第三十五話 行商人の依頼とルーゼの不安
──── 7月22日 ────
この日、ルーゼは帝都西部の大通りに広がる市場にて、生活用品の調達をしていた。
当然、わざわざそこに行かずとも買えるものびかりどはあるのだが、どのような人間が帝都に集まっているのかを見るいい機会である。故に、ここまで足を運んでいたのだ。
そして、今ルーゼはある店に向かって足を運んでいた。やがてその店の前につき、そこの店主である女性に向かって、声をかける。
「やぁ、ニーナ。久しぶりだな。」
「あら!ルーゼじゃない。久しぶりね、いつ帰ってきたの?」
店の主人、ニーナはルーゼに気付きそう言った。
「つい先日だな、今日は色々と物資を調達する為にこの大通りに来たんだ。」
「あらそう、それで、何を買いに来たのかしら。」
「ああ、そうだな・・・」
そうして、ルーゼの指定した商品をニーナは用意していく、彼女は各地の珍しい品を集めており、ルーゼはその中から、酒やチーズのような嗜好品を注文していた。
その最中、彼女がルーゼに向けて話しかけてくる。
「そう言えばルーゼ、貴方結局どこに行ってたの?北の方だとは言ってたけど。」
「ああ、ガルム山脈に言ってたんだ。」
「!? ガルム山脈に?・・・大丈夫だったの?あの山脈、魔獣がゴロゴロいるって聞いてるんだけど。」
ルーゼの口からでた単語に思わずぎょっとするニーナ、彼女は旅商人であるが故に、危険地帯などには比較的詳しい方である。
「ああ、お陰でえらい目にあったよ。大した収穫も得られなかったしなぁ。」
最も、これは半分噓なのだが、彼女は特に違和感を覚えなかったのだろうか。それ自体は信じてくれたようで、
「気を付けなさいよ、全く。命あっての物種って言うでしょ?」
「この間、知り合いにも似たような事言われたよ・・・・ま、気を付けるさ、ありがとう。」
そんな会話をしながら彼女はルーゼが注文いた品を揃え終わる。ルーゼがその代金を支払っていると。
「ねぇルーゼ、ちょっとした頼みがあるのだけど聞いてくれないかしら?」
と、急にニーナが話しかけてきた。
「・・・・私にかい? ・・・取り敢えず内容を教えて欲しい。」
「えぇ、そうね。貴方前によく古書店を巡ってるって言ってたでしょ?」
(確かにそんな事を言ったなような気がするな。)
ルーゼがそう考えている最中にも彼女は話を続ける。
「それでね、そこに売ってるような古くて珍しい魔導書を集めて、私に譲って欲しいの。ほら、500年祭の時に例のアレと一緒に出したくって。勿論ただ働きなんて言わないわ、ちゃんとそれ相応のお礼をするわよ?」
「・・・成程。つまり、売る物の仕入れを私に手伝ってほしいと。だがもし、その魔導書を私が欲しいとなったらどうする気だい?・・・・私が黙ってたら分からないぞ?」
ルーゼは意地の悪そうな表情でニーナにそう尋ねる。最も、彼にとっては飽くまでちょっとからかうぐらいのつもりだが、思いの他彼女はぎょっとした表情で、
「え!?あーー、そっか、・・・そうよね。貴方魔術師なのよね。ええっと・・・。甘かったかしら・・。」
真剣に考え込んでしまった。その様子を見てルーゼは申し訳なくなったようで、
「済まない、冗談だ。君からの依頼を反故にするつもりはないよ。許してくれ。」
と、軽く謝罪する。それを見たニーナはルーゼを怪訝な表情で睨みながら、
「本当ね?」
と、迫ってきた。
「ああ、本当だよ。」
ルーゼ自身の、その言葉に噓は無いつもりだ。それを感じ取ったのかニーナはどうやら納得したようで、彼に尋ねる。
「まぁ、良いわ、じゃあ、受けてくれるってことね?」
「ああ、そう上手くいくかは分からんがやらせてもらうよ。」
「ありがとう!別に今すぐって訳でも無いから貴方の都合に合わせて頂戴。500年祭の間までにゆっくりでいいから集めて欲しいから。」
「ああ、それじゃあ、また来るよ。期待していてくれ。・・・あ、そうだ。ニーナ。」
店を去ろうとしたルーゼだが、ある事を思いつき足を止める。
「? 何かしら、ルーゼ。」
「忘れてた、これを渡しておこうと思ってな。」
ルーゼは、青い水晶が磨かれただけの簡素な首飾りを出し、ニーナに手渡した。ニーナは驚いたように、
「え、なにこれ!何でこんなのを?金払わないわよ!?」
と、聞いてくる。ルーゼはやや呆れた様に、
「・・・全く、押し売りじゃないから大丈夫だ。それは魔水晶で出来たお守りだ、身に着けた者に迫る悪意に反応して君でも分かる様な魔力を放つ。」
「・・・どうしてこんな物を?しかも無料で?」
「・・・無料なのは私からのお礼のようなものさ。落ち着きが無くてうっかりさんかつ、悪意に疎い君には丁度いいだろう?」
ルーゼは冗談交じりに彼女の欠点を羅列しながら笑う。彼女は若干不服そうな表情ながらも、
「・・・余計なお世話ね、まぁ、有難く受け取っておくわ。ありがとね。」
と、受け取ってくれる。
「ああ、それじゃあ、元気でな。」
そうしてルーゼは彼女の店を後にする。購入した物を置くために宿に戻るついでに、ルーゼは早速、古書店を探していた。
(しかし、相変わらず心配になるなぁニーナは。)
情報収集能力や目利きは確かなのだろうが、かなり抜けている部分があり、いつか大きなトラブルに巻き込まれるんじゃないかと、不安になってしまう。
さっきだって、ルーゼの言葉をあっさりと信じてしまった。ルーゼに悪意が無いからと言って、あっさり信じすぎだ。
(・・・私の魔導書をしっかりと売れるのか?)
毎年帝都では年に一回、大規模なオークションが行われるそうだが、今年はそれを500年祭に併せて行うらしい。
彼女はそこで「大賢者ルーゼの魔導書」を売りに出すと息巻いていた。
しかし、今の彼女を見ていると、どうしても不安になるのであった。だからこそ、一応アレを渡しておいたのだが。
(その時には、見ておいた方がいいだろうな・・・・・。)
そう思いながら、ルーゼは宿に戻るのであった。




