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第四話 馬車の中で

今回は前半と後半でルーゼ目線からアチーブ目線へと変わります。

 ―――ルーゼ目線―――



 私達が帝都に向かい出発してすぐに、私は衛兵達のリーダーを呼び、


「これからこの馬車に、私が認識阻害の結界を掛けるつもりです。衛兵と御者の方には問題ないように作りますが・・よろしいですか?」


 と、結界を張る旨を伝えると、


「結界術が使えるのですか?でしたら是非ともお願いします。」


 幸いにも衛兵のリーダーはこれを快諾してくれた。


「ありがとうございます。他の衛兵方にも伝えておいて下さい。では後はこちらでやらせていただきます。」


 私はそう言って床に結界魔術の魔法陣を刻み始める。まず基盤となる円をいくつか描き、その後術式を発動させるための紋様を3分ほどかけて書き完成させ、魔力を込め発動させる。


 するとその魔法陣が光り、馬車を中心に魔力を持った空間が周囲の衛兵達全員を覆う程の大きさで現れる。これで結界の外からはこの馬車を認識出来なくなった。


 するとそれを見ていたアチーブが、


「今更なんですが、こんなので本当に賊等からこの一団が見つからないんですか?」


 と、魔法陣を指差しながら言う。


「ああ、大丈夫さ。確かに比較的簡素な造りだが、賊に相当の手練れがいない限りは大丈夫だ。まあそんな奴は賊なんかにいることはほぼないし心配不要さ。」


 実際、治安の悪い地域や賊の出現情報が多くある所ではなるべくこれを使うが、一度も見破られた事はない。


「ルーゼさん。この結界術ってどうやって作っているんですか?魔法陣の作り方とか、術式を付与する方法とか。使えないなりに知っておきたいんですよ。いつか結界術に対抗する必要がある時に出くわすかもしれませんので。」


 確かに使えないにせよ、知っておいて損はない。それに、結界術を対処する方法を知っていれば結界術が使えなくとも、それどころか魔術が不得意な者でも対抗することが出来る。


「分かった、いいだろう。まず魔法陣についてだが、これの作り方としてはまず、基盤となる部分である円陣を象る。」


 そう言って私は荷物入れから厚めの紙を1枚取り出し、簡単な魔法陣の円陣を書き、アチーブに見せる。


「付与したい術式の為の紋様を魔法陣に刻むんだ。そうして後は魔力を込めて作動させる。これが基本的な結界の張り方だ。」


 彼女は少し考えた後


「・・・・、使用方法が普通の魔法と変わらないような気がするのですが、何がどう普通の魔術と異なるのですか?」


「ああ、本当に根本的な部分は同じだ。ではなぜ資質による向き不向きが極端に出るのか。それは個人ごと、その上術式ごとに魔法陣の紋様を作らなければならないからなんだ。」


 彼女はいまいち腑に落ちない表情で首をかしげ、


「それが何故、向き不向きが大きくでる理由なんですか?」


 と、率直に質問してきた。


「そうか、では一つ質問をしよう。結界術を除いた、黒魔法、白魔法、そして闇魔法と光魔法。これらは努力次第で、誰でも初級魔法くらいなら使えるようになる。それは何故だい?」


 私の言葉が終わるのを待ってから彼女が即答する。


「魔導書があるからですか?魔力を魔導書に通すことさえできれば初級魔術ぐらいなら行使できる、ということでしょうか?確かに、結界術の魔導書は聞いたことがありませんね。」


 魔導書は人間が魔術を使うためにある道具だ、500年前の黎明期は一枚一枚使い捨てていたが、本にまとめることで継続して使えるようになったのだ。


「その通りだ。中級や上級の魔術になってくると話は別になるがね。では、そもそも魔導書に魔力を込めるだけで使えるのは何でだ?これには何が書かれているかね?考えてごらん。」


 そう言って私は適当な魔導書を一冊彼女に貸し出す。彼女は魔導書のページをめくっていき、少し考えた後


「・・・・あっ、そっか。魔法陣が刻まれているのか・・当り前すぎて逆に意識したことがありませんでした。これがその理由ってことですか?」


 と、結論をだす。


「そう、魔導書に書かれるくらいには術式の法則が決まっているんだ。勿論改良の余地はあるにはあるが誰でも使えることが目的だからこれでいいんだ。」


 実際、あの戦争の時はもっと簡単な物を使っていた。あの時は魔術を使える人間が少しでも欲しかったからだ。


 それが現在、魔術を使う人間が少し減少したが、魔道師全体の質が大きく向上したのは時代の変遷を感じる。


「結界術に魔導書がなく、あくまで術式のついての解説本しかないのはこういう訳だ。一人一人違う故に、決まった法則の魔法陣が無いんだ。」


 私の言葉が終わるのを待ち、彼女は自身の考察を述べる。


「と言うことは、結界術が難しい理由は決まった法則の無い自分オリジナルの魔法陣を自分で作らなければならないからということですか?」


 彼女か私の求める満点の回答を出す。


「素晴らしい!そう!これが結界術の難易度を大きく上げている原因だ。自身の魔力の性質をよく理解した上で、自分専用の術式の紋様を作れないとそもそもまともに結界術を発動できないんだ。」


「なるほど・・・それなら結界術を出来るようにする為には私自身の魔力を正しく理解しないといけないと・・・・。」


「そうだ、ある意味新たな魔術を自分で作ることが近い。簡単にできると思うかね?」


「・・・今の私では無理、ですね。」


 実際、私ですら容易な物ではない、進化した魔術は元を辿れば私が伝えた物の派生になる。


 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「そうだろう、熟練の魔道士でさえ難しい。しかもその上で魔力の性質にも恵まれてないと使えない。残念だが君にはそれはないようだが・・」


「はい。それは分かってます。」


「そうか、だから今からは君の望み通り対策を教えよう。結界術を破る手段はいくつかある。1つは物理的に破壊すること。但しこれは結界側が物理的にこちらに干渉する場合に限る。侵入防止の結界とかのようにね。」


「私そんなことができるほど腕っ節無いんですけど。」


 そう言って彼女は細っそい腕をみせる。とてもじゃないが、これでは剣を振るのすら怪しいような細い腕だ。


「初めからそんなこと期待していないさ。だから君の場合はこっちを使う事になる。魔力を用いて相殺し破壊する方法。こっちであれば大体の結界は破壊できる。そしてその為には相手・・つまり結界を張った者の魔力の性質をよく理解する必要がある。」


「・・・それは、魔術同士での相殺というやつの応用ですか?」


「そう、大体そんなところだ。結界も所詮は人が魔力を込めて作っているからね。付いている魔力をよく見て分析して、適切な魔術をぶつければ破壊可能さ。相手の技量にもよるがね。」


「と、言う事は。今の私に必要なのは・・」


 彼女の回答を待つ。全てを私が言ってしまうより彼女からも言わせた方がいい。


「・・先ずは魔力を ”見て“、 ”理解する” 力を身につけることですね?それから自分の魔力を適切にぶつける技量。」


「そうだね、最初のについてはこれからゆっくり身につけよう。もう一つについては・・君が魔力のコントロールをキチンと出来るようになってからだね。これが出来ないと、魔力を見れたとしても結界を適切な魔術をぶつけられない。」


 そう言うと彼女は苦笑交じりに、


「・・・・結局・・・それに戻るってことですね。」


 と言う、私は軽く笑いながら


「そうだ、これが全ての基本になる。だがそう気を落とすことじゃない。帝都につくまでに2ヶ月もあるんだ。それだけあれば杖や魔導書を壊さず、君の身体に負荷がかからない程度のコントロールは出来るようになる。結界についてはそれからゆっくりと学んで行けばいい中央学院ならば優秀な教授も沢山いるはずさ。」


「・・・はい。頑張ります。」


 そう言って彼女はメモを見つめながら思案する。


「そうそう。付け加えると障壁魔法はまた少し違うものになるぞ。一緒くたにされやすいがね、知ってるかい?」


 アチーブが顔を上げ答える。


「あー、聞いたことはあるような気が済ます。ただ・・・具体的には分からないです。教えてもらえますか?」


「そうか、結界は空間を作るための魔術、障壁は魔力を直接具現化して、壁にしたもの。原理だけでいうなら黒魔法に近いかもしれない。」


「それなら。今の私にもできそうですね。」


「但し、これは魔導書を介さず直接魔力を具現化する。つまり、結界術同様、自身の魔力の性質をよく理解してコントロールしなければ上手く使えないぞ。」


「うぅん・・・これもソレですか・・。はぁ・・。」


 アチーブは軽く呻き、項垂れた後、手に魔力を込めて、魔力の制御の練習を始める。


 そうして頑張る彼女を見て何だか懐かしい気持ちになった。


 まだ人間に魔術という概念が無かった頃に、人間に魔術を教えるのには本当に苦労した。不可思議なその力を気味悪がれ、怪しまれ、最初は散々だった。


 それでも分からないながらも興味を持つ、或いは力の為に食いつき、私と共に魔術を広めようとしてくれた者や、私に常に助力してくれたあいつのお陰で魔術を広めることができて、あの戦争の勝利に貢献できたんだ。


 私達が命を掛けて教え、広めたものが今もなお、社会の中心にあり、研究され、残り続けている。


 自分で言うのもなんだが、とても嬉しいし、誇らしい。


 自然と笑みが浮かんできた。


「何・・・私を見つめながらにやついているんですか・・。気持ち悪いんですけど。」


 彼女が顔を顰め私を睨む。


「ああ、済まない。君が熱心なのを見てると昔を思い出してね。別に悪意はない。」


 尚も彼女は私に対して怪訝な表情を浮かべて睨むが、ふと思いついたかのように


「・・・今、昔を思い出すって言いましたけど・・・、ルーゼさんの昔ってどんな感じだったんですか?ほら、聞いてもいっつもはぐらかすじゃないですか。いい加減少しだけでもいいから知りたいんですけど。」


 と、いらんことを言い出す。私は顔をつい軽くゆがめてしまい


「そんなに気になるかい?と言っても語るほどの物はないのだけれど。」


 そう言った。それを聞くと彼女は肩をすくめ、軽く両手を挙げながら呆れたように言う。


「だったら尚更隠す意味が分からないんですけど。どうしてそんなに秘密にしたがるんですか?」


 ・・・当然そう思うだろうな。ここまで過去を頑なに隠してはかえって疑念が深まるだろう。だが・・真実を話すわけにはいかない。


「はぁ・・・それもそうだな・・。昔・・、私は本当に追い詰められていたんだ、盗みや殺しを躊躇うことなど出来ない程に。でも、その後ある人物と出会ってそいつに救われたんだ。そいつは若くして死んだが、あいつのお陰で今があるんだ。」


 アチーブが真面目な表情で私の話を聞く。


「今、旅をしている理由は旅が楽しいからだ。私には定住するような場所もなければ、生涯を共にする相手もいない。幸い、金を稼ぐ手段はいくらでもあるし、この帝国を回ることは本当に楽しいからね、一度行ったところでもまた別の発見がある。今は人生を謳歌してるよ。」


 すると彼女は少し腑に落ちない顔をしつつも


「そうでしたか・・、教えて下さりありがとうございます。しかし意外ですね、ルーゼさんにそんな時代があったとは。」


 良かった、一応信じてはくれているようだ。


「ああ、だがそのお陰であいつに会えたと思うと、逆に良かったのかもしれないな。・・まあこれが今話せる最大の内容だ、これで勘弁してくれるか?」


「はい。ありがとうございます。ルーゼさんの事を少し知れて良かったです。全く得体の知れない人と一緒にいるのも少し不安でしたから。」


 実際は大きく省略している上、一部噓だが彼女も一応は納得してくれる。いや、彼女も譲歩してくれたのだろう。


 何はともあれ、これで一旦は助かった。しかし・・・500年も生きているというのに17歳の少女にここまで詰められるとは、老いたのかな・・・本気で反省せねばならないようだ。





 ―――アチーブ目線―――


 ルーゼさんが私にここまで自身の事を話してくれるとは思いもしなかった。いつものように適当にはぐらかされるとばかり思っていたからだ。


 欲を言えば、魔術はどこで身につけたのだとか、話の中で頻繁に出てきた”あいつ”ってのはいったい誰なのか、そもそもどこ出身なのかとか、聞きたいことは山ほどあるが今回はこれで充分。


 たった2週間の付き合いだが、魔術の知識や技術、それに全てを見てきたかの様な彼の底の知れなさを、私は感じている。もし、彼について持っているものをより深く聞き出せれば、私はより高みに登っていけるのではないか。あくまで勘だがそう感じている。


 一通り話したのち、ルーゼさんは何を考えているのか窓から外の風景を眺め、ひたすら物思いにふけっている。私が魔力の制御の軽い練習をしていても気にも留めない、その内、私も少し眠くなってきたので寝ることにした。一応彼に声を掛け、目を閉じる。


「ああ」


 と、一言返事をする。まぁ、ルーゼさんなら変なことをすることもないだろう。そう思い意識を落とす。
















 どれくらい寝たのだろうか。不意にルーゼさんが私を起こす、


「おい、アチーブ。そろそろ目的の街に着くみたいだぞ、起きろ。」


 気が付くとそんなところまで移動していたようだ。思い瞼を擦り目を覚ましていると


「失礼します。お二人とも、本日の目的地である街に到着いたしました。これから入るので馬車から下りる準備をお願いします。」


 衛兵の一人が馬車の中の私達に呼びかける。


「あ、ありがとうございます。」


 もう日が落ちて辺りはすっかり暗くなっている。今日は宿を探しそこで休むだけになるだろう。


「ありがとうございます。起こしてくれて。」


 私がそう言うとルーゼさんは顔だけこちらを向けて、


「? ああ、礼を言うことでもないだろう。それよりも早く降りる準備をしたまえ、さっさと宿を取らねば野営になるぞ。」


 それは避けたい。私は急いで荷物を纏める、魔導書などを出しっぱなしだったので慌てて拾う。


「・・・ルーゼさんはやっぱり野営の経験とか、あるんですか?」


 ふと気になって聞いてしまってから、(しまった)と思った。ルーゼさんが話してくれた経歴を考えるなら、この質問は失礼ではないか。そう思い彼の顔を見る。


 意外にも彼は「何でもない」という表情で


「まぁ、何度もあるな。もう慣れっこだが、それでも宿に泊まれるに越したことはない。特にこの時期の夜は冷えるしな。場所を選ばなければまともに寝れもしなくなる。」


 街に入るために認識阻害の結界を解除しながらそう答える。


 もう直ぐ春とはいえ、まだ2月だ。夜になれば冷え込む。そんな中の野営とか考えたくもない。





 そうして支度をしている内に私達の一団は最初の目的地である街へ到着した。


 街に入ってすぐ、馬車から降りると衛兵のリーダーが私達に話しかける、


「これから私達で本日泊まれる宿を手分けして探します。見つかり次第声を掛けさせていただきますのでお二人はこの範囲内でご自由に行動していただいて大丈夫です。勿論、私達から2人護衛を付けます。」


 と、割ととんでもない事を言う。


「いや、流石に申し訳ないですよ。私達も探します。ですよね?ルーゼさん?」


 彼にもそう振ると、


「いえ、折角ですし私はそのお言葉に甘えさせていただきましょう。私は護衛などなくて大丈夫です。」


 と、なんと私達に丸投げして自由行動を取ろうといる。(マジかこの人)そう思うものの、


「そのついでに旨そうな飯屋でも探して来ますよ。そちらさえ良ければ一緒にどうです?」


 一応考えがないわけではないようだ。衛兵のリーダーは少し考え、


「・・・そうですね、後で他の皆にも相談はしますが、私としては前向きにお願いしたいです。アチーブさんはどうですか?」


 ニッコニコな表情ですっかり乗り気な返事をする。まぁ、私にもそれを拒否する理由はない。


「では私からもお願いします。ルーゼさん。」


 と彼に伝えると


「では決まりですね。こちらも見つけ次第、後でまた声を掛けますね。」


 と言い一人去っていった。それを見送った後衛兵のリーダーが私に対して


「さて、彼が見つける店を楽しみに、私達はさっさと宿を探しましょう。遅くなると野営になりかねませんからね。」


 と、さっきも誰かさんから聞いたような台詞を言い、宿を探し始めるのであった。私も、彼が探してくる店とやらに少し興味を持ちつつも宿探しと手伝いをするのであった。



読んでいただきありがとうございます。


なんか・・物語進んでなくない?・・なくない?

書くのって思ったより難しいですよね。


忌避なき感想や意見をくれたら嬉しいです。

(誹謗中傷等はおやめください)

これからもよろしくお願いします。

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