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第三十二話 ”普通”の会話



「・・・まさかファルの店で、アチーブの師であるルーゼに出遭うとはな。」


( !! )


ファルベから中央学院騎士団の副団長だと聞いていた、ネールという女は、ファルベの店を出て少し歩いたところでルーゼに向かってそう言い、睨み付け笑う。


だが、その目は笑っておらず、左手は剣の柄頭に掛けられていた。口調が飄々としているのが気持ち悪いくらいだ。


(・・・・まぁ、下手な言い逃れは無理だな。)

ルーゼは内心動揺していたが、すぐに冷静さを取り戻し、


「・・・おや、ファルベから中央学院の人間なのは聞いていたが、まさかアチーブの知り合いだったとはな。彼女から聞いたのかい?」


”普通の”表情で”普通の”反応をすることにした。


(後ろめたいことでも無い人間ならば、このような反応が一番丸いだろう。)

そう考えながら、ルーゼは相手の次の言葉を注意深く伺う。


「・・・まぁな、ウチは騎士団の一部も教員みたいな事するんだ、実戦経験があるからって事で実技訓練とかでな。そこで生徒とも関わんだよ。」


(思ったよりも動揺しなかったな。・・・誤魔化しが上手いだけか?まぁいい。)

ネールは普通に返してきたルーゼに対して若干驚いたが、大した問題でも無いと、話を続ける。


「経緯から話すよ。その実技訓練でだ、平民出身の魔術師なのに他の奴らと比べて妙に出来る奴がいたんだよ。で、教員や騎士団の間で軽くだが話題になったんだ。そのアチーブって子がな。」


彼女は一泊置いてから話を続ける。


「それでアチーブの学級の担任が彼女に聞いて曰く、『ルーゼと言う極めて優秀な、旅の魔術師に指南して貰った。』と、言ってたんだ。それで、アタシ個人でも気になって色々聞いたんだよ。」


「・・・・成程、それでか。それで彼女は、私の事をなんて言ってたんだい?」


( ・・・そりゃまぁ、当然と言えば当然の流れか。そういやアチーブも実技訓練だかなんだかそんな事言ってたしな。ともかく、今のところ特に不都合な話は無い。油断は出来んが、今はこのまま乗っかっておこうか。)


そう考え、ルーゼはネールに質問する。彼女は、


「そうだな、優秀な魔術師って以外のだと、大切な恩人だとか、色々と楽しい人だとか言ってたな。随分と好かれてるみたいじゃねぇか。」


と、言った。


「・・・そうか、それは光栄だな。」

ネールの言葉にルーゼは冗談交じりにそう答え、


「そうだ、一つ聞きたいんことがあるんだ。」

と、質問をした。


「何だい?」


「アチーブはどうしてるかね?元気にしていると嬉しいが。」


(・・・話を逸らす気か?まぁ、他意が無い可能性もあるが・・・。)

ネールは一瞬そうも考えるが


「まぁ、元気にしてるよ。アタシが指南している奴と仲が良くてな、時々一緒に稽古つけてやってる。熱心なヤツだよ。」


(・・これは素直に答えねぇ方が不自然か。)

そう判断してルーゼの質問に答えることにした。そして、


「ただ、気になる事があってな、入学当初からしょっちゅう夜に書庫にこもって何か探してるんだよ。しかも消灯時間過ぎてもいることがある。勉強熱心なのはいいが、根を詰めすぎても、とは思うな。」


と、冗談交じりに付け加えておく。


「・・・そうかい、感心なことではあるのだが、少し心配だな。まぁ、軽く注意してやってくれ。」


「ああ、アイツの担任にも言っておくよ。」


そう言い終わるとネールは懐中時計を取り出し、時間を確認し、


「それじゃ、そろそろ中央学院に戻るよ。ルークのオッサンに怒られるのはマジなんだ。急に話しかけちまって悪かったな。」


「・・・ああ、アチーブによろしく言っておいてくれ。」




────────────────────────────────


ネールと別れた後、ルーゼは何処へともなく、東部の住宅街を歩いていた。


(・・・あの女、一体何が目的だったんだ?)


ルーゼがネールの話の中から得た情報と言えば、彼女含む中央学院の一部教師や幹部がルーゼの存在を知っていること。後は、アチーブの中央学院での様子を少し、と言ったところだ。


(・・・ただ、油断のならん奴ではあったのは確かだ。)


彼女の左手は終始剣の柄頭に掛けられており、いつでも抜けるようにしていた。それに、ルーゼの全身や魔力を品定めするかように見回していた。

恐らく、ルーゼが魔術師としてどうか、及び、この男が信用に値するのかどうかを見ていたのではないだろうか。


( 面倒事にならないと思いたいが・・・。祈る他ないか。)


こうなってしまってはルーゼの手ではどうしようもない、後はネールが、中央学院の教師や幹部がこれをどう見るか次第である。


(・・・とは言っても、私は罪人では無い。面倒事にはなれど、悪いようにはならんと今は思っておこうか。)


今、思いつめたとこでどうにもならない。ルーゼはそう思い、気楽に考える事にしたのだ。


さぁ、今日はどんなものと出会えるかな?そんな事を考えてルーゼは帝都の街を練り歩き始めた。




────────────────────────────────



ネールは中央学院に戻るべく、帝都の門を出て馬に乗り、駆けていた。


(・・・結局大した話は出来なかったな。まぁ、奴を直接見ることが出来たわけだし良いとするか?)


ネールがアチーブに対してルーゼの事を聞いた際、彼女は『極めて優秀な魔術師』と、評していた。

しかし、実際ネールが相対して分かった。


( アイツは、そんな程度では無い。)

騎士団の副団長として、賊や魔獣討伐、異国からの侵入への対処等、数多の戦場で戦って来た彼女の感覚がそう告げていた。


( 恐らくアイツも、多くの修羅場を経験してきたに違いねぇ。そうでも無ければ、あんな剣吞な魔力の気配にならねぇだろ。)


( と、なるとだ。アイツはどこで魔術を身に着けたんだ?貴族や金持ちの類には見えんかったが。)


魔術を修得するには莫大な時間と費用がかかる。学ぶ時間、魔導書の費用、教育の為の機関等々、だ。よって魔術師になる者は高度な教育を受けることのできる身分の者であることが多い。


勿論、平民でも初級魔術程度なら、学校や身近の人間に教えて貰うことで身につける事は可能であり、村の自警団や傭兵にもいる事にはいる。


だが、どうしても優秀な魔術師の大半はそれらの費用と時間を確保できる貴族諸侯や金持ちの家出身の者となるし、だからこそ、帝国の貴族が権威を保てる理由の一つにも成るのである。


勿論、アチーブのような特例も存在するが。


( まぁ、だからといって絶対なんてことはねぇ、偶々才能に恵まれるばあいだってある。だが、)


(・・・ルーゼなんて名前は聞いたことがねぇのがな・・・。)


優秀な魔術師というのは殆どの場合、それ相応の立場であるが故に名が広まりやすい。

しかし、ネールは中央学院の騎士団、それも副団長というそれなりに高官であり情報が伝わりやすい立場にも関わらず、ルーゼと言う名を一切聞いたことがないのだ。


(・・・・これは、詳しく調べてた方がいいかもしれんな。取り敢えず、次の機会にアチーブに話を聞いてみるってのと、ルークのオッサンや学長にも話通しておくか?)



そう思いながら、中央学院へと駆けていった。







──────── その日の深夜 ────────




アチーブは今日も、中央学院の書庫で魔術に関わる本を探していた。


ルーゼから託された [ ルナポース ] の解析を進めるためである。とは言っても、現時点ではほぼ手詰まりの状態であるのだが。何せ分かっているのがルーゼが言った光魔術であることと、複数の術式が絡み合っているであろう事と言ったように、誰でも分かるようなこと。


そしてもう一つ、多分ではあるが相当古い時代の構築で作られている術式である事。調べている内に気づけたことである。


そこで彼女は今、滅竜戦争の伝記を読んでいる。決して現実逃避の類では無い。そもそも人類の魔術は全てここから始まったのだから、古い時代の術式ならばそれを辿る事が解析に必要なことの一つかも知れないのだ。


しかし、どこを見ても [ ルナポース ] なんて単語は出てこない。


( 大賢者ゼーレやクリオシータス辺りの記述に乗ってるんじゃないのかなぁ・・・・。)


アチーブは頬杖を突いてため息を吐く。初めは意気揚々と取り組んでいたが、こうも進捗を得られないとげんなりしてくる。今度ルーゼさんにでも訪ねてみようか。そんな風にも考えていた。


( てかそもそも、何でルーゼさんはこれの事を知っているんだ?)


そもそもルーゼは色々と分からない点がいくつもある。この術式の件も正にそうだが、それ以外にも彼の出自など挙げれば幾らでもありそうだ。


( 浮浪者、とは言ってたけど。そんな人が魔術を学べるかは分からないし、ルーゼさんが救われた女性ってのがやっぱり鍵かなぁ。)


( じゃあ、次に会えたら、ルナポースの事と、以前話していたあの女性の事を主軸に聞いてみよっかな・・・?)


ルーゼという男がああ見えて押しに弱い人間であり、しつこく詰めれば折れる事はアチーブも分かっている。


( ・・・でもなぁ、ルーゼさんの過去を無理に話させるのは・・、申し訳ないなぁ。)


これまで、ルーゼがアチーブに話してきた過去の話は殆どが辛い記憶の話であった。それを無理に・・・、そう考えている時であった。


「──────────おい。」


「うわぁっ!!!」


突然の声にアチーブは驚き悲鳴と共に飛び退く。


「・・・大丈夫か?」


声をかけてきたのはネールであった。彼女は今晩の夜回り担当の一人である。


「・・・ネ、ネール先生。こんばんは、すみません、大声をあげてしまいまして。」


「そうか、驚かせて悪かったな。それよりも、こんな時間に何してんだ。もう消灯時間は過ぎてんぞ?」


ネールが怪訝そうな表情でアチーブに向かってそう聞いてくる。


「すみません、調べ事をしていました。・・・もうこんな時間だとは・・・。」


噓をつく必要も無いため、アチーブはそう正直に答える。それを聞いたネールは呆れたようにため息を吐いて、


「はぁ、またか。勉強熱心なのはいい事だけどよ、消灯時間過ぎたならもう勘弁してくれ。アタシが怒られるかもしれねぇじゃねえか。それに、寝不足も良くねぇぞ?」


「・・・はい、すみません。気を付けます。」

と言って、アチーブは片付けを始めた。実際アチーブ自身も大分疲れていた。


「全く・・・・あ、そうだアチーブ。」


「? はい、どうしましたか?」

アチーブは片付けをしながら、ネールの話を聞く。


「今日、お前が前言ってた”ルーゼ”って奴に帝都で会ったぞ。」


「え!?ルーゼさんとですか!?あの人帰って来たんですか?」


驚いたアチーブは思わず振り返る。


「ああ、偶々通ってた店でな・・・それよりアイツ、どっか行ってたのか?・・そーいやそんな事言ってたよーな。酔ってて良く分かんなかったけど。」


「ええと、確か・・・ガルム山脈だったかな。古書店で見つけた情報の検証とか言ってましたけど。よくは分かりませんが。」


( ガルム山脈?あんな魔獣だらけの所に何があるんだ? )

ネールはそう思うが、一旦飲み込み、本来聞くつもりであった事を尋ねる。


「・・・そうか、所でさ、アチーブ。」


「?」

ネールの声で、アチーブは振り返る。


「・・・アイツは、一体何者なんだ? 」


「何者・・・ですか?」


「そうだ、アイツは魔術師として確実に頭抜けた力を持っている。アンタの言っていた以上にな。だが、アタシゃルーゼなんて名前を聞いた事ないんだよ。」


そう言って肩を竦めながら、ネールは更に話を続ける。


「・・・だから、ハッキリと言うと、アタシはあの男の事を大分怪しい奴だと思ってる。」


「!」


「・・・そもそも、あそこまでの能力を持つ魔術師が旅生活をしていることがおかしいんだ。普通何かしら士官をしていることが普通なんだ。勿論、本当にそうって可能性もあるが。・・何かしらのお尋ね者が使う偽名だという線もある。」


無言のアチーブに対して、ネールは更に話を続ける。


「とは言っても、これは飽くまでアタシの憶測に過ぎねぇ。そんな奴が帝都に来る間抜けをするとは思えないしな。 だがもしそうだとすれば、アタシには看過できねぇ。だから、アイツが何者か少しでも知ってたら教えてくれるか?」


ネールの言葉を受けたアチーブはしばし考えるような素振りを見せる。そして、


「・・・んー。すみません。私も、あまり分かんないです。」


( ・・・ルーゼさんだって、私に勝手に過去を話して欲しくはないよね。それに、 )

もし、ルーゼがアチーブを信頼して過去の話をしてくれたのなら、ここで話すのは彼への裏切りだろう。そう考えて、ネールの問いに答えた。


「・・・そうか。」


( そんな事あるのか? )

ネールはそう考えていると、アチーブは言葉を続ける。


「・・・その、ネール先生のおっしゃる通り、色々と怪しい人だとは私も思います」


そこで一泊置き、アチーブは話を続ける。


「でも、きっと、悪い人ではないと思います。・・・自分勝手ですが、私はルーゼさんを信じたいです。」


アチーブは色々と複雑な気持ちの籠った表情でネールの目を見て話す。それを見てはっとしたネールはバツが悪そうに


「・・・悪い、別にアイツを悪人だと決めつけたい訳じゃないんだが、そうだよな、すまねぇ、悪かった。」

と、謝罪する。


( そりゃそうだ、アチーブからしてみれば自分の恩人が疑われているわけだ。そりゃ、気分悪いだろ。何考えてるんだ、アタシは。 )


「いえ、大丈夫です。ネール先生の考えが当然なんで。それに、何も言わないルーゼさんだって悪いですよ。」


「え?」


ネールの謝罪に対して、アチーブはあっけらかんと返した。思わず面喰ってしまったネールを前にアチーブは話を続ける。


「自分の出自を語る事すら渋るような方ですからね、あの人。そんなの怪しまれて当然のことですよ。私だって初めはそうでしたから。」


アチーブはおおよその片付けを終えて、自らの荷物を纏めて抱える。


「それで付き合っている内に、悪い人では無いな。ってなっただけですから。だから、先生が謝らなくたってて大丈夫ですよ。」


「・・・ハハッ、そうかい。成程ね。ありがとな。」


「いえ、こちらこそ、ありがとうございました。・・おやすみなさい。」


「あぁ、お休み。」



「・・・・はぁ。」


アチーブが去ったのを見届けてから、ネールはため息をつく。

彼女には人を見る目がある。だから、その勘は間違ってはいないのだろう。ネール自身も、あの男が悪人には見えなかった。


( まぁ、ファルベに気に入られている奴が悪人なわけねぇってのはそうなんだがなぁ。)


自分の友人の様子を思い出す。ああ見えて人の感情に機敏なファルベと深夜に親しくできるくらいなのだ。ある意味、それが結論だ。


「・・・・だがなぁ。」

だからといって簡単には納得出来ないのが彼女の立場だ。


「一応、学長には報告しとくかなぁ・・・。団長は・・・また今度にしとくか。」


一旦そう決めて、ネールは夜回りを再会するのであった。





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