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第三話 旅立ち

「私も500年祭とやらに興味が湧いた。君の帝都までの道のりに私も同行させてくれないか?勿論君に損をさせるような真似は決してしないさ。」







「は?」


 私の突然の提案に驚いたのか彼女が素っ頓狂な声を上げる。


「言葉の通りだ。君の旅路に私も同行させてくれないか。勿論君に損はーーー」


「お断りです。」


 まあ、正直これは想定内だ。


「何故だい?」


「逆に何故受け入れられると思ったんですか?確かに、貴方からはこれまでに魔術を教えてもらいましたよ?ですが、ルーゼさんの身元や正体を私たちは何も知らないのですよ?そんな人を信用して私たちの道中に同行させることが出来るわけがないでしょう。せめて身分と出身だけでも言えないんですか?」


「確かにその通りだ。ただ申し訳ないがそれについては話せないんだ。」


 偽るのは簡単だが、万が一彼女が私のこと話した際に、そのことで矛盾が発生しては困る。いや、そう思うなら元から彼女に絡むべきではなかったのかもしれないし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それでも今更無かったことには出来ない。


 まあ、だからといって彼女に私の正体がバレることもあるまい。


「代わりと言っては何だが、せめて私が同行することで生じる君の利点を教えよう。」


「何です。」


「一つ目は道中の安全を保証することだ。元々君の旅路には衛兵が護衛に付く予定だっただろ?賊から君を守る為等に、だが私が居ればその賊に襲われることすらなくなるだろう。」


「どうやってですか?」


「認識阻害の魔術結界をはり続けるのさ。まだ付く衛兵の規模は知らないが、馬車に刻めば大丈夫だろう。」


「まって下さい。貴方結界術までできるんですか?」


「ああ、それなりだがな。まあ実際に後でお見せしよう。ともかくこれが一つ目の利点。」


「ええ・・・」


 アチーブが信じられないものを見るように私を見る。


 無理もない。実際、結界術はかなり難しい。魔術の行使に求められる才能と努力の比率は基本的に5分5分だが、結界術に限っては才能が大きく物を言うジャンルになる。現に彼女は結界術の才能についてはからっきし無い。


「まあ、そうですか。それで次の利点は?」


「ああ、2つ目は道中でも君に魔術の指南をすることだ。まあこれについてはこれまで通りだが。一応聞くがそれが出来ない程の急ぎではないだろう?」


「ええ、そうですね。相当期間に余裕を持って出発しますが。確かにルーゼさんが魔術を教えて下さるのは私としても大変ありがたいですが・・・・・」


「まだまだ細かなものはあるが・・・大まかにはこんなものだろう。どうだい是非とも同行させてくれないか?」


「うーん・・・」


 アチーブは少し考えるように唸る。


「言いたいことはわかるのですが・・・。どうしてそこまでして私に同行したいんですか?500年祭に興味がある、というだけならルーゼさん一人でも全然行ける訳じゃないですか。」


「確かにそうなんだが、君と共に行った方が楽だと思ったのが正直な理由だ。馬車の予約と確保もいらないくて移動も楽だろうし、移動の為の書類とかも一々作らなくて済む。それに君と共に行った方が楽しそうだしね。あ、勿論金は自分で支払うよ、そこまで図々しくはない。」


「いや、最初の時点でかなり図々しいと思うのですが・・・・・。」


 確かに。普通に考えてみればそうだ。


「確かに、ルーゼさんが同行してくれることの利点は確かにありますね。正直、私個人としては貴方に同行していただけると助かる所もありますが・・・・。」


「ならーーーー」


「ですが、私の一存では決められません。町の人たちにも相談してみますね。一応前向きになるよう上手く伝えておきます。」


「ありがとう。助かるよ。」




 ー2日後ー



「ルーゼさん、おはようございます。」


「おはよう、では早速始めよう。」


「その前に、例の件。町の皆から許可がおりましたよ。」


「おお!そうか!ありがとう。いやしかしよく許可が下りたね。」


「町の人達がルーゼさんが私に魔術を教えていたのを見ていた人達が結構いたそうで、それで”彼へのお礼も兼ねてそれくらいならいいのでは”ということで割とあっさり許可がおりました。」


 そうだったのか。前々から見ている人がいるのは分かっていたが、それがこういった形で功をなすとは思いもしなかった。


「町の人達に感謝だな。それで出発は明日だっけ?」


「はい。準備等はしていますか?」


「実は殆どしていないんだが、まあすぐに終わるから大丈夫さ。」


「予めやっといて下さいよ・・・」


 今日の訓練は短めに終わらせた。明日の準備や無駄に疲労しないために。


 彼女はまだ魔力の制御が充分に出来ていなかったが、ここからの道中に同行出来るならしっかり指南出来る。


 彼女のことについては何も問題はない。


 私はどうだ?




 ーーー我が友が死に、しばらくして私は帝都を去ったーーー



 ーーーそれから500年、私は帝都に一度も戻っていないーーー



 ーーーあの時から、どう変わっているのだろう。楽しみだーーー



 私は懐かしさと期待に胸を膨らませていた。


 至る所に私の銅像が建てられてしまっていたが、あの時とは随分人相も違う、自分からバラすような事をしなければきっと大丈夫。


 ーー今度、近いうちに会いに行く。待っていてくれーー


 もういないはずの友に私は心の中で声を掛ける。


 出発は明日の朝方だ。







 翌日、朝。


 集合場所に行くとアチーブの両親を名乗る人物が私に


「ルーゼさんですね。娘に魔術を教えていただいたようで本当にありがとうございます。」


 と、声を掛けてくる。


「いえ、元はと言えば私が勝手に首を突っ込んだだけでしたので、そう感謝されると困りますよ。」


「いいえ、そんなことはありません。実は・・あの子の魔術の師匠は3年前に亡くなられましてね、それ以降はあの子の独学だったんです。だからあの子は久しぶりに人に魔術を教えてもらえた事が、とても楽しかったと毎日のように言っていたんですよ。本当に、感謝しています。」


「ちょっと、お父さん?余計な事をいわないでよ!」


 そのアチーブが照れ隠しをするように慌てて割って入る。


 親子の微笑ましいやり取りのなかに、町の人達の期待を背負った彼女の年相応らしい所を始めて見たような気がして、何だか私まで微笑ましい気持ちになった。


「アチーブさん。ルーゼさん。お時間ですよ!」


 私達を連れて行ってくれる衛兵のリーダーと思しき男が、そう呼び掛ける。


「はい。お願いします。」


 私はそう言いさっさと馬車に乗る。


「はい!今行きます!」


 アチーブは両親の方へ振り返り、


「・・・・じゃあね、お父さん、お母さん。私、行ってくる。」


「うん、頑張れよ。無事にいてくれればそれでいい。」


「いってらっしゃい。たまには手紙とか頂戴ね。」


「うん!立派になって帰ってくるから待っててね!行ってきます!」


 そうして、一足早く馬車に乗っていた私の前の席に彼女が乗る。


「これからもよろしくお願いしますね。ルーゼさん。」


「こちらこそ、よろしく頼むよ。」


 そうして私達は旅路についた。


 アチーブは未来を掴む為に。私は過去を懐かしみ忘れない為に。


 500年前の様に、一つの出会いがまた私の人生を大きく動かしたのであった。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 さて、読者諸君には特別に彼、”ルーゼ” の正体について少しだけ語ろう。


 もう皆気づいているかもしれないが、そう、彼の正体は竜滅戦争の英雄、「大賢者」と呼ばれた男、”ゼーレ” だ。


 何故彼だけが未だに生きているのか。何故正体を隠すのか。


 色々気になるだろうが、それは今後、きっと明かされる。


 楽しみにして読み進めてくれるとうれしい。



読んでいただきありがとうございます。


さて、これで第1章は終わりです。

ここまで読んだ感想や意見を忌避なく出していただけると幸いです。

(誹謗中傷等はおやめください。)


それでは今後ともよろしくお願いいたします。

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