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第二十三話 級長ルドルフ

────── 一方 ルドルフ  ───────



ルドルフは級友達と幾つかのグループに別れた後、自らが担当するグループと共に、帝都の大通りの市場を回っていた。

担当していた物資も殆ど買い終わり、今は彼が決めた範囲の中でグループ内の自由行動の時間としていた。


そして、ルドルフは今、ある行商人の女性が営む、小さな出店に並ぶ商品を見ていた。


「・・・失礼、こちらの短刀は幾らだろうか?」


彼は武器の収集を趣味にしており、故にその武器が何処で造られた物か、いつ造られた物か見れば何となく分かる。

今回見つけたのはルーベ大陸を超えた先の東方にある、ある国の短刀。しかも、150年程前の物であろう極めて珍しい物だ。


ルドルフは相応の値段を覚悟した上で、店主の女性にそう尋ねる。


「・・・そうねぇ、大体・・、大金貨10枚、なんてどうかしら?」

店主は不敵な笑顔でそう答える。彼女は恐らくルドルフが中央学院在学の貴族出身の学生である事を考慮して、ぎりぎり出せるか、と言う値段のつもりで提案してきたのだろう。


「ふむ、大金貨10枚か・・・・。確かに、出せないわけではないが、もう少し安くならないだろうか?具体的には・・・8枚まで、とかどうだろうか。」


勿論、アルデンツィ家嫡男の彼であればこの程度の金額は簡単に出せる。しかし、彼個人の気持ちとしては級友達と大きくズレた金額を簡単には出せない。だが、手に入れたい、そう思い値段交渉に踏み出た。


そう来られた店主の女性は、少し困った様な表情をしてから。ルドルフに対して、


「そうねぇ、これでも限界まで下げた上でのお値段であったけれど、買えない?ごめんなさいだけど、正直、これ以上下げたく無いのよねぇ。」


と、言う。無理もないことだ。


大金ではあるが、買える。しかし、


(一人の生徒として、こんな金額の物を簡単に買うなど・・・どうなのかだろうか?)


ルドルフは、中央学院の学友達の全員が決して余裕のある訳ではない生徒がいることを当然、理解はしていた。勿論、自身が級長を努める学級のメンバーにもそう言った生徒がいる事も把握している。

そんな中、大貴族の自分がこんな大金を簡単に出したら彼らはいったいどう思うか、そんな事を考えた末に。


「・・・そうか、残念だが諦めさせてもらおう・・。すまない。」

と、断念する事にした。それを聞いた商人は残念そうな表情で、


「あら、そう?残念ねぇ、・・・やっぱり高かったかしら。」

と、聞いてくる。


「そうだな・・、それに、私も今は一生徒だ。金があるからと言って、そんな簡単に大金を出すのは違うと思ってね。・・・・その代わりと言ってはなんだが、他の品物も見せてはくれないだろうか?」


「あら、大歓迎よ!?」


そう言って、ルドルフは再び商品の物色を始める。割と色々と珍しい商品が並んでいたので、短剣抜きにしても興味があったのだ。


そうして商品を見ていると、背後から得体の知れない気配が現れて、驚いて振り返る。


そこにいたのは先程アチーブを見送りに来た男。ルーゼであった。


驚愕するルドルフを尻目にルーゼが


「よう、ニーナ、少し良いか?・・・・おっと、失礼、先客がいたようだな。」

と、店主・・・その女性をニーナと呼び。ルドルフの方を見る。


「あら、ルーゼ大丈夫よ。この子、今は見ているだけだから。それで、今日は一体何を買いに来たの?」


(この二人は知り合いなのか・・?)


そう思いながら、ルーゼの方を見る。非常に気さくな表情で話しているが、その得体の知れなさがルドルフには何となく分かってしまう。


そのルーゼはニーナに言われて、ルドルフの方を見る。そしてニッ、と笑い。その後、再びニーナの方を向いて。


「ああ、もしあればでいいんだが、旅の為の色々な道具が欲しくてね。今から提示するメモにある物を人通りくれるかい?」


と、ニーナに向かって言う。そう言われた彼女は意外そうな表情で、


「あら、ルーゼどっか出かけるの?」

と、尋ねる。


「ああ、ちょっと北の方に、一ヶ月くらいで戻る予定さ。それまで少しの間、帝都を開けるつもりさ。」


「そう、ちょっと寂しくなるわね。」


「そうか、ありがとう。それで、これがそのメモだ。」

と、言ってルーゼはニーナにメモを手渡す。ニーナはそれを眺めて、


「分かったわ、これなら全部とは言わないけれど、だいぶ揃いそうね。待ってて頂戴。あ、そうそう。」


と、言って今度はルドルフの方を向き、


「そのまま、商品を見ていて構わないわよ。何か欲しい物があれば、言って頂戴。」


「!・・ああ、そうさせてもらうよ。」


そうして、ニーナが商品棚に並ばず、店の奥に雑多に置かれている者の中から、それらを探し始める。ルドルフはそれを見ながら、再び並んでいる物の中から物色を始める。この国では中々手に入れることが出来ないようなものはないか、と。


すると、ルドルフの横に立っていたルーゼが、不意に彼の方に向けて話しかける。


「失礼、君がルドルフ君だったかな?先程君の元に合流したアチーブがそう言っていたんだが。」


不意に呼びかけられて、ルドルフはつい驚くも、冷静を装い


「ええ、そうですが・・・貴方がそのアチーブ君が言っていた『ルーゼ』さんですね?」

と、返す。


「ああ、そうだ。所で・・・・・」


「? 何か?」


「大したことでは無いのだが、・・君から見てアチーブは中央学院でどのように暮らしているのかね?一応、彼女に魔術を教えた者であり友人としては、少し気になるんだ。」


そう質問しながら、ルーゼはルドルフのことをまじまじと見ていた。彼についてアチーブからはアルデンツィ家の嫡男と聞いている。


(・・・・成程。確かに、面影があるな。)


ロワ同様、紺色の髪をして、細顔である。

そしてロワ程のモノではないが体格はかなり優れている。恐らくルーゼと同じくらいの身長であろうか、肩幅も大きくよく見ると腕もかなり太い。ロワ同様、巨大な戦斧でも振るっているのだろうか。

ロワと比べると目つきは優しいが、それでも貫禄がある。それも、一見冷たさそうに感じるめつきだが、その中に情熱的なものがあるのも血統だろうか。


そんな事を考えてニヤつきながらルドルフの事を見ていると、それを感じたのか彼は怪訝な顔をしながら、先程のルーゼの質問に答える。


「・・・そうですね、級長としては、彼女は上手くやっていると思います。最初は彼女の優秀さに対するやっかみも多少はありましたが、今は友人関係も良好ですし、成績も現時点では優秀です。」


「彼女も言ってはいたが、やはりやっかみはあったのだな。」


「そうですね、しかし直接何かされていた、というよりは敬遠されている、と言う雰囲気でしたね。いまは大分それも薄れてきましたし、少なくとも、私の学級ではもうないですね。」


「・・・そうか、安心したよ。彼女から聞いたが、君のおかげでもあるようだ、ありがとう。」


「いえ、私は級長として当然の務めをしたまでです。そう礼を言われると困りますよ。」

と、言ってやや照れたような表情をする。


「だが、事実ではあるだろう?礼を言うよ。それと、他には何かあるかね?」


と、ルーゼはニヤニヤと笑いながらそう尋ねる。その様子は完全に父親のソレのようだ。


(もしや、思ったよりも人想いの人間なのか?)

ルーゼに感じていた得体の知れなさや、不信感がやや薄れていくのを感じながら、ルドルフは口を開く。


「・・・一つ、彼女について気になることが。」


「! 何かあるのかね。」


「・・・最近、と言う訳でなく入学当初からなのですが、閉館時間まで中央学院の書庫に入り浸って居る日が時々あるんです。何をしているか聞いてみても『魔術の勉強』としか言わなくて、何か心当たりはあありますかね?」


「・・・そうか、本当に調べ物なだけではないか?感心なことだと思うぞ?もし彼女の生活や学業に支障が出ているようなら諌めるべきだと思うが。」


「・・・・そうですか・・。もしや、貴方から言われているのか、と思いましてね。学業や生活の方は大丈夫ですよ。」


「そうか、なら良かった。」


(・・・・・恐らく、ルナポースのことだな。)

そう思いながら、ルーゼはルドルフにそうやって返した。どうやらルーゼが想像していたよりもルナポースの解析に熱中していたようだ。


そう考えながら思わず少し嬉しい気持ちになっていると、ルドルフが


「ところで、貴方は見たところ相当優秀な魔術師と見受けるが、いったいどこで魔術を習ったのでしょうか。」

と、口走る。ルーゼは内心驚くも、それを表には出さずあくまで平静を装って


「実を言うと、私は元は捨て子でね・・・・、それを偶々優秀な魔術師に拾ってもらえたんだ。そして、その人の気まぐれで私に魔術を教えてもらってね。」

ルドルフは真剣な表情でルーゼの話を聞く。


「それまで魔術には興味を持てなかった私だったが、それ以来魔術の面白さにハマってね。彼が亡くなった後も、彼が遺した様々な書を読み漁り、一人で学んだんだ。」


「・・・・そうでしたか、辛いことを思い出させてしまって、すみません。」

もしかしたら、アチーブから既にある程度聞かされているかも知れない。その前提で、なるべく矛盾の無いようにルーゼはそう話した。

その甲斐もあってか、一応、納得はしてくれたようだ。その事に安心して、ルーゼは付け加える。


「いや、いいさ。今となってはいい思い出だ。それにそれのお陰でアチーブとも出会えたしね。」


と言って、笑う。ルーゼにとっては噓偽りの無い本当のことだ。


そう話していると、


「お待たせ~。揃ったわよ、ルーゼ。」

と言って、ニーナが商品を纏めて持って来てくれた。


「おや、ありがとう。じゃあ、お代を払うよ。」

そうして、ルーゼが代金を支払うために財布を開けていると、ルドルフが横から


「そう言えば、先程遠出をするといっていたが、何か用でもあるのですか?」

と、聞いてきた。


「ん?ああ、少し気になる事があってね、単純に観光ついでにそこに向かう為の外出さ。」


「・・・それにしてはやけに荷物が物々しいが・・・。」

と、言うルドルフの疑問を


「まぁ、旅なんざ何が起きても不思議ではない、こうしてしっかりした用意をするのは当たり前だろう?」

と、ルーゼが割り込んで言う。まさか(ロワからの伝言を受けて)等と馬鹿正直には言えない。


「・・・・そうですか。そうだ、アチーブにはその事を伝えましたか?」

と、聞いてくる。


「勿論、伝えたさ。」


「そうですか・・・、なら良かった。実を言いますと、今回、アチーブはルーゼさんと会うのを非常に楽しみにしていたんですよ?」


「そうなのか?」


「ええ、こちらから見て分かりやすいくらいには、楽しそうにしていましたね。」


「・・・そうか、フフッ、ありがとう、いい事を聞かせてもらったよ。」



そう話しながら、ニーナに代金を渡し終えたルーゼは最後にニーナに対して、


「じゃあ、しばらく帝都を開けるつもりだが、また会おう。」


「ええ、またね、ルーゼ。」

と言い合ってあら、店を去る。が、その前に、


「ああ、そうだルドルフ君。」

と、振り返り、続ける。


「アチーブと、これからも仲良くしてやってくれるか?」


「! フフッ、ええ、勿論です。」


「そうか、安心したよ。じゃあな、また、機会があればまた会おう。アチーブにはよろしく頼むよ。」

そう言って、ルーゼは去っていった。


(フッ、成程。これがアチーブの言っていた男か。)


得体の知れなさは未だに残っている。だが、それでも彼の人柄について触れることが出来た。


悪い男ではなさそうだ。それに思いのほか人好きで気のいい人なんだと言う事は分かった。


しかし、それとは別に、彼について気になることはある。


(・・・調べる必要がありそうだな・・・。)


そう思いながら、ニーナの店での買い物を終えて、級友達と集合するのであった。








─────── 二日後 ────────


ルーゼは早朝から、帝都の門を潜り抜け、北方のガルム山脈に向かっての旅に出た。


ロワの伝言の真意を確かめるために。




第3章は今回で終わりです。

次回は再びキャラクターファイルや、設定集を上げます。


読んでいただきありがとうございます。


忌避なき意見と感想を是非お願いします。(誹謗中傷はお止め下さい。)

ブックマークやリアクションを付けていただけると幸いです。


これからもよろしくお願いします。


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