第二十一話 中級魔術
「さぁ、授業を始めよう。」
そう言って、ルーゼは自身の近くに置いてあったスケッチブックを開き、ペンを持ち見出しとして「中級魔術」と書き、見せる。
「とは言っても、既にアチーブも結構習っているようだから、座学の方は簡単な復習だけにするつもりだし、実践についても中央学院で学んでいる事を基準にしていこう。じゃあアチーブ、そもそも中級魔術とはなんだ?」
ルーゼの問いにアチーブは即答する。
「初級魔術と比べて一段階使用難易度や出力が上がった魔術のことですよね。最大の特徴は他の級と比べるとその種類の多さでしょうか。」
ルーゼはアチーブの回答に手をたたいて、
「素晴らしい、そう。概ね今アチーブが言ったとおりの内容だね。ではアチーブ、何故術式の種類が多くなっているかね?」
ルーゼの言葉にアチーブは
「確か、私の先生が、『魔法陣を少し弄るだけで術式が変わって、それが正式に術式として登録されるから、多くなる。』なんて言ってましたね。あと、『それらが悉く初級にも上級にも当てはまらないから中級魔術の種類が多くなる。』とも教わりました。」
「君が言ったことが全部だ、その先生からちゃんと習っているようで安心したよ。前提知識について私から言うべきことはなさそうだね。」
そう言って、一泊置いてからアチーブの方を向きルーゼは続ける。
「じゃあ、君の課題の解決に方に移ろうか。その前に、普段君が先生から一番言われていることを教えてくれるかい?そこから確実に潰していこう。」
アチーブは少し考えてから、
「・・・やっぱり、魔力の制御が上手くいかなくなるせいで、出力にムラが出るって言われますね。」
「そうだね、じゃあ、それを解決する為に君は何が必要だと考えているかね?」
「・・・そうですね。ケレスさんからも言われましたが、まずは『慣れること』、後は『初級との使い分けが出来る様になる』ことですかね?やっぱり、それが魔力の制御にも繋がりますし。」
と、アチーブが言うと、ルーゼは
「そうか、一応聞くが、今まで中級魔術に触れたことが無いんだったな?」
「はい、中央学院に入ってから初めてやりました。だから先生からも、『初級と中級魔術を反復して練習しよう』って言われて今それで慣れと使い分けを同時並行で練習しています。」
そうアチーブが伝えると、それを聞いていてケレスがアチーブにある事を尋ねる。
「・・・アチーブさん、その先生ってもしかして、カルム先生だったりします?」
ケレスの言葉に驚いたアチーブが
「 ! はい! もしかして、ケレスさんもカルム先生から教わったんですか?」
「うん、その時は彼はまだ研修生だったんだけどね。僕も全く同じことを言われたから、もしかしたら、って思って。」
その会話を聞いていたルーゼが、「そうか、じゃあ君の担任はまだ新人か。」と、聞くとアチーブが
「はい、今年から学級担任を始めたそうです。」と、答える。するとルーゼは笑って
「そうかそうか、ちゃんと教え子のことをよく分析しているいい先生だな。それに若い新人さんなら、若い世代の悩みもよく理解しているだろう。アチーブには丁度よさそうだな。」
「はい、何考えているか分かんない時もありますけど、私の相談にも積極的に乗ってくれるしいい先生です。」
そう言って、アチーブは笑顔を見せる。そんな彼女に安心しながら、ルーゼは彼女に別の提案をする。
「そうか、なら良かった。それでだ、君が中級魔術を使う為に私から追加の課題を課そう。」
「・・・課題、ですか。一体どんなものですか?」
「まぁ、語るより見せた方が早い、ケレス。」
と、ルーゼがケレスに話を振る。「はい。」と、ケレスが返事すると、ルーゼは
「毎日やってるいつものアレやってくれるか?疲れるだろうから無理にとは言わんが。」
「ああ!はい、分かりました。範囲は訓練場内だけでいいですか?」
「ああ、問題ない。」
と言って、ケレスは立ち上がり、風の初級魔導書を取り出しそれに魔力を込める。
「? 何をするんですか?」いつもの、が何かを知らないアチーブがケレスにそう聞いてくる。ケレスはそれに対して軽く微笑んで、
「周囲の魔力を、よぉく見ていて下さいね。」
と、いって魔術を発動させる。
その瞬間、訓練場内を吹き抜ける風が吹き出した。それら全体に魔力が込められており、ケレスが人為的に起こしたものだと、アチーブは理解した。
「・・・・すごい。」思わずそう呟いた。それを踏まえてルーゼは
「そうだろう?普段は帝都全体を範囲にして毎日これをやっているんだ。」
「・・・・!!」
そして、間もなくケレスはそれを終える。少し肩を上下ながらアチーブとルーゼに向かって、
「どうでしたか?」と、聞いてくる。
「ああ、ケレス、素晴らしい上出来だ。範囲を絞れば魔力のムラも無くなるな。」
「・・・凄いですね、私にはこんな事出来ないです・・。」
ルーゼとアチーブの言葉を聞いて嬉しそうにしながら、ケレスはアチーブに向かって、
「僕も最初はそうでしたよ?でも、毎日やり続けて出来る様になりました。だからアチーブさんも頑張ってみて下さい。」
「はい・・・・って、ええ!?これが課題ですか?」
アチーブは驚愕しルーゼに聞く。
「ああ、そうだ。最初からここまでやれとは言わんから大丈夫だ。これをする目的ことは、魔力のムラを無くすことだ。今、ケレスが使った魔術の中で魔力のムラがあったように見えたかい?」
「・・・・いいえ。」
「だろう?これが中級魔術以上の魔術を使う際に必要なる技術だ。術式を構成する要素が一段階より複雑になり、魔導書、というより術式を刻んだ魔法陣や行使する魔弾等に魔力を適切に分けないと十分にその魔術を発揮できない。わかるね?」
「はい。」
「だが、今の君は中級魔術を使う際に、どうしても魔力にムラが生まれてしまう。単純な魔弾でなくなってくるから、まだ何処にどう魔力を裂くかというのを適切に制御出来ていない。」
アチーブは真剣な表情でルーゼの言葉を待つ。
「だから、広範囲にムラ無く魔力を行き渡させることの出来るこの訓練をがいいと思うんだ。やる事自体は、魔術の範囲を拡大するだけの簡単なことだが、広げた魔力をムラ無く、となるといい具合に難易度が上がっていい練習になる。そうだろう?ケレス。」
一応、この訓練を見せたケレスにそう確認する。ケレスはそれに対して
「はい、元々はその為の訓練でしたから、今では日課になってますけどね。」
と、笑顔で返してくれた。ルーゼはそれを確認して
「そうか、じゃあアチーブ、早速挑戦してみよう。」
「はい。あ、でも、何の光魔術でやるんですか?」
と、言うアチーブの質問に対し、
「そうだな、初級魔術でやった方がいいだろうし、『シエル』でやっていくのが適切だろう。それなら無害だろうし。ケレス、訓練場で『シエル』を使っても大丈夫かね?」
と言って、即答してからケレスに問う。
「シエル」は、魔術を使用した術者を包むように7メートル程の上空から光のカーテンを降らせる魔術である。主に暗所で周囲の視界を確保する為に使われるものであり使うだけなら簡単であり、範囲や光の強さは術者の練度で拡大可能である。
ルーゼからそう聞かれたケレスは少し考えてから答える。
「害の無いように優しい光にすれば問題ないと思います。ここにいる魔術師達もある程度の耐性はありますから。」
「そうか、なら、早速ここでやってみよう。範囲は広く、光は弱く、な。」
「はい。」アチーブはそう返事をして立ち上がり、光の初級魔術が幾つか刻まれた魔導書を開く。その中から「シエル」が刻まれた箇所を開き、魔力を込め術者を行使する。
アチーブを中心に半径10メートルの範囲が光に包まれる、ルーゼに言われた通り光の強さを制御し、あくまでほんの少し明るくなる程度に抑える。
「結構ちゃんと制御出来てますね、彼女の魔力の制御はルーゼさん仕込みですか?」ケレスの感想を聞いたルーゼが、
「ああ、元々出来なくて悩んでいたから、色々と指南したんだ。私が想定するよりも、更に大きく上達してるね。」
と、話してからアチーブの様子を見る。そして、まだ問題なく続行出来ると判断したルーゼは、
「アチーブ、そのままの光の強さで、範囲だけを3倍くらい広げてみてくれ。」
アチーブは小さく頷く事で、了解を示しそれを実行し、一気に範囲を3倍近く広げた。
しかし、ここでルーゼとケレスが想定していた彼女の欠点が露呈する。広げたことで魔力の制御が荒くなったのだろう。同じ「シエル」の中で光の強さに差が出てしまった。
それを確認したルーゼが「そこまでだ。」と言い、それを聞いたアチーブが術式を中止する。慣れぬことをした彼女はため息をついてから、
「どうでしたか?」と二人に意見を求める。
「最初は良かったが、やっぱり、範囲を広げた途端にムラが出たな。範囲を広げた先の魔力の制御が難しかったろう?」
ルーゼがそう言ったのに対してアチーブが「はい、掴めませんでしたね。」と言った。
「中級魔術を使う際にも似たような感覚に陥るだろう?」
「・・・・そうですね。」
「これからこれをする際に魔術を使いながら自身で魔力のムラを見て確認しながらするといい、とにかく、魔力の制御を均等にすると言う意識を持ちながらこれをやっていこう。」
「分かりました、それで、ケレスさんはどう思いましたか?」
ルーゼからのそう聞いたアチーブは続いてケレスからもアドバイスを求める。
「そうですね、ただ、ぼくも概ねはルーゼさんと同じですね。自分で意識を持ちながらやる事、あと、客観的な視点も欲しいから定期的に友人や先生に見てもらってもいいと思います。」
そしてケレスは続けて
「それと、これをやっている身としては、最初はもっと範囲を狭くしていいと思います。ルーゼさんみたいに広範囲でするのも有効ではありますが、アチーブさんは僕たちみたいに慣れてませんから。」
「・・・そうか、すまないねケレス。自分の感覚で話してしまっていた。アチーブ、無茶しない程度で大丈夫だ。」
ケレスの言葉にルーゼは自省しながらアチーブにそう言った。
「分かりました、ありがとうございます。」ケレスからの助言にアチーブはそう言って、礼を言う。それを聞いてからケレスが、
「いやぁ、それにしても、ルーゼさんから話は聞いていましたが、改めて実際に見ても本当に凄い魔力量ですね。これだけ広範囲に術式を広げても全然疲れてなさそうですし。帝都魔術師団の中にもアチーブさん程のはそうそういませんよ。」
と、目を輝かせながらそう言う。アチーブは苦笑いをしながら、
「ありがとうございます。でも、上には上がいますし、まだまだ努力せねばならない未熟者です。」
今のアチーブにとってはケレスだって十分な格上だ。それだけでは無い、ルーゼや学院内の学友、それに教師たち、魔力量と出力だけで語れない猛者をアチーブは目の当たりにしてきた。
まだまだこれからだ、アチーブはそう思いながらケレスの言葉にそう強く答える。すると、ルーゼが
「そうだな、アチーブ、まだまだ君は成長できる。そこでだ、私からもう一つ、追加で課題を与えよう。」
と提案をしてきた。突然の提案にアチーブは身構えながら、
「・・・一体どんなものですか?」と、聞く。
「別に難しいものではないから、そう身構えなくて大丈夫だ。それで課題と言うのはな、『私が指定する三種の光の中級魔術の術式の魔法陣を、術式の解説等を見ながら模写すること。』だ。」
「・・・そんな事ですか。大丈夫ですけど。」と、意外と簡単なものだった事にアチーブは拍子抜けする。するとルーゼは、
「まぁ、これだけだと簡単だから魔力を模写する魔法陣に込める事を条件に加える。最初はいいが、最終的にそれで術式を行使出来る程の完成度にするんだ。」
「すみません、ちょっといいですか?」と、ケレスが割り込む。ルーゼが「何だい?」と聞くと
「それって、上級以上の魔術を修得する際に用いる手法ですよね?一つの術式に特化集中して理解する為のやり方のはずでしたよね。修得する術式を絞るやり方だから、中級以下では余りお勧めしないと言われたんですけど・・・。」
「まぁ、そうだな。確かにそうなんだが、彼女が魔力の制御を出来る様になる為には、術式に対するより深い理解が必要になると考えているんだ。だから多少の弊害は受け入れて、確実に一歩進んだ方がいい。」
「・・・・成程。」ケレスが頷く。
「それにだ、中級魔術は似たような物も結構あるから、一個身に着ければ芋づる式に修得出来ると思う。どうだいアチーブ、やってみるかい?」
そう言われたアチーブは「はい、やって行きます。」と、即答する。
「そうか、良かった。」と、確認して
「それで、今からその術式をしていするぞ?さっきやってた『アンヘル』、『光の矢』そして『反射鏡』どれも基本的な中級魔術だ。」
「はい、分かりました。」そう言って、メモを取るアチーブに対してルーゼはおもむろに懐中時計を取り出して、
「もう、時間か。ケレス、再度聞くが、午後は借りれないんだよな?」ケレスはそれに対して残念ながら・・、と言う表情で、
「申し訳ないんですけど、午後からは帝都魔術師団の方で使う予定があるので、お二人に貸すことは出来ないですね。」
そう言われたルーゼは少し考えてから、
「・・・そうか、じゃあ、残念だが、今日はここまでだな。ありがとう、ケレス。」
と、礼を言う。アチーブもそれに続いて
「私からも、ありがとうございました。」と、礼を言う。
「いえいえ、大丈夫ですよ。また、来てくださいね。」
そうして、ケレスに見送られて二人は帝都魔術師団の訓練場を後にする。街を歩きながら二人はさっきまでの訓練の内容を振り返る。
「ケレスさん、いい人でしたね。」
「ああ、いい奴だったろ?それに、魔術師としてもまだまだ将来有望だ。」
「そうですね、帝都魔術師団ですか・・・。私はどうしようかな・・。」
どうやら、彼が帝都魔術師団に所属しているのを見て、自分の進路について考えているようだ。
「そうだな・・アチーブ、君は相当高望み出来そうじゃないか?」
「・・・・級長達と仲が良いから、ですか?それはそう何ですけど何か気が引けるんですよねぇ。ほら、彼らに近づく人達の中に、やっぱり、色んな下心が透けて見える人達もいましたから。」
「成程、確かに級長達もそういう連中は気分が良くはないだろうなぁ。」
「そうですよね、私も、そういうのが無くはないんですけど。まだ、そう言うの無しの友人でいたいんですよね・・・。我儘でしょうか・・。」
「別にいいんじゃないか?彼らもそれを拒むわけでは無いのだろう?だったらもう少しそれで通していいと思うな。」
「・・・・そうですね、そうします。それで・・、何処に向かっているんですか?」
と、ルーゼについて行っていたアチーブは、ふとそう思い聞く。
「ん、ああ、この辺にある美味いパスタの店があるから、そこに向かおうと思っていてね。本当はもっと別の店がいいんだが、そこは少し遠いから、また夜にでもしよう。」
「ええ、分かりました。楽しみにしてますね。」
そう言って、二人は軽い足取りでその店へ向かうのであった。
今話や全話で名前が上がった術式についてはまたどこかで紹介します。
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・・・・物語造りって難しいですよね、六千文字以上はなるべく超えたくないですし、でもテンポは遅くなりますし、悩みどころですね。
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