第二十三話 水亀の学級
────── 6月8日 午前10時前 ───────
アチーブはこの日、級友達と集合するために帝都南側の大通りに繋がる広場にルーゼと共に向かっていた。ルーゼは級友達と行動するわけではないが、アチーブの見送りと自らの用事も兼ねて自身も帝都の南側に向かうことにしたのだ。
「そう言えば聞いていなかったが、今回は一体何を調達しに来たのかね?」
と、ルーゼがアチーブに買い出しの目的を訪ねてくる。
「えぇっとですね・・・、確かに、制服以外の日用品とか後嗜好品が中心ですね。やっぱり、中央学院にも商品はくるんですけど、それだけでは得られるものに限界がありますから。」
「成程ね、それなりにちゃんとした用事であるようだな。」
一応、中央学院に来る商人達も衣類や化粧品なども持っては来るのだが、一人一人全てに対して求められている物を持ってくることは殆ど不可能と言っていい。
そう言った足りない物は帝都の街まで買い出しに行かなければならないのだ。当然、一人では無く、数名学級全体などの団体でなければならない。
「まぁ、中央学院からの許可を得る必要がありますので、どうしても買う物とかを決めなければなりません。とは言ってもそれもほぼ名目に過ぎなくて、それを終えたら後は観光、ていうかそれが実際の目的ですね。」
「フフフッ・・・そうか、折角帝都に来たんだもんな、そりゃ楽しみたいよな。」
「ええ、なんやかんや言って級友達と回るのは初めてなので楽しみです。」
そうして話しながら二人が歩いていると、広場の中央の方に中央学院の制服を着た集団が遠くに見える。
「あ、いたいた。」
「おお、あいつらか。・・・! ・・おや、向こうも気付いたようだな、二人こっちを見てるぞ。」
その学生の集団の中の二人がルーゼとアチーブに気付いたかこちらの方を向いて見てきた。
「あ、ホントだ、彼らの前でメモを持っているのが級長のルドルフ君ですね。もう一人の腕組んでるのがウォルフ君です。」
「ほう、そうか、じゃあ、これでお別れか。」
「ええ、そうですね。」
と言って、アチーブは振り返る。そして、
「では、ありがとうございました。また会いましょうね。」
と、礼を言い、別れの挨拶と再会の約束をする。
「ああ、私こそ、来てくれてありがとうな。帝都に戻ったらまた連絡するから、都合が合えばまた会おう。」
「はい!では、行ってきます。お元気で!」
「ああ、行って来い、元気でな!」
そう言って、アチーブは再度頭を下げてから、級友達の元に駆け足で寄っていく。そうしてからルーゼの方を振り返り、遠くからも分かる笑顔で大きく手を振ってきた。
ルーゼもそれにつられて笑いながら手を振り、その後広場を抜け、一人大通りを歩くことにした。そうしながら、先程こちらを見た二人を思い返す。
(級長ルドルフと、ウォルフ、だったか?・・・あいつらが見ていたのは私だったな、しかもルドルフという奴に至っては目が合った。)
ウォルフは品定めするような目で、ルドルフは得体の知れないものでも見たかのような目でルーゼを見ていた。
(・・・帝都に来てからこう言った事が増えたな。)
ルーゼは普段、自身の正体が暴かれぬ様に自身の魔術師としての実力をなるべく伏せるように努めている。
だが、実力者相手ではどうしてもそれが通じず、ルーゼの実力に勘づかれてしまう。
実力者が揃うからだろう、帝都に来てから、魔術師や騎士団と思しき人間たちから怪訝な目で見られる事が以前よりも多くなった。
ケレスなんかもその一例だ。
(今のところ支障が出るような事は起きていないが、いつ何があるか分かったものではないな。どうしたものか・・・。)
そう考えながら、ルーゼはガルム山脈を尋ねる為の用意をする為に、様々な商店を回るのであった。
────── 一方、アチーブ達 ────────
アチーブが所属する「水亀の学級」はアルデンツィ家嫡男のルドルフが級長を勤める貴族と平民が交わった14人の学級。
この日、彼らは帝都の街に、中央学院では手に入れにくい日用品や嗜好品などの買い出しに来ていた。
級長であるルドルフから提案された通り、アチーブ達は幾つかのグループに分かれてそれぞれ指定された物を買うことにしていた。
そしてアチーブ達のグループは、教室で共有して使っている紙や筆記用具等を揃える為に文房具店に3人で訪れていた。
そうして商品を見ていると、級友の1人がアチーブに話しかけてくる。
「アチーブさん、こちらをどうぞ・・・。」
「ん、ありがとう。アリアちゃん。これでここでの買い出しは終わりかな?」
アリア、アチーブにそう呼ばれた少女は、にこりと微笑んで小さく頷く。しかし、その後少し不安げな表情で、
「そうですね・・・・。でも、これだけで大丈夫なんでしょうか・・・。後一軒程、回れば揃いますよ?いくら何でも少ない気が・・・。」
と、聞く。
「大丈夫よ、てか、そもそも買い出し何てただの口実で、本当の目的は観光だよ?ルドルフ君が一番楽しそうにしていたくらいじゃない。」
そう言ってアチーブは、自らの級長を引き合いに出す。そのルドルフは集合した時に、
『買い出しが全て終わった後は、自由に観光だ!中央学院の生徒にあるべきマナーと集合時間さえ守ってくれれば、君たちで自由に楽しんでくれて構わない!』
などと言って、自らも楽しそうに歩きだしていたのだ。彼は帝都の街というよりは、どちらかと言うと級友達との時間が楽しみなようだったが。
「・・・そうですね、アチーブさん。フフッ。」
と言ってアリアは小さく笑い、頷く。そしてアチーブは、
「じゃあ、全部終わったらどうしよっか?ウォルフ、あなたはどうしたい?」
と、もう一人のメンバーであるウォルフに訊ねる。だが、背後にいたはずの肝心の彼は無言で床を見ていて、まるで話を聞いていない。
「おーい?ウォルフー?聞いてるー?」
「・・・・ウォルフさん?どうかしましたか?」
と、二人に再度声をかけられたウォルフはそこで漸く気づき、ハっ、として顔を上げ二人の顔を見る。
「・・・・!ああ、なんだ。」
と、二人に聞いてくる。それを見たアチーブはやや心配そうに、
「どうしたの?なんか、ボーっとしてたけど。」
と、聞く。
「・・・・体調が優れないようでしたら、言ってください。」
と、アリアも心配そうに尋ねると、ウォルフは
「いや、そういう訳ではない。少し・・、考え事をしていただけだ。それで、どうした?」
と、答える。
「この後どうするか、って話だったんだけど。・・・それより、考え事って何?」
ウォルフは口数の少ない部類かつぶっきらぼうな人間であり、自分から話しかけるようなことはあまり無かったが、それでも声をかければ最低限の会話はしてくれるし、無視なんてそうそうしない。
ましてや、ボーっとして人の話を聞いていないなんて事は無い。アチーブは流石に気になり考え事について尋ねる。
「・・・・別に・・、いや、アチーブ、確認するが、先程お前を見送った白髪の男、あれがお前が言っていたルーゼ、で良いんだな?」
「ええ、そうよ、ルーゼさんがどうかしたの?」
アチーブ以前から学級のメンバー達や担任の先生に対して、ルーゼの何度か話をしていた。何か気になると、ウォルフの言葉の意図を聞くと。彼は「クックッ」と小さく笑う。
「どうやら、お前が言っていただけのことはあるようだな。奴を見て一目で理解できた、アレは、怪物だ。今の俺らとは次元の違う魔術師だ、お前もそう思うだろう?」
「・・・そうね、ルーゼさんの実力は痛いほど理解している。」
「すみません・・・、私には分からなかったのですが・・・、その方はお二人から見ても、そんなに優れた魔術師なんですか?」
と、アリアが聞く。アリアはルーゼの実力が見ただけでいまいち理解出来なかった。アチーブが口を開く前にウォルフが、
「正直、俺は剣術ばかりで魔術は初級程度しかやらんから、あくまで戦闘における能力のみで見ている訳だが・・・、それでも、アレは次元が違う。」
「そうね、魔術師としての技術もだけど、ウォルフの言う通り戦闘力もずば抜けているわ。・・・前ね、一度だけ、本気の決闘を彼に挑んだことがあるの。」
アチーブはこの場で初めて、ルーゼと決闘をした事を話した。すると、ウォルフは半ば呆れた様に笑いながら、
「・・・飛んだ身の程知らずだな。それで、どうなった。」
「手も足も出せずに叩きのめされたわ、本当に手加減の『手』の字すら一切無くね。まぁ、あれがルーゼさんなりの敬意だったのでしょうけど。」
と、軽く笑いながらそう言う。確かに、彼女に取って苦い思い出ではあるが、同時にいい経験でもあった。
「そうか、益々・・・」
と、笑うウォルフとは対照的に、アリアは
「・・・・アチーブさんが、手も足も出ない相手・・・彼も、中央学院の卒業生とかなんでしょうか。」
と、アチーブに訊ねる。それを聞かれたアチーブはやや困った様な表情で、
「あ-、ごめん、分かんない。だって、殆ど自分の事を話さないんだもん。」
一応、ルーゼからかつて浮浪者であったことや、ある女性との淡く切ない話などを聞いたりはしたが、本人不在の所で話すのも可哀想だろう。そう思い、適当にはぐらかす。
「・・・アチーブさん、その方、本当に信頼しても大丈夫なのでしょうか・・・。もし、何か企んでいるような方だとしたら・・・・、」
と、アリアは心配そうに話す。ウォルフも、
「・・・・確かにな。」
と、言う。そう言われたアチーブは、二人の疑念に対し
「それについては大丈夫だと思うよ。」
そう断言した。
「何故ですか・・・?」
「正直、明確な根拠はないよ?あくまでも勘。強いて言うなら、私と一緒にいたあの二ケ月間、が根拠かなぁ。ちょっと変わったところもあったけれど、悪い人ではないと思う。」
二ヶ月間の事とは言え、ルーゼの人間性はアチーブなりに何となく理解していた。ちょっと変わり者だが、魔術好きで、人好きで、そして少し、寂しがり屋なところがある。
そんなルーゼが、悪人には到底見えなかった。正直、怪しい部分もなくはないが、アチーブは彼を信じることにしていた。
「と言っても、根拠はないけどね?ただ、私が恩義を感じているだけかもしれない。」
「・・・いえ、大丈夫です。アチーブさんがそこまで言うのでしたら、きっと、大丈夫なのでしょう。」
アリアはそう言って優しく微笑む。
「フッ、そうか、アチーブ。」
と、ウォルフはそう言って不敵に笑い、アチーブに向かって、
「お前がそう言うのなら、お前を信じよう。それでだ、アチーブ。」
「何?」
「お前が次に奴と会う際に、俺も連れていけ。奴のその実力をこの目で直に見てみたい。」
と、提案をする。
(・・でしょうね・・・・。)
中央学院入ってからウォルフとは色々な事で付き合ってきた、彼が力への強い欲求を持っている事は理解している。
そんな彼が、その機会を掴もうとするのも当然であろう。
「言うと思った。一応、聞くだけきいてみるね。でも、断られると思うから、期待しないでね。」
「そうか、ありがとうな。」
と、ウォルフが礼を言うと、アリアも遠慮がちではあるが自分の意志ではっきりと
「良ければ、私も・・・お願いできますか?」
「いいよ。ウォルフと一緒に紹介しておくよ。」
「ありがとうございます・・・・!」
そう、アリアが言うと、アチーブは、
「さぁ、二人共、会計済ませて次の店に行こう?そうだ、二人はそれが終わったら何かしたいことある?」
と、本来の目的であった買い出しに戻る。アリアが「うーん。」と、悩むその間もなく
「腹が減った、飯を食いたい。」
と、即答する。
「ウォルフ。珍しいわね、どうかしたの?」
彼がこう言った事を言うのは珍しい、アチーブはどうかしたのか聞く。すると、アリアが
「ウォルフさん、また朝食をたべなかったんですか?」
と、聞く。アチーブは軽くウォルフを睨み。
「ウォルフ?健康に支障をきたす可能性があるから朝食は軽くで良いから食べなさい、って私言ったわよね?理由は?」
と、問い詰める。
「鍛練していたら忘れただけだ、ていうか何だ!お前は俺のお袋か!?」
「そうじゃないけど、先生からも言われたでしょ?あんた碌に寝てないって聞くし、それに・・・・・」
「もういい・・・・!行くぞ。」
と、言ってウォルフはスタコラと店を出る。アチーブ達はそれを追いかける為に素早く会計を済ませて店を出るのであった。
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