第二十八話 邂逅
「・・・コレも駄目、か。」
地下脈の行き止まりを前にして、ルーゼはため息を吐き、そう呟く。
幻影達との戦闘を終えてから数時間、ルーゼは確認出来る限りの地下脈の道を探索していた。
しかし、ロワが遺したであろう物を見つけることは出来ていなかった。
(・・・・と、なると後はあそこか。)
そう思いながら来ていた道を引き返し、未だ通っていない通路に向かって足を運ぶ。
そうしてある程度引き返した先に、その通路の入り口が見えた。
その通路は今までの通ってきた物とは明らかに異なり、丁寧に整理されている。今までも多少なり整理された通路はあったが、それでもかなり崩れていた。
しかし、ここだけは違う。
500年近く人間の手が掛かってないとは到底思えず、不気味な程整っていた。
それだけではない、あろうことか微量の魔力が通路全体に込められている。それも、その魔力は先ほどから何度か交戦を重ねている幻影魔獣達の物と全く同じ物である。
それが意味することはもう明白である。
(・・・・面白い、とんだ化け物だな。)
その通路に入る前に、鞄の中から小さな水晶を取り出し、それを媒介に小さな結界を作り出し、浮かせる。
”相互不干渉の結界”
この結界自体が他者に何かが出来るわけではないが、他者が干渉出来ないように組んだ結界である為、ルーゼからすれば確実に信頼信頼できる目印の様な物となる。
こうして、地下脈の主の対する興味をそそられながらも、何が起こるか分からない空間に入ることに最大限の警戒をしながらその通路に足を踏み入れるのであった。
コツ・・・・・ コツ・・・・・
地面、壁、天井、その全てに警戒をしながら歩いて行く。
通路全体に違和感こそ感じるが、現時点では特に罠やからくり仕掛けがあるようには感じない、
(・・・・・。)
先程まで散々遭遇してきたはずの幻影魔獣に出くわさない、それどころかその気配すらも感じない。
面倒ではあるので出くわさないに越したことはないものの、ここまで一切の気配を感じないというのは逆に気持ち悪い。
(・・・・・全滅させたのか?)
と、考えてもみるが、すぐに否定する。
(無いな、これだけの事が出来る奴がこれくらいで残機切れだなんてことも無いだろう。)
(認識阻害や通路の順路の入れ替えを食らってる感覚も無い・・・・。分からんな、誘い込みでもしているつもりか?)
実際、雑兵と共に自身の魔力を無駄に消耗するくらいなら、ルーゼをおびき寄せて一気に叩くというのも手ではあるだろう。
そう考えながら、通路を道なりに歩く。そうして進むたびに強力な魔力を放つ者に近付いていくのを感じる。
そして、
(・・・・・降りろ、と。)
通路を進み続けたルーゼの目の前には更に地下深くへと降りる長い長い階段が現れたのであった。
その奥からは先ほどから更に濃くなっている強力な魔力をひしひしと感じる。
階段を下った先に恐らくこの地下脈の主がいるのであろう。
(・・・・・。)
もしもの不意打ちに充分に警戒しながら、ルーゼはゆっくりと階段を下るのであった。
────────────────
『・・・・来たか、久方ぶりの来客だ。』
ルーゼが階段を下りきるや否や、その声がその空間中に木霊した。
(・・・久方ぶり?)
魔獣の言葉を聞き逃さなかったが一旦置き、その声を主に視線を睨むように向ける。
そこには、頭の高さだけでも優に10mは越すであろう巨大な亀の様な魔獣であった。
ルーゼから見える情報だけでも、身体中にびっしりと生えた苔等の植物が覆い、亀の顎からは滝のような髭が地面に着くほど長く伸びており、この魔獣がどれだけの期間生きていたのかが想像出来る。
何より、この魔獣からあふれ出ている圧倒的な魔力が、コイツがこの地下脈の主であることを証明しているのであった。
おまけに魔術の類ではあるが人語をつかえるのだ。そこらの魔獣、否、下手な龍よりも強いかもしれない。
『人間よ、何を目的としていたずらに立ち入り、我が幻影を打ち破り、此処まできた。』
ルーゼはこの瞬間に何が起ころうと対処出来るよう最大限警戒しながらも、魔獣との対話を試みる。
「・・・防衛の為とは言え幻影の殆どを倒したのは謝ろう。そうだな、私はある物を探しにきたのだ。500年前、この地にある男が侵入し、何かを遺したはずの物を。」
『・・・・・』
魔獣は沈黙する。しかし、微かではあるが魔力が揺らいだ。
「先程の言葉と言い、如何やらその様子だと何かを知っているようだな。それさえ回収出来ればこれ以上この地下脈を荒すつもりはない。どうか教えてくれないか。」
『・・・貴様は、あの男の同胞だと言うのだな。』
魔獣が殺気が纏う。
一瞬、自身の事を言うか迷うが、魔獣相手なら問題ないと判断し、
「ああ、そうだ昔──────────」
次の瞬間、ルーゼの周囲を水の槍が包囲していた。




