第二十七話 幻影
夥しい数の魔獣達の群れに向かい突撃したルーゼは、挨拶代わりに目の前にいる魔獣数体を風の初級魔術で切り刻む。
風の刃が放つ鋭い音と共に、それを受けた魔獣達はバラバラになって崩れ落ちる。
(・・・!?)
バラバラになった魔獣の中に塵一つ崩れ落ちる魔獣が複数いたのを確認する。
(・・・もしや・・幻影か?)
そのことについて考察したかったが、ルーゼに気づいた魔獣達が獰猛な雄叫びを上げ、ルーゼを取り囲むように一斉に襲い掛かり、ルーゼの隙を許さない。
考えるのを一旦後回しにし、魔獣達の殲滅を再開する。
魔獣達に完全に囲まれぬ様、ルーゼは自身の右側の比較的に数の少ない魔獣達に向かって先程同様の風の初級魔術で切り刻む。
そうして魔獣達が倒れた事で空いたスペースへと風魔術を使用しながら移動する。
そして、また取り囲まれる前に、一方向に向けて風刃で切り込む。
空いたスペースに駆け込む。
ルーゼはこの戦術を最良と判断した。
個体ごとの強弱こそあれどルーゼにとってはそれは誤差。
問題は多少開けている箇所といえど、逃げ場の少ない狭い地下脈の中での魔獣達の圧倒的な数。
少し手間取って足を止めればあっという間に取り囲まれる。
500年の時を生き、魔術師として他を寄せ付けぬ実力を持つルーゼでも、この数の魔獣達に四方八方を取り囲まれたくはない。
よって魔獣達の数の暴力で圧殺されぬよう常に高速で駆け回りながら、移動方向の魔術を蹴散らし、上空から襲い掛かる小型の飛行する魔獣を撃ち落としていき、少しずつ魔獣達の数を削っていく。
戦場が地下脈であることを考慮すると大規模な魔術を使えないため、魔獣を確実に屠れる威力を持ちながら規模の小さい風魔術で戦う。
そうして、魔獣の数が約半数となった時、巨大な影がルーゼの上に覆いかぶさる。
(・・・・。)
目線だけでその影の主を見ると、背丈15mはあろうかという巨大な魔術がその巨腕を振り上げて、ルーゼに目掛けてそれを振り下ろそうとしている。
(・・・チッ!!)
振り下ろされた衝撃で万が一地下脈が崩落しては堪らない。ルーゼは心の中で舌打ちしながら、一瞬足を止め、巨大な魔獣の頭に目掛けて構える。
『光の矢』
それを放つと同時に巨大な魔獣の頭が木端微塵に砕け散る。
巨獣が倒れこむ前にその死骸を切り刻もうとしたその瞬間。
その魔獣は塵一つ残さず崩れ落ちて言った。
「・・・・やはりか。」
これで確信がついた。
(ここにいる魔獣の殆どが実体を持った幻影だ。)
相も変わらずルーゼに襲い掛かる魔獣を撃退し駆け回りながら、ルーゼはさっと周りを見る。
先程まで特に気にしてしなかったが故に気づけなかったが、よく見れば群れの中にルーゼに恐れをなしたか、その場にとどまっている魔獣が何体もいる。
恐れず飛びかかってくる個体を倒すと、それらは塵一つ残さず崩れ落ちる。向かってくる奴らは全て感情も本能のない幻影だ。
改めてそいつらを凝視すると、うっすらとだが魔力が滲んでみえる。しかも全て同じ魔力。
(・・・・・すごいな!)
ルーゼは幻影達に目標を定め、更に魔術を振るうのであった。
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(・・最後。)
そうしてしばらく戦闘をしていき、ルーゼは自らに襲い掛かる魔獣は全滅させた。
当然というべきか、あれだけの数を屠ったというのに死骸が殆ど無い。
恐れをなした本物の魔獣を無理に殺す必要はない。ルーゼはさっさと今まで戦っていた戦場を後にし、更に地下脈の奥へと進んでいく。
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(・・・・・。)
やけに道の整った地下脈を一人歩きながら、ルーゼはため息を吐きつつ先程の現象について考える。
(まぁ、殆ど閉ざされた地下脈にしちゃ、やけに魔獣の数が多いとは思っていたが。)
(まさか、あの中の魔獣の大半までもが幻影だとは)
あれ程精工な実体を持つ幻影、一体一体は雑魚だとはいえそれを大量に、しかも、ルーゼが一瞬で看破出来ない程の魔力の隠蔽。
それらの業はすべて、最深部にいる強大な魔力を放つ魔獣の仕業であろう。
「・・・ふっ。」
強力な個体だと言うのは理解していた、しかし、ルーゼにとっても想定以上の強さの魔獣であろう。ルーゼはそのことを感じ取っていた。
奴が行っている幻影魔術は全てが極めて難しい技術だ、余りにも手間はかかるし消費も大きい、ルーゼでもこんな事余程のことが無ければやりたくない。
そんな事を馬鹿みたいにやってしまう魔獣、普通の人間ならばこれに気づけた時点で逃げ出すはずだ。
しかし
「ククッ、ハハハ・・・」
ルーゼは違った。
「・・・面白いものが見れそうだ。」
魔獣に対する恐怖なんてものは初めからなかった。
極めて高い魔術の能力を持つその魔術に対する興味に、ルーゼはそそられていた。
ロワの伝言にある物なんてのは後でゆっくりと探せばいい。
そんな事を頭に浮かべたルーゼの足は、意識せずともその魔獣の方に向かっていた。




