみなさい、ルーゼさん。また明日も。」
「ああ、おやすみ。」
そう言って私は自分の部屋に戻り、今日ルーゼさんから教わったことを一通り復習してから眠った。
ーーー翌日、朝ーーーー
「では、これで全員集まりましたね。ではそれぞれ配置についてください、お2人は馬車の中へどうぞ。」
衛兵のリーダーの点呼も終わり、また私たちは帝都に向かう旅を再開する。次の目的地である街は普通にかかっても3日、天候次第ではもっとかかる可能性もあるそうだ。
生まれて初めてする野営に、今から不安になるも経験したことのないことに対して少し興味もあった。
そうして、私達は街を出て、山道に入っていく。
さぁ、まだ帝都までの道のりは始まったばかりだ。ここからも気を引き締めていこう。
ーーちょっとした設定ーー
この世界の飲酒が認められる年齢は16歳からです。
文化と歴史の違いで現実と多少ルールが違うのはご容赦ください。
読んでいただきありがとうございます。
やっぱり大体6千文字以内で一話作ろうとすると、一話ごとの進みが遅くなるんですよね。
かと言って1万文字超えたりすると、読むときに億劫になるという・・・・(汗)
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